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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第五章 流れに巻き込まれるジール編
68/80

六十七 究極の力

優位に立てたのは最初だけであった。


ヴァーサ単体の戦闘能力はここにいる全ての者より高い。


その上、ここにいるのは神々。


普通のパーティーが強敵に挑むときは役割を決め、連携を取り、こちらのペースで戦う。


だが、誰かと協力などすることもないし、指示されることもない神が三人いても連携など生まれない。


個々に思うままのタイミングで動くので攻撃の効果は薄く、ヴァーサの力推しに負けてしまっていた。


とは言え私もイアランと組んだことしかないので、どう動けばいいのか分からない。


要はまとめ役がいないワガママパーティーなのである。


しかも最悪なのは、ヴァーサには結界があるのだろうか?どんな攻撃も軽微で終わってしまう。その上、ダメージを受けてもすぐに回復される。


神同士の戦いが安易に行われない理由も別の意味で分かった。


これはすぐに終わらない。お互い無駄な消耗戦を延々としたいとは思わないということだろう。


ベラも天界の神もアルビオも傷は回復している。


私も神の衣で回復している。


だが、それでもヴァーサに押される理由は、四対一でもヴァーサは空間魔法を使ってきていないのだ。


そう、切り札がある状態でこちらを全員相手にしつつ、笑みを浮かべてくる。


これは…戦いを楽しんでいる!?


「ねえ、もっと全力で来なよ。せっかく力を得ても、この戦いで勝てば全力を出す機会はもうないだろ?だから、この戦いは…楽しくやりたいんだよ」


ヴァーサの笑みには狂気が含まれているように感じた。このままでは、ヴァーサのおもちゃにされて…全滅だ。


だが、私が小声で連携をしようと言っても「小細工は無用!」や「我に合わせれば良い!」、「他の神々が合わせる気がなさそうだ」と全員一致で連携を拒否されたのである。


「単体攻撃が効いてないのは分かってるでしょ!」


私がいくら叫んでも聞く耳を持たない。私がどの神に攻撃を合わせようとしても、それが逆に他の神の邪魔になってしまう。


一体どうすればいいのだろうか…。


「悩む事はないよ、ジール。連携してもらうんじゃなくて、結果として連携ならいいんだよ」


ホント、この声の主は私に安心と知恵を与えてくれる頼れる男だ。


私の悩みを側から見て気がついたのだろう。


「イアラン、何かいい知恵でもあるの?」


期待を胸に私は聞いてみた。


「あるにはあるけど…ジール、怒らない?」


嫌な予感がした。私にそんなことを言うイアランの目が泳いでいる。


「…この際仕方ないわ。怒るも何もヴァーサ倒さなきゃ話にならないもんね」


そう、ヴァーサを倒さなければ怒るも何も私たちが殺される。もう手段を選んでいる場合ではないのだ。


「ジール、神の衣って生命エネルギーのコントロールできなくても付与できるの?」


イアランの体の答えは分からなかった。


私は生命エネルギーをコントロールできていたので、リウスから付与された時に使えても当たり前である。


だが、生命エネルギーをコントロールできない者に付与すると…どうなるのか全く分からない。


「大丈夫だよ。持続はできないから、ほんの数十秒程度しか効果無いけど…その数十秒が俺に必要なんだ。頼むよ、ジール」


イアランが知識豊富なのは知っているが、私の言葉にイアランは表情を曇らせた。


私もかなりの文献を読み漁り、エルフの歴史やエルフの戦闘術や魔法理論もかなり読み込んだ。


だが、神の衣についての内容は一度も見た事がない。


なのにイアランは何かを知っている。


一体どうして…。


「その…神の衣の力を分け与えるのに…その…俺が生命エネルギー使えないから…背中からギュッと抱きしめて、その力を俺に与えてほしいんだ」


そんな簡単な事で…?と思ったが、すぐに思考が切り替わる。


後ろから私がギュッと抱きしめる…。


気が付くと、私の顔が熱を帯び、鼓動が異様に早くなっていた。


「あ、あのね、手、そう、手じゃダメなの?」


慌てて私はイアランの手を握り神の衣のエネルギーをイアランに送った。


しかし、イアランの中にほんの一瞬留まったエネルギーは瞬きするほどの時間で霧散してしまった。


「だから、その、抱きしめて、少しの時間俺に定着するまで…そのままでいなきゃならないんだよ」


私は今、世界の危機より自分の恥ずかしさが優位に立ち、すぐに動く事ができないでいた。


「さ、さっき怒らないって…言ったよね?」


納得である。


そりゃあこの戦闘中に私に抱きしめてくれなんてお願い、普通なら「ふざけるな!」と怒られても当たり前である。


だから、イアランは先に私に怒らないようにと頼んだのだ。


「ま、まあ、仕方ないわ。それで上手くいかなかったら…ぶっ飛ばすからね!」


勢い任せにイアランの背に回ると、私はイアランを強く抱きしめて神の衣のエネルギーをイアランに送った。


「これが…神の衣の力なのか…」


驚くイアラン。しかし、すぐにイアランはそのままの姿勢で動かず、じっとしていた。


「イアラン?」


「ごめん。黙って」


珍しく私の言葉を遮って強めの声色の返答が来たので私は黙ってそのまま動かずにいた。


そして、数十秒過ぎるとイアランは「ありがとう」と私の肩に手を置き、立ち上がった。


「どういうこと?何がしたかったの?」


イアランの考えが分からず、問いただす。


「ジール、それに答える前に一つ聞いていいかな?」


何なのかと思ったが、イアランは私の耳元に小声で聞いてきた。


その内容は私の想像しなかったことであり、それができるかどうか分からない。


「あの神々を使って俺がジールの強力な一撃を与えるチャンス作るから、ジールはできるかどうか…て言うかできないとお手上げなんで、やってみてほしい」


お願いのような言い方だが、これができないと終わり。私に全てを賭けようとと言うのだ。


「無茶苦茶よね、ホント。まあ、それしか無いならやるしか無いけど…それってホントは、私が気がつくべきなんだよね…」


肩を落としてため息をつく私をイアランは優しく抱きしめてくれた。


「俺はジールを信じているから、失敗したときのことは考えてないし、それだけヴァーサを倒せる手段は多くない。そうなると…俺の女神様の勝利に賭けてみたくなるでしょ?」


いつもなら「少しは真面目にしなさい!」と言う所だが、抱きしめられたこの感覚は…記憶の体験で感じたエピオンがしていたものと似ていた。


温かくて、落ち着く。


「しょうがない。じゃあ、私もイアランの作戦に賭けてみるかな」


私はそっとイアランから離れ、お互いに見つめ合うと頷いた。


「ジールのお陰で神々の動きと癖が見えたよ。これで連携を取らせることができる。んじゃ、頼んだよ、ジール!」


そう言うとイアランはヴァーサと神々の戦いの場に向かって行った。


私はイアランを見送ると、両足を少し広げ、しっかりと立ち、目を閉じて呼吸を整えた。


「バランス…バランス…」


自分の中にあるエネルギーを感じてみる。


すると、急に視界が真っ白になり、あの見慣れた部屋に飛ばされた。


「ダメ!それはダメ!」


初めてかもしれない。リウスの慌てた声。少し上擦った焦る声。その声は私の意識をリウスに向けるには十分な理由であった。


「どういう事?」


今にも泣きそうな顔のリウスが私の肩に両手を置き、強い力で握ってくる。


「竜神の力、あなたも体験したでしょ!あれを神の衣と併用するなんて…それに、あなたの体が耐えられるか分からないのよ!誰もそんなことした事ないのよ!」


リウスの手にさらに力が入る。


「仮に併用できても、心がコントロールできないかもしれないのよ!この前の時も私も必死に竜神の力をコントロールしようとしてたのよ!でも…ダメだったのよ!」


感情の限界がきたのか、リウスの瞳から涙が溢れ出していた。


「お願いよ…そんな事しないで…もう二度とあなたを失いたくないのよ…」


とうとうリウスはその場に崩れ落ちてしまった。


だが、それよりも、今リウスは「二度とあなたを失いたくない」と言った。


そう「二度と」…だ。


「リウス、二度とって…どういうこと?」


私の言葉にハッとしたリウスは慌てて立ち上がり、涙を拭くと、首を横に振った。


「何でもないわ。感情が昂りすぎて言葉を間違えただけよ…」


間違えただけ?


普通の場所ならそれもあるだろう。


でも、ここは心の中。


言葉として伝わるものは…その人の心の声ではないだろうか?


いや、今はそれどころではない。現実世界ではみんなヴァーサと戦っている。


「でも、白銀竜の覇気を神の衣と共に使う以外、ヴァーサに決定的なダメージを与える方法がすぐには用意できない。それじゃあ遅いのよ…。それこそ、私も含めてみんな殺されるわ」


リウスは私の言葉に反論できずにうつむき、押し黙っている。


「それに…イアランは私に賭けてくれた。もし、リウスがエピオンからそうされたら…何とかしよう!と思うんじゃないの?」


エピオンという言葉にリウスは反応した。何かを私に言おうと口を動かそうとしたが、唇を閉じて私をじっと見つめてきた。


「私は死ぬつもりでやるわけじゃないわ。だって…死んだら…その…」


これで死んでしまったらせっかくイアランといい感じになってきて、これから…そう、一緒に色んなことしてみたい。


そう、大好きなイアランと…生きて行きたい。


「はぁ。恋する乙女は強し…か。まあ、そうなると止まらないよね」


リウスの顔に微笑みが浮かんだ。


「私もできる限りサポートするから、やってみなさい」


本当にリウスには甘えてばかりだ。


でも、惜しみなく助けてくれる。


まるで…。


「お母さんみたいだね、リウスは」


思った言葉を素直に言った。


ただ、時系列を考えたら直接の母親ということはあり得ない。もしかしたら先祖とかなのかもしれない。


どうして私の心の中にいるのか?未だ分からない。


けど、私はリウスの惜しみない助力を、かつて幼い頃に味わった優しさ…母親に感じた優しさと同じものを感じずにはいられなかった。


だが、リウスは私の言葉に両手で顔を覆い、泣き出した。何か私は言ってはならない事を…リウスの過去のトラウマにでも触れてしまったのだろうか?


「こんな私が母親みたいだなんて言わないで…。あなたには…あなたを育てたお母さんがいるでしょ。その方に失礼よ…」


リウスの覆った手の隙間から流れる涙。


私は何も言えず、その場に立ち尽くしていた。


だが、服の袖で涙を拭い、リウスは笑顔を作った。


目が真っ赤だ。私、今回はリウスを泣かせてばかりになっている…。


「ごめんなさい。これから命懸けで戦うあなたを前に取り乱しちゃって。さあ、早くヴァーサを倒してイアランと未来を楽しみなさい。その時は…夜に使える色んなこと、教えてあげるから」


…そう言えば、エピオン、リウスにやられてたっけ。


ったく、私に何教えようとしてるんだか。


ただ、まあ、その…興味が無いわけではない。


私もイアランとはいずれ…。


その時、そういう知識が…あると…いいのかなぁ…とか?まあ、その、ちょっとだけ、ちょっとだけ教えてもらうのもアリかな。


「…あまり、変なことじゃなければ…教えてもらう…かな」


「大丈夫よ♪ちょっとした事ばっかりだから♪」


私の頭に謝っていたエピオンの姿が浮かぶ。


リウスのちょっとは…危険かもしれない…。


「じゃあヴァーサぶっ倒してくるね!」


気合いを入れ直して私は拳を胸の前で固めてリウスに見せる。


「本当にダメだと思ったら…逃げていいんだからね」


気遣ってくれるリウスに笑顔を返すと、私の意識は現実へと戻って行った。


「さぁて、始めようか」


白銀竜の覇気は心の問題である。


生命エネルギーと白銀竜の覇気は同時に使えたが、開放度を上げたとき、私の心は破壊衝動に染められてしまっていた。


では神の衣を使って、それと白銀竜の覇気を合わせたらいいのだろうか?


それだとコントロールするのに時間がかかるだろう。神の衣をコントロールしつつ白銀竜の覇気のコントロールの調整となると神経も使うし…。


じゃあ逆に白銀竜の覇気を先に…いや、心が破壊衝動に支配されれば神の衣を使えない。


一体どうすれば…。


こうやって悩んでいる間にも神々とイアランが戦ってくれている。


…と言うか、イアラン、どうしてヴァーサと戦えるの?人間界のゴッドキラーだから、指輪の力で逆らえないはずでは…?


そう思ったときに不意にイアランの指を見た。


…指輪をしていた指が…無い!


「無茶苦茶じゃない…」


そんなこと一言もイアランは言わなかった。私に余計な心配をかけないように黙っていたのだろう。


私の胸に熱いものが込み上げてきた。


悠長にしている場合ではない。


指を切り捨てたということは、早く治療をしないと戻らなくなる可能性がある!


だが、下手なことをするわけにもいかない。失敗は出来ないのだ。


「一度やってみるか」


まずは神の衣を発動。これは慣れてきた。


そして、白銀竜の覇気を…白銀竜の覇気を…!


白銀竜の覇気の力に神の衣の力が押し負けている!このままでは神の衣を維持でいない!


「ま、まさか神の衣を使いながら白銀竜の覇気をコントロールするのがこんなに難しいなんて想像してなかった…」


思わず倒れそうになるのを気合で堪えた。


「こんな膨大な力…私の力でどうやって抑え込めばいいのよ…」


今やっていることは最初から無茶なのは分かっていた。神の力と神に匹敵する力を二つ合わせようとしているのだ。ただでさえ神の衣の維持も大変なのに白銀竜の覇気という暴れ馬を手なずけなくてはならないのだ。


「でも…早くしなきゃイアラン達が…殺される。ヴァーサが遊んでいるうちに倒さなきゃ…」


頭を抱えて悩んでいると私の前にベラがヴァーサに飛ばされたのか私の目の前に転がって来た!


「ベラ、大丈夫!?」


咄嗟のことでつい敬称を忘れて叫んでしまった。ベラは「気にしなくて良い」と倒れたまま私に言葉を返した。


「お前、何かしようとしておるのだろ?時間は稼ぐから早くしろ。まあ、そんなに長くは持たせられんだろうがな」


ベラはゆっくり立ち上がると即座に容赦ない電撃魔法の嵐をヴァーサに浴びせる。


「任せたぞ、ジール」


そう言うとベラはヴァーサの近くに飛んで行った。


正直空気の読めないワガママ神様だと思っていたが、どうやら神は神のようだ。


その証拠に天界の神やアルビオも私にヴァーサが来ないように一丸となって時間を稼いでくれている。


そこにイアランのダメージにはならないが、布石となる攻撃が加わる事によって、神々の攻撃のバランスが少し取れだした。


でも…どうしたら白銀竜の覇気と神の衣を同時にコントロールできるの!?空間魔法の時と同じで全く手がかりがない。


空間魔法の時はエピオンがヒントをくれたが、ここにはいない。


それに、誰もやったことない無茶苦茶をやろうとしてるのだ。普通の発想で扱える方法が見つかるわけない。


エピオンだったら何かヒントくれたりするのかな…。


エピオンの…ヒン…ト。


私の頭に何かが引っかかった。


何だ?何なんだ?何が引っかかってんだ?


頭をフル回転させる。


エピオン…空間魔法…神の衣…膨大なエネルギー…コントロールのやり方…。


頭の中でエピオンのある言葉が蘇った。


「そっか…ヴァーサ倒さないと先がないって忘れてたよ」


再び両足を肩幅に開き、大きく深呼吸をする。


「んじゃ、勝負よ、白銀竜の覇気!」


私は自分のありったけの魔力と生命エネルギーを放出した。


「100%出して…神の衣のエネルギーが白銀竜の覇気に並ぶなら…コントロールできるはず…」


最初の頃の神の衣の発動方法、それは感情に任せて100%の魔力と生命エネルギーを放出した。


逆に白銀竜の覇気は心を沈める事で覇気を使えたが、放出量を上げると破壊衝動が…心の闇の部分が感情となって私を支配した。


つまり、どちらも感情の昂りに反応している。


コントロールしやすい白銀竜の覇気は心穏やかである必要があるとするならば、コントロールが難しい最大値を引き出すには感情を昂らせて解放する…神の衣と同じ理屈だ!


私は白銀竜の覇気を解放してみた。


「…これ…キツイかも…」


まるで体の中を電撃が縦横無尽に駆け回るかのように痛みが走り、体のコントロールが難しくなる。


立ってるのがやっとだ…。


こんなものコントロールできるわけない…。意識すら飛んでしまいそうだ。


「選択…ミスったかな…」


足に力が入らなくなってきた。自然と体が崩れ落ちた。


「ごめん…イアラン…ちょっと…無理…みたい…」


痛みで手足すら動かせない。神の衣も白銀竜の覇気も消え、普通の私に戻った。


なんて無力なんだろ、私って。


やっぱり…神様と戦うなんてバカな発想をせず逃げたら良かったかなぁ…。


痛みが少しずつ消えていく。どうやら体が落ち着いてきたようだ。


だが、痛みが消え、回復しても私レベルでは神々の戦いの中では役立たずである。


諦めた私は涙を流して目を閉じた。


ごめん、ベラ


ごめん、アルビオ


ごめん、天界の神


ごめん…ごめんね…イアラン


不意にイアラン達の方から爆音が聞こえた。


目線をそちらに向けると、ヴァーサが魔法を使ったらしく、ヴァーサの目の前が煤けていた。


「みんな…は?」


誰の姿も無かった。


私は…何も守れなかった…。


信じてくれたイアランを守れなかった。


悔しいけど…悲しいけど…全て…終わったんだ。


全てがどうでも良くなった。


だが、その次の瞬間に誰であろう、私が一番信じられないものを見た。


無意識。


左拳でヴァーサの腹部をえぐるように殴りつけ、上空に吹っ飛ばした。


私が、である。


遠くに土煙を上げて落ちるヴァーサ。私は自分の拳を見て呆然としていた。


「…どういうことなの?」


瞬時に戻ってきたヴァーサが私に殴りかかってきた!


しかし、ヴァーサの繰り出す拳に私の拳がいつの間にか繰り出され、ヴァーサの拳に当たるとまるでガラスが落下したかのように砕け散った。


転げ回るヴァーサだが、自分でもよく分からない。


何でこうなるのか?


神の衣のオーラも白銀竜の覇気のオーラも生命エネルギーのオーラも出ていない。


普通の私。


でも、普通じゃない。


「ねえ、ヴァーサ、私、どうしたのかな?」


理解の追いつかない私は敵であるヴァーサに質問をした。


他の人に聞きたいが、ここにはもう、聞く相手はヴァーサしかいない。


他に聞く相手がいないのでヴァーサに聞いたに過ぎない。


「おい…おかしいだろ…。俺の体は魔力の多重結界で守られていて、そんな何もまとってない普通の拳が届くわけないだろ…」


どうやらヴァーサも私にも何が起きてる事が分からないみたいだ。


「そうなのよ。気が付いたらあなたをぶん殴ってたし、気が付いたら、あなたの拳を潰してたし」


そう、まるで他人事。だが、ヴァーサにしてみれば「無意識であしらえる相手なのよ、あなたは」と言われてるように聞こえたのかもしれない。


ヴァーサの表情にみるみる怒りが浮き上がって来た。


「いい加減にしろよ…。お前は一体何者なんだよ…」


「私が聞きたいけど…誰か答えてくれないかな?神様に分からないことだから誰にも答えることはできないのかな?」


方や切羽詰まっていて恐怖している。方やまるで知人に今晩の献立をどうするかくらいの穏やかな口調。


私は本当にどうしてしまったのだろうか?


そんな悩みは、私の視界に入ってきた黒く煤けた地面がかき消し、急に現実が私の思考を支配した。


「あなたを倒しても…もう意味はない。私は…みんなを助けられなかったんだよね…」


私の目から涙が溢れ、後悔が私の心に広がる。


「だから…お前も消えてしまえ!」


私の胸元に空間の亀裂が入る。私を空間事斬り裂くつもりだ。


だが、私は気付けばヴァーサの左頬に有無を言わさない拳を叩き込んでいた。


殴られたヴァーサは人形のように無造作にぶっ飛ばされると、顔面から地面に叩きつけられ、そのまま地面に顔をこすりながら数十メートル滑るように飛んでいくとやっと止まった。


「いい加減にしろ、このクソエルフ!」


ヴァーサはすぐに体制を整え、今度は無数の火球の雨を私に向けて放った。


これはマズイ!と思って目を閉じる。


目を閉じたのは一瞬だった。


だが、またもや私はヴァーサの、今度は右頬に私の左足の甲がめり込んで再びぶっ飛ばされた。


「…どういう…こと?」


先程からおかしい。


私は何かをしているわけではない。


だが、いつの間にか私は攻撃をしており、ヴァーサを圧倒している。


しかも、私は何か特別な力を使っている感覚はまるで無い。


「何…これ?」


まるで自分が自分でないように思えた。


だが、これなら勝てるだろう。


ただ、この力に目覚めたのが少し遅かった。


今、ヴァーサを倒しても意味がない。もう私が助けたかった相手は…ここにいない。


ただ、そうだとしてもヴァーサをこのまま放置することはできない。


謎の力に疑問もあったが、今はヴァーサを倒すことに集中した。


そうしなければ、犠牲になった者たちに顔向けできない。


この世の全ての悪の根源を私であるかのよう、私を睨みつけるヴァーサの前に、ゆっくりと、そして悠然と歩み寄ると私はため息をつきヴァーサに告げた。


ゆっくりと、はっきりと、ヴァーサに己のこれからの運命を告げた。


「もう、この戦いに意味はないけど…あなたは私がこの手で…消してあげる」


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