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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第四章 獣人族の女の子編
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四十八 ワタシと私

とても温かくて安らぐ。


そんな、まだこのまま眠っていたい気分から目覚める。


私は記憶の糸をたぐる。


私は確かティゴに服を脱ぐように言われ、ベッドに横になって…すると、ティゴも服を脱いで、私を抱き寄せていた…。


そう、私は耳を全裸のティゴの…まだ発達していない胸に当てたいた。


ティゴの胸から心臓の鼓動がしっかり聞こえてくる。


全裸だからこそ、私の肌とあらゆる部分が触れ合っており、温かく、安らいで、もう一度眠りに落ちそうであった。


だが、目覚めたティゴが這うようにして私から距離を取った。離れることにより、あの安らぎをもたらしたぬくもりは消えた。


何事かとティゴを見ると顔が耳まで真っ赤になっており、息も絶え絶え、体は汗ばんでいた。


「お、お、お、お前!あれはどういうことだ!わ、私は危うくお前の魔の手に堕とされるかと思ったぞ!」


何のことだがさっぱり分からない…いや、待てよ?


心当たりは…あった。


改めてティゴの治療を思い出して、頭を抱えるのであった。




あれはティゴの治療を始めて、ティゴと私の心を共有する空間にお互いの意識が入った時の事だった。


私はこの景色に見覚えがある。それが最初に浮かんだ感想だった。


ここは「ワタシ」と話をした場所に似ている。


無限に広がると思える真っ白な空間。だが、足は大地らしきものをしっかり踏みしめることができる。


何も無い空間。ここは本当に心の共有空間なのだろうか?


私が思い悩んでいると、それはすぐに解決した。


私に声をかけてきた者がいた。ティゴである。


ティゴは私が最後に見た姿のままであった。まあ、私も全裸なのでお風呂に来た気分にもなる。


「どうやら第一段階は成功だな」


その言葉を聞き、少しホッとする。


ただ、少し妙な感覚を感じる。この感覚に覚えがある。


(あら、こんな所で女の子とデートだなんて…ホント、オ・モ・シ・ロ・イじゃない♡)


あの声だ。ただ、私にしか聞こえてないようで、ティゴは私に近寄り、私の手に触れた。


だが、その感覚はぼんやりとしていた。手で触られたのに、まるで私の手に分厚い手袋があるように鈍く触られた感覚が伝わる。


「ここではこのように感覚が鈍くなる。怖がらなくてもいい。これを知らないとパニックになる場合があるので、それを伝えるために今はあえて触っている」


ティゴの説明で理由が分かり落ち着くも、またもや声がする。


(真面目な顔のティゴはよく見るけど、ちょっとイタズラして子供らしい顔とか見たくない?)


そんなことに興味があるわけない。別にティゴは真面目な顔してても可愛いし、今、私のために治療をしてくれているのだ。イタズラ何でとんでもない。


と、思っていた「ワタシ」は不意にティゴの耳元に顔を近づけた。


「落ち着いたわ、ティゴ。ア・リ・ガ・ト・ウ♡」


ワタシはティゴの耳にフーッと軽く息を吹き掛けた。驚きの表情のティゴの目線が私の目線としっかり合った。


「なっ!?何をするんだ、こ、こ、この変態!」


乱れた呼吸を必死に整えようとするティゴ。


ただ、動揺しているティゴ…何かカ・ワ・イ・イ♡


だが、ティゴはすぐさま真面目な…いや、警戒をしてワタシを見ている。


「お前…何者だ?私の魔力を簡単に上書きして自分の情報を挿入するなんて…私の知っているジールでは不可能だ」


ワタシの知ってるジールじゃない?私は…ワタシなんだけど…ティゴってホントにオ・モ・シ・ロ・イ♪


ゆっくりとティゴに歩み寄る。するとティゴは歩み寄った分後ずさりする。一定の距離を保って…しかも何か魔法を使えるように構えている。


だが、そんな距離は意味を持たない。ここにいるのは実態ではない。言わばイメージ。だがら、こんなイメージをすれば、またティゴの驚く顔を見れる。


「どこだ!?」


ティゴは目の前から消えたワタシを追うが、すでに目の前にはいなかった。ワタシはそっとティゴの横に立ち、耳たぶをワタシの唇で軽く包んであげた。


「ひゃぁ!?」


慌てて離れて耳を押さえるティゴ。再び乱れた呼吸を整えようと必死になり顔がどうようしたまま固まっている。


「逃げなくていいのに、ティゴとワタシの仲じゃない♪」


「お前!み、耳の感度上げただろ!ここはそういう遊びをするために作った場所じゃないぞ!!」


ちょっと獲物を追い詰めて遊ぶ猫の気持ちが分かった気がする。慌てる姿がとてもワタシの脳髄にカ・イ・カ・ンを運んできた。


「分かってる。ワタシを治療してくれるんでしょ?でもね、見当違いかもよ?」


今、私は自分の意志で話しているようで何だか言葉が体の奥から出てくるようで自分でもよく分からない気分である。


「ワタシばかり治療でお話するのもつまらないから、ティゴのこともオ・シ・エ・テ♪」


そっとティゴの後ろから優しく体を沿わせて両腕を回す。


固まるティゴ。


だが、ここでティゴのプロ意識を感じた。


「分かった。だが、治療に協力してくれ」


もっと動揺した言葉を漏らすかと思ったのに、そこには一人の医師として患者に向き合う凛々しいティゴがいた。


「じゃあね、どうしてティゴはそんなに生意気なの?天才だからかな?オ・シ・エ・テ♪」


わざと挑発とも取れる聞き方をする。なぜそうするか?それはもちろんティゴとア・ソ・ビ・タ・イからである。


「そんなことか。答えるから、ちゃんと治療に協力しろよ」


素直に答えるティゴ。挑発には乗らなかったのは予想外ではあったが、それはそれでカワイイ。何とかしてまた楽しくオ・ハ・ナ・シしたいじゃない♪


「私は天才と言われるオジオンの兵器開発の主任の父と、魔法兵器開発の第一人者だった母の子供として育ってきた」


さらりと爆弾発言のティゴ。逆にワタシが度肝を抜かれた。これはこのまま聞いててよいのだろうか?と思ったのだが…楽しそうだから、このままキ・イ・チャ・オ♪


「二人は私が『娘』である事に落胆した。息子が欲しかったんだな。まあ、その後無事息子が生まれたんだがな」


よっこらしょと年不相応な掛け声とともに座るティゴ。ワタシもその横にそっと座る。


「だが、私にも弟にも両親は鬼のような教育を施した。二歳から私は寝る以外は魔法学や魔力の実技、一般教養の果てまで…まさしく詰め込まれたよ」


ため息を一つ漏らすティゴ。その横顔は今まで見たことないくらいに虚無感がにじみ出ていた。


「おかげで五歳でゴッドキラーになれるほどの魔力コントロールと魔法を使えるようになった。まあ、引き換えに両親と激しい言い合いは日常茶飯事だった。まだまともな言葉を話せないクセにな。それが原因だ。言い負けるとそこからまた詰め込み教育が再開された。言い合いしている時だけが…両親とコミュニケーションを取っている満たされた時間だったからな」


気が付くと私はティゴをぎゅっと抱きしめていた。最初は暴れていたティゴも、先ほどのイタズラとは違うと気付くと抵抗を止め、そのまま抱きしめられていた。


「同情なんかしなくていい。お陰で面白い経験ができている。何でも悪い事ばかりじゃないってことだな」


最後の言葉はワタシにではなく、自分にい聞かせているようにも聞こえた。


「さて、私の話はしたぞ。では協力してもらおうか」


抱きしめていた私を真面目な顔で見つめてくるティゴに対して思ったのは、女の子なのに実に男前でカッコイイであった。


不覚にも少しキュンときてしまった。


そのうち、どうして医者をしてるかも聞いてみたいものである。


「協力って…原因はリッツの洗脳じゃないから、もしかしたらティゴの治療は使えないかもしれないのよね」


自分の中に浮かんだ言葉を言った私が一番驚いていた。


「どういうことだ?具体的に説明しろ」


いつもなら声を荒げたり、詰め寄るだろうティゴが冷静な口調で私に問いかける。


と言われても私にはさぱり分からなくて…いや、本当にそうだろうか?


また、自分の心に身を任せてみることにした。私もワタシに話を聞きたいし、話してほしかった。ワタシとは何者なのかが知りたくなった。


「また、耳に息吹きかけていいなら教えてア・ゲ・ル♪」


そう言い終わると本人の許可も得ず、そっと近寄りまたティゴの耳に息をフーッと吹きかける。「はうっ!?」と変な声を出しまたもや顔を真っ赤にするティゴ。


今度はティゴなりに我慢しているのか、息を吹きかけられた耳を押さえつつ、はぁはぁ言いつつも、逃げたりはしなかった。


「我慢できたゴ・ホ・ウ・ビよ♪」


椅子らしきものを召喚してワタシは腰を掛けた。すると、その座った姿を私は…全身を見れている。


そう、私の目の前にジールが…座っているのだ。


だが、私は自分の手を見ることもできるし、動かすこともできる。


「焦るな、私がアイツを分離した。こういうことをするために…自分と対話できるようにするために分離できるんだ。とりあえず正体が分かるまでアイツはアルファと呼ぶことにする」


私は初めてワタシを…アルファを見た。


同じ私のはずなのに大きな違いがある。


瞳が、ルビーを思わせるキレイな赤い瞳。私の青い瞳とは違う。


だが、つい魅入ってしまう。


「一応初めましてでいいのかな、ジールチャン♪」


自分で言うのも変な話だが、淫らな空気を感じる。


「あなた…本当に私なの?」


分かっている。あれは初めて生命エネルギーを初めてコントロールできる限界を超えたときに現れた私。何となく否定してきた存在。


「あら、ジールチャンにワタシ、敵意持たれてるみたいね。ワタシはジールチャン、ダ・イ・ス・キなんだけどな♪」


思わず身構えた。


あれは…敵。私に危害を加える敵だと感じた。


そんな私をティゴは手で制した。


「おい、アルファ。お前は何者だ?教えて欲しい」


足を組んで手で唇を触りながら前のめりになるアルファ。その顔は嬉しそうに口角を上げ「うふふ」と吐息のような声を漏らす。


「ジールチャン、あなたはワタシが何だか分かる?当ててホ・シ・イなぁ~♪」


アルファは立ち上がるとティゴをさらりと避けて私の前にやって来た。


何も言わずにニコニコしているアルファ。そんな彼女の瞳を見ていると自分の意識がアルファに持って行かれそうになる。


「お、おい、離れろ」


小さな体を私とアルファの間に滑り込ませ、立ちはだかるティゴ。そんなティゴの頭をアルファは優しく撫でる。


「大丈夫よ、ティゴ。ワタシは別にジールに悪さする気は無いわ。その証拠に一つ良いこと教えてア・ゲ・ル♪」


唐突にアルファはティゴの頬にキスをしていたずらっ気たっぷりな笑顔を私たちに見せる。まるでつかみどころがない。


「ジールの恐怖の原因はリッツじゃなくワ・タ・シなの♪」


素直にその言葉を受け取るならアルファは私の敵、ということなのだろうか?だが、先ほどから全く敵意を感じない。今の現状に私の頭は追いついていない。


「リッツが私を自由にしたトリガーなのは間違いないんだけど、ジールチャンが恐怖する原因ではないのよ。ジールチャンは私に恐怖しているだけ。リッツの洗脳行為や記憶をワタシへの恐怖とすり替えてるだけなのよ」


恐怖のすり替え?アルファが恐怖の根源?じゃあアルファって何者!?


「恐怖の原因と言っている意味が分からない。教えてくれないか?」


動揺している私に代わり、しっかりとした口調で質問をするティゴが、とてもたくましく見える。


そんな私の気持ちを察してなのか、アルファはクスクス笑いながら私を子供が疑問を抱くような眼差しで見てくる。


「ねえ、どうしてジールチャンには分からないのかな?自分のことなのにね」


再び何もない地面から椅子らしきものを出して、アルファはそこにゆっくりとした動作で座り、私をじっと見つめてきた。


あの赤い瞳の視線は見られていると心の中に刺さる。


「もしかして…本当はワタシのこと、知るのがコワイんじゃない?」


生唾を飲み込む。


何も言い返せない。


何だろうか?アルファの言う事は決して強い口調でもなく、キツイ言葉も使ってない。


でも、アルファの正体を知るのがとても怖いのは…当たっている。


「あら?もしかして動けなくなったのかしら?ホント、ジールチャンってカ・ワ・イ・イ♡」


そんなアルファを気に留めることなくティゴが私に言ってきた。


「惑わされるな。もしかしたらあれは悪魔かもしれないからな。お前が憑りつかれていた可能性もあるからな」


だが、そのティゴの言葉が気に入らなかったのか、アルファの頬がぷっくり膨れた。


「失礼ね。悪魔だなんて。まあ、ある意味合ってるからいいけどね」


「合っているの!?」


間髪入れずに私は思った言葉を口に出した。


「そこについては…師匠にでも聞いてみたらいいんじゃない?きっとオ・モ・シ・ロ・イと思うわよ♪」


「ちょっと待って!私は悪魔ってことなの!?いや、私はエルフでしょ!?悪魔特有の赤い瞳じゃない…わ…」


言いかけて目の前のアルファの瞳が目に映る。


赤い瞳。


あれは私。


まさか本当に…私は悪魔…なの?


「アルファ、それなら聞きたいんだが、ジールは普段エルフ特有の青い瞳だ。悪魔は常に赤い瞳だろ?そこはどう説明する?」


そうだ。ティゴの言う通りだ。悪魔は瞳の色をころころ変えることは無い。師匠や師範は常に人前に出るとき以外は常に赤い瞳であった。あれも、自分たちで無用なトラブルうを避けるために変えてあるもの。無意識で色が変わっているわけではない。


「さぁ?ワタシも詳しく知らないのよね、瞳については。まあ、どう思うかはジールチャン次第なんじゃない?」


話に飽きて来たのか、アルファはあくびをして体を伸ばすと立ち上がった。


「もういいんじゃない?ワタシはどっちでもいいんだもの。ジールチャンが私が何なのかを理解しようが理解すまいがワタシはワタシだもの。なんかジールチャン苦しそうだからもうやめてあげたら?」


アルファはティゴの頬を両手でむにむに触りだした。「柔らかいね♪」と上機嫌なアルファはまたティゴの耳に息を吹きかけ焦るティゴを見て喜んでいた。


そんなアルファを見ていてあることに気が付いた。


アルファは…私より強い。


彼女は敵意こそ見せてないが、ティゴにどんどん感覚を与えている。


柔らかさを堪能しているアルファにティゴはイヤそうな表情をしていた。


つまり、何らかの感覚をティゴに感じさせるために魔力を使い、この世界の情報を書き換えたということになる。


私は試しに魔力を使おうと試みたが、まるで魔力が反応しなかった。つまり、私の魔力は…いや、私の魔力の根源はきっと…アルファなのである。


「あら、気が付いたの、ジールチャン。でも、不思議よね。どうして自分の魔力に恐怖するのかしらね?」


そう、そこである。


普段魔法を使う時に恐怖を感じたことは無い。だが、魔力の根源と思えるアルファには恐怖を感じる。そこにある「差」は何なのだろうか?


「早く答えにたどり着かないと、ティゴに色んな感覚与えて…ワタシのト・リ・コにしちゃうわよ♡」


…それ、脅しになっているのだろうか?


いや、ティゴが目で「なんとかしろ」と訴えかけている。でも、その表情には少し快感を感じているように見えているのは気のせいだろうか?


「そう思うでしょ?それにティゴ、カワイイからついイ・ジ・ワ・ルしたくなるのよね♪」


「おい!ジール、真面目に助けろ!アルファ、やめりょ、頬をそれいじょおぉ、むにむにすりゅな!」


えっと…仲の良い姉妹のじゃれ合い?に見えてきたが、それを温かく見守っていては根本的な解決にはならない。


それにしても、あまりティゴをいじめてあげないで欲しいので、その辺でやめて欲しいと思うが、アルファの頬へのむにむには止まらない。


その姿を見てある一つの疑問がわいてきた。


「ねえ、アルファ。あなたが私の魔力なら、どうしてあなたは私の思い通りにならないの?」


そう、さっきから不思議に思っていた。


私は魔法を使える。


と言うことは魔力を制御できているはず。なのに、アルファは私の意志とは無関係に自由奔放にしている。


なぜだろうか?


「いいところに目を付けたんじゃない、ジールチャン♪早く解決しないと、今度はお腹のぷにぷに堪能しちゃうから♪」


「いや、どうしてそうなる、アルファ!」


逃げようとするティゴをしっかり抱きしめて離さないアルファ。実に微笑ましい…いや、ティゴのピンチである。


叫ぶティゴをスルーして、再び考える。


制御できないということは、自分ではなく魔力に意志があり、普段は魔力が私に魔力を貸してくれていると考えるのが自然かもしれない。


となると、この魔力は私の中のもう一人の私と言うことになる。


一人の人間に意志が複数存在するのだろうか?


それだと意見の食い違いも生まれるだろうし、そうなると魔力が制限、もしくは使えなくなるはずだが、そのようなことは起きたことは無い。


どちらかと言うと、アルファは私に対して好意的に感じる。


今もティゴにイタズラをしているものの、ティゴの身体に危害を加えるようなことはしていない。


まあ、ティゴの精神的なダメージはあるかもしれないけどね。


「そうよ。ワタシはジールチャン大好きよ♪ゆえに、あなたを守りたいって気持ちもあるわけなの♪」


そうだ、アルファは確かに私を守ってくれている。


生命エネルギー限界値の時やリッツの時、私のピンチの時に現れてくれた。


では、私に恐怖を与えて、何から私を守ってくれようとしてるのだろうか?


「ホントは答えを教えてもいいんだけどね、心の準備が出来てない状態で教えたら…ジールチャン、壊れちゃいそうダ・カ・ラ・ネ。自分で気が付いて欲しいわけ♪」


つまり、恐怖によって私が踏み込んではいけないところに来ないようにしてくれているということ?でも、それならなぜ急に?一人で洞窟暮らししているときは何もなかったのに…。


「それはジールチャンが前に進んだからよ。進むってことは見たくない、知りたくないことに踏み込まなきゃならないでしょ?その時、あまりにもキツイことなら…踏み込ませてあげないようにするのもヤ・サ・シ・サでしょ?」


踏み込ませない?


今の会話からすると、アルファは知っているが、私が知らない何かがある、そういう事なのだろうか?


「その通り。一つだけ、忠告してあげるわ」


アルファの赤い目が真剣な眼差しを私に向けた。


「踏み込むならワタシは止めない。まあ、その見返りがないわけでもないからね。ただ…耐えられるかな、ジールチャンが」


外されることない眼差しに私の思考が止まる。目が合った私は背筋に冷や水をかけられた感覚に襲われた。


これはいつも感じる恐怖。私が我を忘れそうになる震えがくる恐怖。感じたくない恐怖。


ハッキリした。リッツの洗脳行為は私の心や思考に今、影響を及ぼしてない。本当に恐怖の原因を作り出しているのは…アルファだ。


「私はどちらでもいいのよ。ジールチャンがこのまま帰っても、踏み込んでもね。ただ、ワタシは別にジールチャンに嫌われたいわけじゃない。だから、ジールチャンが取る行動をワタシは支持するわ」


スッとおどけた顔に戻るアルファ。その間もティゴを抱きしめお腹をぷにぷにしている。


「でも、踏み込ませることがジールチャンにはマイナスと思うから私は恐怖で壁を作ってあげたの。その恐怖を乗り越えられない時点でやめた方がいいと思うわ」


この恐怖の先に何があるというのだろうか?そもそもその恐怖の先に行くとして、そのメリットはあるのだろうか?


「メリット、無いわけじゃないのよ。ただ、ジールチャンがメリットと感じるかどうかは分からないから、リスクに合わないのよね」


リスクに見合わない?そんなに大きなリスクがその先にあるのだろうか?それは本当に踏み込んでいいものなのだろうか?


迷う私にあえて触れず、アルファは話を続けてる。


「ジールチャン、あなたはこれから何をする気なの?もし、もう平穏な日々を望むなら、イアランと一緒になって、イアランに守ってもらいながら生きてくことをオ・ス・ス・メするわ。そうすればこの恐怖に触れずに生きていける。それは決して悪い事ではないわ」


気のせいでなければアルファはこのまま戻って、この恐怖と共に、恐怖に触れないように生きていくことを推しているように思えた。


あの、自分を今まで守ってくれていたアルファが…私の味方をしてくれたアルファが…そう言うのである。


「ティゴも今度はくすぐったい感覚を感じるようになって大変そうだけど…どうする?」


気が付くとティゴは脇の下や脇腹に這っているアルファの指先で今にも笑いそうな顔をして耐えている。それはもはや脅しと言うより、アルファの欲求を満たす道具になっている気がした。


「分かった…。アルファがそう言うなら…私は…」


「ジール!ブッ、フファ、本当にそれは、ククク、お前自身で決めた、クファ、ことなんだな、キャハハ」


笑い交じりで間抜けに思えるが、必死に私に問いかけるティゴ。ゆえに私の心に言葉が届く。


私の…意志で…決める。


「ジールチャン、もう一度言うね。ワタシはあなたがどんな道を選んでも、ワタシはあなたの味方だから」


いいセリフなのだが、ティゴをくすぐっている姿を見ていると緊張感の欠片も無い。それでもアルファの言葉も私にちゃんと届いた。


私は覚悟を決め、口を開いた。


私の一言でアルファは嬉しそうに微笑むとティゴからそっと手を放し「それが答えなのね」と言うと、その姿を消していくのだった。


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