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10 戦力不足

「お、レベルが上がったな」

 

 これで俺のレベルは41となった。ちなみにユウは俺より2つ上の43だ。

 リアリティを追求してか、new worldのモンスターは倒してもお金を落とすことはない。そのため、プレイヤーはモンスターがドロップしたアイテムやフィールドで採取したアイテムをNPCショップか他のプレイヤーに売ることでシルを稼ぐ。


「10日間狩りを続けてようやく1レベル上昇か......。半周年記念アプデ以降、ずっとログインしっぱなしだからプレイ時間は増えているはずなんだけど、あんまりレベル上げの効率は上がってないね」

「まあ、どうしても安全マージンを取る分、レベル差補正で獲得経験値は減るからな。それに命がかかっている以上、精神的消耗も段違いだ。過度な連戦はできないし、必然的に狩りの合間合間の休憩も増えてくる。後、夜の狩りができないってのも結構でかいな」


 俺は額の汗を拭いつつ、空を見上げる。

 日はまだまだ高い位置にあるが、この世界の1日は現実の3分の2の長さだ。1時間後には、この空も夕暮れに染まっていることだろう。そうなったら今日の狩りは切り上げて、街に戻らなくてはならない。


「最後のもうひと踏ん張りの前に、一旦休憩しようぜ」


 安全マージンを大きく取ることで、落ちた経験値効率を少しでもカバーするため、俺達は1日の大半を狩りに費やしている。実際に体を動かしているわけではないし、途中休憩も挟んではいるが、そこそこ精神的疲労も貯まってきていた。

 見晴らしのいい場所では、デザートウルフに発見されるかもしれないので、俺達は近くの内部がトンネル状にくり貫かれた岩の中まで移動する。日光が遮られると、砂漠特有の乾燥した気候のおかげか、不快な暑さは大分和らいだ。

 俺は両手剣を岩に立て掛け、腰を下す。そして、右手を振り上げメニューウィンドウを呼び出した。アイテムストレージから<低級ポーション>を選択し、実体化ボタンを押すと、右手の中にガラスの小瓶が出現する。

 小瓶の中はおどろおどろしい蛍光グリーンの液体で満たされていた。だが、味は爽やかなレモン味だ。

 俺は親指で小瓶の栓を弾き飛ばし、一口でポーションを飲み干した。

 空になったガラス瓶が粒子となって消滅する。そして、僅かに減少していた緑色のHPバーがじわじわと回復し始めた。

 new worldの回復ポーションは、飲んだら一瞬でHPが回復するという代物ではなく、時間経過によって徐々にHPが回復していく仕様になっている。しかもメニューウィンドウを開いている間は全てのスキルが使用不可となる上、ガラス瓶は非常に脆く、僅かな衝撃でも割れてしまうことから、事前に実体化させて懐に忍ばせておくといったこともできない。

 そのため、new worldにおける回復ポーションは、実質戦闘終了後の回復手段という扱いになっている。回復職の回復魔法スキルは、一瞬でHPを回復させることができるため、おそらくこれらの仕様は、回復アイテムと回復魔法スキルの差別化を図るためのものなのだろう。

 一応、瞬時に全HPを回復できる<エリクサー>というアイテムもあるが、これはかなり貴重なもので高レベルの薬師のアイテム生産か、一部クエストの報酬でしか入手することができない。


「せめてもう1人物理アタッカーか、回復職がいれば、もっと経験値効率のいいエリアで狩りができるんだけどね」


 座らず、岩に背中を預けたユウが嘆息混じりに呟く。


「つっても命がかかっている問題だからな。パーティ組むならちゃんと信頼できる奴じゃねぇと。下手な勧誘はリスクも大きい」


 new worldでは────というより恐らくほとんどのMMORPOにも当てはまるのだろうが────人と人が関わる以上、必ずプレイヤー間のトラブルといったものが存在する。

 代表的なものはドロップ品の分配だろうか。

 new worldでは、最大8人までのパーティを組むことができるのだが、モンスターを倒した際のドロップ品はパーティ内で抽選となり、メンバーにランダムで分配される。

 複数のパーティが協力して戦うことも多いボス戦では、与えたダメージやガードで防いだダメージ、味方のHPを回復した量などから、システム側で貢献度という隠しパラメータが計算され、戦闘終了後にランキング化される。そして貢献度の高い上位10名のプレイヤーは順位の高さに応じ、貢献度ボーナスとしてボスのドロップアイテムの獲得確率に上昇補正がかかるようなシステムとなっているのだが、最終的に運次第という点は変わらない。

 そして、基本的にモンスターからのドロップ品は、いかにその分配に偏りがあろうともドロップしたプレイヤーのものというのがnew world内での不文律だ。しかし、希に『自分だけ収穫が少ない』だの『活躍した自分がドロップ品を手に入れられないのはおかしい』だのごねりだすプレイヤーも存在する。

 他にも複数のモンスターを同時に相手にすることになった場合、パーティの戦力とモンスターごとのステータスの違い、互いの位置関係といった情報から優先的に排除するモンスターを決めて戦闘を行うわけだが、この際ダメージを受けたくない、死んでペナルティを負いたくないといった目先の理由から、周りを無視して自分に近い位置にいるモンスターだけを攻撃するプレイヤーがいたらどうだろう。

 new worldの戦闘で重要なのは、パーティのメンバーがそれぞれの役割を果たすことだ。それができなければ、当然戦線は崩壊し、本来なら対処できる相手にすら敗走を余儀なくされる。

 これらの問題は、new worldがただのゲームであった頃なら多少雰囲気が険悪になる程度で、最悪関係を切ってしまえば済むことではあった。しかし、命がかかっている現在では話は別だ。

 不和による連携の乱れは死に直結する。ましてや心情的には理解できなくはないものの、少し不利な状況になったくらいで自分の役割を放棄するようなプレイヤーとは、とてもじゃないがパーティを組むことなどできない。

 それに、ログアウトができない現在ではプレイヤー間の確執というのも馬鹿にはできない。いつでもログアウトできる状態なら、所詮はゲームのことと考え水に流すこともできるが、今はゲームと現実の境界がほとんどない状態だ。1度生まれた確執はそう簡単には消えず、憎しみ余って他のプレイヤーにあることないこと吹聴し、相手を貶めようとしたり、中には一線を越えてしまうプレイヤーも存在する。

 流石にそんなプレイヤーは極少数ではあるが、とにかく今の状況ではパーティメンバーを増やすことにも慎重を期さなければならない。

 それと、単純に俺とユウの対人スキルが低いというのもある。

 俺も昔は同じクラスの友達と普通に遊んだりしていたが、中学の途中くらいから、色々あって交流関係がほとんど無くなり、それに伴ってコミュニケーション能力もどんどん低下していった。

 ユウも現実での交流関係がどうなっているのかは知らないが、new worldでの立ち振る舞いを見る限り、お世辞にも人付き合いが上手いとは言えない。

 だから、俺達は基本的にずっと2人でだけでパーティを組んできた。

 半周年記念アプデ以前は、たまに野良パーティに混ざることもあったが、それでも俺にとって友人と呼べるほどの関係になれた相手はユウだけだった。おそらくそれは向こうも同じだろう。

 ユウとは色々とタイミングが合って仲良くなれたが、街中で他のプレイヤーに声を掛け、そいつが信頼できる相手か見極めた上で、パーティに勧誘するというのは対人スキルにおいても単純に人を見る目という点においても俺達にはなかなかに難易度が高い。

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