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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第一章 クアンタ護衛編
6/80

五 その時最善だったとしても

解放を15%にする。


私は濃く、そして美しく光る桃色の生命エネルギーに包まれている。


高揚感は先ほどの比ではなく、呼吸は荒くなり、早くドラゴンと戦いたいとヨダレがあふれて、笑顔がこぼれて、嬉しくて、このままずっと続けばいいのにと思ってしまう。


「がんばってね、ドラゴンちゃん♡」


今度は跳躍して距離を縮めたりはしない。歩いてゆっくり近づく。


そしてドラゴンの間合いに入った。


ドラゴンは先ほどより早く右前足を振り下ろしてくる。


「そうそう、イイカンジ♪」


振り下ろされた前足を私は左手一本で微動だもせず止めて見せた。


「あぁ、こんなにも強くなれるんだ♪ほら、ドラゴンちゃん、もっと早く、強く、私にアタックしてきて♡」


軽く止めた前足を払いのけると私は更に間合いを詰める。


ドラゴンはわずかだが後ろに下がった。それを見て私には不満が生まれてきた。


「あなた、何で下がったの!?それじゃあ攻撃の時強い力で踏み込めないじゃない!お願いだからもっと…もっと…もっと強い攻撃してきてよ…」


私は半分泣きそうになった。なんでこのドラゴンは私のカイカンを削ぐことをするのだろうか?なんでそんなに楽しい時間を終わらせようとするのだろうか?


「私から積極的に攻めた方がいいの?だったら私から行くけどいい?」


ドラゴンは先ほどから動かなくなっていた。それでは何のためにここまで生命エネルギーを解放したのか分からない。


「じゃあ…行くよ!」


自分でもわかる。ドラゴンの左に回り込む速度が異常に速い。でもしっかり体がコントロールできる。


そのまま跳躍してドラゴンの頬まで飛び上がり拳を構える。


驚くことにドラゴンはこちらに全く反応できてない。それだけ早いということだろう。


私はただ拳を頬に向けて放つ。


するとドラゴンは吹っ飛ばされて白目をむいている。


何より驚いたのは…キモチヨクナイ…


「何で!?こんなに強くなって、ちゃんと攻撃したのにさっきの感じが全くしないじゃない!!」


私は動揺した。


こんなの計算外。


先ほどの気持ち良さ、快感は無い。


「どうしてよ…何でなのよ!!」


途方に暮れている私に後ろから声がした。


「ジール、これは一体!?」


振り返ると師匠と師範がいた。おそらくここで起きたことを把握したのだろう。転送魔法で帰ってきたようだ。


「ジール、その色は…それにその瞳…」


師範は驚いているようだ。だが、師範の声を聞いて私の心に一つの思いが湧き出てきた。


(もしかして…強い相手だと…気持ちよくなるのかな?)


思いが体に駆け巡り、生命エネルギーが輝きだす。


「師範、今から急にで悪いですけど…私と組手してくれませんか?♡」


思わず舌で口周りを舐めた。


「何言ってるんだジール!?お前大丈夫なの…」


師範が言葉を終える前に顔面を殴り吹っ飛ばす。師範は少し後ろに下がったものの体制をすぐに立て直した。


きたきたきたぁ!!キモチイイ♡


「オーキス!無事か!?」


師匠の声が珍しく焦っている。それだけ師範は殴られることなく勝ってきたのかもしれない。


「これはここで止めなきゃヤバそうだな。しかもちょっと真面目にしなきゃ万が一もありうるな」


師範の言葉で私の高揚が復活してきた。やはり強い相手でないとこの感覚は味わえないようだ。


「あぁ、師範が来てくれて良かった♪私、とっても困ってたから…すごく嬉しい♡」


私は言い終わると同時に師範に向かい走り出していた。加速して蹴りを放つ。


師範はそれを何なく受け止め私の足を掴むと即座に体制を崩してる私に蹴りを返す。私は何とかブロックする。


やはり…キモチイイ♡


「お、おい、何をニヤついてるんだよ!気持ち悪ぃな…」


師範、それは仕方ないよ。だってさっきよりも気持ち良くて高揚して今にも意識が飛びそうなくらいにカイカンが体を走り抜けてる以上、顔に出ないわけがない。


「もっと…もっと…もっとやろうよ、師範♡」


掴まれた足を振り解き、私はくるりと体を回し、次の技に入る。


「足技 『山彦』」


最初の上段蹴りを振り抜き、着地させると、また片方でもう一度上段蹴りの時間差攻撃。


いつもなら師範にあしらわれていたが、今日は対応が違った。師範は真剣に最初の蹴りを弾き、遅れて来る蹴りをしっかりガードした。


マスマスキモチイイ♡


「ここまで凄くなるのか…で、今何%解放してるんだ?」


至って冷静な師範。それに対して高揚がさらに加速する私。


「15%♪まだまだ上げたい気分かな♪」


私の言葉を聞いた師範はため息を吐いた。


「いいか、次に俺が攻撃したら間違いなくお前は酷い目に合う。元に戻るなら今だぞ」


そんなこと言われたら…私はますます気分が高まり、更に解放したくなってくる。


「師範、早く次の攻撃してきて!私ちゃんと受け止めるから♡」


エサに飢えた犬。私はまさにそんな気分である。きっと尻尾があるなら大きく振っているだろう。早く師範からの攻撃を受けてみたくてたまらない。


「んじゃ、行くぞ!」


早い!師範がさっきよりも早くなり、私との間合いを詰めてきた。


「お前は悪くない。だが、放っておくわけにはいかないからな」


意外な攻撃だった。


師範は私の口に手を当て何かを入れてきた。それが終わると私の口を手で塞ぐ。


「もごっ…むがっ…」


しゃべれない!いや、それよりも口の中に入れられた何かが動いてる気がする…。


そして、師範は私の耳元で優しく甘い声で話しかけてきた。


「お口の中のトカゲ、潰さない方が良いと思うよ」


私の意識は口から出てきた何かが顔の横を歩いてる感覚を最後に感じながら途切れた…。





「いやぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!」


大声を出して体を起こす。


口の中にトカゲ…まるで悪夢のような体験だったことを思い出す。


だが、辺りを見渡すと自分の寝室である。もしかして、さっきの出来事は夢だったのだろうか?


服装も寝るときいつも着てるものだし、窓から見える月も高い。先ほどのことは夢の可能性も出てきた。


「わ、私があんな変な気分なんかになるわけ…ないよね」


ホッと胸をなでおろす。そんな時、ドアをノックする音。ノックが終わるとすぐにドアが開きクアンタが入ってきた。


「目が覚めたのか?変態エルフ」


『変態エルフ』!?これは嫌な予感しかしない。こんな呼び方をされるとしたら、先ほどの出来事が現実である可能性が高くなってきた。


「でもな、助けてくれたことは礼を言う。ありがとう」


お礼は素直に嬉しかった。私は現実を認めて、あの戦いで気になっていたことを聞く。


「あのさ、私を助けようとして…何をしようとしたの?」


クアンタは「あぁ、そのことか」とあきれたように言うと一言。


「あれは時間稼ぎだ。何も持ってないし、何もできない。でも、時間を稼げばもしかしたらゴッドキラーが…祖父が気が付いてくれるのでは?と思っただけだ」


黒のこんぺいとうでないことに安心はしたものの、あの時の状況でとった行動と思考に対してクアンタのことを見直した。さすがゼフィの孫である。


「水を置いていく。落ち着いたら飲むといい」


クアンタは入口の近くのテーブルに水の入ったコップを置き、そのまま出ていってしまった。


「…助けた…。そっか、私、助けることができたんだ」


いつかなりたかった自分。


誰かを助けられる自分に初めてなれたことはとても嬉しかった。そのために…痴態…を…さらして…


「絶対いやぁぁぁぁぁぁあ!」


思い出しても恥ずかしい。あんなにヨダレたらしてドラゴンと戦い、飢えたように師範の攻撃を求め、クアンタが言う通り『変態』でしかない。


「もう消えちゃいたい…」


顔が熱くて恥ずかしくて湯気が出そうな気分。


ぐぅぅぅ~


…腹の音が静かな部屋に響く。


キッチンへ行けば何かあるのではと思いゆっくり体を起こす。一先ずおなかの音を鎮めることをしなくては、とても眠れそうになかった。





キッチンには師匠と師範がワインを飲んでいた。それと…誰だろう?見たことない女の子もいた。


見た目は人間なら四歳、五歳くらいだろうか?青空のような髪がくりくりとクセっ毛になっていて、大きな、少し野生みを感じる鋭い瞳。背中にコウモリの羽のようなものがある。悪魔?師範たちの知り合いだろか?


何にしてもカワイイ女の子である。


ただ、気になるのが私を見ておびえている。人見知りなのだろうか?


「起きてきたか。今回の件、私が気が付か気が付くのが遅かったな。お前に負担をかけたことは謝ろう。すまなかったな」


まさかの師匠が頭を下げる。私は驚き固まってしまった。


「い、いえ、私こそご迷惑をかけてしまって…すみませんでした」


私も慌てて謝り返す。


「そうだな。あそこまで生命エネルギー使うのはやり過ぎだが、あれは仕方ないかもしれないな。まあ、クアンタを守れたということで細かいことはチャラだな」


師範は楽しそうに笑ってる。


「チャラにしてやるよ、俺をぶん殴ったり、挑発してきたことも当然チャラにしてやるさ」


あ~、きっと根に持つパターンだ。師範は一度根に持つと半世紀はチクチク小出しにしてネタにしていじってくる。しばらく面倒かもしれない。


「で、そちらの女の子は?」


二人が特に答えないので私から聞いた。


「ん?お前がぶっ飛ばしたドラゴン。竜人族のヘキサだ」


おびえてる理由がやっと分かった。人見知りではない。本当に私に恐怖を感じているのである。


そりゃそうだ。自分をぶん殴って気絶させることで興奮して楽しんでいるエルフは私でも怖くなる。


「あ…えっと、でもどうしてドラゴンがこの子に?」


あの大きさのドラゴンと、私と大して変わらない大きさの女の子が同一のものとは思えなかった。


「竜人族は変身をするんだ。人型からドラゴン型にな。大人ならかなり大きなドラゴンになるし、強さもハンパないぞ」


ヘキサは先ほどから師匠の陰に隠れてチラチラこちらを見ている。


「あ…もう襲って来ないんでしょ?大丈夫だよ、私も殴ったりしない…」


近づいて手を出した瞬間、今度は師範の後ろに隠れた。


「よほど怖かったんだろうな。欲望丸出しで殴りかかってくるエルフがさぁ」


師範が腹を抱えて笑い出す。それを師匠が制し私に座れと椅子を出してきた。言われるがまま座る私。それを見て師匠は真剣な目をして話だした。


「さてと、この竜人の問題もあるが、今回の襲撃は人間界のゴッドキラーが絡んでいる可能性が高い」


私もだが、師範も目つきが変わる。


「…ヘキサは召喚されたと言ってたな。つまり…『召喚士 レパルド』か?」


そう、ゴッドキラーは魔界、人間界、天界に各四人ずついる。それは各界の戦力バランスを保ち、無駄な争いを防ぐためと言われている。


当然、他の界のゴッドキラーも師匠や師範の強さに匹敵する。


逆に言えば、ゴッドキラー同士がぶつかるようなことは戦争でもない限り避けることが各界の願う所である。


それなのに今回の件にはゴッドキラーが関わっている可能性がある。これは世界の均衡を崩しかねない事態になる可能性がある。


「ただ可能性だ。意図的なのか、偶然なのかまだ分からないが、今後クアンタへの暗殺が続くのか?続くとしたらまたレパルドがヘキサにしたような強化召喚で何かを召喚してくるのかどうかはまだ分からん」


強化召喚…。これは私も文献でしか知らなかったが、戦った感想から言うと恐ろしい力である。


本来、自分と契約をした魔物を魔力で呼び寄せる召喚が一般的だが、ごく一部の者は召喚時に召喚した魔物を強化できる特異能力があるらしい。


その能力は少数すぎて詳しくは謎なのだが、倍以上の力を付与する者もいるとのこと。


しかもゴッドキラーとなれば、もっとすごい能力があると思ってもいいくらいである。


目の前の二人を見てるがゆえに私はそう思えてしまう。


「しばらくは私かオーキス、必ずここにいるようにする。まだクアンタの件は落ち着いたと思えないしな」


私さえ強ければ師匠と師範に迷惑をかけなくて…と思いたいが、相手はあのゴッドキラー。それは自分を過剰評価しすぎだと自分で戒める。


「さてと、次はヘキサから話を聞きたい所だが…どうだ、さっきの話、少しは話してくれる気になったかな?」


どうやら私が寝てる間にヘキサへ師匠は色々聞いてたようだが、思うように話を聞けてないらしい。


まあ、あんなにやられたら後に素直に話してと言うのも、こちら都合すぎると思えた。


「それより、ヘキサはどうなるの?」


そう、そこを一番心配していた。また、レパルドに召喚されて戻されたりするのではないか?とか、遠隔でまたドラゴン化させられたりするのでは?とか不安要素もあるが、利用されてるこの子のことが心配だった。


「ここにしばらく居てもらうでいいんじゃないか?ジール、世話頼むな」


師範はあっさりと言う。師匠もそれがいいと同意する。


反抗的なクアンタ。私に怯えるヘキサ。私のここでの生活に更なる問題が増えた。


でも、ヘキサを守ってあげられるのは少し嬉しかった。


知らなかったとはいえ、こんな幼い子をぶん殴った罪滅ぼしができるのは私の心にも救いとなる。


「ところで…ヘキサは何を食べるの?やっぱり…トカゲ類…かな?」


顔の引きつる私をまた師範は笑う。


「ジールもトカゲ食べたんだ。もうお友達だろ?」


あの口の中の感触が蘇る。まて気持ち悪くなってきた。空腹を満たすより早く部屋に帰って寝たい気分になってきた。


「心配しなくていい。竜人は雑食で人と変わらないものも食べれる。ただ、好みはあるみたいだから、ちゃんと聞いてあげるといい」


師匠の言葉に私は救われた。爬虫類を調理できるようになっても全く嬉しくない。


ただ、ヘキサの私に対する怯えが消えない限り食事も難しいかもしれない。


「ヘキサちゃん、大丈夫だよ。もうあんなことしないから。ヘキサちゃんもクアンタを狙ったりし無いでしょ?これから仲良くしよ」


優しく声かけしてもすぐに師匠の後ろに隠れて怯えた目でこっちを見る。


どうしようと困っていると部屋にいきなりクアンタが入ってきてヘキサを掴み私の前に連れてきた。


「心配するな。こいつは変態で甘いものに目がない変わり者だが、悪いヤツではない」


そしてクアンタは私の顔をつかみ、ヘキサの前に出した。


「よく見てみろ!整ってはいるが間抜けそうだろ?こんなヤツが意味なく攻撃してきそうか?」


言うことは私への挑発か?と思えそうだが、クアンタなりに気を遣ってるようだ。


話を聞き終わるとヘキサは私を初めて怯えない目で見てくれていた。


「エルフさん…変態なの?」


いや、そこ!?違う!そうじゃ無い!そこじゃない!もっと違うとこに大事な言葉あったはずだよ!!


「そう、変態た。だから、あんな痴態をさらしても戦えたわけだ」


クアンタの言葉に納得しているヘキサ。いや、違うって!和むのはいいけど変態レッテルはいりません!!


「エルフさん、もう変態にならない…の?」


少し不安そうに聞いてくるヘキサ。いや、だから、これ否定したらヘキサ不安にさせるし、肯定したら私が変態だったことを認めるわけだし…。


「大丈夫だ。ジールは変態だけど、お前が暴れないなら拳を振り上げては来ないさ」


師範の見事なトドメ。これで私は変態烙印をヘキサに押されることであろう…。


「へ、変態じゃないけど、ヘキサが暴れないなら私も何もしないよ」


さりげなく変態を否定しておいた。でも、ヘキサの怯えは消えている。


「わかった!もう私暴れない!」


元気の良い声が部屋に響き空気を和ませてくれた。


私の変態烙印と引き換えに…。

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