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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第六章 全てが一つに繋がる編
80/80

エピローグ 孤独な戦いの始まり

相変わらず魔界には朝日というものはない。時間が来ると部屋の明かりが…おかしい、辺りは暗い。


師匠のところは朝の時間になると照明が自動的に点灯していたのだが、ここは違うのだろうか?


時計を見ると昼過ぎである。何でこんな時間になるまで寝ていた…いや、心当たりはありすぎる。


私の横で気持ちよさそうに寝ているイアランを見て恥ずかしさが込み上げてきて、顔が熱ってきた。


だが、その気持ちを私のお腹の音がかき消した。


お腹空いた…。


それにしてもワインで酔っ払うのは初めてだった。


これまで何度も師匠や師範とワインを飲んではいたが、三、四本空にしてもふわふわしたこともないし、思考が鈍くなるような感じはなかった。


酔っぱらってみたいものだと思うことはあったが、まさかここで体験できるとは…。


イアランも同じように酔っていた。そう言えばイアランがお酒に強いかどうかは知らない。もしかしてイアラン、お酒は弱かったりするのかな?


私は浴室に行き体を流しに向かう。さすが貴賓室だけあって浴室とシャワー完備なのは嬉しい。


それに…何となくベタベタした感じがする。そんなに汗をかいてたっけ?記憶にないなぁ…。


起きてすぐ温かいお湯が使えるのは実にありがたい。気持ちがスッキリして寝ぼけていた頭が冴えていく。


体と髪を洗い終え、体を拭きつつ風魔法で軽く頭を乾かし着替えを終える。


イアランとの関係も解決したからか、今日の私は何だかやる気に満ちていて、早速オジオン攻略のための準備を始めたい気分であった。


だが、その前に何か食べたい。


イアランはまだ寝ている。イアランって朝弱いのかな?


まだ夢見心地のイアランをじっと眺めていると入口の扉からノックの音がした。


「私だ。入って良いか?」


ベラの声だ。ベラ自ら来るということは何か緊急の用事かもしれない。


私はイアランの布団を直してあげると扉へ向かい「どうぞ」と返事をした。


扉はスーッと開き、妙にニコニコしているベラがそこにいた。


私はソファーにベラを座らせると、向かいにあるソファーに私も腰を下ろした。


それよりもここにあった昨日の食べ終わった食器類はキレイに片付いていることに驚いてしまった。いつの間に片付けたのだろうか?


「昨日は素晴らしき夜を過ごせたようだな」


言葉の意味がすぐに理解できなかったが、思い当たることが頭に浮かんでくると顔に熱を帯びていくのが自分でも分かった。


「あのワインはな、心を高揚する効果もあってな。お前らのような踏み出せない者たちにはうってつけの逸品となったであろう?」


やられた!


まさかそんな効果が…ということはイアランの昨日態度は…ワインのせい!?じゃあ、本当は…イアランの気持ちは…どうなのか分からないってことになるの!?


「心配するな。高揚するだけで、思考が狂うことはない。酒に強い弱いはあるのでそこは分からぬが、時に男女の進展には勢いが必要な時がある。背中を押す効果があのワインにあるが、気持ちを偽らせる効果は無い」


まるで私の心を読んでいるかのようなベラの言葉に思わず固まってしまう。


「ん?どうした?心が読まれているとでも思ったか?」


もしかしてベラ、思考が読めるの!?


「お前…さっきから勝手に目まぐるしく表情を変えていることに気が付いていないのか?実に分かりやすいぞ。その顔を見れば子供でも分かるであろう」


顔から火が噴き出てきそうだ。そんなにも私の顔は表情が変わっていたのか!?確かに色んなことを考えてはいたが…そんなに表情に出るの、私!?


「どちらにせよ…良かったであろう?好きな男と共に過ごす夜は?」


ベラの言葉で再び顔に熱を帯びる私。もうこれではベラのおもちゃになってしまっている。


「恥じる事ではない。むしろ誇るべきだな。それだけ強い思いを抱ける相手と巡り会えたのだからな」


言われてみればそうかもしれない。


色んな人、魔物、悪魔に出会って来た。その中からイアランを好きになった。他の誰でもないイアランを、である。


そして、イアランも私を好きになってくれた。


それは考えてみれば奇跡のようなもので、確かに誇るべきことかもしれない。


「まあ、お前はリウスの血を引いているゆえに気を付けるのだな。あまり夜激しく求めてしまえばイアランも抜け殻になってしまうぞ」


「なっ!?」


知らなければ言い返せるだろう。


しかし、過去の体験でリウスがエピオンが参るまで求めていたのを知っている以上、何も言い返せない。


「現にイアランは、まだ寝ておるであろう?初めてなのにこれは…リウスの血がそうさせておるのかもな」


笑いを殺しきれず「くくく」と漏らすベラに何も言えない私。


お母さん、娘はあなたのせいで今、困っております…。


「さて、冗談はさておき、要件を伝えるか」


真面目な顔に戻るベラ。私も深呼吸をして表情を戻す。


「オジオンからエルフ、ハーフエルフを救出するのであろう?その件に関して魔界は関知しない。ただ、天界が侵攻してくる場合は我らも黙ってはないが…それはないであろう。何より人間界の神を今、我と天界の神で探しておるとこだしな」


そうか、私が断ったから別の神様候補を探してるわけか。そう簡単に見つかるのかな?


「まあ、百年以内に見つかれば助かるが…千年はかかると考えておかねばならぬだろうな」


気の長い話だ。神になる者だから簡単ではないとは思ったが、そんなに時間がかかるとは…。


「誰かが人間界の神を~してくれれば~助かるのだがなぁ~」


ジト目で私を見てくるベラの目線を軽くスルーする。


ここで目線を合わせては負けだ。


「神は無理強いするものではないのはわかっているのだが、我もめんどくさ…忙しいので神探しだけに注力するわけにもいかぬからのう」


今、面倒くさいと言おうとしてなかった!?面倒だから私にさせようとしてたってこと!?


本当に神様っていい加減なのばかり揃ってるなぁ。


「ここには好きなだけ居て良いぞ。お前には返しきれぬほどの借りがある。気兼ねなく二人の時間を過ごすがよい」


そう言うとベラは立ち上がり、扉へと向かう。


「ありがとうございます、邪神様」


外のメイドのサキュバスも聞いてると思いベラではなく邪神と言うことにした。だが、そんな配慮は無駄なことをすぐに知る。


「ここではベラで良い。ここのメイドはお前の功績も実力も知っておる。何より…ここのメイドはイアランよりお前に興味津々なのだ。エルフが神を倒すなど過去無かったことだからな」


最後に意味深な笑みを浮かべ、ベラは扉を開ける。すると、昨日の二人のメイドが扉に聞き耳を立てていたのか、扉の前に耳を当てている状態で固まっていた。


「お前ら、もう少し精進せよ。魔力を消し、気配を消した我が近付くのが分からなかったか?」


ベラの言葉に二人が同時に「申し訳ございません、ベラ様!」と頭を深々下げる。


あ、盗み聞きしてることはお咎めなしなのね。


「ジールの邪魔にならぬ程度なら話しても構わぬ。お前らも気になっておるのであろう?ただ、誘惑するとイアランに恨まれるかもしれぬから控えるようにな」


はい?イアランじゃなくて私を誘惑?サキュバスって確か女性に対しては容赦ない悪魔と文献で見たことあるんだけどね。


色々考えているとベラは「会いたくなったら来るが良い。歓迎するぞ」と言いそのまま去って行った。


後に残されたのは開いた扉とベラに向かって頭を下げている二人のメイドサキュバス。そして、私。


ベラが見えなくなったのだろうか?二人のサキュバスが急に私をじーっと見てきた。


「な、何でしょうか?」


思わずたじろいでしまう私。なぜなら、二人の目は…あからさまに私が最初に会った時の人形のような目ではなく、好奇心に溢れた輝く目をしていたからだ。


だが、そのまま二人は動かない。はて?何がしたいのだろうか?


「あ、あぁ、別に今お話ししても大丈夫だよ?」


私の言葉を聞くや否やサキュバスの二人は私の眼前まで猛スピードで近寄るとその輝いた瞳で私に穴を開けんばかりの視線を浴びせてきた。


上から下まで、こんなにじろじろ見られるなんて少し恐い…。


二人の観察が終わると…地獄が始まった。


質問攻め。


一言で言えばそうなのだが、一問一答を途切れることなく四時間。どうやってヴァーサを倒したか?から始まり、ベラとの関係、どう鍛えてるのか?どんな魔法が使えるのか?師匠と託児所でどんな生活をしていたのか?など切れ目なく二人から交互に質問を浴びせられた。


四時間で終わったのは、私のお腹が鳴ったからだ。朝から…いや、昼から何も食べてないので当然だ。


お腹の音を聞き、二人は競うように「私がジール様の食事を作るから!」と部屋を出て行った。


それも凄かったが、それでも起きないイアランは本当に生きている…よね?結構うるさかったと思うけど。


そっとイアランの寝ているベッドを覗いてみる。


私が起きた時と違うところ、ベッドの端で丸くなっていた。どうやら生きてはいるようだ。


間もなく食事が来るだろうから優しくイアランを揺すってみる。


「イアラン、もう夕方だよ?」


すると、寝ぼけ眼を擦りながら体を起こすイアラン。昨夜のこともあり、イアランも何も着ていない。


「おはよ、ジール。とは言ってもまだ眠たいかな」


あれだけ寝てまだ眠いとか…まるで成長期の子供のようである。


「大丈夫、イアラン」


心配になりイアランの顔を覗き込んだ。


すると、何を思ったのか、私を抱き寄せるといきなり頬にキスをされた。


「ちょ、ちょ、何なの!?」


思わず慌ててしまった。それを見てにっこり微笑むイアラン。


「おはようのキスだよ。おはよう、ジール♪」


あ、うん。そういうことね。でも、いきなり慣れてないことをされるとやはり緊張してしまう。


まあ…悪い気分はしないけどね。


「さてと、今日からやることいっぱいだね。オジオンの情報収集しなきゃね」


起きてすぐ…というか、夕方から何をするのだろうか?もう少しで食事だというのに。


「エアマスに話を聞くのと、情報の収集を頼むとしようか。今回のオジオン攻略は俺が表立って手伝えないから…ごめんね」


私がイアランの言葉の意味を理解してないのが分かったのか、イアランが補足の説明をしてくれた。


ゴッドキラーの自分が介入すれば、ディゴも巻き込む可能性があり、オジオンもクスを早い段階で投入してくる可能性が高いとのことだ。


何より師匠の作戦だと、どこから侵攻するかが重要で、最初の一手が先々の戦局を大きく変えるらしい。


だから、イアランが私と共に行動するより、バックアップに徹して大局を見て私に情報を伝える方が成功率が上がるとのこと。


師匠や師範は人間界のことなので介入するのは神が不在とは言え人間界と魔界の衝突となるので、無駄に戦火を広がることになる。ゆえに魔界からの援軍は出せないとイアランは読んでいる。


かと言って、私は神と戦える実力はあるものの、他の神々の様に広範囲…例えばオジオンの四分の一を消すような攻撃もできないし、仮に仕えても、そんなことすれば私はオジオンの民から反感を買うことになる。


あくまでもオジオンからエルフたちを解放し、オジオン国民は味方、もしくは中立になってくれないと下手すれば国民を含めた数千万の軍を相手にすることになってしまう。


それは一番避けなくてはならない。


オジオンが私のことを知らない今が一番好機であり、迅速にオジオンの要所を堕として行き、オジオン王の身柄を確保するのが最善だろうとイアランは考えていた。


ただ、この考えには少し間違いがある。


例えクスが出てきても、勝てるということ。イアランは私がクスを倒したことを知らない。ヴァーサを倒したんだから、そこはクスを倒せるだろうとはならないのかな?


「ジール、人間界の神に勝てたからクスに勝てるとか思ってない?」


イアランの不意の言葉に「へっ!?」という上擦った声と共に間抜けな顔を晒してしまった。


「確かに正面からやれば勝てると思うよ。でもね、暗殺やエルフを人質にされたりしたら…勝てるかい?」


「うっ…。確かにそうだね…」


最近、正面から戦ってばかりなので、すっかり忘れていた。


オジオンクラスの国なら暗殺や下手すればエルフが無理やり戦わされたりなんかもあるかもしれない。そうなると、私の単純な戦闘能力では対処できない。


「そういうことも考えながら作戦を立てよう。今、エアマスに伝言を送ったから、すぐに動いてくれる。後はジールと共に戦ってくれる仲間をどうやって増やすか、だね」


考え込むイアランの思考を止めるかのように扉からノックの音がした。


「お食事の用意ができました」


先程のメイドのサキュバスが…昨日は一人だったのに、今回は二人で入って来た。それも嬉しそうに。


「ジール様、またあのワインご用意しましょうか?ベラ様からはジール様が欲するならいくらでも出して良いと言われております」


…ベラ、私たちに何させようって言うのよ。


「それとイアラン様、新しい服をご用意しましょうか?」


桃色の髪のメイドが嬉しそうに尋ねる。


「イアラン!服着なさいよ!」


作戦を考えることが優先されたのだろうが、よく考えてみれば、起きてすぐに考え事をしていたわけで…何も着てなかったんだよね。


私もオジオン侵攻のことで頭が一杯で、気が付かなかった…。


「イアラン様、それとも食事の前にジール様と寝室へ向かいますか?」


淡々とした口調で青い髪のメイドが尋ねてくる。


でも、その選択肢はおかしいでしょ!


い、いや、そこを聞くの、メイドって!?


慌てて目線を泳がせてしまったが、そんな時に限ってイアランと不意に目が合う。


二人して一瞬の沈黙の後、二人して顔が赤くなってしまった。


「もし気になるのでしたら、ベッドごと新しいものと交換いたしますが?」


サラッととんでもないことを言い出した。ベッドごと交換とか分けわからない!


「しょ、食事に決まってるわよ!」


自分の恥ずかしさをかき消す勢いで大声で叫ぶ。イアランは少し寂しそうにしてたが、そんなの気にしてられない。


「ジール様、食べながらでも私たちは構いませんが?」


斜め上の発想が飛び出す。両方同時に…違う!そこじゃないのよ!


「悪魔の中にはそのような者もおりますので、私たちは気にしませんので、ジール様、イアラン様がやりたいようにしていただければ、私たちはサポートいたします」


追い打ちをする桃色の髪のメイド。頭がおかしくなりそうなくらい私の思考は追いつかない。


食べながら?


いや、どちらか片方でしょ?


だから、そこの問題じゃない!


「しょ、食事をします!用意してください!」


なぜ、私は肩で息をしながら叫んでいるのだろうか?食事をしたいだけなのに…。


そんな時、青い髪のメイドが来るっと後ろを向き体を震わせ出した。それを見た桃色の髪のメイドが慌てて青い髪のメイドに駆け寄り「笑っちゃダメでしょ」と小声で話すのが聞こえた。


相手が悪かったね、メイドさん。エルフって耳がいいの。


「もしかして…からかってたのかなぁ?」


私は二人のメイドの肩にや・さ・し・く!手をかけた。


きっと私は凄い顔をしていたのだろう。二人のメイドは「お、お食事の用意をしてまいります!!」と急いで部屋を出て…いや、逃げていった。


「元はと言えばイアランがそんな恰好してるのが原因なんだからね!早く入浴するなりシャワー浴びるなりしなさい!」


「は、はい!」


叱られた子供のように慌てて浴室に駆け込むイアラン。


昨日の夜のあの感じ…やっぱりあのワインのせいだったのかなぁ。


私はソファーに力が抜けたかのように腰を落とすと、高い天井を見ながら大きなため息をついた。





食事は昨日に続きとても美味しかった。


メイド二人が私にものすごく気を遣っているのが伝わってくる。


まあ、神様倒す相手を怒らした…自分がメイド側の立場ならこうなるだろう。私は別に感情任せに理不尽な暴力を振るう気はないけどね。


「さて、今晩は早く寝るわよ。明日から忙しくなるんだしね!」


デザートのバニラアイスを食べ終えるとイアランに向かって自分の決意を確認する意味も込めて言った。


「そうだね。ジールの命に係わるし、俺の夢でもあるハーフエルフを救う事にもつながるからね」


お互いに自分たちの決意に頷き、メイドたちが食器類を下げるのを見終わるとイアランがオジオン国の地図を広げた。


「さて、今ある情報で少し作戦を考えてみようか」


少ない情報でまともな作戦はできないものの、地形や戦略上抑えたい都市などを深夜まで話し合った。


だが、話し合うほどにオジオン国の強さが改めて分かる。


感情任せで侵攻すれば、三日も戦えず敗北してしまうだろう。


「そろそろ寝ようかイアラン。明日は早く起きよ。師匠とも話したいし、ウィン様に会って助力してもらえるように頼みたいし」


「そうだね。それはそうと…一つちょっと問題…あるんだよね」


「問題?」


イアランの何か言いにくそうな言い方に少し引っ掛かりを感じてすぐに聞き返した。


「その…今晩も一緒に寝る…ってことでいいんだよね?」


あー、そういうことか…そういうことか…そういう…こと…だよね…。


「こ、これだけ広い貴賓室なら別の部屋にもベッドくらい…」


慌てて私は全ての部屋を見て回った。


絶対おかしい!いくつかの部屋には浴室があるというのにベッドがあそこしかないのは…ベラ、もしかして仕組んだの!?


「メイドに言って用意させるよ」


イアランは扉に向かって「ちょっといい?」と呼ぶと扉が開き二人のメイドが入って来た。


「どうされましたか?」


青い髪のメイドが無表情に答える。


「ベッドを…もう一つ用意してもらえないかな?」


一瞬の沈黙。


イアランは「何かマズイこと聞いたかな?」みたいに私をみる。


「申し訳ございません。ベッドも他は使えるものがございませんし、他の部屋も使用されていて別の部屋をご案内もできません。誠に申し訳ございません」


深々と頭を下げる青い髪のメイド。


「いや、流石にそれは…ねぇ」


この城の広さで使えるベッドと部屋がないはおかしすぎる。どう考えてもウソである。


「ベラ様がそう言われたのでそう伝えたまだでございます」


…そういうことか。ベラ、本当に何考えてるのよ!?


「後、イアラン様。もしイアラン様がどうしてもと言うなら用意して良い、とベラ様は言っておりました」


何が何だか分からないイアランは私の方を向いて首を傾げた。


私もなぜイアランなのか、が分からない。


「せっかく二人の時間なのですよ?本当にいいんですか?」


メイドはそう言うとイアランに近寄りそっと耳元で何かを囁いた。ちょっと小声すぎるので残念だが内容は聞こえない。


ただ、囁いた内容は短かった。


何を言ったのだろうか?


「ジール、一緒に寝よう!」


急に私に真面目な視線を送り力強く言うイアラン。


「イアラン、何を言われたのよ!?」


青い髪のメイドはクスクスと笑うと「失礼致します」と言い桃色の髪のメイドと共に出て行った。


「ちょっと、イアラン、説明してよ!」


私の問いに少し言葉を選びながらイアランは話し出した。


「えっと…ジールが一緒じゃないなら…私が隣で添い寝させていただきます、と言われた…」


「添い寝…」


言葉をそのまま受け止めて想像する。


ただ、隣で寝る。


べ、別に…そ、それくらい…寝るだけなら…寝る『だけ』なら…いや、そんなことはないよね!


「ベラ…本当にあの手この手を使ってくるのね…」


ベラの策略…いや、イタズラ?により、今晩もイアランと共に夜を過ごすこととなった。


ただ、今晩はイアランが「ワインの力じゃなく、俺の意志で、ちゃんとジールを求めたい」と言ってきた。


私は驚きはしたものの、頷いてしまっていた。


初めてかもしれない。


イアランに男らしさを感じたのは。


どちらかと言えば飄々として掴みどころがない道化みたいで、男らしいと言うよりも、不思議な頼りがいを感じていた。


でも、今夜の一言は今までイアランとは別の顔とも言えた。


まあ、こういう一面が見れたのもベラのお陰ということにしておくかな。


悔しいが、ベラの言う「良かったであろう?好きな男と共に過ごす夜は?」は…その通りだ、と思った。





二ヶ月が過ぎた。私たちはエアマスの持ってきた情報から作戦の精度を上げたり、ウィン様に会い協力してもらうように頼んだり、地上に行きオジオンの国境付近を実際見たりと毎日がまるで消えるかのように過ぎた。


それにしても慣れとは…恐ろしいものである。


ベラの用意してくれた部屋で過ごしているお陰でやりたいことに集中できるし、イアランと一緒に過ごすのも当たり前のよう感じだしていた。


夜も…結構な頻度で誘われたり…誘ったり。


リウス、ごめん、昔の私はあなたのことをそういうのが好きな下卑た女性と思っていたけど…今なら…気持ち、ちょっと分かる気がします。


それに、好きな人と…同じ夢に向かって歩くというのは…幸せの一言に尽きる♪


たまに師匠も訪ねてくるので、まるで新居に住み始めた新婚みたいな気分♪


と、浮かれてばかりではない。


調べれば調べるほど、情報が集まれば集まるほど作戦の内容を変更したり、侵攻ルートの見直しをしたり、戦力をどう配置するかで頭を悩ませた。


人間界最大国家を落とそうとするのだ。当然一朝一夕にはいかないし、作戦もいくつか用意しておかないと、トラブルなどで作戦が続行不可能となれば全てが水の泡。


いや、そうなると、オジオンをいたずらに刺激しただけで、何の効果もないどころか、警戒を高めさせ無駄に難易度を上げるだけとなる。


とは言っても、作戦の概要は固まりつつあった。


だが、イアランに言わせるとオジオンに侵攻をしてみないと分からなことも多くあるので、ここで作る作戦はあくまで予定であり、実際侵攻して変わる可能性はあるという。


エアマスも情報収集を頑張ってくれたのだが、やはりオジオンも簡単には肝心な部分の情報は漏洩しないようにしっかりと守られているとのこと。


どうやら、後は実際やってみるしかなさそうである。






決行の朝が来た。


私はオジオン国境付近の森の中に一人立っている。


イアランとは魔法を使えばいつでも話せるが、もし魔法が使えない場所なんてところに行けば今の段階では完全に孤立してしまう。


避けるべきは圧倒的な数で攻められる状況。これをされて、三日三晩戦えば私もさすがに力尽きてしまう。


援軍は今の所ウィン様だけ。他の者は立場ゆえに表立って戦闘に加われない者ばかりなので、サポートはあっても共に戦うことはできない。


ある程度侵攻が成功すれば、現オジオン政権に不満を持つ者も参戦してくれるだろう。


この作戦の大変なところは最初だとイアランが言っていた。


ウィン様も別の場所から侵攻するので最初は本当に一人。


でも大丈夫。私はイアランの立てた作戦を信じているし、エピオンとリウスの血を信じている。


表立って助けてくれはしないが、私を支えてくれる人は多い。


「さてと、時間ね」


オジオン国の国境付近に作れられた防壁を朝日が照らす。


私は、勢いよく魔法で飛び上がるとオジオン国へと侵攻を開始するのであった。




〜モンスター託児所のジール 完 〜

最後まで読んで下さった方にまずお礼を言いたです!


本当にありがとうございました!


誤字脱字もあったと思います。


変な文章もあったと思います。


表現力が乏しいとこもあったと思います。


でも、最後まで読んで下さったあなたは私にとって崇める対象と言っても過言ではありません!


感謝の気持ちを言えばここのあとがきで別の作品が作れるのでは?という長さになりそうなので、話題を変えさせていただきます。


どうして完結させたのか?という理由についてお話ししましょう。


理由は三つあります。


一つは…これが一番なのですが…


「もう、モンスター託児所要素、無いじゃん!」


です…。


時々矛盾しないようにと読み返してみるのですが…初期の頃ですら取って付けたような託児所設定が、三章辺りからどんどん消えて、四章では壊して、そのまま復活しないで終わる…という託児所が無いモンスター託児所のジールが進んでしまっていることに違和感を感じるようになりました。


まあ、ドラゴ◯ボールのような感じで、時々託児所を出すことも考えましたが、そうなると強くなりすぎたジールではお話しとしてつまらないものになるのでは?と思ってみたりしたのです。


二つ目は私の体調です。


この小説を書いている間、入院はしていないものの、様々な体調不良に見舞われました。


季節性の鬱や蕁麻疹などでボロボロになりながら、でも読んで下さっている人がいるので頑張って書こうとして無理しすぎで休みの日は寝て過ごすことが増えて家の事が疎かになっちゃって…少しずつバランスを取りながらやっていました…。


ですが、今年になって寒暖が交互に来て、本業から帰って寝てしまうくらい体が付いていかなくなってきたので、少し時間を作ろうと思い、限りのいいこの辺りで一度仕切ろうと思いました。


三つ目は、このままジールのお話を続けようか?別の話を書こうか?を悩んだ結果、少し考える時間を作ろうと思ったからです。


正直、ジールのお話に関しては章の終わりのあとがきで一度書いたように、本当はこんなに長く続ける…というか書けるとは思わなかったんです。


途中で挫折したり、飽きるかな?と思い、最初の三章くらいまでの話は大まかな話を作り、リウスとジールが心の世界で出会って自分のルーツを知って終わり、だったんです。


どうしてここまで書けたのか?


それは嬉しい予想外のこと…案外多くの人が読んでくれた、ということです。


確かに大ヒットではありませんが、月に約300PV平均という私の予想を遥かに超えたものとなりました。


だからテンション上がっちゃって長くなりました♪気が付けば57万字超えですよw


だけど、それゆえにダラダラ書くのもどうかな?という気持ちが強くなり、少し時間を置いて、また、新たな物語として書くべきなのでは?と思ったのです。


それと、もう一つ別の物語を書きたい理由が、この予想外に見てくれるというとこにあります。


高校生の頃…約30年前にノートに一生懸命書いた当時、仲の良かった友達と書いていた小説を自分なりにアレンジして書いてみたいな!という気持ちも湧いてきたのです。


かと言って二つ同時に…できるかな?そうなると今より遅い投稿速度になるなぁ、楽しみに読んでくれる人を待たせたく無いなぁと思うんですよね。


というわけで、必ずまたここに戻ってきて書きますので、しばしお別れです。


今度もあなたの時間を楽しいものにできるように全力をつくしますので、またネジマキノ作品が出てきた時に読んでくれると嬉しいです!


それでは、異常気象や物価高など困難多き現代社会ですが、この物語を読んでくれた方に幸あれと祈りつつ締めくくりとさせていただきます。


2025年3月 ネジマキノ ショウコウ

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