五十四 包囲網
私はすぐさまツキとグラスに事情を話し引き返しムラサメに報告した。村の索敵は私ほどの索敵能力を持っていいなかったが、偵察部隊を作り派遣することで状況を把握したようだ。
その報告には更に最悪な内容があった。
森の生き物もアンデッド化されているという報告があったのだ。
これは私の予測なのだが、そのアンデッド兵が森の生き物を殺して、その殺された生き物をアンデッド化することでここまでの数になったのではなかろうか?
だとすれば、セイがここに来るのが遅かったのは、迷っているのだではなく、兵力を増強するためと予測できる。
スカール湿地帯で会ったジンの仲間が見たのは一個中隊規模だったはず。
それが万の部隊になった。そのために…こうも簡単に犠牲を出して兵力増強という己の欲のために命を刈ることができるのだろうか?
ムラサメは緊急招集をかけ、各部主要人に事態の報告をする。私もムラサメに懇願されて参加することになった。
集まったのは十人。彼らはこの獣人族の村の各管理を任されている者との事だ。
当然誰もが信じられない動揺の声を上げるが、ムラサメの表情で事態の深刻さを察して緊張の面持ちでムラサメを見た。
「正直厳しい戦いになるでしょう。ジールさんの話によるとこちらの有効な攻撃手段が少ないようです。ジールさんに聞いて準備させていた火矢や爆薬は全く足りません」
淡々と現状を話すムラサメに立ち上がり発言をする者がいた。あれは私に宴会の時話しかけて来た馬の獣人だ。
「じゃあ、どうやって戦うんだ!防衛ばかりでは退けることができないぞ!我が軍は住民を守るために命をかける」
「では、ダガー、あなたの仲間が殺されて敵になってもあなたはその仲間を殺せるんですか?」
ダガーと呼ばれた馬の獣人の言葉をムラサメが遮り意見を述べた。
それを聞いたダガーは悔しそうに歯をかみしめ、無念そうに腰を下ろした。
「この戦局を打開するため、私が一人で行こうと思っている」
ムラサメの言葉に皆ざわめいた。
「死ぬ気か!ムラサメ様が強いのは皆知っているが、さすがにあの数は無理だ!」
「誰か護衛を連れていくとかしないと!」
「あなたが行くくらいなら私が」
「そんなの作戦でも何でもないじゃないか!」
突然の無謀なムラサメの提案だ、そうなっておかしくはない。だが、ムラサメは言葉を続けた。
「この軍を操っている者がいるはずです。そいつを叩くことで敵軍は増えることがなくなり、持久戦で残党を排除できると考えてます」
考えとしては悪くない。最悪、犠牲者は一人。それに、隠密行動をするなら少数に限る。かと言って村の防衛もしなくてはならない。
そうなると迅速に対応するために強者が行くべきなのも納得できる。
ただ、セイの実力次第ではムラサメが殺され、この村で統率力のある者はいなくなり、村の防衛どころではなくなるだろう。
「ねえ、敵の…セイの居場所、分かっているの?分からないなら最悪あのアンデッド軍の中を駆け回らないとならないわ。それは体力の消耗が激しすぎるし、時間をかければここが落とされてしまう。その辺はどうなの?」
私の意見にムラサメは私を睨みつけるだけで、何も言葉を返さなかった。どうやら詳細な策は持ち合わせてはいないようだ。
これは助け船を出す必要がありそうである。
「じゃあ、私にアイデアあるんだけど、ちょっと聞いてくれませんか?」
私は城門の外に立っていた。まだ、アンデッドの軍は見えてこない。
アンデッドの欠点に一つに移動速度がある。
動物系アンデッドの中には早いものもいるが、そこに足並みを合わせれば軍はバラバラになり各個撃破されやすくなる。
アンデッドごとに部隊を分けたとしても、手に入るアンデッドの偏りがあるはずなので軍編成はしにくいと思う。
だから、先手必勝!私のシュテルを使った魔法で前面の敵を一掃する。そして、左右と裏手ををここの魔法使い数人と軍で抑えてもらい、そこに私が移動しつつ加勢していく作戦である。
「んじゃ待ってられないので…」
私はエネミーサーチで敵を見つけロックオンをする。
前面に展開されたシュテルに向けてファイヤーボールを放つ。
炎の玉がシュテルをくぐると、荒れ狂う炎のトカゲとなり森ごと焼き払った。
その姿を見ることなく、エネミーサーチの敵を示す光点が一掃される。自分が思う以上の破壊力に我ながら驚く。
「さてと、次!」
生命エネルギーを解放して村の壁を右手にして走り出す。エネミーサーチをしながらなので少し走りにくいが、そんなこと言ってられない。
だが、敵は私の予測を嘲笑うかのように予想外の手を打ってきた。
「どういうことなの!?」
何と、城壁の内側に敵を示す赤い光点が少しずつ増えている!
しかも、城壁の側とかではなく村の中心で増えているのだ!
このまま作戦を続行するか?それとも中に戻って敵を蹴散らすか?迷いにより時間を無駄に消費してしまう。
そんな私に鋭い斬撃が降りかかる。それを咄嗟に見切りよけるものの、刃は私を追ってくる。
「キャキャキャ!やるなダークエルフ!魔法使いにしては惜しい身のこなしだ!」
私は返す刃をギリギリで避けると相手と間合いを取った。
見事な剣捌きで私を攻撃してきたのはボーンナイトであった。
人間の骨格で、武器は黒い刀身の剣を両手で持っている。その剣は禍々しい黒いオーラのようなものを放っていた。
体は全身を覆う漆黒の鎧を身につけており、これからも禍々しいオーラのようなものをはなっていた。
そんなボーンナイトに対峙していると、私の後方からまたもや敵を示す赤い光点が出現し、私にファイアーボールが放たれた。
反応が早くできたので、同じファイアーボールで相手のファイアーボールを打ち消す。
「シャシャシャ!セイ様の配置に狂いはないようですな。このダークエルフ、我ら二人でなければ抑えられない強者のようだ」
笑い声の主は、ジンの情報から照らし合わせるとボーンマジシャンだろう。
人の手が枯れたような形をしている杖を持ち、先端には頭蓋骨が飾られていた。
身につけているローブはボロボロで過ぎて体の骨が所々見えている。薄汚れた布地は元々は空色だった面影をわずかを残し、返り血やすす汚れが酷く見るに耐えない。
「キャキャキャ!しかし、これで退屈な掃討作戦もたのしくなってきた」
剣筋に怪しいオーラの軌跡を残しながら私を攻撃してくるボーンナイト。この剣捌きは高い練度ゆえにできるものだろう。
私が避けようとするところを邪魔するかのように剣を運ぶ。
そこにボーンマジシャンの嫌がらせのような速度低下魔法や攻撃力低下魔法が私を追い詰める。
だが、とはいえそこまで脅威ではない。
なぜなら、この二体が組んでいる理由が戦うことによって理解できたからだ。
確かにこの二体を相手にするのに気は抜けない。
だが、大きな欠点があった。
ボーンナイトが攻撃をしてる間にボーンマジシャンが魔法を使って攻撃をしてくるのだが、ボーンマジシャンが魔法を使うのに「詠唱」を必要としている隙を補うための二体一組と言うわけだ。
「シャシャシャ!いい加減決めないか、この鈍足ボーンナイト!」
しびれを切らしたか、ボーンマジシャンが苛立ちのこもった声でボーンナイトを罵倒する。
「キャキャキャ!うるさい、ボンクラ魔法使い!そう、ボーンだけに!」
…ボーンナイト、氷系魔法に相当するものが使えるのだろうか?なぜか寒さを感じた。
「シャシャシャ!デカイの決めるから時間稼げ、ボーンナイト!」
ボーンマジシャン、デカイの決めるって言ったら不意打ちにならないし、警戒するし、撃たせないように詠唱を妨害してくれと言っているようなものでしょ…。
調子の狂を狂わされる二体が相手だが、時間をかけていられない。
私は生命エネルギーの解放率を上昇させた。
「大地に眠りし大いなる精霊よ、我が名ボーンマジシャンの名において契約を果たすために」
ボーンマジシャンの詠唱は私の高速移動で間合いを詰めながらの回し蹴り「旋風」をまともに食らうことで砕け散り、命と共に強制終了させられた。
「ボーンマジシャン!」
慌てて駆け寄るボーンナイトに構えを取る。
「拳技『大筒』!」
私の放つ拳でボーンナイトの鎧のど真ん中に風穴が開く。背骨の無くなったボーンナイトに体を支えることは出来ず崩れ落ちる。
「キャ…キャキャ。ダークエルフが格闘だと…格闘だけに…モンクがある…」
崩れ去る最後に放った氷系魔法のようなものが少し効いて寒気を感じた気がしたが、気を取り直して私は外周のアンデッド掃討に向かった。
私は外周を走った。
中はムラサメに任せるとして、外の脅威を排除に全力を尽くす。
このペースだと後三十分程度で一周し、敵戦力は激減する。
ただ、セイは見当たらない。やはり中にいるのだろうか?
先程のボーンナイトにボーンマジシャンが急に出現したことも気になる。もしかしてエネミーサーチで見つからない方法があるのかもしれない。
と、なると、城壁の中側に現れた敵の数も見えているそのままを信じるのは危険と言える。
「さっさと片付けて中に戻らないと!」
走りながら魔法で敵を焼き払い、撃ち漏らした敵はぶん殴りどんどん進んでいく。範囲外の敵は少ないのでスルーして先を急ぐ。
時折聞こえる城壁の中からの爆発音が気になるが、エネミーサーチで見ていると敵の数も減ってはいる。ムラサメ達も負けていないのだろう。
そんな私の目の前に斬撃が走った!
私は身を翻し、難なく避ける。
「キャキャキャ!不意打ちでも無理か」
聞き覚えのある笑い声。まさかと思い声の主を確認すると、先程倒したボーンナイトが無傷で立っている。
「キャキャキャ!不意打ちで当たらないと、どうやって足止めするか思いつかないではないか。ナイトだけに、当たらなナイト言うのか?」
…この氷系魔法を使うのも同じだが、さっきの場所からかなり離れている。生き返って瞬間移動でもしてきたということなのだろうか?
冗談じゃない!
改めてボーンナイトに向き直ると後方に危険を感じ、反転し、飛んで来たものを蹴り飛ばした。
「シャシャシャ!ファイアーボールを蹴飛ばすとか化け物か?次は連続で疾風魔法をお見舞いしてやるぞ!」
だから、次の攻撃を先に言えば対策立てやすいから…。
こちらも先程と同じボーンマジシャンのようである。
「あなた達、さっきやられて消えなかった?」
何かヒントでも得られるかと思い疑問を投げかけた。すると、シャシャシャとボーンマジシャンが高らかに笑い声を上げた。
「我らはセイ様のアンデッドの中でも特別だ!魂はセイ様が持っており、例えこの肉体が消えても一定時間で再生して、セイ様が好きな所に召喚できるのだ!」
あ、謎を全部教えてくれた。これはラッキーだが、同時に厄介なのも理解できた。
まあ、これくらいの相手なら瞬殺できる。
地面を蹴りボーンナイトに殴りかかろうとした瞬間、私の視界に横から斬撃が襲ってくるのが見えた。
避けきれないと悟った私は光魔法の盾で腕を守り、その斬撃を受け止める。
吹き飛ばされつつも体勢を整えて斬撃を放った相手を見て驚いてしまった。
「キャキャキャ!今の受け止められるのかよ。ホント、お前ダークエルフなのか?その身のこなし、サルか?もしくは猫か?そう言わザルを得ない動きだな」
どうやらボーンナイトは一体だけしか召喚できないわけではないらしい。森の中から四体のボーンナイト、その後ろから四体のボーンマジシャンが姿を現す。
「数が増えると手間だけど…」
私はシュテルを展開して今度は魔法で光の矢を大量に生み出す。
「ライトニングアロー!」
シュテルを通り抜けたライトニングアローがボーンナイトやボーンマジシャンを追い回し蹂躙する。ちょっとした虐殺のように一方的な攻撃で敵を砕いていく。
まあ、虐殺って言っても死んでる相手だから、破壊なのかな?
ものの数分でそこには灰と化していく骨の山が出来上がっていた。油断しなければなんて事はない相手なのが唯一の救いである。
ただ、時間は浪費している。
エネミーサーチで見ると、まだ掃討できてない所のアンデッド達が城壁のにどんどん近づいている。急がなくてはならない!
私は再び掃討作戦を続けるために駆け出した。
何度目だろうか?
目の前にはボーンナイトとボーンマジシャンが今度は十五体ずつ、合計三十体現れていた。
掃討するアンデッドは残り五分の一。それなのに、足止めを喰らう。
だが、目的が分からない。
私をなぜ足止めしなくてはならないのか?
逆にここまで城壁の外のアンデッドの数を減らされたら、中で指輪の略奪に注力しそうなものではるが…。
考えられるのは、戦力分散くらいだろう。
私が中に合流するのを阻むのなら納得できる。
もしくは私が何か見落としている敵の目的があるか、全く理解できない理由があるかなのだが、今のままでは戦力分散されて無駄に消耗戦をすることになる。
さっさと中に合流して中にいるであろうセイを倒して事態を収束させなければ被害が拡大する一方だ。
「余裕かましてる場合じゃないわね。さっさと終わらせるわ!」
再びシュテルを展開し、ファイヤーボールを放ち敵を一掃する。だが、今回はボーンマジシャンの数がいるので魔法の盾を使われて数の力で防がれてしまった。
「シャシャシャ!数の力は偉大なり!」
まさか完全に防がれるとは思っていなかったので驚きのあまり動きを止めてしまった。
そんな隙を見逃してくれるほど戦場は優しくない。
我に返り避けようとするが、右腕に一撃かすってしまった。
「キャキャキャ!やっと一撃決められたぞ!渾身の一撃をクラッと喰らって死ぬがいい!」
なぜか勝利宣言しているが、この程度はすぐに回復できる。というか、かすり傷で勝利宣言はオーバーでは?
しかし、ボーンナイトの言葉が大袈裟ではないことがすぐにわかった。
切り傷から少しずつ腐敗が広がっている。回復魔法で傷を治そうとするが、回復より腐敗速度が勝り腕に腐敗が広がっていく。
「この剣は『共連れの剣』と呼ばれている。セイ様が作ったアンデッド製造剣だ!切られた者は徐々にアンデッドになっていくのだ!お前は美人だから骨もさぞ美しいだろうなぁ。骨抜きにされそうだ♪そうなると何も残らんか?キャキャキャ!」
必死に回復魔法で腐敗進行を抑制するが、進行速度が遅くなるだけで焼け石に水である。解毒も効かない。まさかのピンチである。
「シャシャシャ。心配するな。セイ様はお優しい方だ。その腐敗は痛みを感じない。気が付けば我らの仲間になっている。獣人族の村の住人も全てアンデッドになる。お前は本当によく戦った。敵ながらその強さに敬服する。もう無理をしなくていい」
言ってることは立派だそうに聞こえるが、強引にアンデッドに引き込んでいく様は奴隷と同じである。
「シャシャシャ!それは呪いゆえに回復魔法は意味を持たん。自分の朽ちていく様を長く見るだけだ。光魔法の解呪系が使えたとしても、かなりのハイレベルでないと解けることはない」
悔しがハイレベルの解呪系魔法は使えない。…この腕を切り落とせば…だが、その腕を再生するには時間がかかる。その間、敵は待ってくれるわけではない。
期待していた生命エネルギー解放率を上げて呪いを解く方法も効果がない。少し腐敗が遅くなるだけだ。
「こうなれば腐敗しきる前にセイを倒すしかないか…」
さて、どうするかな。目の前の方々がそれを許してくれないだろう。一体一体潰していくしかないが…か。
「道に迷って良かったと思う日が来るとは想像しなかったな」
ボーンナイトとボーンマジシャンの群れの後ろから声がする。
「えっ!?」
私は自分の耳を疑った。なぜなら、久々に響く聞き覚えのある声だからだ。
目の前のボーンナイトとボーンマジシャンが瞬く間に砕かれていった。
気が付いたボーンナイトたちが構えるが、雑草を刈るかのように薙ぎ払われて次々に消えていく。
いつの間にか敵は全て砕け散っていた。
「ジール、元気そう…ではないか。久しぶりだな」
私は涙した。
この人は本当に私の憧れの英雄。私の窮地を救ってくれる英雄。本当に惚れてしまいそうである。
少し以前より身長が伸び、胸元が豊かになったように見える。ゆえにその洗練されたプロポーションに磨きがかかったように見える。
その体に不釣り合いなボロボロな安物の麻の薄いボタンの無いシャツと短めのスリットの入っている…いや、破れかけたスカートを履いてる。男性が見たら目のやり場に困りそうだ。
顔はどんなに泥が付いていても清々しく美しい笑顔の前には化粧のように見えてしまう。
そして、これで終わりと言わんばかりに大きなバスターソードを二本、軽く振り地面に突き立てた。
「ウィン様!」
抱き着こうと駆け出すが、自分の腕を見て止まる。もし、他者と触れることで呪いが移る可能性もあると思い触れることを止めた。
「どうした、その腕は?痛そうだな。回復しないのか?」
私は自分の事情を説明した。
するとウィン様は私の腐敗した手をじっと見るとウィン様の愛刀ツインバスターソードを振り上げた。
「腕を切るぞ。腕を出せ」
分かっている。それが早いことは。でも…怖いのは怖い。
私が腕を上げずに震えているとウィン様が私に穏やかな声で、まるで諭すように言った。
「大丈夫。私を信じて欲しい」
迷っている間にもエネミーサーチの光点は城壁内で少しずつ、だが着実に増えている。
これは私のように切られた獣人がアンデッドになっている可能性が高い。
時間が惜しい。
真剣な眼差しを向けるウィン様を信じて、私は覚悟を決め震える右腕を真横にに上げてキュっと目を閉じた。




