五十八 気にしないようにすればするほど…
獣人族の村の騒動が一段落したので私は託児所跡地に帰って来た。
イアランに尻尾があるならきっと千切れてしまうのでは?と言わんばかりの勢いで私に抱き着き、はたき倒され、でも嬉しそうに飛びついてくるといううっとおしい出迎えを終わらせ、久々の自分の部屋に腰を下ろし一息ついた。
結局、私は何をすべきか決められず、かと言ってずっと獣人族の村にいるのも居心地が悪いので、託児所跡地に戻ってきたのであった。
ウィン様はセイとの約束を守るため、セイと共に魔界へと旅立って行った。
私も同行しようかとは思ったものの、何となく師匠と会うのが怖くて魔界に行く決心ができず、ここに残ることを選んだ…と言うより迷っている私に気を遣ってウィン様はセイと二人で魔界へ向かったのだ。
師匠は私を…助けてくれて、育ててくれたのは事実である。
だけど、それは師匠の優しさからなのだろうか?もし、違ったのなら、その目的は?
もしかしたら、聞けば簡単に教えてくれるのかもしれないが、何となく私の直感は聞くべきではないと告げている。
それが、勘違いなら後で笑い話だ。
だが、私の勘が正しかった時、私はどうすべきなのだろうか?
朝から窓辺に肘を立て、外をため息交じりに眺める。
昔なら託児所の用意に追われている時間だ。
クワンタやヘキサのご飯を用意して、洗濯物を干して、託児所の掃除をして…。
あの頃はあの日々がずっと続く気がしていた。
何でも思い通りになるわけではないが、満ち足りていた日々。また、あの日が戻ってくるならどんなに幸せだろうか?
そんなことを考えていると、軽快なノックの音が私の部屋に響いた。
「ジール、ご飯できたよー♪」
嬉しそうなイアランの声。
と言うか…よく考えてみたら、昨日何も考えずここに帰ってきて、川で水浴びして寝たが…大事なことを見落としていた。
ちょっと前まではルージュがいた。そう、ちょっと前までは三人でここに住んでいた。
でも、今は…イアランと二人ってこと…だよね!?
「ジール、起きてる〜?」
そっとドアを開けてきたイアランに私は慌ててドアを閉めた!
「い、行くからちょっと待ってて!」
何も考えないとは実に恐ろしい。
昨日は水浴びの後、ちょっと暑かったので袖の無い薄い部屋着とパンツだけで寝ていたのだ。
そんな格好のまま、イアランを部屋になんか入れれるわけがない!
「じゃ、じゃあ下で待ってるから」
びっくりしたと言うより、ちょっと怯えた感じで返事をしたイアランは慌てて部屋の前から消えて行った。
せっかく朝食を作って呼びに来てくれたのに悪いことをしたかもしれない。こんな無防備な姿で寝ていた私が悪いわけだし。
慌てて託児所で働いた時に着ていた服に着替えると、台所へと向かった。
台所ではイアランが鼻歌を歌いながらリズミカルに包丁で野菜を切って仕上げをしている姿があった。
何となく新妻が働きに出る旦那のために一生懸命ご飯を作るように見えるのは私が変にイアランを意識しているからだろうか。
イアランの手際は良く、朝食を仕上げていく。
「お、おはよう、イアラン」
恐る恐る声をかける私。すると、今度はご主人様を見つけた仔犬のような喜びを顔いっぱいに浮かべたイアランが私の元に駆け寄ってきた。
「ジール、丁度よかった♪朝食できたよ♪さ、食べよ♪」
腰に巻いていたエプロンを外し、私の席を引き、着席を促されて私はそれに従う。
するとイアランはスープやパン、目玉焼きを配膳し、終わると私の正面に座り「どうぞ♪」と満面の笑みで私に朝食を勧める。
二人で朝食を取る間も私とイアランは対象的だった。
満面の笑みで朝食を取るイアランに対して、妙にソワソワしてしまう私。
特に会話も無く二人は食事を続けるが、私の気持ちに気が付いたのか「どうかしたの?」と聞いてきた。
私は少し迷ったが、このままなのも辛いので口にしてみることにした。
「えっと…ここには、私たち二人で住んでいるってことよね、今?」
「そうだね。ティゴは自分の研究者しで寝起きしてるし、ご飯もあそこで済ませて研究に没頭しているからね」
自分で説明して気が付いたのか、イアランが急に固まってしまった。
これは失策であった。
まだイアランが楽しそうにしてるのを見ている方がマシだった。
朝食を食べる手が止まり、お互いがお互いの顔を見合わすことができないまま、二人の間にしばらく沈黙の時間が流れた。
「あ、いや、その、きょ、今日の朝食はどう…でしたか?」
急に改まった口調になるイアラン。私も返答に困る。しかし、何か返さないと気まずい。
「と、とても美味しかったです!い、イアラン、作るの上手です、ね」
私もつい変な口調で返してしまう。
考えてみれば男性と二人きりで朝食食べるなんて生まれて初めてのことだ。
以前ならクアンタやヘキサ、この前はルージュと誰かいた。何より師匠や師範がこの場にいなくても、この家の中にはいた。
今は二人だけ…。
「お、お茶入れましょうか?」
「そ、そうですね。お願いします」
その場にいることに耐えられなくなったのか、お茶の用意をしにイアランが立ち上がる。
だが、振り返ったときに椅子の足に足を引っ掛けてイアランが派手に転んだ。
「大丈夫、イアラン!」
反射的に駆け寄ったが、後悔してしまった。
テーブルというものがあるゆえに物理的な距離があったからまだ会話ができていたのだが、近付いてしまった私とイアランはお互い頬を赤らめて黙り込んでしまった。
と言うより、緊張して何も言えなくなったのだ。
今まで色んな相手と戦ってきた。
その度に様々な緊張感を味わった。
なのに、今回の感覚は全く別物である。
顔が熱くなり、どうしていいか分からない!
イアランは倒れたまま首だけを私の顔に向けてた後、全く動かないし、私もイアランの顔を見て動けないし…。
「だ、大丈夫です、これくらいは、転び慣れていているので!平気です!」
言い訳にならない言い訳をしてイアランは立ち上がって台所へ逃げるように早足で歩いて行った。
取り残された私はただ、イアランの背をボーッと見てその場から動かずにいた。
ただ、言えることがある。
こんなの続いたら、夜が来る前に頭がおかしくなってしまう。
過去最大のピンチに私の頭はパニック寸前で、対策も思いつかないまま夜を迎えるのであった。
晩御飯は平和に…とはいかないが、緊急の対策を講じた。
嫌がるティゴを無理やり晩御飯に呼び、何とか二人きりを回避することに成功したのだ。
朝食の時のように沈黙は減ったが、ティゴは私とイアランの顔を交互に見ながらため息をついた。
「で?お前ら、何したいんだ?私にお前らのイチャイチャを見せつけたいってことか?」
『違う!』
二人の声が同時にティゴへ飛ばされた。ちょっと気圧されたティゴは「お、おう」と軽い返事を返した。
でも、やっぱり会話は少ない。
しかも、たまにはなしをしたとしても、二人して話しかけるの相手はティゴにであった。
そんな状況を見てついにティゴがブチギレた。
「お前らな!そのくらい自分たちで解決しろよ!子供じゃねぇんだからサッサとキスしてやる事やってしまえ!」
身も蓋も無い言動に私とイアランはますます緊張してしまった。
き、キス…。
顔から湯気が出てきそうなくらい顔が熱くなってきた。
ダメだ!具体的な言葉が出てくると意識してしまう!ティゴ、何でそんな事言うのよ!逆効果じゃない!
「面倒だから、ここでしろ。ほら、見ててやるからキスしろ。一度キスすれば少しは変わるだろ?キスくらいしないからそんなゴブリンの子供でもしないような恋愛するんだ。さぁやってしまえ」
ティゴが苛立ちを語気に含ませながら煽ってきたため、私とイアランは焦るしかできなかった。
イアランは何か言い訳しているが、全く意味がわからない事を羅列して言い訳していた。
まるで、子供がイタズラをして見つかった時の変な言い訳のようである。
今日はまだ時間が早いとか、歯を磨いてないとか、気持ちの整理がついてないとか、星がよく見える日がいいとか…変な言い訳オンパレードで天才的頭脳の持ち主のイアランの影はまるで無い。
「お前らが乳飲み子ですら笑うくらいの恋愛レベルなのはわかった。私にいい案がある。お前ら、体洗ってこい」
私とイアランが「どうして?」という顔をすると苛ついた顔で私とイアランを交互に睨み「ごちゃごちゃ言わず入ってこい!」と今にも噛みついてきそうな口調で叫んだので、私たちは「はい!」と返事をすると川の方へと走って行った。
色々あったが、やはり水浴びは気持ちいい。
何か濃い一日だったが、それを洗い流してくれるように気持ちが落ち着く。
イアランは少し離れてところで私より先に来てサッサと終わらせたみたいだが、私は少し気持ちを落ち着かせたいのもあったので、川の中にも浸かった。
体を伸ばし、川の流れる音を聞いていると心が安らぐ。
そこに風が吹き、森の木々がゆれ、葉の擦れる音や虫の声、たまに遠くで獣の遠吠えが聞こえたりするのだが、何一つ無駄な感じがしない。
だから、ここが好きなのかもしれない。
ティゴもきっと私たちに頭を冷やせと言うつもりだったんだろう。
そうだよね、以前はある程度普通に接する事ができたんだから、気持ちを落ち着かせる事ができれば元通りになるはずだ。
私は気持ちよく冷やされた体を拭くと、託児所へと戻って行った。
「ここで大人しく座って待ってろ」
帰ってきた私をいきなりティゴが脱がせたと思えば、大きなタオルをカラダに巻いて自分の部屋のベッドに座らされた。
何が何だか分からないまま、人形のように私はベッドに座らされた。
「いいか、何も言わずにそこにいるんだぞ」
意図が分からない。
確かに風邪を引く気温では無いのでこの格好でも問題はないのだが、なぜタオル一枚で寝室で座ってなくてはならないのだろうか?
まあ、昨日の寝てた格好考えれば大きな差は無いんだが…。
しばらく考えていると再びドアが開けられ、ティゴの「ここで一晩過ごせ」の声と共に見覚えのある人物が一矢纏わぬ姿で目の前に現れ、私は固まってしまった。
「イア…ラン?」
「ジ、ジーるぅ!?」
声が上ずるイアランだが、それもそうだろう。
やっとティゴのやろうとした事が理解できた。私は慌ててドアを開けようとするが、ドアは開かなかった。
「ちょ、ティゴ!どう言う事よ!何やってるのよ!」
ドンドンとドアを叩きティゴの名を呼ぶ。せっかく川で頭が冷えたのに、再び再沸騰してきそうになっている!
「私の研究の邪魔されたら面倒だからな。お前ら面倒くさいからサッサと一回やってくっついてしまえってことだ」
一回…って!き、き、キスもした事ないのにいきなり夜を共にしろって無茶苦茶だ!心の準備どころか、もう恥ずかしくて死にそうだ!
「イアラン、男みせろ、男を!お前もそろそろはっきりしたらどうだ?ジールはその辺の子供より奥手みたいだから、お前が押し倒すくらいで丁度いいんだ!」
だ、誰が奥…手とか…。
うん…そうかもしれない…。
私はドアを叩いてた拳をゆっくりと下ろした。
イアランは私が返しきれないほどのことをしてくれているし、受け止めてくれている。
それなのに答えていないのはティゴの言う通りだ。
ルージュとここに戻ってきた時もそうだった。
あれだけ献身的に世話をしてくれて、しかも甘えさせてくれたイアランに対して私は何も答えていない。
ここは…私が腹をくくらなきゃならないのではなかろうか?
私は振り向き、呆然と立っているイアランに向き直ると、感じた事の無い顔の火照りで意識が飛んでしまいそうなのを何とか堪えて口を開いた。
「イ、イアラン、い、一緒に寝ましょ!」
どこかに隠れていいなら隠れたいわたしであったが、言われたイアランも、釣り上げた魚のように口をパクパクさせているだけで、その場を動かずにいた。
「だ、だ、だから、あなたは私のこと好きなんでしょ!私もあなたのことが…その…あの…」
こんなに口の中が渇いたことはない。次の言葉を言おうにも口の中がカラカラで言葉が出せない。
こんな思いするなら、今、ここに敵でも現れて戦闘になって欲しいくらいだ。
でも、逃げちゃダメだってことも分かってる。勇気を振り絞れ、私!
ぐっと目を閉じて、息を吸う。そして、腹に力を入れて叫ぶ。
「す、す、好きなんだから一緒に寝なさい!」
何て可愛げもロマンも雰囲気も無い告白だろうか?しかも私と寝なさいとか、変な女だと思われても仕方ないだろう。
せめて、もう少し月夜の川べりとか、ディナーの後とか、デートの後とか、もっと告白に合うシチュエーションは沢山あるだろうに、よりによって裸同然の格好で部屋に閉じ込められての告白。
最悪だ…。もう私、死んでしまいたい…。
「…そ、それホントなの?」
そりゃ冗談に聞こえるよね。
ホント、何してるんだろ、私。
力が抜けて、その場に崩れ落ちてしまった。
泣きたい。
恥ずかしすぎて泣いてしまいたい。そのまま溶けてしまいたいくらで、もう今すぐここから消え去りたい!
落ち込んでうつむいていると、窓からの月明かりを遮るように目の前が暗くなった。
そして、私を不意に温かい感触がおでこに当たった。
「嬉しいよ、ジール。ありがとう」
小柄で頼りなさそうな体だと思っていた。しかし、その予想とは裏腹に、がっしりしとした胸板に私のおでこが当たっていた。
イアランの両腕が私の背中に回される。ちょっと気温が高いからだろうか、触れた部分が少し熱くなっている気がする。
その手は優しく私の背中を何度か撫でると今度は私の手を取り立ち上がらせてくれた。
「あ…その…む、無理にその…こういうことは…いや、その、ジールが相手がダメとかじゃなく…そのジールの気持ちが必要なわけで…つまり…そのね…」
月の光で逆光なので顔の色は分かりにくいが、きっとイアランは真っ赤になってる気がする。
こう言う話し方をする時のイアランはいつも顔を真っ赤にしているからだ。
そんなことまで分かるようになった自分に少し呆れつつ、嬉しくもあった。
初めは敵として現れて、敵なのに私をデートに誘って結婚申し込んできて…それから殺されて、何とか生き返って…ゴッドキラーに返り咲いて、私の事ばかり気にして、事あるごとに私を助けようと奮闘して、私が落ち込んでたらお節介をしに来て…。
「あ、あのね、改めて言います」
気を取り直し、仕切り直しの一言を言うとちゃんとイアランの目を見て一呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「ここにいましたか、イアラン様…と、お取り込み中…でしたか?」
まさに不意打ち。私とイアランは声の主の方に向く。
窓の外に立つ見覚えのある姿。
イアランに仕えているニンジャのエアマスなのだが…間が悪すぎる!
「何でこんな時にくるんだよ…」
まるで精気をでも抜かれたかのようなか細い声でイアランが呟く。
私も「どうしてこんな時に…」と必死に泣くのを堪えて涙目である。
空気を読んで一瞬固まるエアマスだが、首を数度横に振ると真面目な顔になり中に入ってきた。、
「無礼なのは承知の上でお伝えしなくてはならないことがあります!イアラン様、大変なことになりました。オジオンはあなたを本気で消す気のようです!」
その一言で空気が変わった。緊急事態のようだ。私とイアランに嫌でも緊張が走る。
「包魔石のサンプルテスト品がまさかのオジオンに知られたようです!オジオンはイアラン様に賞金を懸けて世界中にバラまいたようです!それに…これはクスに聞いたのですが…国王自らイアラン様を抹殺せよと勅令をだしたそうです!」
オジオンが本気でイアランを消しに来る。どうやら包魔石は今のオジオンにとって大きな脅威のようだ。
考えてみれば庶民にとっては高価な魔法石でなくとも、生活するには安価な包魔石で十分だろう。そうなれば魔法石で経済を支えているオジオンにとっては魔法石のシェアを奪う包魔石は存在してはならない存在…ゆえにその研究をしているイアランを消すのは道理が通る。
「でも、包魔石はハーフエルフを救う資金にしたいし、魔法石に価値が無くなればエルフが奴隷のように扱われなくなり、これ以上悲しいハーフエルフを生み出すことが無くなり…」
「最初に私があなたを暗殺した理由も包魔石です。それだけオジオンは魔法石に関することは優先事項なのです。今回も本気であなたを殺しに刺客を刺し向けるでしょう。…確実にあなたを殺せる実力クラスとなれば、来るのはほぼ間違いなくクスでしょう」
エアマスはイアランを暗殺するまでに至った経緯を話してくれた。
その当時、イアランはターンズ国王に研究費をもらうために包魔石を献上し、研究費を得ることに成功した。
だが、ターンズ国国王は余りにも愚かだった。
その包魔石をオジオン国に持ち込み、会議の場で自慢したのだ。特に意味もなく、自分の自尊心を満たすためだけに。
その可能性に恐れをなしたオジオンはイアラン暗殺を当時取引のあったエアマスに依頼し、その結果、イアランは殺されたのだ。
「確実にイアラン様を殺せる人物となれば、最強の兵であるクスが来るでしょう。私がこの情報を知ったのが昨日ですので、明日にでもクスはここに来るかと」
さすがにクスの名前が出るとは思っていなかったのか、さすがのイアランも表情を曇らせた。
「さすがにクス相手は誰にもどうしようもないか…。ジール、ティゴも連れて…さて、どこに逃げるかな。エアマスの城は相手も予想しているだろうし…」
悩むイアランにエアマスは予想外の提案をしてきた。
「ジールさんと共に魔界に逃げてください。魔界ならジールさんと共にいるならゼフィの影響下ですし無下にはされないでしょう」
最善の策だと思う。人間界のゴッドキラーが意味もなく他界へ侵入するのを無視する神はいない。ゆえに、魔界にクスが侵入する場合は魔界も全力を持ってクスの排除に向かうだろう。
つまり、イアランは私がいるので攻撃は受けないが、クスは場合によっては魔界のゴッドキラーを複数相手する事になる。
「クスには誰も勝てません。ですが、賢く慎重な男です。あの男に勝てるのは魔界でも邪神くらいでしょうから、邪神に助けを求めれば勝機もあるはずです」
どうしよう。この状況で私がクスに勝ったとはとても言えない。仮に言っても信じてもらえないだろう。
それに、あの黄色の生命エネルギーを自由自在に扱えるわけではないので、今クスが来ても倒せる自信はない。
それよりも、クスは去り際にイアランと勝負をしたいと言ってたのでむしろ、今回の勅命は喜んで受けてそうである。
クスが来る理由も…今とても話しにくい。
「ジール、…君を守るためにも魔界に行こう。俺でもクス相手に時間稼ぎができる自信はない。もしティゴが研究を手伝っていると知ればオジオン王はティゴも殺すように命じるだろう。ティゴも連れて行こう!」
えっと、エアマス、獣人族の村の話、届いているとかないのかな?できたらエアマスの口から言ってもらえると信憑性が増すので助かるところなのだが、それはどうやら無さそうである。
正直なところ、今、師匠に会いに行くのは躊躇われる。
どんな顔をして師匠に会えばいいのだろうか?昔のように自然に接することはできそうにない。
だが、この流れは魔界に行かざるを得ないようだ。
何より、クスはイアランを本気で狙ってくる恐れがある以上、私が絶対イアランを守り通せる自信がない以上、魔界に逃げるしかない。
「ティゴも後で私が連れています。イアラン様、急いで下さい!」
私とイアランは頷くとエアマスは「下で見張っているので急いで下さい」と二階から飛び降りた。
その時、月明りに照らされたイアランを改めて見た。
イアラン、全裸…だよね?
私はどうしていいか分からずに戸惑っていると、イアランが私に振り向き「急ごう」真面目に言ってくれたのだが、こちらに体を向けた瞬間、私は悲鳴を上げて、イアランに平手打ちをしてしまうのであった。




