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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第一章 クアンタ護衛編
8/80

七 英雄

まさかの展開である。


10%も解放してるのに、右手は抜けることなくスライムはまだへばり付いている。


何より最悪なことはスライムが肥大したこと。


考えられることは一つ。


「コイツ、私の生命エネルギーをエサにしてる!」


そんなことがあるわけない!と言っても現実は大きくなっている。このままでは私はスライムに包み込まれてしまう。


「ソノママ大人シクちぇっくめいとサレル瞬間ヲ見テイロ」


どうにかしなくては!あそこにいるのはもうヘキサだけ。あんな幼い子が一緒ならクアンタも逃げるのをためらい、ブラービに殺されてしまう。


「クアンタ!早く逃げて!」


今の私には大声で叫ぶことぐらいである。


だが、最後まで今回の戦いが読めないことを私は改めて感じた。


居間に入ったブラービがドアごと吹き飛ばされて外に出てきた。


「クアンタ!まさかあなた…」


と思ったのも束の間、出てきたのは…


「お前、私にイヤなことしたヤツ!許さない!」


なんと、ヘキサである。のだが、手足がドラゴン、体と顔は幼いまま。


まるでドラゴンの手足だけの着ぐるみを着てるようである。


…ちょっとカワイイ。


と思ったところにヘキサは容赦ない追い打ちの蹴りを入れブラービを吹き飛ばす。


「あたしに勝つのは…えっと…」


しばらくこの場に沈黙が流れる。


「ひゃ、ひゃくまんねん早い!」


キメポーズでピースするヘキサ。


何、この可愛さ♪


ではなくて、予想外の戦力に感謝である。


考えてみれば私とあれだけの戦いをしてたヘキサが弱いはずがない。


仮に結界の影響を受けたとしても、ヘキサの場合、私と戦った時のように結界を無効化できる可能性はある。


カン違いしたのはあの可愛く幼い見た目が原因なのは間違いない。


「計算ガ狂ッテキタカ。ヤハリ私ガヤルシカナイヨウダ!」


スケルトンナイトは鎧からするりと体を抜けさせると、クアンタのいる居間へ向かいだした。


「なっ!これだけ置いていくなー!」


と怒ってみたものの、侵食は進み上半身の一部までスライムは進行してきた。


「このままじゃあ…」


そんな時、私の頭の中に一つのイメージが浮かぶ。


「…やれるかどうか迷ってる暇はない!」


私は集中する。


「フランメ・フィスト!!」





クアンタに向け、剣を振りかざすスケルトンナイトは勝利を確信していたに違いない。剣の振り上げが大きく隙だらけ。


そんなスケルトンナイトの後頭部に飛び蹴りをお見舞いした。


スケルトンナイトはものの見事に壁にめり込んだ。


「娘…ドウヤッテすらいむヲハズシタ?」


有無を言わさず私は真っ赤に燃えてる拳をスケルトンナイトに叩き込む。


先程とは違い骨が欠け、ダメージとなっているのが見ても分かる。


「私の手を燃やしたら、スライムは焼けて溶けたわ!」


スケルトンナイトが私の拳を即座に見る。


「コ、コノ手…マサカ、拳ヲ炎ノ魔法ヲこーてぃんぐシテルトイウノカ!?」


私は動揺しているスケルトンナイトに追い討ちをかける!ヘキサの時とは違い、このままでも十分行ける手応え。油断しないように慎重に再び拳に炎の魔法をまとわせる。


「娘ヨ、オ前ハマサカ、王族ノ末裔ナノカ!?」


殴ろうとスケルトンナイトに飛びかかるが、その前にスケルトンナイトは膝から崩れ落ちる。


「コノ様ナ出会イガアルトハ…だーくえるふ…マサカ、オ前ガ…」


スケルトンナイトは、両手を地面に付き打ち震えてる。


「アノ方ノ末裔ト出会エル…コンナ喜バシイコトガアッテイイノダロウカ…」


きっと目があるなら泣いているのでは?と思わせるようにスケルトンナイトは手で自らの口を覆う。


「エピオン王ヨ!私ヲ導イテクレタノデスネ!」


まさか!とは思うが、古代エルフ国初代国王の名エピオンが出てきたところを見るに…このスケルトンナイトはエルフの魂が入っている可能性が出てきた。


しかも、ブラービはウィンと呼んでいた。


私はウィンという名前に覚えがあった。


小さい頃に絵本に何度も出てきた、私の大好きなエルフの最強騎士。


個人戦無敗のエピオンガーディア五人の一人『無双のウィン』


だとしたら、こんなにも弱くはないはず。ただでさえ多くの伝説を残してるウィンの攻撃がこの程度なわけがない。


感極まったスケルトンナイトだったが、落ち着いたのか、立ち上がり私に向き直す。


「ヤハリ、コノ体デハ無理ソウダナ」


スケルトンナイトは腕の骨を折り、埋め込まれている黒い石を取り出す。


「ココカラガ本当ノ勝負ダ」


スケルトンナイトは黒い石を地面に叩きつけて砕いた。


スケルトンナイトの体が崩れ、その崩れた、骨の上に光の球が現れた。


その光の球は強く輝くとどんどん形を変えていく。


そう、少しずつ人の形に。


私はこの姿を何度も見たことがある。


時には絵本。


時には絵画。


時には文献。


どれも私の憧れる英雄の姿。


手足は長くエルフとしては長身で、かと言ってか細いわけではなく鍛えられた筋肉がしっかり手足に浮き出ている。


それに大きな胸と、体の魅力を際立たせるくびれがある腰。


髪は輝くブロンド。長く細くしなやかで後ろで一つにくくられている。


整った顔立ちではあるのは言うまでも無く、鋭い眼光は敵を威圧し、側で見てる者を魅了ほどである。


「我が名はウィン!王に勝利をもたらす一振りの剣!」


思わず私は見惚れていた。


まさかの英雄との対面に思わず泣きそうになる。


「そうだ、娘。まだ名を聞いてなかったな」


話しかけられて緊張してしまう。こんなに現物がカッコよく素敵だとは思っても見なかった。


「じ、ジールと言います」


思わずどもる。そんな私にウィンは優しく微笑んでくれる。この笑顔…卑怯でしかない!


「ジール、君に会えて私は嬉しい。君はエルフでも珍しく格闘ができるそうだな」


「は、はい」


返事がまともにできない。あぁ。クアンタには悪いけど、ちょっとだけこの時間を楽しみたい。


「私はこの状態を三十分しか維持できないし、終わると消えるそうだ」


さらりと言われたが、たった三十分で…消える!?


確かに元々この世にいないわけだし、このように元死人が魂と肉体を持つこと自体特別なことなわけで、それを維持するのは難しくて当たり前であろう。


「私はそこの彼の命に興味はない。どちらかと言えばジール、君の方に興味が出てた」


自分でも少し顔が赤くなったのがわかった。


この人は何で発する言葉言葉が私の心をこんなに揺さぶるのか分からない。


でも…悪い気はしない。


「わ、私にですか!?」


我に返り返事をする。その返事を聞いたウィンは深くうなずく。


「あぁ。エルフなのに格闘術で敵を倒すスタイル…私が生きてる時にはいなかったよ。だから…手合わせ願いたいが良いだろうか?」


ヤバい、この人もノリは師範と同じ系統なのだろうか?でも、師範と違ってちゃんとこちらの意思確認をしてくれる。


何より貴重な時間を私相手に使おうとしている。あの憧れた英雄が、である。


「私で良ければぜひ!」


私の返答を聞き、ウィンは嬉しそうに右手を前に出し手を開く。魔力で地面に召喚の魔法陣を描く。


これも私は知っている。


ウィンの武器は専用のバスターソードの二刀流。これは、普通あり得ない使用である。


本来バスターソードは両手で持つ剣であり、重量もあるため、切るというより叩きつけたり、振った勢いで切り飛ばすスタイルなのである。


だが、ウィンのバスターソードは片手の剣と同じように使われる。しかも軽めに作られてるとは言え、決して剣に振り回されることなく戦う。


戦場ではまるで「舞っている」と言われるほど鮮やかな剣さばきを見せていると文献で読んだことがある。


その舞の後ろに立つ敵はいない…このバスターソードに名前は無かったのだが、いつしかこの二本のバスターソードは「ゼロ」と呼ばれるようになった。


ウィンは二本のバスターソードを手に取り、左右片方ずつにバスターソードを持ち、独特の構えをする。


「ツインバスターソード…『ゼロ』…本気なんですね」


「あぁ。さぁ、時間が惜しい。表に出て始めようか」


前に立つと分かる。思わず生つばを飲む。


生命エネルギーを10%開放してるのに全く勝てるイメージが出てこない。


でも、私にも退けない理由がある。


「英雄ウィン相手だけど…負けられない!」





実に心地よかった。まるで戦いの教科書である。大振りになるバスターソードの欠点を補うようにすぐさま二撃目が現れスキを消す。


左右のバスターソードがまるで二人の剣士を相手にするかのように飛んでくる。


スキができぬように連撃を続ける。


言葉にするのは簡単だが、それを実戦でやろうとすると難易度は高い。


だが、ウィンはその通りにやってのける。ゆえに一撃目をかわして踏み込もうとすれば二撃目がすでに待ち構えており、私は後ろに飛び退く。


「早いじゃないか!正直ここまでやれるとは思ってなかったので嬉しいよ」


その上、時折見せる楽しそうな子供のような屈託のない笑顔は思わず見惚れてしまう。


(もしかして、この笑顔にやられてる人いたんじゃないかな?)


笑顔もだが、戦ってる最中の楽しそうな顔にも思わず見惚れてしまいそうになる。


(これ、ホント卑怯だよ!…でもつい見てしまう…)


しかし、これだけ見事な剣さばきをされると自分の間合いまで入れない。私はただでさえ身長が高いわけでもないのに、相手のバスターソードの長さとウィンの手の長さゆえに全く近づかない。


「ジール、君の周りにあるオーラ、その色が桃色になると強いんだろ?ぜひ見せて欲しい!」


英雄ウィンからのまさかのリクエスト。


でも応えるわけにもいかない。


コントロールする自信がないというのにまた解放したら、流石に師匠や師範に怒られそう。


迷う私を察したのか、ウィンが真剣な顔つきをして私に叫んだ。


躊躇ちゅうちょするのは構わない。だが、君の守ろうとするものは、その躊躇することに阻まれる程度のことなのか!本気で守ろうと思う価値のない者のために戦いはしてはならない!」


そう、ホントにそう。ウィンの言うことは最もである。


私が優位な訳ではない。


それなのに、使うのをためらうのは確かに矛盾してるし、何よりそんな半端な気持ちで戦うものではない。


今は私の気持ちより、クアンタを守れるかどうかが大切なはずである!


「いい目になったな。では、仕切り直しと行こうか」


ウィンと間合いを取る。


深く呼吸をする。それと同時に私はダークエルフの変装を解いた。


「そうか…君は変装していたのだな。ジールという名も本当の名ではない…ということかな?」


ウィンは頭の回転も早いのはよく知っていた。文武両道を生きて表現できていた英雄なのである。ホントこういう所がカッコイイし憧れる。


「私はサリスと言います。ここからは…今までのようにはいきませんからね!」


「サリス?サイサリス…ではないのか?」


それはない。そんな話はお母さんからも聞いたことが無い。何よりサイサリスという名であるはずがない。


サイサリスとはエピオン王の名。エピオン・サイサリス。そんな名前をおいそれと使えるわけがないし、恐れ多くて使えない。


近い名で「サス」や「サイリス」などは増えたが、それはエピオン王が亡くなった後に広まったことなのでウィンが知るはずがない。


「そんな立派な名前じゃないわ。名前なんてでもいい…さぁ、楽しみましょ、ウィン様♡」


やはり気分が高揚してくる。あの時のように鼓動が早くなり体が熱くる。


「来るがいい!受けて立つ!」


ウィンも高揚してるのか口元に笑みがこぼれている。


その笑みを確認すると同時に私はウィンの左に飛ぶ。剣の振り方を見ていた限り、利き腕は右。ゆえにわずかだが、左のバスターソードの振りが遅れている。


「なるほど、いい判断だ。しかも早い」


だがウィンは私の動きを追えている。左に入った私と目が合う。


私はそれでも踏み込んだ。今度はバスターソードが振り下ろされるより早く踏み込めた!


「この間合いなら♡」


完全に拳が入るタイミングである!それなのにウィンは拳から目を逸らさない。それどころか口元がわずかに笑う。


心に疑念が生まれた。それは拳にほんのわずかの鈍りを生んだ。


「ひっかかったね」


心理戦である!何かあると思わせて最後の最後で拳を鈍らせるようにしてきた!


そしてかわされた!ほんのわずかな時間差が打撃のヒットを逃した!


「実に素晴らしい!しかも…それだけ気持ちよさそうに戦えるのはもはや才能だな」


そう、かわされたのにとてもキモチイイ♡そして高揚する♡ヘキサの時以上である。


すぐさま私に二本の牙が振り下ろされる!私はまた間合いを取る。


「私…ウィン様に会えて…とてもシアワセです♡」


言い終わると再び踏み込んで行く!先ほどの小細工は通じない。下手な小細工は経験の差ゆえに生まれる技術で何度でも避けてくるに違いない。


「つまり…正面突破しかないじゃない♡」


全力!バスターソードの振りより早く、ウィンの判断するより早く、私の一撃を叩き込む動きをするしかない!


「正面から来るのだな!実に素晴らしい!私も君に応えなくてはならないな!」


間合いに入った瞬間、バスターソードが襲い掛かってくる!私は一進一退の攻防で間合いに踏み込もうと食らいつく!


「楽しいな!サリス!」


「楽しいです!ウィン様♡」


何度意識が飛ぶほどキモチイイ思いをしたか分からない♡私の体ギリギリの所を剣の刃が通り過ぎる。


剣を振り終えれば、そのわずかな時間で数ミリ踏み込みを試みる。


しかし、そこに踏み込ませまいと次の刃が飛んでくる。


こんな攻防が永遠に続くような気がしていた。


「がっ…ぐうっ…な…なんだ!?」


急にウィンが苦しみだす。もしかしてもう時間が来たんだろうか!?


「所詮は呼ばれた魂…か。気を付けろ、サリス…。ここからは私…では…なくなる…。守るべき…者を守るために…ためらわず…私を…殺せ!」


言い終わるとウィンは膝を落とし、うつむいた。


私は急いで駆け寄るが、目の前をバスターソードの一振りが私の足を止めさせた。


「ウィン…?」


いや、ウィンじゃない!先ほどの輝いていた目の光が無い。だが、容赦なくバスターソードの刃が飛んでくる!


先ほどと違い、…全くキモチヨクナイ…。


だが、動きの速さも剣さばきも変わらない。


「何なの!?何なの!?どうしてなの!?」


まるで人形相手に訓練してるようだ。先ほどに比べてこちらの攻撃も当たるようになったものの、涙が出てきた。


「こんなの、一人で人形相手に練習してる方がマシじゃない…」


あんなに楽しかった時間がウソのように悲しくつまらない。


だが、ウィンは攻撃を止めない。無表情のまま剣を振り続ける。


これはきっとウィンを呼び出した者がウィンの魂を制御をするための魔法。


時間によって発動する制御魔法の可能性は高い。


「もう止めましょ、ウィン!これ以上は…キモチヨクナイじゃない!」


どんどん剣の速度が落ちてくる。限界が近いのかもしれない。


私は容赦なく拳を叩き込む!それがウィンが望んだことでもある。


「もう一度元に戻ってよ、ウィン!こんな終わりはあなたも望んでないでしょ!」


私の拳で吹き飛んだウィンは崩れたまま、起き上がらなかった。


バスターソードが消えた。これは持ち主に闘う意思が消えた証拠。


私はウィンの元に駆け寄り抱え起こす。


「ウィン!もっと戦おうよ!もっと続けようよ!ねぇ、ウィン!起きてよ!」


言葉に返答がないまま少しずつウィンの体が崩れていく。


(悲しむことはないぞ、サリス)


幻聴だろうか?今ウィンの言葉が聞こえた気がする。


私の腕の中でウィンの体は四散して消えていった。


わずかな時間とは言え、素晴らしい時間をくれた英雄に敬意と戦うことの理由を見据えること、戦いは相手次第で楽しむことができるのを学ばせてもらえたウィンに感謝をした。


「ありがとう、ウィン…あなたのおかげで戦う意味を見失わずに済んだし、戦いって楽しい面もあることを学ばせてもらった」


ウィンが消えていった空を見上げると既に辺りは暗くなっていた。


そして、私の生命エネルギーは15%解放しているのはずなに色は白く輝いていた。


ウィンと出会えて、戦うことの意味を考えて、その意思を見失わないことを学び、また、私は新たな力を手にした。


だが、この力でも届かない世界があることをこの後知ることになる…。


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