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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第四章 獣人族の女の子編
53/80

五十二 獣人族の長

ファング大森林には大きな問題もなくたどり着いた。


ジンの案内があったのもあるが、順調すぎた。


森に着くまでに特殊特攻隊に出会わなかったので、特殊特攻隊はかなり先を進んでいるかもしれない。


獣人族の村が滅ぼされていなければいいけど…。


もし戦闘になったら私の知ってる知識とルージュの話す獣人族の戦闘スタイルから推測すると、獣人族とアンデッドでは相性が悪い。獣人族では勝てない。


獣人族は魔法より優れた身体能力を生かした直接攻撃を得意としている。


それゆえに、その身体能力に驚かない、多少のダメージでは侵攻を止めないアンデッドは魔法が使えないと体力の消費が激しくなり、戦士や剣士だけでは押し負ける。


仮に魔法が使える者がいたとしても、少数のアンデッドなら倒せるだろうけど、ある程度頭数いる場合は範囲攻撃できないのなら戦士と変わらない。


森の入口でジンと別れた後、私はできるだけ先を急いだ。


ルージュもさすが獣人族だけあって森の移動は私に劣ることなく付いてきてくれるので、湿地帯の遅さがウソのように進んでいく。


しかし、ファング大森林は広大で、半日ほとんど休まず進んでも景色はあまり変わらない。


それに、ルージュが何度も周囲を探索してくれたが反応が良くない。見つからないみたいだ。


本人曰く、獣人族はお互い近くにいると臭いと直感的なもので分かるとの事だが、それも広範囲で分かるわけではないようだ。


だが、仮にある程度広範囲に臭い探索ができたとしてもファング大森林は広大である。未だ、正確な地図ができない世界においては無限に広がる森と言っても過言ではない。


地道に探すには広すぎる。長寿のエルフである私なら暇つぶしだとしたら可能だが…。


「ルージュ、何か手がかりとかないかな?さすがにこの森をやみくもの探すのは時間がかかり過ぎるわ」


私の言葉で考えるルージュだが、眉をハの字にするだけで答えは出てこなかった。


「獣人族とは言え水は飲むわけだし、水場を探してみるかな?ルージュの村も川が近かったし」


とは言え川はまだ見つけてない。自分たちのためにも飲み水確保のために川を見つけておきたい。


その点、アンデッド部隊はセイの食料や飲み水さえしっかり確保していれば何日でも探索はできる。上手く考えたものである。


「そうとも限らないかな。獣人族の中には遊牧したりする者もいるから、定住するかどうかはそこの長しだいだろうし」


ルージュの答えは私を悩ませた。


手掛かり無しにこんな広大な森の中の獣人族を探すなど、不可能じゃないのだろうか?まあ、だから文献が少なかったり、目撃情報も無いのだろうけどね。


「せめて獣人族同士でしか分からない目印みたいなのがあればいいんだけどね」


何気ない私の一言にルージュが「あーっ!」と大声を上げた。


「どうしたの?」


するとルージュは私にバツの悪そうな顔をした。


「あのね、あるんだ、獣人族しか分からない目印みたいなもの…」


あー、つまり忘れてたんですね。まあ、数日歩いた後じゃないので許すとしよう。


「どんな方法なの?」


胸を張って「任せて♪」と意気揚々と準備を始めるルージュ。私には分からない草や葉っぱをせっせと集め始めた。


「もう少し準備に時間かかるから、ジールは少し休憩てくれていいよ」


ニコニコしながら言ってくれるルージュだが、私はその間、周囲の探索をしておこうと思った。


水の確保も食料の確保もできていない状態で夜を迎えるのはさすがに避けたい。


少し昼が過ぎていて日没まであまり時間はないが、最悪食料だけでも確保したいところである。


だが、私の心配もすぐに払拭された。


目の前に子鹿が現われたのだ。このサイズなら二人で食べても残るし、保存食も少し作れる。これはラッキーである。今晩は少し豪華な夕食となりそうだ。


私は心の中で森の恵みに感謝しながら子鹿を仕留めた。ナイフで手早く血抜きを済ませてルージュの元へと戻った。


しかし、そこで私は持って帰った子鹿を思わず落としてしまった。


「お帰りジール。あー!子鹿いたの!?今晩は豪華な」


ルージュの言葉が終わる前に私は急いでルージュの燃やしてる木の実や葉っぱに向けて水魔法のウォーターガンを放ち消した。


「ルージュ!それはダメ!」


消された火の近くにいたため、私のウォーターガンの水を被ったルージュが悲しそうな顔で私を見てきた。


「どうして…」


「昼間に火を焚いたらそこに人がいると言ってるようなものでしょ!それって、近くにオジオン兵がいた場合、煙を見つけたら偵察しにくるでしょ!」


泣きそうなルージュには悪いが、慰めている暇はない。私は早速索敵を始める。


子鹿のラッキーがあったせいなのか分からないが、運悪く、こちらに二人?二匹?何かが向かってきている。


「二つ、何かこっちに来るわ。戦闘準備しといて」


私のエネミーサーチの魔法は具体的に何が近寄ってきているかまでは判別できない。だが、周囲の生体反応や移動してくるもの…例えば高速で投げられた石や放たれた矢などもわかる。


だから、この動きの早さは生き物というとこまでは分かる。


そこまで早くないので徒歩かもしれない。同じ方向で同じ速度で向かっている。


相手も警戒しつつこちらを目指してると考えていいだろう。


そして、五メートルくらい先の木の影で動きを止めた。姿は見えない。


オジオン兵なら捕まえて、どこに本体がどこにいるかを問い詰める。そうじゃない時は、相手次第でその時考えよう。


「出てきなさい!そこにいるのはわかってるわ!」


私の声に返事は無かった。私のエネミーサーチで見ると、一つの反応が左に回り込んでいた。挟み込んで攻撃するのだろう。


もしかして、と思い広範囲も探ってみるが、増援のようなものは半径1キロメートル以内にはいない。


これは偵察なのか、違うのか、正直まだ分からない。


だが、敵の気配に気がついたのか、ルージュも戦闘の構えを取っている。戦力としてあてにしてはいないが、油断しているよりはいい。


「じゃあ、こっちから行くわ」


私は生命エネルギーを解放して、何者かが隠れている木に蹴りを入れた。私の体より大きな大木が蹴りを当てた所から倒れた。


「マジかよ!」


何者かは慌てて飛び退いた。その姿は私よりも大きな体をしていたが、すぐさま次の木に隠れてしまった。


あまり派手なことはしたくない。


さっき焚き火の煙を注意したのに、これでは私がこの場所を他の者に教えているようなものである。


その時、そんな私に背後から何か飛んできた。先程回り込んだ者からの攻撃であろう。


私はその攻撃を即座に避け、飛んできたものを掴んだ。


「ナイフ?」


決して珍しくない鉄製のナイフ。だが、そのナイフの持ち手に彫られた言葉は見たことがない。何語だろうか?


ナイフに気を取られていると先程木の影に隠れた者が私の背後に飛び出してきていた。


ウサギの耳!?


「この森から出ていけ!」


ウサギの振りかぶった棍棒が私めがけて振り下ろされた。


その動きは早かったが、私には余裕で見切れる早さなので持ち手に蹴りのオマケをプレゼントした。


ウサギは痛みで棍棒を手放しうずくまった。


「ツキ!」


先程ナイフを投げた者から心配そうな声が飛んだ。どうやら…ルージュの焚き火は効果があったようだ。


目の前のウサギは獣人。ウサギの耳をして体の所々に白い毛を生やした女性の獣人である。カワイイ尻尾はちょっと触ってみたいかも。


比較的軽装で、胸当てと腰巻きにブーツ。シンプルだが、どれも手入れがされているようで、腰巻きのベルト部分に花の刺繍がされていたのはちょっとオシャレポイントだと思った。


さすが獣人とは言え女性らしさを感じさせる。


ただ、こういう格好に似た女性を昔、師匠と旅したときに酒場で見たことある気がするのは気のせいだろうか?


「グラス、逃げろ!こいつ、強いぞ!」


どうやら隠れているもう一人はグラスと言うようだ。声からして男性だろう。


「お前、見捨てて、逃げられない」


そう言うと後ろからゆっくり茂みから出てきたのは熊の獣人であった。


私の倍近い縦と横の大きさで、ベスト、腰ベルトにナイフを数本装備している。どうやら、この巨体に似合わず器用にナイフを投げるのが得意なのだろう。


ツキの持っていたこん棒を振り回した方が強そうな気もするが、そこは触れないでおこう。


黙って立っているグラスに威圧されそうだが、敵意が無いので私は構えを解いた。


「熊の獣人、初めて見た…」


ルージュのつぶやきにツキとグラスが声を合わせて「獣人!?」と叫んだ。ここでやっとルージュの存在に気が付いたようだが…てか気付くの遅いでしょ。


「なるほど。だから『ナスカの焚火』、してたのか。てっきり村の者、何かあったかと、心配した」


大きな体でため息をつくグラス。私は近くにいたのでため息で髪が少しなびく。


「で、ここに何の用だ?…てかお前、ダークエルフなのか!?」


驚くツキ。何でこんなに鈍いんだろうか?獣人って天然なのかな?


彼らのペースに合わせていると話がややこしくなると思ったので、私はとりあえず事情を説明した。すると、グラスとツキは二人して困った顔をした。


「それで?お前らが指輪を守ってくれるのか?村長は最強の獣人拳の使い手だぞ。負けるわけないよ」


得意げに言うツキ。同意をするグラス。やはり獣人は天然なのかもしれない。


「格闘が得意なら余計に問題ね。相手はアンデッド部隊なのよ。格闘は相性が悪いのよ」


私の説明が悪いというより「アンデッド部隊?」と首を傾げた二人を見てアンデッドの知識がないのが分かった。


アンデッドについて説明するものの「死んだ者が生き返るなんてないない」と笑われてしまった。


「お前面白いな。そっちの獣人にも話が聞きたいから村に案内するよ。グラス、その子鹿、持ってあげな。私たちのと合わせて三匹だから村で歓迎の宴会しようぜ♪」


「宴会、楽しみ♪」


何だか知らないが、私の子鹿も持ってくれたのは良いが、これから敵が攻めてくるかもしれないのに宴会とか…ホント獣人の危機管理能力は大丈夫なのだろうか?


私はルージュを見る。ルージュですら、二人の行動に苦笑いをしている。これは地域性なのか、長次第なのかは分からない。


だた、とりあえずの目標は達成できたので良しとしよう。





ツキとグラスはとても速かった。森を平地のごとく駆け抜けていく。さすがの私とルージュもついていくのがやっとである。


そんな速度で二時間、少し開けたところに着いた。


思わず私は「ウソでしょ!?」と言ってしまった。


一言で言えば城塞都市。


城らしき建物を中心に石造りの建物が多数放射状に広がっており、一番外は城を中心に円形状に城壁が数メートルの高さで街全体を囲むように作られていた。


ツキとグラスは城壁の門番に軽く挨拶をすると私たちを城壁の中に案内してくれた。


街は活気づいており、様々な獣人たちが商売したり、建物を作っていたり、道端で話し込んでいたりと下手な人間の街より繁栄していることに驚かされる。


「どうだ?ここを攻めてきても負ける気しないだろ?」


ツキとグラスが慌てないのも分かる気がする。これならもしかしてセイが攻めてきても返り討ちにできそうだ。


「ここの長を筆頭にして結成している自警団は強いんだぜ!な、グラス」


「そう。長、負けたことない」


自分事のように自慢するツキとグラス。それだけこの…村?そう言えばここを二人は村と言っていた。村には見えないが、なぜ村と呼ぶのだろうか?


「ここ、村と言うより城塞都市と思うんだけど、どうして村って言うの?」


私の疑問をツキが答えてくれた。


この城塞都市はこの都市部分が城の表半分を占めているが、城の裏手は農地が広がっており、その辺りに住んでいるので「村」と呼んでいるとのこと。


逆に城の表側に住んでいる者は住んでいる場所を「街」と言うらしい。


だからと言って貧富で分けられているのではなく、職業で住むところを分けているだけあり、村にいても裕福な者はいると説明してくれた。


ゆえに、小さなケンカはあっても、獣人同士の間に大きな社会問題は無く、平和なものらしい。今の長は政治的な手腕もかなり凄いようだ。


「あー、長に会う?内容が内容だし」


ツキはまるで友達に会わせるかのように気軽に聞いてくる。願ってもないことだが、そんなに簡単に会えるのだろうか?


「そうしてもらえると助かるけど…そんなに簡単に会えるの?」


さすがにこの規模の街の長に簡単に会えるとは思わない。数日待つのは仕方ないが、セイが攻めてくることだけは早めに伝えておかなくてはならない。


「んじゃ村に行く前に寄って行こうか」


ツキとグラスはまるで自分の家に入るかのように城の門を守る兵士に「こんちわー」と軽い挨拶をしてくぐる。


そんな二人に対して私とルージュは逆に緊張気味に城の門をくぐる。


二人はなぜか門をくぐると正面ではなく、城の横にある庭園らしきところへと向かっていく。


そこは実に手入れがされている美しい庭園が広がっていた。


木の葉ひとつ落ちてないのも凄いのだが、低い植木は庭園を囲むように綺麗に角を出して切り揃えられており、他の少し高い木は…ウサギ?だろうか?他にも熊や猫などの形に切り揃えられており、それだけで見てて楽しい。


花壇は見事に咲き誇り、赤、黄、白の花が色別に植え分けられていた。


それもよく見ると、何かの絵のように見える。かなりの凝りようである。


今も麦わら帽子に動きやすい麻の服を着た庭師によって整えられている最中であった。


「やっぱこの時間だとここか」


ツキはスキップしながら庭師の後ろまで近寄ると嬉しそうに話しかけた。


「あ、長ぁー♪子鹿取ってきたから今晩宴会しない?後、客人が話あるってー」


話しかけられた庭師が麦わら帽子を脱ぎツキに頭を下げた。


「誘ってくれてありがとう、ツキ。では今晩は私もラム酒を出そう。十日ぶりだから楽しい宴会になりそうだな」


私は話に追いつけていなかった。


この庭師さんが長?しかもツキに頭を下げている?


見た目は狼が二足歩行している感じである。銀色の毛並みは日に当たって輝いて見えて少し神々しさすら感じてしまう。


だが、鎌を持つ手は五本の指があり、腕は人間に近い形状をしている。細くしなやかそうだが、無駄がない筋肉が付いており、さしずめ肉体労働者のような自然と発達した筋肉のようである。


足はブーツを履いており、こちらも人間の足の作りに似ている。こちらは先ほどの腕とは違って、がっしりとした太ももが付いている。きっとこの太ももは俊敏な動きを生み出すことだろう。


しかし、私が最も目を引いたのはその瞳であった。


黄金色。


しかもこの瞳、意図的なのか自然なのか分からないが威圧されているように感じた。その証拠にルージュが硬直している。尻尾も垂れ下がり、怯えを表情に出していないものの、何度も生唾を飲む音が私には聞こえている。


「あぁ、失礼しました。あなたがツキの言っていたお客人ですね?始めまして、私はここで長をしているムラサメと申します」


私に歩み寄るとムラサメは深々と頭を下げた。私も慌てて頭を下げる。


「わ、私はジールと言います。で、こっちが」


「ルージュですね?臭いで分かりました。大きくなりましたね」


今度はルージュの方に歩み寄ると優しく抱きしめた。


ルージュも抱きしめられた瞬間はビクッと硬直したが、ムラサメの臭いを嗅ぐと急に強く抱きしめ返す。


私には理由が分からかったが、ルージュがいきなり大粒の涙を流して泣き出した。


「ムー兄ちゃんだ!ムー兄ちゃん、生きていたんだ!」


大声で泣くルージュに私とツキ、グラスは置いて行かれたが、ムラサメも目に光るものが見えたので、二人をしばらくそのままにしてあげることにした。


少なくとも、村を滅ぼされて孤独だったルージュに知り合いがいたというのはきっと何より嬉しい事のはず。


少し日が傾きかけた時間、ルージュはムラサメの名を何度も呼び、迷子の子供が母親と再会したかのように離さなかった。


ムラサメはそれを何も言わず、ずっと抱きしめ頭を優しく撫でてあげたのだった。

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