七十三 家路
いつぶりだろうか?師匠と街を歩くことなんて。
てっきり魔法で飛んでいくのかと思ったのだが「歩いていくか」と言い、まるで師匠が私との時間を作り、私と歩くことを目的とするかのように思えた。
外に出ると街は賑わっていた。
人間界でよく、魔界は混沌として、殺伐とした感じに描かれている物語が多いのだが、実は魔界はあくまでも人間界、天界とは別の世界なだけで、いつでも魔物や悪魔が殺気だって殺し合いをしているわけではない。
まあ、人間界よりケンカなどのいざこざは多いが、人間界の荒くれ者の酒場くらいであり、決して常に命の危険に晒されているわけではない。
「こうして歩くのは…旅をした時以来かもしれないな」
独り言なのか、私に言ったのか分からないが、師匠は感慨深く言った。
「師匠の家まで遠いんですか?」
何だろう。久しぶりに会ったのに間がもたない。
昔はそんなことはなかったのに。
たわいもない話で二人で、時には師範と三人でワインを飲みながら夜を過ごしたものだった。
だが、今は…何を話しかけていいの分からない。
リウスのことを聞くべきか?
神の衣が使えるようになったことから切り出すべきか?
それとも近況を聞くべきか?
思うように言葉が出ない。
師匠の背中って、こんなに遠かったかな?
大きな背中だと感じたことはよくあった。
ただ、それは尊敬や敬意からであり、今のように疎外感で背中が遠く感じることはなかった。
何を隠しているのだろうか、師匠は。
師匠が私に対して隠していることを聞いたら師匠はちゃんと話してくれるのだろうか?
嘘をついたり、誤魔化したりはしてほしくないが、そうされた時、私はどうすれば良いのだろうか?
私のこともそうだが、リウスが師匠に伝えてほしいと私に託した最後の言葉も伝えたい。
師匠はリウスのことをどう思っているのだろうか?
そんな私のもやもやした頭の中に、スッと入ってきたものがあった。
「エルフの花の香りだ…」
香りの漂ってくる方向を見ると昔いたエルフの里に咲いてたエルフ草の花が店の軒先に束ねられて売られていた。
エルフ草は茎や葉が白く、花びらは薄い黄色で、恥じらうように少しだけ開く花である。
まるで白い肌のエルフが下を向いているように見えることからエルフ草と呼ばれるようになった。
お母さんがよく食卓のテーブルの花瓶に飾っていた花。
そう言えば…お母さん、死んじゃったんだよね。
クロスから言われた言葉を思い出す。魔神石はエルフの血が使われていて、使われた者は…。
本心ではクロスが私を動揺させるために嘘をついていて、本当はお母さんは生きている、という筋書きを期待している。
だけど…血だけ取って生かしておくことが…あるのだろうか?
私は師匠に一言断って、そのエルフ草を買った。
飾る場所があるわけではない。
だけど、欲しくなったのだ。
お母さんはこのエルフ草みたいにキレイで、強くて、私を守ってくれた。
この花を見ていると、まるでお母さんがそばにいるような気がする。
お母さんも何か特別に香水を付けていたわけではないけどいい匂いがしていたのを思い出す。
でも…そのお母さん、本当に私のお母さんなのだろうか?
疑えば疑うほど、自分がお母さんに似てないと思えてくる。
それに、私の父親はお母さんから『死んだ』とだけ聞かされていた。
エルフの里で一度長老に父親のことを聞いたが、何となく誤魔化されて話は終わった。
それ以降、私は父親の話を誰かにするのをやめたのだ。
何となく聞いてはいけない雰囲気を子供ながらに察したのもあるし、もし、悪い人が父親なら知らない方がいいかもしれないとも思ったからだ。
もし、素晴らしい人物なら、誰もが私の父親の話をしてくれたはずだ。
それが里の者から全く口にしないということは、もしかしたら、里を追い出されるようなことをしたのではないか?という推測をしてしまったのだ。
もしかしたら、師匠は私の父親のことも知っているかもしれない。
私の知らない、私の家族のことを師匠が知っているかもしれない。
でも、そうなると疑問は深まるばかり。
師匠はリウスとエピオン、私のお母さんとどういう関係なの?
「ジール、悪いが少し待っていてくれ」
そう言うと師匠は小さな工房のような所に入った。
窓から師匠とそこの従業員が話しているのが見える。
師匠は一言、二言話すと従業員は店の奥に消えていった。
買い物だろうか?
いや、この様子からすると何かを頼んで作ってもらっていて、それを取りに来た、といったところだろう。
なぜ歩くことにしたのかが、やっと分かった。
まあ、飛んでいく距離でもないし、街中だと着地する場所も選ぶから手間を考えたら歩いて行くのは妥当なとこだろう。
「待たせたな。じゃあ行こうか。ここから私の家はそう遠くない。このまま歩いて行こうか」
慌てる理由は無い。だからそれでいい。
いや、その方が私にとって気持ちの整理をする時間があるのでありがたい。
師匠はどうなのだろうか?
これから話すことは師匠からすれば大したことではないのだろうか?
「もう体の調子はいいのか?」
不意に師匠から話しかけられて思わず「へっ!?」と、間抜けな声が漏れた。
「お前は魔力量が桁違いだ。回復にも時間がかるだろうし、その上人間界の神との戦いでダメージもあっただろうからな。ハイムの結界があったとしても完治してないのでは?と思ってな」
穏やかな口調。優しさすら感じる。
私のよく知る師匠だ。
「ま、まだ完全じゃないとは思うけど、疲れは感じてない…かな?ハイムって実は優秀なんですか?」
私のハイムへの疑念を聞き、師匠は笑い出した。
「優秀なのは優秀だが、変わってるからな。それに姉…邪神様が唯一苦手とする相手だからな。女性から見ればそういう風に厳しい目になるのかもしれないな」
どうやらハイムは優秀らしい。師匠はあまり誰かを褒めないが、その師匠が優秀と言うのなら私も信じることにしよう。
だが、あの遠慮なく体に触ってきて魅力ないとか言う無神経さは受け入れることは出来そうにないけどね。
けど、ホッとした。
師匠は何も変わっていなかった。
それが私に安心を与えてくれた。
「し、師匠はハイムと長い付き合いなんですか?」
やっと掴めた会話の糸口を逃すまいと私は質問をする。
「長い…か。そうだな。長い…付き合いだな」
何かを思い出すかのように立ち止まり空を見上げる師匠。どうやら、私の計り知れない意味で「長い」のだろう。
「まあ、久しぶりに会ったわけだしな。お前も話したい事もあるだろう。さぁ、家に向かうとしようか」
何となく懐かしい感覚。
場所は違うが、託児所にいた頃と同じ感覚。
そして、抱えてる花の懐かしい匂い。
きっとまた、昔のように平和な日々が戻ってくる。
また、やり直せばいいだけだ。
色々あったけど、私はまた、ここから始めればいい。
師匠とこの後、また昔みたいにワインを飲みながら魔法談義や人生観、私の愚痴などを話し夜更かしをするのもいい。
それが私の望んだこと。
まあ、ここにイアランが加わるかは彼のこれからの行動次第になるかな。
私は、先に歩き出した師匠の後ろについて行く。
少し離れた所に見覚えのある建物が見えてきた。
幼き日に見た建物。
師匠の家である。
私は自分のルーツを知りたい反面、そんなものを知ってもどうしようもないと考えも少し芽生えている。
それはきっとリウスが言った「自分のために生きなさい」と言う言葉のおかげかもしれない。
ただ、知らなくてもいいわけではない。
これから師匠の家で何を話すか?
私は本当に師匠から私のことを聞き出せるのか?
それは全て、あの家に行ってから分かること。
それは私が言葉にするかどうかで決まることだ。
少し覚悟のようなものができた。
ただ、覚悟はあったものの、これからの出来事を私は受け止められるかどうか…とても不安でしかなかった。
まずは読んでいただきありがとうございます!
当初今の半分くらいで終わるかなぁと思いながら、今に至ります。
今回、話の展開がどんどん進んで「ちょっと早すぎたかな?」という反省もあったりします。
ですが、今2025年2月の末ですが、過去最高のPVを記録するという個人的に嬉しい事がありました。
月間493PVは過去最高であり、新しい投稿をすると直ぐに読んでくださる方が増えているのがありがたいやら、嬉しいやらで一人でニヤニヤしてる変態と化しております。
ただ、ここを読んでくださってる方に一つ謝らなければなりません。
今回は第五章を「魔界のジール編」としてましたが、終わってみて「これ、魔界のジール編って変じゃね?」と思い「流れに巻き込まれるジール編」と変更させていただきました。
当初の予定ではヴァーサとの戦いは考えてなく、魔界を冒険させようか、と思ってたんですが…自分の中で考えてる主軸の人間関係がおかしくなるかな?と思いやめて、ジールが自分の意思と無関係に神と戦い、リウスが足りない力を補うことにより次の話につながるのでは?と考えたのです。
案の定、今、頭の中、大混乱です…。
でも、次の章は予定では最終章となり、ジールとゼフィ、リウスやエピオン、ジールのお母さんと謎な関係が明らかになります。
もし、次の最終章で「続きを見たい!」と言われたらホイホイ書きそうなので、最終章の「予定」としておきます。
嬉しい事もこうしてあったわけですが、悲しい事もありました。
2025年1月25日、飼っていた犬が天国へと旅立ちました。
16年と9ヶ月。長生きして天寿を全うしたと言えばそうなんですが、1ヶ月以上過ぎてもゲージ(犬の部屋)のある所に目が行きます。
最後の2年くらいはトイレが決まった場所にできなくなりオムツをし、それからしばらくして歩き方がヨタヨタしてきて、少しボケたのか呼んでも来ない、寝る時間が長くなる、うんちを踏んでズタボロにトイレシートをやぶく(そういう事、しなかったんですよね)変な時に声を出す、など大変な事もありましたが、やはり寂しいものです。
この物語の途中でジールとイアランがホワイトウルフに乗って魔界を駆けるシーンがありましたが、その時は散歩も少ししたら疲れていたので、せめて物語の中ででも広い世界を走らせてあげたいと、あのシーンを入れました。
散歩が好きで、よく引っ張られて困りものでしたが、晩年は私が歩速を落として寄り添う感じでした。
ちなみ日本スピッツの白い犬なんです。
だからホワイトウルフとして走らせた、というわけなのですが、その時は何も思いませんでしだが、今思うとそれが亡くなる三週間前くらいなので何とも言えない気持ちになります。
もし、ペットを飼っている方がいたら、亡くなる時にペットが、ではなく自分が後悔しないようにしてください。
100点は取れません。
ですが、老いてきたらできるだけ相手をしてあげて下さい。
命の尽きる時は決められませんので、帰宅したら亡くなっていたとなると、何もしてない時の後悔は言葉で表せないほどになるかと思います。
さて、暗い話ばかりになって申し訳ございません。
気を取り直して、キャラクターの元ネタと誰に声優をしてもらうかを発表しましょう♪
ローペン…ドムトローペン
リウス…メリクリウス
エピオン…エピオン
ヴァーサ…ガンダムヴァサーゴ
クロス…クロスボーンガンダム
ハイム…アナハイム
となっております。
今回はシリーズごとではない理由は、魔界は0083シリーズ、人間界はガンダムXシリーズ、エピオン王関係はガンダムW、で、クロスはどこにも所属しないのでクロスボーンガンダムに、ハイムは色んな人物を作り出すのでMSを作るアナハイムとなりました。
次の章では新たな登場人物は出てきません。まあ、ムブはいますが、命名するほどの人物はいない…予定です。
では、声優ですがリウスはアルファですし、ヴァーサは人間界の神なので今回は少ないですが重要人物が多いのでこうなりました。
ローペン…宮村優子さん。斧を振り回して戦う勇ましい魔女を元気よく演じてくれそうなのでピッタリなのでは?と思いました。
エピオン…中村悠一さん。王の若き頃ということもあり、貫禄があり、イケメンな声があるといいのでは?と思い選びました。
クロス…中尾隆聖さん。いきなり現れて、しかもジールを騙そうとしている少し胡散臭い感じを出してくれるのでは?と思い中尾さんを選びました。
ハイム…島田敏さん。ハイムは決してふざけたキャラではないですが、行動や発言が一般のラインからズレており、そのズレを真面目に面白くやってくれそうに思いました。
さて、最後の章です。
普通のこういうファンタジー系だと今回の章が最終章なのでしょうが、この物語の最終章はジールの出生の秘密で幕を閉じることになります。
これが果たしてあなたにどう感じてもらえるのか、今から楽しみです。
私も全力で書きますので、最後までお付き合いしてもらえると嬉しいし、感謝しちゃいます♪
ちなみに、七十三はジールの心情だけを書いてみたのですがどうだしたでしょうか?
2025年2月28日 ネジマキノ ショウコウ




