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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第五章 流れに巻き込まれるジール編
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六十三 全ての根源

目の前には人間界の神がいる。


神とは決して届かない、はるか遠い存在だと思っていた。


そんな神が今、私を警戒している。


この戦い…まともな感覚の持ち主なら受けるべきではない。


神に拳を振り上げるとか普通の精神の持ち主ではないし、とてつもない力を持つ神に挑むこと自体考えてはならないだろう。


だが、私は人間界の神と共に残り二人の神が座る円卓から離れて人間界の神と向かい合った。


「どう言う理由であれ決闘だ。礼儀として名乗ってくかな。我が名はヴァーサ。お前を倒す者だ」


言い終わると同時に右手に細身の剣を召喚した。形状からしてレイピアだろう。突くことに特化した鋭く、細い…そして美しい剣である。


「これは俺の血を剣に変えたものだ。名称はブレイク。貫けないものは無い。久々の戦いだから少し楽しいよ」


不敵に笑うヴァーサに私は…笑みが溢れてしまった。


「余裕そうだね。クスを圧倒的な実力で倒したそうだが、単体ではクスですら神には届かない。なのにジールは笑うんだよね。恐いね〜」


普通に生きていれば神と戦うなんてことはない。


でも、今、その普通じゃないことを私は体験しようとしている。


これが、最初で最後かもしれないけど。


「行くよ、ジール」


先に動いたのはヴァーサだった。


剣はまるで光の矢のように走り、私の肩を呆気なく貫いた。


剣の軌道は見えたものの、反応できる速度ではない。


しかも、生命エネルギーを放出していたにも関わらず、無効化した上で刺されたかのように肩に激痛が走った。


「この程度…じゃないよね?まさかワザと様子見で喰らったのかな?」


残念だが私はそんなに器用ではない。慌てて回復魔法で肩の傷を治し、黄色のオーラを出そうと必死に念じてみる。


しかし、全く出る気配はない。


「んじゃ、次はここかな!」


またもや光の軌道を描き、剣が私の足に突き立つ!こんなのとてもじゃないが追いつけない!


「ねぇ、やる気あるの?それとも…バカにしてるのかい?」


剣を引き抜きヴァーサは間合いを取り直した。


話にならない。


生命エネルギーの力で少しは抵抗できるかと思いきや自分の体が鉛のように反応が遅く感じる。


少しだけだが動きは見えているのだ。


だが、それに体が付いていかない。


何より、あの黄色のオーラを出そうずっと試みているのだが、全く現れない。このままでは…殺される!


そう思った瞬間、目の前にヴァーサが現れて剣を私の左肩に突き刺した。


今回の動きは…全く見えなかった。


「こっちが少し本気出した方がやる気出すかと思ったけど…違うのかな?ねぇ、クス、ホントにこの程度に負けたの?もしかして、このおっきな胸に見惚れてやられたんじゃないの?」


そう言うとヴァーサはドアのノックをするみたいに私の胸をポンポン拳で弾いた。


クスが必死に「ち、違います!」と言い訳していたが、ヴァーサは「じゃあ何でこんなに弱いヤツに負けたのさ」とため息混じりにクスを見ていた。


「その…何と言いますか、もっと全身淡い黄色い闘気が出ているような感じでした。そんな桃色ではなかったと。私の使う闘気とは違う種類のものだと思われますが…」


クスが全てを言い終わる前にヴァーサが私の方に顔を向けた。


だが、その顔に神という威厳は無く、憎悪に満ちた悪鬼のような顔をしていた。


「黄色…だと!?黄色の闘気をまとうエルフ…まさか貴様、エピオンの血族か!」


ヴァーサはいきなり私の口を塞ぐように片手で私の顔を掴むと、顔を寄せて来て「なぜだ」と連呼し始めた。


「アイツは死んだ…血族も消した…なのになぜまた現れた!」


そのまま押し倒されるとヴァーサは私の顔に憎悪をぶつけるかのように睨みをつけてきた。


「あれはあってはならない!あれはあってはならない!あれはあってはならない!」


私の顔を掴んだまま、持ち上げ、地面に叩きつけた。その衝撃で意識が揺らぐ。


「よさぬか、人間界の神。それ以外やれば本当に死ぬぞ」


ベラの声がヴァーサの行為を止めようとしたが、ヴァーサはお構い無しに私の頭をまた、叩きつけた。


意識が遠のいていく。


そっか、私はここで殺されるんだ…。


と、そんな事を考えていた次の瞬間、ヴァーサは鈍い音と共にどこかに消えた。


「何をする、クソジジイ!」


「神が理由も無く自らの手で命を奪うなどあってはならん!」


私はまだはっきりしない意識の中、視界に大男が視界に入っていた。


どうやら私は天界の神に助けられたようだ。


だが、安心はできない。


「理由も無く」と天界の神は言ったのだ。


つまり、「理由があるのなら」命を奪っても良いとも取れる。


だが、相当頭を打ち付けられたので体が思うように動かない。


「大丈夫か?」


天界の神は私に治癒魔法をかけてくれた。みるみるうちに意識がはっきりしてくる。


「おい!クソジジイ!そいつは今殺さないと後悔するぞ!エピオンも神の衣を使った時は俺も危なかったんだ!それを使えるジールをここで殺さないと…殺されるのは俺たちだぞ!」


怒鳴り散らすヴァーサだが、天界の神はその場を動かず、ヴァーサを睨みつけていた。


「その話、私は聞いた事なかったぞ。どう言う事か説明してもらおうか」


そんな天界の神の態度が気に食わないのか、ヴァーサは立ち上がると天界の神を睨みつけた。


「人間界の事だ。お前が知らなくても問題ない」


二人は互いを睨み合い動かない。


私もその話は気になるところだが、ヴァーサが話してくれないなら誰にも知られる事はないだろう。


だが、ヴァーサの隠した事を私は知らなくてはならない。本能でそう感じた。


「邪神、お前ものんびりしていていいのか!お前も知らずに連れて来たかもしれないが、殺すなら今だぞ!コイツが神の衣を自在に扱えるようになれば…神に匹敵するぞ!」


ヴァーサの言葉にベラは眉を少し動かしただけで、動くことは無かった。


ベラの冷静な態度がヴァーサの感情を逆撫でた。


「何のためにオジオンがエルフ国滅ぼすのを手助けしたり、エルフからの魔法石の作り方を教えエルフ狩りやらせたりしてると思ってるんだ!魔界だろうが天界だろうが複数の神の衣を使える者が現れたら、お前らもやられるんだぞ!」


ヴァーサの言葉に私は「えっ!?」という言葉が漏れた。


つまり…。


エルフの国が滅びたのも…。


私の村が滅びたのも…。


お母さんが連れ去られたのも…。


リックが私のために命を失ったのも…。


イアランのようなハーフエルフが不幸なのも…。


「全部…ヴァーサが…原因なの?」


思わず奥歯を噛み締める。拳に力が入る。体に震えが起こる。


「そうとも言えるかな。だが、俺は全てきっかけを与えただけで、後は人間がやったこと。人間は実に欲望に忠実で恐ろしい存在だよ」


ヴァーサの笑い声が静かな草原に響く。


普通なら、こういう時は絶望に打ち震えて、へたり込んで、涙を流すのかもしれない。


そして、自分の運命を嘆き、涙が枯れるまで泣くだろう。


でも、私は違った。


「そっか…ありがとう、ヴァーサ」


「は?何?感謝ってどういう事?とうとう真実を知って頭がおかしく」


言葉の途中でヴァーサは地面を何度か跳ね、地面に伏した。


一体何が起きたのか分からないヴァーサは体を起こすと「へ!?」と気の抜けたような声を出す。


そして、遅れて痛みを感じたのだろう。ヴァーサは自分の右頬をゆっくりと触る。


「ど…どういうことだ?今…何が」


顔を上げて辺りを見渡そうとするヴァーサの視界はきっと私しか見えていなかっただろう。


素早く間合いを詰めた私の足がヴァーサの眼前に迫っていた。


「足技『旋風!』」


不意をつかれたとは言えさすがは神。私の足技を受け止めると、すぐに後ろに飛び退き間合いをとった。


「やはり…神の衣か」


私の黄色のオーラを見てヴァーサが憎々しげに言う。


それで、このオーラの正体は分かったのだが、謎が残る。


どうして私がこれを使えるか?だ。


私が、と言うよりアルファなのかもしれないが、そうなるとアルファが何者なのかも分からない。


私…普通のエルフ…だよね?


じゃあ私が何でこんなもの使えるの?


頭の中を疑問が駆け巡る。


「ボーッとしてんじゃねぇ!」


ヴァーサのレイピアが私を狙ってくるものの、手刀でそれを弾くと、お返しに拳をレイピアを持った腕に叩き込んだ。


腕がおかしな方向に曲がった!


「くっそそそそぉぉぉぉー!」


ヴァーサは即座に治癒魔法で腕を治すと再びレイピアで私を攻撃して来た。


だが、激情しているゆえに動きが単調。容易くあしらえる。


「これだ…この上から見下されたような感覚…その上…何でここまで差が出るんだよ!」


軌道の残像が残るほど早いレイピアだが…体はその速さと攻撃位置を正確に理解していた。


左肩、右足、そして払って胸。まるでヴァーサの動きが先に見えるかのように頭へ伝えられる。


その瞬間体が動くだけでは無く、体の動きについていけてないドレスの裾にも気が回る。


裾が破れないように、そこまで計算して避けれている。まるで舞うように。


その避けた合間に何発かの拳を叩き込む!


躊躇は無かった。


どんなに顔面から血をながしていようが、感情任せに叫ばれ様が、私の心には一つの感情しかない。


絶対に許さないという怒り。


「エルフは…村の人は…リックは…あなたの身勝手な理由で苦しめられたり、殺されたりした!あなたがそんなことしなければ…今頃みんなは!」


容赦ない拳がヴァーサを打ちのめす。それでも私は緩めない!


「フランメ・フィスト!!」


両の拳を真っ赤に染めて、更に私の怒りを具現化したような真っ赤な炎の拳を叩き込む!


もう顔の原型が分からないくらいに殴らているのにヴァーサは立ち上がり攻撃を仕掛けてくる。神としての意地なのだろうか?


「俺は神なんだ!エルフごときに後れを取るなどあってはならない!!」


だが、ヴァーサの攻撃は私にかわされ、弾かれ、お返しに私からのカウンターを喰らってしまう。


普通なら神相手に「己の罪を悔いればいい」と思うのはおこがましいだろうが、私はヴァーサに同情を全くすることはなかった。


それだけのことを…この神を名乗る外道はやっているのだ。


「許さない…もう許さないからな…」


そう言うと両足でしっかりと地面を踏みしめ、私に殺意ある視線を飛ばしながら、ヴァーサは何やら魔法の詠唱を始めた。


「愚か者!神として自制を失う真似をするな!神でいられなくなるぞ!」


いきなり天界の神がヴァーサを止めようとヴァーサに突っ込んでいく。


しかし、一歩及ばず、ヴァーサは結界のようなものを展開し、天界の神を弾いてしまった。


「ジール…神に恥をかかせた罪、お前の命程度が失われても償えないからな!」


ヴァーサの獣じみた声が辺りに響く。


その様子をサルトとクスは見ているだけしかできなかった。ゴッドキラーですら動けないほどの威圧感が周囲を覆いつくす。


「ジール、もう良い。ここは我と天界の神で抑えよう。お前も下がっておれ。あれは…もう神ではない。滅びを呼ぶ獣…壊獣(かいじゅう)。世界の再生を行う時に我ら神が使う力だ」


さすがのベラも声に余裕がない。つまり、ヴァーサの切り札なのだろう。


杖を召喚するベラ。長い槍を召喚する天界の神。


辺りが重く、息苦しい空気に包まれた。


空は先程の穏やかな天気は厚い雲に覆われて、わずかな陽の光すら地上に届かなくなっていた。


「さぁ、続けようか、ジール」


端的に表すなら頭のてっぺんから足先まで真っ黒なヴァーサ。


ヴァーサにの全身に黒い絵の具で染め上げたような姿に変貌した。


体格や武器に変化は無いが、威圧感は先程の比ではない。


側に居たベラの顔が険しくなる。初めて見る顔だ。


天界の神もヴァーサを鬼のような形相で睨みつけている。


だが、もっと驚いた事がある。


私は…この状況でも恐く無いのだ。


神々が恐れ慄いているこの状況で私は怒りこそあるものの、ヴァーサを脅威とは思っていないのだ。


もしかしたら、ヴァーサの強さが私には感じられないほど強いゆえに私には分かってないのかもしれない。


そうだとしたら、それはそれで気が楽なので助かる。


何にせよ…あれは私が倒さなくてはダメだ!自分のために…あいつに苦しめられたみんなのために!


「良かった。あんなもんじゃあ…あなたに苦しめられて死んでいった、今も苦しんでいる者の恨みや苦しみは晴れないもんね」


せっかくのベラが忠告してくれたが、私はゆっくりとヴァーサの前に歩み寄った。後ろでベラと天界の神が何か言っているけど…今はどうでもいい。


同胞を苦しめたコイツだけは…きっちりエルフの私が潰す!


「バカなのか?この姿の俺に不用意に近づくなど」


同じ光景をさっき見た。


ヴァーサが地面に叩きつけられて跳ね飛んでいく。


飛んでいく瞬間に口から黒い何かを吐きだしたがお構いなしだ。


「…お前は何者だ、ジール」


天界の神の声が神らしからぬ細い声で私に…いや独り言だろう、呟くように口から言葉が漏れていた。


「ふ、ふ、ふ、ふざけるな!この体になぜ触れることができる!?この体は高濃度の魔力障壁が包み込んでいて、普通の者は触る事すらできないんだぞ!」


「さあ?どうしてなのかは分からないけど…ヴァーサ、あなた…大したことないんじゃない?」


時間が止まった。


誰もが私の言葉に耳を疑ったのだろう。見渡せば誰もが同じ顔をしてポカンと口が半開きになっている。


「…ジール、お前はどういう状況か分かっておるのか?」


もはや呆れていると言わんばかりのベラの声で時が流れだした。


「分かってる。ヴァーサは…絶対に倒さないといけない敵ってことくらいわね」


落ち着いた私の言葉はヴァーサの怒りに火を付けた。低く、威圧感のある「何だって?」と言う言葉が辺りに響き渡る。


「聞こえないならもう一度言うわ。ヴァーサ、あなたはたいした事、ないんじゃないの?」


今度ははっきりと、誰もが聞こえるように言ってやった。するとヴァーサはワナワナと震えだした。


「貴様…神を愚弄するか!」


咆哮と共に黒い稲妻が辺りに見境なく飛び散る。その稲妻が通った後は焦げが残るどころか、まるでその場が削り取られたように消えている。


「本当に世界を消す事ができそうな力ね」


私は腰を落として身構える。


「やめるんだ、ジール。あれは生身で相手をしてはならぬ」


天界の神すら私を止めようと真剣な顔付きで私に忠告をしてきた。


「せっかくの忠告ありがたいけど…例え神様の言葉でも、私はヴァーサを許す気はないわ」


いい終わると同時に私は地面を蹴り、弾丸のように飛びだすとヴァーサの後ろに回り込んだ。


「拳技『大筒』!」


背後からの拳はヴァーサの背中のど真ん中にヒットして再びヴァーサが地面を跳ねることとなった。


「…なぜ壊獣相手に打撃が当てられるのだ」


もはや驚きのあまり、天界の神は自分の思考が言葉に出ている事にすら気が付いてないなようである。


ごめんなさい、私にもわかりません…。


仮説はあるが、確証は無い。


このオーラは魔力を打ち消す、このオーラは壊獣と同じ性質ゆえに無効、壊獣の魔力以上の魔力で攻撃している…などなど思い浮かぶが、正解へと繋がるものは何も見つけていない。


私だってこの力を疑問に思っている。


神の衣…エピオン王の血族が使える…神をも凌ぐ力…てことは…私はエピオン王の血族なのだろうか?


だが、それだけならアルファの存在は?この力はアルファがくれたもの。アルファは何者なの?


次々に湧き出る疑問は目の前の敵の脅威よりも私の心に大きく影を落とす。


バチン!


目の前で黒い稲妻が弾かれた。いつの間にか私の意識は現実から離れていたようだ。


そんな私を魔法障壁が守ってくれた。


「ジール、余裕を見せるのは良いが慢心の元になるのなら、二度とふざけた態度を取るでない!」


どうやらベラが助けてくれたようだ。私はベラに軽く頷くと再びヴァーサに向き直ると拳に力を込めた。


「ねえ、私があなたを倒したら…この神の衣について教えてよ」


「倒せたら?バカなのか?俺が負けるなんてあり得ないんだよ!」


怒りにより声が震えているヴァーサ。今度は両手を広げて魔力を込める。するとヴァーサいる所から放射状に地面から黒いレイピアが数十本も召喚された。


「刃の雨は気持ちいいぞ…全てを串刺しにしてくれるからなぁ!」


ヴァーサの手が振り下ろされると同時に、私とベラに召喚されたレイピアが降り注いだ!


「槍の舞、其の一、電光回槍!」


私の目の前を光の筋が縦横無尽に走った。


その直後、私とベラに向けられたレイピアの雨は全て叩き落とされ、光の筋が止まった所に天界の神が槍をくるりと回して仁王立ちしていた。


「もうやめるのだ、人間界の神。いくら壊獣でも二神が相手なら楽には勝てないぞ」


天界の神の言葉は残念だがヴァーサの怒りを増すだけであった。


再び咆哮を上げ、ヴァーサは天界の神に向かいレイピアを持ち襲いかかってきた。


「じゃあ楽したいから、テメェがくたばってくれよ!」


天界の神の槍とヴァーサのレイピアが激しくぶつかり合う!金属の澄んだ音がこの戦闘に似つかわしくないくらいキレイな響きを残す。


その二人の間に炎の弾丸が何発も降り注ぐ。ベラの魔法である。


「そんなもの効くか!」


防御もせずそのまま喰らうヴァーサの横っ腹に私の燃えた拳がまともに入り、ヴァーサが「ぐはっ!」と口から黒いものを吐きながら吹っ飛んでいく。


「すまない、ジール。正直一対一だと押されてしまうが、お前と邪神のフォローがあれば勝てない敵ではないな」


わずかに笑みを浮かべる天界の神だが、油断はしていない。すぐにヴァーサに向き直り槍を構える。


「おいおい…神様が三対一で俺をいじめるのかよ。まあ、ジール以外は想定内だけどな」


震える足でやっと立ち上がるヴァーサ。先ほどの私の拳がかなり効いているようだ。殴られた場所を押さえながら息も絶え絶えにゆっくりと私たちに近付いてくる。


「なあ、ジール。俺の最後の優しさだ。俺の方に付け。そうしないと…後悔することになるぞ」


唐突に何を言っているのだろうか?私がヴァーサ側に付く意味が分からない。あと少しで倒せる相手側に付くなど…エルフを苦しめた者の味方をする理由が微塵も見つからない。


「あなたにはどんな言葉をかけられても惹かれないわ。大人しくやられなさい!」


拳の炎を更に熱くする。次こそ決める!


「じゃあ…そいつは楽しみだ!」


ヴァーサは魔方陣を自分の前に展開した。あの位置なら何かを召喚するつもりなのだろうか?


「ジール、お前は知らないかもしれないが…各界の神は自分の身に危険が及んだ時に使える召喚魔法があるんだよ」


ヴァーサの言葉を聞き、ベラが「ジール、早く倒せ!」と短く叫んだ。


私はこの時、選択肢を間違えたと後に知る。


つい、反射的にベラを見てしまった。


その一瞬であった。


ヴァーサは召喚した者の頭を掴み、下卑た笑いを高らかにする。


「お前は…人間界の神…か!?」


頭を掴まれている者がヴァーサを見て驚きの声が漏れていた。呼び出された姿は…よく知る者だった。


「各界の神はな、自分の配下のゴッドキラーをこうやって召喚できるんだよ。ジールもう一度聞こうか。私の側に付け。…あぁ、そっか。『あなたにはどんな言葉をかけられても惹かれないわ』って言ってたっけ。ほんと残念だったなぁ」


私は拳を緩めてしまった。


「…イアランを…イアランを返しなさいよ…」


そう、ヴァーサに頭を掴まれ持ち上げられているのは誰であろうイアランである。このままではイアランが…殺される…。


「じゃあ、そこにいる邪神か天界の神、どちらか片方でいから…消せよ」


思わず私は二人を見る。目が合うも、どうしたら良いか分からない。


「さて、ここから仕切り直しと行こうか。優しいジールはきっとイアランを助けるために動いてくれるだろうからねぇ」


どうすればいいのだろうか?


ヴァーサに従えばイアランを助けられるかもしれないが、ベラか天界の神を倒さなくてはならない。そうなればヴァーサは私が手出しできない状況では残りのどちらかを倒すのは容易になるだろう。


もし、戦いを続行したらイアランが…殺される。もしイアランを殺しても次はティゴを召喚するだろう。イアランを最初に召喚したのは、イアランを殺しても次がある上に、私に対して効果は絶大だ。


私は答えを見つけ出せないまま、焦燥と鼓動の高まりが私の感覚を支配してしまった。


どうしよう…。


その言葉がただ一つ、私の心を支配し、動けず、ただイアランを見つめることしかできない…。


答えが出ない迷いの中、私はただ、肩で息をしながら、その場に立っていることしかできないでいた。


祝!ユニーク人数1000人突破!


本当に読んでくれているあなたに感謝です!


これからも読んでくれているあなたの大事な時間が楽しいひと時になるように物語を作っていきますので応援よろしくお願いいたします!

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