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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第四章 獣人族の女の子編
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五十六 刺客

実に奇妙な光景がそこにはあった。


私とウィン様、セイとムラサメの四人でカフェテラスの円形テーブルを囲んでからしばらくの間、沈黙が流れていた。


そんな私たちの横をアンデッド達が資材を担ぎ、手際よく街の修復に取り組んでいる。


とりあえず話し合いのため今に至るのだが、視界に入るアンデッド達は感心するほどよく動く。


いや、セイに操られているのだろうが、統制の取れた動き、役割分担などしっかりしているので、作業に無駄がなく思わず感心してしまう。


「で、お話とは何でしょうか?私は早くウィンの制作者にお会いしたくてウズウズしています。それ以外の話し合いには興味ありませんわ」


手際よく給仕をするボーンプリーストがセイの飲み干した紅茶のカップに新しい紅茶を注ぐ。


私たちにも用意してくれてはいるものの、誰も手を付けずセイとの間の気不味い空気が流れていた。


ムラサメも私も何を話せばいいか思案顔である。


「ねえ…西の方にあった獣人族の村はあなたが滅ぼしたの?」


私たち以外の声だった。その声は必死に怒りを抑えており、声が震えていた。


顔を伏せ、拳を固めたルージュが私の後ろに立っていた。彼女に取って、その答え次第ではセイが仇となる。


「直接手を下したのはここだけですわ。まあ、不死の種をいくつか渡したので、アンデッドを作る事はできたでしょう。強い兵士はアンデッドとしても優秀ですし、兵士の現地調達は遠征時助かりますもの」


直接的ではなかったにしろ、自分の父親がアンデッドとなり私に殺された。


そんな体験をしたルージュが当然許すわけもなく…。


「あんたのその種でお父さん、二度も殺されたんだよ!何でそんなもの作ったのよ!何でそんなもの渡したのよ!」


掴みかかろうとするルージュを私が抑えた。セイはそんなルージュを冷たい目線でチラリと見るとため息をついた。


「その理由を知って、あなたは何をしたいの?私を殺して仇を打って墓前に報告したいのかしら?」


本人にその気があるのかは分からないが挑発のような言い方は、ルージュを更に暴れさせるには十分だった。「殺してやる!」と何度も連呼しながらセイに飛び掛かろうとして私の手を振りほどきそうだ。


「そういう言い方は止めてくれ、セイ。親を殺されて、やり場のない気持ちを持つ者を挑発するような真似はルージュを侮辱している。謝罪して欲しい」


あまり見ない少し恐い目つきでセイを凝視するウィン様。その視線を感じたのか、セイは「それは失礼致しました」と言葉だけとは言え謝罪をした。


まあ、そんなことでルージュの怒りは落ち着くこともなく、むしろヒートアップしたのでムラサメの合図で近衛兵が強制退場をさせた。


「では本題に戻しましょう。オジオンは指輪をどこに持って行っていかれたのですか?」


さすがに直球すぎやしないだろうか?そんなこと、言うわけないし、むしろ知らない可能性もある。どんな意図があるかは分からないが、もう少し考えるべきではなかろうか?


「これの事ですか?これは私の子供に回収させましたの。南に攻めていった軍は愚か者ばかりで、指輪回収を私の子供たちにさせたのです。まあ、三つ揃えたら私の所に使者が取りに来る段取りですから結果的には同じことなのですけどね」


そう言ってセイはスッと金色のリングに白い宝石が埋め込まれている指輪を見せてきた。


キレイな指輪だと思った。私は素直にキレイだと言おうとして言葉を飲む。


そのキレイな指輪の内側には…血痕があったのだ。


「その指輪、返していただけないでしょうか?それは我ら一族のもの。あなたの立場もあるでしょうが、我らにとっても大切なものなのです」


かなり言葉を選んだであろう。同じ獣人族が殺された上に奪われたものを怒りを表に出さず、頭を下げたムラサメの気持ちは察して余りある。


セイが直接殺したではないにせよ、同じ国のものによって殺されたのだ。ルージュのように殺意を持って喉元にでも飛び掛かりたいだろう。


だが、冷静に考えれば正解なのである。


もし、セイと正面切って戦えば、勝とうが負けようが死者が出るだろう。それを回避できるなら、頭を下げることくらいは大したことでないという判断はまさに為政者の鏡であり、尊敬に値する。


「構いませんわ。私にとってはもう、どうでもいいものですから」


私は「えっ!?」と言いそうになった自分を必死に抑え込んだ。あまりにもあっさりと渡したセイの意図が分からない。


「不思議そうですわね。用事の無いものを持っている意味がないと思うのがそんなに不思議なことですか?」


私だけではなくムラサメも面食らった顔をしていた。それを察したセイは大きなため息を吐くと、少し遠くに視線を置き、ぽつぽつと話し始めた。


「私には…私がお腹を痛めて産んだ子がいました」


「いました」ということは、今はいないということだろう。何となく予測はできるが、セイが続きを話すのを私だけではなく、そこにいるムラサメもウィン様も黙って待っていた。


「その子は…生まれて三日後に暗殺されたのです」


少し笑み浮かべるセイだが、その頬には涙が一筋流れていた。


「理由は…『身代わり』…でした」


誰もが何も言えなくなった。涙を流しながら笑顔を見せるセイの心境を察することは私には到底できそうになかった。


「大臣の衛兵が暗殺の情報を聞きつけ、近くに住んでいた私の子供と大臣の子供を入れ替えていたそうです。もしもの時のためとかで。こう見えても私も元名門の貴族でしてね、大臣の家は目と鼻の先だったのです…」


セイのこぼれる涙が止めどなく溢れている。しかし、美しい笑顔は変わらず、それが私の心に痛みを感じさせた。


「その結果、私の夫は勲章をもらい…私にこう言ったです。『あの子も大臣様のお子様をその身をもって守った。我が子を誇りに思う』と」


そこまで言うとセイは泣き崩れた。人目を憚らず、大人とも思えない大声で泣いていた。


きっと誰もセイの気持ちに寄り添ってくれなかったのだろう。


そんなセイの後ろからボーンプリーストがそっとセイに花の刺繍の入った気品のあるローブをかけてあげていた。


「セイ様はその後、皆から褒め称えられた。誰もセイ様の心を知らずにな。そして、そんなセイ様に更なる悲劇が襲ったのだ」


ボーンプリーストはそっと眠りの魔法をセイにかけ、セイを眠らせた。うつ伏せのままだが、微かに寝息が聞こえてきた。


とても、安らかで気持ちよさそうな寝息である。


骨の手で優しくセイの髪を撫でるとボーンプリーストは話を続けた。


「旦那がその直後、側室を迎えたのだ。まあ、政略的な側室だったようだ。その側室に男の子が立て続けに産まれたのだ。セイ様には一人目以降、子供ができなかったのに…皮肉な話だ。セイ様は何も悪くなかったのだが、後継の産めないセイ様に姑の風当たりが強くなり家を出て行かざるを得なかった」


私は貴族の生活を知らない。文献で読んだ程度なので、推測しかできない。


だが、人間は歴史や地位のある家柄だと、後継を産めるかどうかで扱いが変わるのを師匠からも聞いた事があった。


まさか、現実にそんな扱いを受けている者を目の前にするとは思っても見なかったが、人間とは実に恐ろしいと感じてしまった。


「家にも帰れない。後継を産めない者は恥として自分の家名を名乗る事すら禁じられた上に追い出されたそうだ。頼る者も居なく無くなったセイ様はオジオンのスラムに迷い込み、乱暴されそうになった時、私と出会ったのだ」


私を含め、皆一斉にボーンプリーストを見た。そんな視線にボーンプリーストが含みのある笑いをしながら話を続けた。


「その時は私は生きていた。もちろん人間だったさ。まあ、今もこのようにプリーストを名乗っているが、生きている時、プリーストとは名ばかりの落ちぶれプリーストだったんだがな」


ボーンプリーストは話してくれた。


セイに一目惚れをして世話をしていたこと、自分は元オジオンの蘇生研究所で働いていて、ネクロマンサーの技術研究をしていたこと、それをセイに話すと自分たちで研究をしようと言って始めたこと、ボーンプリーストが死んだ時、実験をしてこうなったこと…。


その理由が自分の子供を蘇らすためということで、それが失敗して以来、アンデッドを我が子として愛おしむようになったとの事だった。


「こんな話をしたからと言って獣人族に許してくれとは言わないさ。だが、セイの気持ちも知っていて欲しいと思ったのは…好きな女性のために私ができる最善の事だと思っただけだ」


何だろう。


骨だけなのに…ボロボロの法衣なのに…敵だったのに…。


ボーンプリーストがとても素敵に見えた。


だが、セイはボーンプリーストの献身的な姿は目に映っていないのかもしれない。ボーンプリーストではセイの心の穴を埋めることはできなかったのだろう。その歪みがアンデッドの軍隊を生み出してしまったことは悲しい事実である。


そして、まだ自分の子供を蘇生することを諦めていないからこそ、ウィン様の交渉はオジオンの指令に勝ったということは簡単に予想が付く。


「直接手を下したのはここだけとはいえ、セイ様は獣人族に償いをしたいとは思っている。理由はどうあれ、指輪に蘇生の期待をしており、欲していたのも事実だしな。その一環としてまずはこうして修復活動をさせてもらったというわけだ」


その言葉にムラサメは表情を変えることはなかったが、鋭い目線をボーンプリーストから外してはいなかった。


立場や同族への感情を考えると「はいそうですか」とすぐに信用できないのは当然と言えば当然だ。


「セイ様の言うように指輪は返そう。我々がオジオンの軍にいた理由は、セイ様の子供のためだけだからな。この指輪ではセイ様の子供を復活することは出来ない。身体強化はするが、魔力増幅や生命力の増幅は起きなかったからな」


指輪は全て獣人族の手元に戻った。


だが、獣人族が襲われなくなったわけではない。その対策を考えなければ、また今回のようオジオンが略奪に来る。


「分かりました。あなた方を完全に信用することはすぐにはできません。監視はつけさせてもらいます。ですが、拘束はしません。後は様子を見させてもらっての判断とさせていただきます」


私が悩んでいる間にムラサメがセイたちへの処分を提案した。それに対してボーンプリーストが「復旧作業が終わった時にもう一度判断してくれればいい」とセイの顔を見ながら答えた。


次の部隊への対策は決まったわけではないが、どうやらセイの部隊の侵攻の件は一段落したようである。


それにしても疲れた。


考えてみればルージュを助けてここまで、駆け抜けるように時間が過ぎた。どうやら悩んでいるより、目の前にあることに追われている方が、今の私には余計な事を考える暇が無いのでいい。


イアランのことや師匠とお母さんの関係…頭の中にモヤモヤは暇を持て余すとすぐに私の頭の中を支配する。全く自分が嫌になる。


「そこに寝てると風邪を引いてしまいます。セイ殿には我が城の客間の一室を用意しましょう。ただし、付き添いは三名まで、身の回りの世話をする者のみにしてください。さすがに城にドラゴンゾンビは困りますので」


そう言うとムラサメが近衛兵に部屋の用意を命じる。「しかし」という近衛兵に「軟禁する場所が必要だから用意しろ」と建前を述べるとため息をついた近衛兵が呆れた顔で、だが決して嫌そうではない顔で敬礼をしてその場を去って行った。


「ジールとそちらの…ウィン様?でいいでしょうか?あなた方もゆっくりしていって下さい。お二人の働きでここを守れたと言っても過言ではありません。大したもてなしもできないですが、気の済むまで滞在していって下さい」


私はムラサメにウィン「様」は私が尊敬しているゆえに敬称を付けていることを説明しておいた。確かにエルフ族の中では英雄なのだが、他の種族から見れば一剣士。貴族でもないし、王族でもない。


しかし、それを聞いたムラサメが「獣人族で通用する人間の爵位に相当するものなら授けることができますが、どうされますか?」と言われたが、私もウィン様も必要ないと丁重にお断りをした。


謙遜と捉えたのか、ムラサメは私たちの今回の働きはそれくらい村にとって、大きな戦果だと説明してくれた。


話も終わり皆がテーブルから立ち上がろうとした時であった。


いつの間にそこに立っていたのか、私の視界に見覚えのある男性が立っていた。


それに気が付いたウィン様は言葉の前にツインバスターソードを召喚して男に向かって構えた。


その隣ではボーンプリーストが体を震わせ言葉を発せずに立ち尽くしていた。


ウィン様の動きを見た後、男はため息をついた。


「まるで獣のような殺気を放つ剣士だな。だが、拙者には遠く及ばぬ。無駄に命を捨てることはない」


そんな男の言葉を無視するかのようにウィン様が斬りかかる。


私の知る限り、こんなに余裕のない表情をするウィン様を見たことがない。


ウィン様は十メートルもある間合いを瞬時に詰めると両手のバスターソードをまるで意志を持った生き物が獲物を狩りに行くかのように何度も男に向けて振りかざした。


だが、男は後ろで結った長髪も、粗末な浴衣のような上着も、ほとんど動くことなく右手にいつの間にか持っていたナイフのような剣でウィン様の二本のバスターソードをあしらっていた。


「そのような剣技、ここで使えばせっかく復旧しようとしているこの街を壊しかねないだろうが。状況把握ができないくらい余裕がないのか?」


この男、どちらかと言えば痩せこけているし、無精ひげを生やし、決して強そうに見えないが、その眼光は鋭く、それだけで弱者はやられてしまいそうである。


何よりこの男が恐ろしいのはただウィン様の剣を受けているのではなく、威力を殺し、周りに被害が出ない配慮をしながらウィン様の猛攻をその場から動かず対処しているのだ。


まるで本気で立ち向かってくる子供を相手にしている達人である。


「悪くはない。だが、今日の用事は指輪の回収なのだ。個人的にはもっと広いところで立ち合いたいところだが、残念だが王は気が短い。早く終わらせなくてはならんのだ」


男は、短い剣を二回、刃先が見えないほどの速さで振るとウィン様を弾き飛ばした。


しかしウィン様も飛ばされながらも体をひねり態勢を立て直すと再び構えを取り、男を睨みつける。


「ほぅ…持ち直すか」


野太い声はやれやれとため息混じりにウィン様を見る。そのため息に対しての答えだと言わんばかりにウィン様はまたも間合いを詰めて剣を振る。


「あなたはここで倒しておくべきだと私のカンが訴えている!悪いが倒させてもらう!」


ウィン様の振るう剣に男の顔から余裕が消えた。男のウィン様の剣を弾く手数も増え、体の動きも先ほどより大きくなっている。


あの短期間でウィン様は男の動きに少しずつだが、追いつくようになっていた。それも、現在進行形で早くなってきている。


大振りながらも確実に男のスキや死角に刃を運び、今にも男の肉体に届きそうなくらいである。それをギリギリで受け止める男の顔がいつの間にか真剣な面持ちになっていた。


本で読んだことがある。


伝説の剣士ウィンは、強い相手が現われても決して退かず挑み戦い続ける。その戦いで相手の動きを見切り、学び、最後には凌駕する…と


私はそれを目の当たりにして感激のあまり、いつの間にか涙を流していた。


「お前、何者だ?」


「私はあなたを倒すエルフの剣士だ!」


ついに、ウィン様が推し始めた。男は防戦一方となり、避けるのに必死なのか、少しずつ男の衣服に斬撃の切り跡が刻まれていく。


表情を歪めると男は間合いを取り空に向けて手を広げた。


すると、男の手に魔法陣が浮かび上がり、その手に鞘付きの剣を召喚した。


「まさか『神刀 英星砲えいせいほう』を使うことになるとはな」


その剣は実に短かった。


ナイフのように短い鞘なのだが、特徴的なのは鞘より少し長いくらいの持ち手であった。


男性が両手で持つには丁度良い持ち手だが、それに対して刀身部分があまりに短過ぎる。ナイフを両手で持って戦うなど、ナイフの軽さや、刀身が短いゆえの小回りを殺すことになる。


ウィン様は再び構えなおしていた。表情から全く緊張が消えない。私には感じていない何かをウィン様は感じているのだろう。


男はその剣を鞘の上を左手でしっかり持つと、右手を剣の持ち手に軽く握るように添えた。


刃を鞘に収めたまま戦うのだろうか?


そう言えば師範から聞いた事があった。


刀身を鞘に収めて、相手が間合いに入ってきた時、鞘から剣を抜き相手を切る剣術。


だが、そうなら大きな矛盾がある。


間合いが鍵となる剣術なら、間合いを広く取るために長い剣を使うはずである。あの男の持つ剣では先程から使っていた剣の方わずかではあったが長かった。


「ゴッドキラー、サムライマスターのクスがお前の命を貰い受ける」


やはり見たことがあると思った。


イアランのゴッドキラー就任式でちらりと見た記憶があった。


だが、あの時、こんなに強い雰囲気は全く無く、むしろ存在感が薄かったし、ほとんど印象にない。


そう言えばあんな感じだったかな?くらいの印象だった。


そんな事を考えていた一瞬の出来事。


クスの召喚した剣から「カチン」と涼やかな音が聞こえたと同時に、ウィン様が肩から一直線に右脇腹に向けて斬られており、血を撒き散らし力無く膝を落とし倒れた。


見えなかった。


何をしているかさっぱり分からなかった。


ウィン様とクスは十メートル以上離れていたのだ。剣の間合いではない。


だが、斬られている。


そんな分析は後だ!


私はウィン様に駆け寄ると回復魔法で傷を治していく。思ったより深く、傷の再生が遅い。


「本能だな。私の攻撃を無意識に自分の剣で受け止めたか」


そんなクスの声は聞こえてはいたものの、するりと頭から抜けた。


クスの言葉なんてどうでもいい。今はウィン様を助ける事が第一である。


「…お前、イアランの就任式の時にいたエルフか?」


どうしてダークエルフの格好なのにバレたかは分からない。


だが、そんなの構ってる暇は無い。ウィン様は今危険な状態である。私はウィン様の前にしゃがみ込むと両手を広げ、ありったけの魔力で回復を施す。


そんな私の回復を止めろと言わんばかりに、後ろに来たクスが私の首に刃をそっと当てて来た。


「お前がエルフだろうがダークエルフだろうが構わん。その回復を止めろ。その剣士は危険だ。時間をかければ私をも超える逸材だ。オジオンの脅威となる。ゆえに生かしておくわけにはいかぬ」


私の首に当てられた刃に力が込められ、当てられた部分から赤い血が薄っすらとにじみ刃に着いた。


「…るさい」


思わず感情が言葉になって出てしまった。そんな言葉が聞こえているのか、いないのか分からないが私の首に当たる刃がまた、食い込もうとしている。


「うるさい!ウィン様の回復の邪魔をするな!」


カッと頭に血が上った。気が付くとクスの刃を素手で握りしめ、鋭い眼光をクスに向けていた。


「…赤い目…だと!?お前は」


クスの言葉は最後まで言葉を言いきれなかった。


刃を私に引かれ、一瞬だけだが柄を強く握り態勢を崩したクスに私の拳が顔面を捉える。


クスはまともに拳を食らって吹っ飛ばされ、数十メートル後方の城壁に激突し、そのまま地面へと落ちた。


そんなクス相手に興奮気味に肩で息をしていたが、我に返り急ぎウィン様の治療を続ける。


「後ろだ!ジール!」


ムラサメの言葉に振り返るといつの間にか戻って来たクスが先ほどウィン様を倒したときの構えに入っていた。


ウィン様の時より遠くにいるのに構えている。


私はクスに向き直るとクスの攻撃に備えた。


避けるわけにはいかない。


私の後ろにはウィン様がいる。


一回で見極め、相手の攻撃を相殺するしかない。


無茶とも言える考えだが選択肢は無なかった。何より、理由は分からないができそうな気がしたのだ。


「英星砲剣技 『一閃』」


声と共にクスの右手が抜刀する。


その抜刀の瞬間を見て思わず「何それ!?」と言ってしまった。


あの剣は…刃が短い。その刃では絶対にここまで届かない。


だが、その刀身を包んでいるオーラが私の元まで届く。このオーラは…まさか!?


「こんなもの!」


私はオーラを右とで繰り出した手刀で止めた。ぶつかり合った部分は激しく光を放つ。しばらく踏ん張ると、オーラの刃は砕けて消えた。


「女、お前は何者だ!?」


今度は連続でオーラの刃で攻撃してきた。


だが、一度見て何なのかが分かると対処もしようがある。


両手に生命エネルギーを流し二本の手刀を作ると、飛んでくる刃を弾き、蹴散らしていく。


攻撃が止まると、私とクスの間に沈黙が流れた。


どうやら、ゴッドキラーの中で最強と言われているのは伊達じゃない。あれだけ攻撃を凌いだのに動揺は微塵も無い。むしろ、それくらいは想定内と言わんばかりの落ち着きようである。


今までに感じたことのない緊迫感の中、私が今何をやってしまっているのかを理解できていなかった。


いつの間にか自分の生命エネルギーが濃い黄色になっていて、それを使いこなし、最強のゴッドキラーと対等に戦えている本当の意味を…。

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