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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第五章 流れに巻き込まれるジール編
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七十一 決着

罠かもしれない。


そう思った。


だが、抱きしめた腕は優しく、温かく、あの記憶の体験で感じたものと同じであった。


「あなたは…エピオン…なの?」


私は涙を拭き、クロスに訊ねる。


「エピオンではない。だが、エルフが思い描く英雄と言っておこう」


それでは、今しているこの行動は理想の英雄が取る行動だから?本当にそうなのだろうか?


「じゃあなぜ、私をサリスと呼んだの?その名は一部のエルフしか知らない…はず」


嫌な予感がした。


魔神石にはエルフの血が使われている。その中に、私を知る者がいたとしたら…。


「あなたには…私のお母さんの血も入っているの?」


私の問いにクロスは少しためらったが、ゆっくりと頷いた。


「もう一つ教えて。魔神石に血を使われた者は…生きているの?」


クロスは何も答えなかった。


そう、答えなかったのだ。


「お母さん…」


私は幼子のように声を上げ、涙を流して泣いた。


どこかで思っていたのだ。


お母さんはまだ生きている、と。


助けに行くわけでもないのに期待をしていたのだ。


実に都合のいい話である。


そして、今、ここまで強くなった自分ならば、お母さんを助けに行けるのでは?と心のどこかで思っていたのだ。


「サリス。お前はよく頑張った。神相手にここまで戦えたのだ、胸を張って誇るといい」


そんな誇り、求めてなんかない。


ただ、平和に暮らしたいだけ。


それなのに…叶わない。


「さぁ、ゆっくり休むといい。お前は、立派に戦ったのだ。これ以上、傷付く必要はない」


そうだ。


もういいじゃないか。


何をやっても報われない。


何をやっても及ばない。


もう…いいじゃない。


沈んだ気持ちが、体から力を奪っていく。


「もう…私には無理だよ…」


温かいクロスの胸板によりかかる。


パシッ!


誰かに頬を叩かれた。


「えっ!?」


いつの間にか見慣れた白い空間にいる私。


目の前には、体が透けて、今にも消えそうなリウスが息も絶え絶えにして立っていた。


「偽物に癒されてどうするのよ!」


「偽物でもいいの!私のお母さんは死んだのよ!辛い時に優しさ求めるのはダメなの!?」


再びリウスが私の頬を張った。


「だからって…あんな粗悪な偽物の偽りの優しさに騙されてるを…黙って見過ごすなんて…できないわよ!」


「偽りの…優しさ?」


「アイツの目的は何なのか言ってたでしょ!戦うより…無傷であなたを手に入れる…手段をとっているだけ…でしょ!それだけ…アイツの魔力も…ヤバいってなんじゃないの!それなのに…戦いをやめて…アイツのいいように…されるわけ!冗談じゃ…ないわ!私はそんな…ことの…ために…」


急にリウスは前のめりに倒れた。私は慌てて駆け寄る。


「リウス!」


抱え上げて驚いた。


リウスが…羽根のように軽い。


「私も…限界が…近いんだから…手間…取らさ…ないで…よね…」


「でも…私は…」


戸惑っている私の肩を使い、リウスが立ち上がる。


そして、私をしっかりと抱きしめた。


「これが…最後かな…」


私が少し痛いくらいの力でリウスが私を抱きしめる。


「もし…ゼフィに…会ったら…伝えて…。私は…とても、幸せ…だったと。ありがとう…って…ね」


少しずつ、リウスが抱きしめていた腕の力が抜けていく。抜けているわけではない。消えかけているのだ!


「…リウス?」


「最後の力…を…あなたに…託すから…負けたら…承知しない…か…ら…」


最後の言葉と共に、リウスが姿を完全に消した。


「リウス!ちょっと待って!」


必死に手を伸ばすも、白い世界から引きはがされるように私は現実に戻った。


まだ、私はクロスの優しく抱かれた腕の中にいた。それはとても気持ちが良く、心が落ち着く。ずっとこのまま、ぬくもりに身を任せていたい。


だが、私はクロスの手をサッと払いのけると、軽く後ろに飛びのき距離を取った。


「どうした、エルフの英雄サリスよ」


ゆっくりとクロスは私に向けて手を差し出す。私がその手を取ってくれるだろうと信じているような目で私をじっと見つめる。


「英雄じゃないわ、私は」


呼吸を整え、再び生命エネルギーを解放する。そして私はサリスの最後の力を使う。


「すぐ落ち込んで、投げ出そうとして、みんなに助けてもらって…私一人では何もできない…英雄とは程遠いエルフよ!」


体が金色のオーラに包まれていく。サリスは、自分の残りの魔力を私に託したのだ。


「あなたがエピオンの姿でもね、それを偽りだと言う人がいる以上、その姿で心痛める人がいる以上、そのままにするわけにはいかないのよ!覚悟しなさい!」


金色のオーラは少しずつ小さくなり、私に吸い込まれていく。


「ゴッド・クレイド」


私の体の周りから完全に金色のオーラが消えた。だが、体内にエネルギーが溢れているのを感じる。


できるとは思わなかった。私は今、サリスの手助け無しに魔力、生命エネルギー、白銀竜の覇気をバランスよくコントロールをすることができた。


「やめるのだ。もう無駄な戦いは」


「私もしたくないけどね、そういうわけにはいかないのよ!」


放つ拳がクロスの頬をえぐる!今度は逃げられることなくヒットさせることができた!


「ぐはっ!や、やめるのだ、サリス。私はエルフの想い。その私を」


「うるさい!」


今度は側頭部に上段回し蹴りをお見舞いする。


クロスが真横に飛び、地面に何度か叩きつけられてようやく止まった。


「じょ、冗談じゃないぞ!お前はエルフの想いを踏みにじるとい」


体を起こしながら叫んだが、追いついていた私の右の拳を顔面で受け、再び飛ばされた。


「想い想いって…それを利用して私達を苦しめたあなたに…エルフの想いなんて語ってほしくない!」


今度は両手の拳を炎で染めてその拳の中にエネルギーを溜める。


「いい加減にしろ!お前は神に…エルフの想いに逆らい何を求めるんだ!」


何を求める?そんなの決まっている!


私は最高の笑顔を作りクロスに言ってやった。


「子供たちの世話して、その日の夜に一日の達成感を肴に美味しいワインを飲んで、ゆっくり寝たいだけよ」


クロスの顔が固まる。


あまりにも小さな欲求なのだろう。クロスは口を動かしているが、声が小さすぎて聞こえない。


きっと「理解できない」と言ってるのかもしれないが、私はあなたに理解を求めてはない。


だから、さようなら、クロス。


「フランメ・ミティオ!」


私の燃える拳がクロスの全身に何度も打ち込まれた。数十、いや数百の拳で殴りつけた。


まるで昔、旅の途中で一度だけ見た、空に星がたくさん流れているのに似ており、その拳の軌跡が美しく思えた。


クロスは宙に飛ばされる。既に気を失っているのだろうか?自由落下で頭から落ちてくる。


「これで終わりよ。ディメンションゲート!」


クロスの落下位置の空間を切り裂き、その空間にクロスが落ちる。


全身が落ちるのを確認して、私は空間を閉じた。


「終わった…くうっ!」


魔力が切れたのだろう、急に体が苦しくなってきた。


どうやら白銀竜の覇気を抑え込む力が弱まった可能性がある。


何とか生命エネルギーだけで抑え込もうとするものの、先程より膨大なエネルギーに押し負けている。


「リウスが…抑えてくれてないもんね…。ここまできて…ったく…白銀竜の覇気って…どれだけワガママなのよ…」


このままではクロス…もといヴァーサに勝っても私は白銀竜の覇気に体がやられるか、心が破壊衝動に支配される。


まさか、最後の最後に自分の中の力が敵になるなんて思ってもみなかった。


「少しは…気を遣い…なさいよ…白銀竜の…覇気」


倒れそうになる体を駆け寄ってきたウィン様が支えてくれた。


「大丈夫か、ジール!しっかりしろ!」


さて、こうなると生命エネルギーを完全解放して白銀竜の覇気を抑え込めるが暴走するか、白銀竜の覇気の破壊衝動に心を支配されるかの最悪の結末にしかならない。


どうするべきなのだろうか…、


意識が…少しずつ…遠く…。


だが、その前…に。


「ウィン様…もし、私が…暴走したら…殺してでも…止めて…くだ…」


…私の意識は、そこで途絶えた。





「これ、便利だな」


誰かの声で目を覚ます。


私の目に入ってきたのは見覚えのある白い空間。


「リウス、無事だった…の?」


てっきりリウスの呼び出しかと思ったのだが、目の前にはリウスとは違う冷たい目をした華奢な人間?が立っていた。


服装は民族衣装だろうか?ローブに似た服装なのだが、黄色や赤などの原色を基調としており、やたら貝やら宝石やらの装飾だらけで、歩くたびに音がしそうである。


肌は茶褐色で華奢な体に反して健康的な感じを受けた。


髪は珍しい濃い緑色。まるで森の木々が青々としている時の色である。


そして、最も私が気になったのは手であった。


指先から膝の辺りまで美しい銀色の鱗があり、これが誰なのか何となく予想はついたが、一応聞いてみる。


「あなたは…何者?」


すると、目の前にいる者が「そうきたか」と一言。私は質問を失敗したのかと思い警戒態勢を取る。


「ならば答えようではないか!」


いきなり右手で空を指さし、左手を腰に手を当て無表情に語りだした。


「竜の中の長であり、人に英知を与え、生きとし生けるものを愛する最強の神、竜神『ドラフ』!」


後悔はしなくてよかったようだ。ドラフは無表情ではあるものの、ノリノリで答えてくれた。


「えっと…では竜神様は私にどういった御用があるのでしょうか?」


掴みどころがないドラフだが、まずは意図が分からないと話にならない。直球の質問で様子を見ることにした。


「は?分からないのか?お前の体を私によこせばいい。私は…暴れたいのだ。久々に強い体の中にいるのだ。暴れたくなるのは当たり前だろ?」


そんな気持ち、分からない。分かるわけがない。


だが、そんな返答ではドラフを怒らせて問題解決にはならない。自分の本音を抑えつつドラフの話を聞く。


「リウスとか言ったか、あいつのこの魔法はいいな。初めて私の言葉を伝えることができた。私の本体は人間になったが、私はずっと誰かの中で生きてきた。リウスとか言うエルフと同じということだ」


私は黙って話を聞く。問題解決の糸口を探すために。


「本体は実に楽しそうに…」


無表情だが、語気が強くなる。


「結婚して、幸せそうな家庭を作ったんだぞ!私という偉大なる力を捨ててだ!」


まさか…竜神の破壊衝動って…。


「羨ましい!私もいい相手が欲しい!家庭作をりたい!でも、叶わないから破壊するのだ!」


無表情のまま怒りを込めた声で安直に恐い事を叫ばないで欲しい。


だが、少し見えてきた。つまり…恋愛したいってことか。


さてと、どうやって神の「力」に恋愛させたらよいのだろうか?


「えっと…どんな相手がタイプなんですか?」


きっと無茶苦茶言ってくるような気がするが、一応聞いてみることにした。


「相手に求めることか?私より強ければいい。それだけだ」


はい、無茶苦茶出ました。自分の力を理解してるのかな?いるわけないでしょ、そんな相手。


「えっと…今、気になる相手とかいるんですか?」


一応聞いてみる。もしいるなら、相手に聞いてみるのも一つだし、近い相手を探すこともできるだろう。


「そうだな…お前なんかいいかもしれないな」


「はい?」


思わず素で聞き返してしまった。


「お前は私の力を抑え込んで使いこなせた。お前は私より強いということになる」


そうなる…の?いや、話がおかしな方向に向かっているぞ!


「ふむ、よし、お前、私と結婚しろ」


「はい?」


またもや素が出てしまった。神様ってなんでこうも変なのばかりなのだろうか?


「安心しろ。私は男でも女でも問題ない」


ゆっくりと私に近寄てくるドラフ。目が真剣で無表情なのが恐い。


「ちょ、ちょっと!ちょっと待って!」


ドラフの肩を両手で押さえ、何とか近付くのを止める。


「問題あるのか?神の嫁になることなど望んでなれるもんでもないであろう?」


どうしよう。断る理由を…何か無いものか…。


「…いや、無理か」


ん?何だか知らないが諦めてくれた。良かった良かった。


「私には現実での体が無い。今はお前の体に間借りさせてもらってはいるが…お前という宿主から離れて行動は出来ない。だからお前の体を借りてこの理不尽極まりない現状を暴れて発散させたいのだ」


つまり、体があればいいのか。てことは、身体造形師ハイムに頼めばなんとかなるんじゃなかろうか?アルビオも作ってもらってるし。


「あの…アルビオ…死神様も体作ってもらってるので、同じ感じでいいなら作ってもらえばいいのではないでしょうか?」


私の言葉に対して相変わらずの無表情である。いいのか悪いのか分からない。


「そうすればお前と子を作り、家庭を築けるのだな?」


どうしても私と結婚して家庭を作りたいらしい。それは私が好きと言うより、自分の条件に合っているのが私だけであるわけであって、ドラフが本当に望むものとは違う気がする。


「あの…ドラフ様は家庭が築けたら幸せになるんでしょうか?」


「幸せに決まっている。神である私が言うのだ。間違いない」


とりあえず、ドラフの気持ちは婚期を逃しそうになっている娘さんに近いかもしれないが、持っている力は神の力。下手なことは言えない。


だが、私に一つの妙案が思いついた。


「ドラフ様、もし体を手に入れたら…私より強いんじゃないですか?」


私の言葉に無表情は崩れない。ただ、すぐに言葉を返してこなかった。もし、私がドラフより弱ければ私をあきらめてくれるはずだ。


「私なんかの中にいるから、私の体というドラフ様の力に耐えられない者の中にいるゆえに、ドラフ様の本当の力が抑え込まれたのかもしれませんよ?もし、ドラフ様が体を手に入れたら私は勝てない気がします」


お世辞でもなんでもない。私の体がリミッターになっている可能性は十分にある。もし、ドラフが自分の力を存分に振るえる体を手にすれば、私は勝てないと思う。


「お前は謙虚だな。少なくとも私の力を竜人族以外で扱ている時点で強者だ。何より、私はお前に抑え込まれたのだ。それは私の負けと言える。体は関係ない」


ダメだったか…。


「だが、体を作るというのは素晴らしい案だ欲。よし、お前が私の体を用意するまでは我慢しておいてやる。早めに用意するのだぞ」


あれ?結果的には解決ってことになるのかな?


「ではさらばだ。お前との手合わせ、楽しみにしている」


そう言うとドラフは白い空間から姿を消した。それと同時に私もその世界から現実へと引きも出されていった。





大変なことを約束してしまった。


だが、これが上手く行けば私は白銀竜の覇気から解放され、破壊衝動の恐怖に怯えることは無くなる。


今度こそ、色んなものに終止符を打てたのだ!


「おい、ジール、しっかりしろ!」


心配そうウィン様の顔が視界いっぱいに広がる。その凛々しい顔に思わず頬が赤くなってしまった。


「だ、大丈夫です!あ、ありがとうございます、ウィン様」


私は立ち上がると事の経緯をウィン様に話した。


「ハイムは今、セイを助手にして新たなお題を探していたから丁度いいかもしれないな」


お題って…そんな軽いノリで体作ってるのか、ハイムって。


「じゃあ、まずは天界の神やベラ様、イアランを探します」


結局リウスから仲間を探す魔法を教えてもらうことはできなかったが、エネミーサーチを少し変化させて仲間を探す…名付けてフレンドサーチでみんなの場所は特定できた。


これがすんなりできたのはもしかしたらリウスが私に残して…約束を果たしてくれたのかもしれない。


どうやらヴァーサに吹っ飛ばされた後、気を失っているのか全くその場から動かない。


もう少し詳しく見てみると、イアランとベラがすぐ近くにいて、その側にはホワイトウルフがいるようで、とりあえずは大丈夫のようだ。


天界の神の近くにはサルトがいるようで、こちらも大丈夫だろう。


クスは近くなので、歩いてクスの所に行ってみると、気絶していた。まあ、あれだけの戦闘に巻き込まれたのに気絶だけで済んだのはさすがかもしれない。


クスを回復してあげたいが今の私は魔力がほとんどないので回復魔法は使えない。悪いが放置させてもらうことにした。


魔力消費の少ないフレンドサーチやエネミーサーチは使えるものの、魔力はほとんど回復していない。それだけ白銀竜の覇気のコントロールは大変なんだと改めて感じた。


幸いエネミーサーチで敵が周囲にいないので問題は無さそうだ。


まあ、神々の集まるところに敵がいるなんてことはありえ…いや、神が敵になったのだから油断はできないかもしれないが、とりあえずは大丈夫だろう。


私はウィン様と共に、イアランの元へと勝利という手土産を持って向かうのであった。


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