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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第五章 流れに巻き込まれるジール編
70/80

六十九 お互いの切り札

いつの間にか私はいつもの白い空間に来ていた。


だが、リウスはいない。


いつもならここに来ると私の近くにいるのだが、今回はいない。嫌な予感がする。


「ねえ、リウス。ここに呼び出したってことは何か言いたいこと、あるんじゃないの?」


しばらく返事を待ったが返ってこない。


どうしてしまったのだろうか?


「ちょっと、用事ないなら…ヴァーサの話を聞きたいから帰してよ。私が…誰なのか教えてくれるみたいだしさ」


「あな…たは…」


ただ事ではない。リウスの声はするが、息も絶え絶えと言った感じで声に苦悶が感じられた。


「大丈夫、リウス!」


辺りを見回すも誰もいない。だが、声は続く。


「今…私は…竜神の力を…抑えてる…。でも…完全…じゃない…」


そう言えばリウス、私をサポートするって言ってた…。かなり無理をしているように思える。大丈夫なのだろうか?


「ごめ…んね。私…じゃあ…これが…限界。あなたが…精神的に…不安定な…理由は…竜神の…破壊衝動に…よるもの…でもある…のよ」


「違うよ、これはイアランが…イアランが死んじゃって」


「生きてる…わ。イアランは…生きて…いる…」


私の悲痛な声をさえぎり、リウスは私の予想外のことを言った。


イアランが…生きてる!?


私は必死でリウスの姿を探す。


「ホントなの!?どうしてわかるの!?」


私の問いに対して何かを言おうとしてリウスは息を呑み、再び話し始めた。


「だから…ヴァーサを…倒して…イアランの…元に…行きなさい…」


「どこにいるの、イアランは!?」


リウスには悪いがイアランの事で先ほど騙されている私は何か確証が欲しくて仕方が無かった。


「後で…仲間を見つける魔法を…教えるから…」


さすがリウスである。そんな魔法があることを私は知らなかった。だが、おかげで希望が持てた。


「ありがとう、リウス。それと…この状況で聞くことではないかもしれないけど…」


大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、私はリウスに聞いた。


「師匠が…私のお父さん…なの?」


返事は返ってこなかった。これは予想通りなとこもあった。


「ここまできたら、それくらいは答えて!どうせヴァーサが…あーそう言うことか。ヴァーサが私の素性を話してる間、ここに閉じ込めておく事で聞かせないようにしたいわけね…」


あえて意地悪く言ってはみたものの、やはり返事は返ってこなかった。


「リウス?」


少し不安になってきた。


リウスがこんなに出てこない事は今まで無かった。もしかすると…リウスの身に何かあったのかもしれない。


「でも…どうやってリウスのところに行けばいいんだろ?」


「来なくて…大丈夫…よ。一言あなたに…言いたいだけ…だから」


やっと聞こえた声は先ほどよりか細く、生命の心配すらしてしまう声であった。


私は必死に辺りを見回す。


「どこよ、リウス!」


いくら見渡しても白い空間ばかりで、人影は全く見えなかった。


「別に…誰の子とか…いいじゃない。あなたは…あなたなんだから…」


消えそうな声だが私のことを思いやる心は伝わる。


だが、それでも私の感情が声になった。


「ダメなのよ!私が信じてた人が…お母さんが…師匠が…誰も何も本当のことを教えてくれなかった!何でみんな本当のこと言ってくれないのよ!言えない理由があるの!ちゃんと説明して!」


リウスの優しさに甘えて自分の感情をぶつけてしまった。私…きっと最低だよね…。


あんなに苦しそうなリウスの声を聞いてるのに…。


リウスは私のために何かしてくれているだろうに…。


私は…自分のことを優先して感情をぶつけた。


「ごめんね…サリス…。みんなのワガママを…あなたに全て…背負わせて…」


今、リウスは私のことをサリスと呼んだ。


いや、私の心の中ならリウスが知っていても不思議ではないが、その名を呼ぶのはエルフの里の者かお母さんしかいなかった。


しかし、なぜ、今になってジールではなくサリスと呼んだのだろう。ますます私の頭に疑問が生まれてくる。


「あなたは…あなたの好きに生きて…。誰の子供とか…ではなくて、あなた自身のために…」


悩む私のことをお構いなしに…いや、もう気にしてる余裕はないのだろう。声が更に聞き取りにくくなってきた。


「最後の力で…竜神の力を抑え込むから…その間に…ヴァーサを倒しなさい。…でないと…あなたは竜神の力の暴走で…あなたが…死んでしまうから…」


強制的に白い空間から離脱させられそうになる。


その時、体が消えかけた顔色の悪いリウスが、まるで大津波のよつな銀色の波のようなものを魔力のようなもので抑えてる姿が見えた気がした。


あれが…白銀竜の覇気。


リウスが全て流れ出ないように抑制し、コントロールしてくれていたんだ…。


詳しい理屈はわからない。


だが、結局私は白銀竜の覇気を一人で扱えていないということだけは分かった。


そして、戻っていく私にリウスは優しく微笑みかけていたように見えた。


どこまでもあの人は、私のために尽くしてくれる。


まだまだ謎の多いリウスだけど…私はリウスを信じてるし、何よりリウスも助けたい。


だがどうすればいいのだろうか?


とりあえずヴァーサをぶっ倒してリウスが白銀竜の覇気を抑え込まなくていいようにするべきだろう。


意識が戻っていく。


気がつくとヴァーサが私を見てニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。


「全く動かないようだが…自分が何者か分かってショックか?まあそうだろうな。神がこんな言葉を言うのは依怙贔屓(えこひいき)かもしれないが…同情するよ、ジール」


ヴァーサの言葉なんか聞く必要はない!リウスが抑えてくれている間、コイツをぶっ倒さなくては!


「あなたの戯言に付き合う気はないわ!さっさと決着をつけさせてもらうわ!」


無駄口を叩くヴァーサの顔面に拳を当てる!


「なっ…」


拳が当たったっと同時だろうか?私の体に異変が起きた。


その場に…倒れ込んでしまった。


意識ははっきりとある。だが、力が全く入らない。


昔、師範と修行していたころに似たような感じを経験した。


その時は師範が薄い塩水を飲ませてもらい回復し、事なきを得た。


だが…これは明らかに違うだろう。


魔力切れだ。


初めての体験だ。


話には聞いていたが、こんな時に…。


私の魔力は師匠に言わせると測定すると普通のエルフの三倍以上あるらしい。なので、どんなに魔法を使っても魔力切れは無かった。


だが、これで分かったことがある。


私は無自覚に神の衣を使い、リウスが抑えた白銀竜の覇気と共に使っていたのだ。


それが、先ほどの強さの秘密だろう。


だが、当然魔力の消費は通常の比ではない。


それを続けていたのだ。


リウスが苦しんでるのを知らず、現実を受け入れず、無駄に戦いを長引かせ、魔力が尽きたのだ。自業自得である。


こうなると神の衣は使えない。


生命エネルギーはエルフの特性である長寿ゆえに潤沢に使える。


だが、魔力はすぐに回復しない。


「あれぇ?ジール様はお疲れになったのかなぁ?」


こういう時、敵が賢いのは厄介である。どうやら私の現状を把握したのだろう。倒れた私の目の前にしゃがんで顔を近付けてきた。


「お前はよく頑張ったよ。正直俺もダメかと思ったくらいだ。だがな」


ヴァーサはおもむろに右手で私の髪を掴み、私を持ち上げる。


「神はどんな時も絶対なんだよ。神が負ける運命は存在しないってことだ」


そう言うとヴァーサは左手で拳を作り私に見せた。


「良かったな。これで俺の力を、本来のお前の体で受けることができるわけだ」


ヤバい!今の状態でヴァーサの攻撃を受けたら…死ぬ!


「頑張って耐えてくれよ~。俺はお前の攻撃に何度も耐えたんだからな!」


痛みとは、激しすぎると瞬間的に何も感じないらしい。


だが、その一瞬はすぐに終わり、私の腹部に熱いものが広がり、私は吐血と共にぶっ飛ばされ地面を転がる。着地が悪く、腕が普通なら曲がらない方向に曲がっている。


「生きてるかい、ジール様?」


…生きている。咄嗟に生命エネルギーを解放し防御したので死は免れた。


だが、危機的状況は変わらない。


生命エネルギーのお陰で少しずつ回復はしているが焼け石に水。今、ヴァーサの攻撃を喰らえば…今度こそ終わる!


「大丈夫だよ、ジール様。せっかく俺を追い詰めた相手を一撃でなんか殺さないからね。ほら、これでいいかな?」


そう言ってヴァーサは私に触れると…傷を全て回復させた。


「何度も回復させてあげるよ。俺に屈辱を与えてくれたんだ。こから千年ほど遊ばしてもらおうか♪」


軽やかな口調と裏腹に、顔は下卑た笑みを浮かべて私を見ている。


どうすれば…どうすればいい!?


「そう言えば俺のことを踏みつけてくれたよね?同じこと、してあげよっか♪」


体が思うように動かない私の足にヴァーサの足が置かれる。


「さぁて、どんな声上げるのかなぁ?」


神を名乗る前に悪魔を名乗った方が似合ってるよ、ヴァーサ。


「…悪趣味ね」


「神は時にして残酷なものなのさ」


鈍い音と共に激痛が走る。


自分でも信じられない声をあげて叫んでしまった。


まるで、断末魔。


それを聞いて満足げなヴァーサ。


「いい声出すじゃないか。がんばれよ。まだまだ先は長いからね」


再び私に回復魔法をかけて足を治す。


「次はどこにしようかなぁ♪」


このままではダメなのは分かっている。だが、私には魔力がない。もう使える者が…。


いや、ある。


あるにはある。


あるにはあるのだが、それ相応のリスクもある。


「そう言えばジール様はまだ男性経験が無いようだけど…今度はそういう方向で苦痛を与えてみようかなぁ」


ありがとう、ヴァーサ。あなたのその一言は、私に決断させてくれる後押しになったよ。


「リウス…もう抑え込まなくていいわ。全部…解放して!」


私の搾るような声がリウスに届くと信じ呼びかける。


「まだ何かするのかい?楽しみだよ。魔力切れで何をするのか知らないけど…頑張ってほしいねぇ」


ヴァーサは神の耳…いや、地獄耳らしく、しっかり聞こえたようだ。


しかし、それが何を意味するかまでは分かってないようだ。


「リウス!このままだと私は…コイツのおもちゃなの!それなら可能性に…賭けさせて!」


勝算は…かなり低い…。


でも今は賭けるしかない。それ以外選択肢は無いのだ!


「人間の神で良かったよ。欲望を満たす喜びをどの神より感じることができるんだからね。俺は誰よりも人間らしいからさ」


優しさのカケラもない強さで私の胸を掴むヴァーサ。痛みと屈辱で思わず涙が出てしまった。


「リウス…お願いよ…」


「またリウスか?お前、卑怯なヤツだよな。普通一人分のエネルギーや魔力なのにお前は二人分有しているだもんな」


二人…分?


そう言えば肝心な所でリウスに呼び出された私はヴァーサの私の正体とやらを全く聞いてない。


二人分ということは、私はリウスから力を借りて今まで戦ってきたことをヴァーサは理解しているのだ。


「お前が白銀竜の覇気や神の衣を使えるのは変だと思ったんだ。お前は」


ヴァーサが何かを言おうとした時、私の体から銀色のオーラが吹き出してきた。


まるで、私を中心に暴風でも起きたかのように銀色のオーラが辺りに突風を巻き起こす!


「…白銀竜の覇気か。だが、今の俺には竜神が生きていたとしても勝てはしないぞ。その証拠に」


説明は途切れた。


問答無用の私の拳によって。


ヴァーサは倒れたことに一瞬気が付かず、天を仰いでいた。


しかし、我に帰ると立ち上がり、私を睨みつける、


「何だ、今のは?」


私は呼吸を整える。そして…地面を蹴り、ヴァーサに向かい弾丸のように跳躍する!


「うっさい!消えろ!」


かろうじてヴァーサが私の拳を両手で受け止める。だが、その手の形は変形し、骨が砕けたのが見て分かった。


「何をしたんだ!次から次へと小賢しいことするなよな!」


ヴァーサは身をひるがえし、私に上段蹴りを放つ。私はそれを受け止めて、その足を掴み、振り回してぶん投げた。


「今度は容赦しないからね!」


投げられたヴァーサは地面に叩きつけられると同時に直ぐ立ち上がると、追い討ちをしようとしている私に空間魔法を放ってきた。


今回はかろうじて避けてはいるものの、無傷とはいかなかった。


浅いが切り傷がいくつも体の至る所に付けられてしまった。


「クソ!やはり当たらないか!だが、さっきより何とかなるレベルだ!」


今度は無数の電撃が私を襲う。


その電撃を避けながらヴァーサとの距離を詰めていく。


「そっちこそ小賢しい魔法攻撃やめなさいよ!神なら拳で語りなさいよ!」


間合いに入ると私は体を縦回転させてヴァーサの右肩口にかかとを降らせた。


もの凄い空気を裂く音と共にヴァーサの肩が弾け飛んだ。


「クソ!クソ!クソ!何で少しずつ早くなってるんだよ!」


肩を押さえたヴァーサに着地した私は拳に全てのオーラを集める。


「拳技、奥義『かい』!」


即座に反応したヴァーサが左手で私の拳を受け止めた。


「残念ね。この技は…拳が触れたら勝ちなのよ!」


拳技奥義『壊』は自分のエネルギーを相手に送り込み、内部破壊する技だ。


つまり、避けられなければ相手にダメージをあたえるこもができる。


これで決まって欲しい。


先程まで使っていたの神の衣と白銀竜の覇気の組み合わせより今の白銀竜の覇気と生命エネルギーだけでは強さは劣る。


だが、ヴァーサを圧倒できている。


問題は…これ以上使えば、生命エネルギーがコントロールできなくなり暴走するか、白銀竜の覇気の破壊衝動で私の心が壊れてしまうかである。


もしくは…その両方。


だから勝負を急いだ。


この『壊』が効かないとなると、私には切り札がない。


頼むから…これで終わって!


「ぐぉ!何だこれば!?ガラダが…維持でびなび…」


ヴァーサの全身が波打ち、血しぶきを…いや、黒い霧のようなものが体から漏れ出している。


「まだ…おばりでばないど…」


崩れかけた口を必死に動かしてしゃべるヴァーサ。これは間違い無く効いている!


後はさっさと消えてくれれば終わりだ!


「…なんてな」


まるで時を戻すかのようにヴァーサが再生していく。間違い無く攻撃は効いていたはずだ。演技で肉体を崩壊させることなんて出来るわけが…。


いや、ある。


私は…いつの間にかやられたのだ!


「幻術…ね」


ここまで現実と見間違うほどしっかりした幻術は見たことがない。


残念だが、こんなヤツでもやはり神だ。


「まさか切り札を使わされるとは思っていなかったが…こんな技使えるとはね。喰らってたら即死だったよ、これは」


崩れゆくヴァーサの幻の下からヴァーサが現れる。あれが本物だろう。


「神の得意技が幻術とか姑息だろ?だから隠しておきたかったんだよね」


幻術とは実に嫌なものを使う。


以前リッツが使って私とルージュを苦しめたのも幻術。できたらもう幻術使いを相手にするのは避けたいところであった。


「魔力のあるお前なら幻術対処できるだろうが、今の魔力の尽きたお前にはどうにもできないからな」


目の前のヴァーサが二人になる。シンプルだが、確かに今の私は複数を攻撃できる術が今は無い。


片側を狙った時に狙ったのが本体なら問題無いが、もし違う場合は私が隙を見せることになる。


そうなれば本体からの一撃でやられないにしても、魔力の無い私の回復方法は生命エネルギーの自然回復のみなので何度も失敗できない。


何よりダメージ蓄積は攻撃と回避の両方に影響が出るので不利になっていく。


さて、どうしたものか…。


生命エネルギーを使い続けて戦うのも限界はある。


今、意識を保ちながら戦うのもやっとだ。


この生命エネルギーで白銀竜の覇気とバランスを保って今の強さが維持できている。


感覚的には90%くらいの放出。少しでも気を緩めれば理性が飛びそうである。


これまで少しずつ限界値を上げて戦ったのが良かったのか、まだコントロールできている。


だが、生命エネルギーを90%放出しながら白銀竜の覇気をコントロールしつつ、この厄介なヴァーサの幻術対処なんて無茶苦茶もいいところだ。


「んじゃ、楽しんでくれよ、ジール!」


二人のヴァーサが私に向かって攻撃をしてくる。


後衛のヴァーサが私に高速で水弾の雨を降らせ、前衛のヴァーサが私に近接戦を仕掛けてくる。


悔しいが上手い。


片方が幻術で作り出したものとはいえ、水弾も近接攻撃もダメージを感じる。


もしかしたら幻術だけで無く何か仕込んでいるかもしれない。


こういう場合、普通に考えれば近接戦を仕掛けているのが幻術で作り出された方だろう。


しかし、私の牽制攻撃もちゃんと当たっている感覚もある。


もし、魔法攻撃をしてる方が本体と思うなら、目の前にいるヤツを無視して突っ込むべきだが、そうでないなら…背後から前衛のヴァーサに狙われて致命的なダメージを負うことになってしまう。


かろうじて目の前にいるヴァーサに少しずつダメージを与えつつ、後衛のヴァーサの魔法が来ると後方に逃げつつ追いかけてくる前衛のヴァーサに対応していく。


時間があるならこの方法で魔力の回復を待って神の衣を発動させたら私の勝利は確実だ。


だが、そこまで生命エネルギーが尽きないか?白銀竜の覇気を抑えきれるか?不確定要素しかないので取れない作戦だ。


でも、このまま続ければ少しずつ削られて終わる。


せめて…誰か一人仲間がいると助かるのだが、天界の神もベラもアルビオもイアランもいない。クスは遠くに避難してこちらを見ているが、ヴァーサに逆らえない。


サルトは天界の神を探しに行ったのだろう、いつの間にかいなくなっていた。


リウスも先ほどの様子からすると白銀竜の覇気を抑えていた疲労で今は力が使えないだろうから助力は期待できない。


残念だが、自分の力で何とかするしかない。


「あれぇ?少し動き遅くなってきてない?攻撃が当たるようになってきたよ~」


まだまだヴァーサには余裕があるようで、前衛も後衛も動きは全く衰えることはない。だが、私は、少し白銀竜の覇気を抑える力が不安定な状態が出るようになってきた。


不安定になると、動きがワンテンポ遅くなる。


ザコ相手なら問題ないが、ヴァーサ相手には致命的だ。


考えつつ、前衛のヴァーサの攻撃を避けていると、不意に足が滑った。


足元に水が…水が土に含まれ、泥になり、地面がぬかるんでいたのだ。


雨も降ってない、誰も水をこぼしてない。これは…私はヴァーサの術中にはまっていたのだ。


「かかったな。さっきの水魔法はこの布石だったわけさ」


ヴァーサの拳が黒いオーラに包まれる!


「安心しろ。また回復して遊んでやるよ!」


この拳は…避けきれない!


思わず目を閉じる。


だが、私に拳が届くことはなく、目の前のヴァーサが…消えた。


「誰だ!この俺の腕を切り飛ばす愚か者は!」


右手の先が無くなって左手て押さえているヴァーサが真横を向いて叫んでいる。


私もその方向を見る。


「すまないな。状況を見てお前を切ることが適切な判断だと思ったのでな」


気が付くと涙が流れていた。嬉しさと感動でもう涙が止まらない。


こんなカッコイイ登場、卑怯でしょ。私、あなたに全てを捧げても構いません!


私は涙を必死に拭う。


立ち上がって二本の剣の一本をヴァーサに向けて睨みつける剣士に思わず両手を祈るように組み、声にならない声を漏らしていた。


「神よ。残念だが私は友のためにならお前にも刃を向けることは躊躇しない!我が名はウィン。ジールを守るために来た者だ!」


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