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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第四章 獣人族の女の子編
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四十六 ワタシの力

様態は悪化の一途をたどっている。


エアマスの顔色はアンデッドのようにくすんだ色になってきた。全力で解毒するも進行を遅らせてるだけで、まるで回復しない。


もしここにティゴでもいたら治してくれるだろう。彼女なら私なんかより強力な解毒ができる可能性がある。


でも、今は私しかいない。


今できることを必死にやるしか方法はない。


「死なないで、エアマス!」


私の必死の呼びかけは何の効果もない。先ほどの鋭い目つきをしていた瞳が濁ってきているように見える。


回復魔法を少し使ってみたが効果はない。


私の魔力も半分使い果たした。このままだと私の魔力が尽きるか、エアマスに毒が回って死ぬかの二択しかない!


「ジール、エアマスのジジイ、死んじゃいそうよ?あなたはエアマスも助けられないし、ルージュも助けられない。ホント無力よね~」


わざとらしい嫌味の混じったため息が聞こえたが、そこに反応している場合ではない。今度はもっと魔力を使い解毒魔法を強くしてみた。


だが、効果があるように思えない。エアマスが痙攣を始めた。意識がもうない。


「ダメ!死なないでエアマス!」


こんな事ならもっと魔法を修行しておくべきだった。こんなことならもっと毒を学んでおくべきだった。


触れている手のひらに自分の涙が次々に落ちている。悔しくて悔しくて、自分が情けない。


「諦めなさい、ジール。さて、約束通りルージュにお薬飲んでもらいましょうか」


目の前でエアマスが死にかけているのに容赦なく約束を実行しようとするリッツ。その顔はもう人の笑みではない。鬼畜の所業を行う魔物でしかない。


「エアマス!お願いだから!あなたが死んでルージュが酷い目に合うなんて…絶対嫌ぁぁぁぁぁ!」


私の魂の叫びは、小さな建物の中に虚しく響いた。


「はいはい、うるさいわね。そう言えばあなた、ルージュ助けるために何でもするのよね?」


まるでリッツの言葉は福音のように私に希望をくれた。何かをすればルージュを助けられる。何でもする。何でもするからルージュを助けて欲しい。


「…何をすればいいの?」


そんなすがるような私にリッツはまるで日常的にやる作業のように私に言ってきた。


「エアマスの首を切断してくれない?」


希望は絶望に変わった。


確かにもう虫の息で何もしなくてもエアマスは死ぬ。そんなエアマスが生きている間にリッツは私に首を切れというのだ。


無理…できるわけがない。


「お願いだからそれは…」


懇願する私。しかし、そんな私の態度はリッツの視界に入ってないかのように淡々と言った。


「じゃあいいわ。ルージュを見捨てたってことで」


「そうじゃない!そうじゃないわ!」


「じゃあ…早く選びなさい」


意識が私から逃げていきそうである。


エアマスの首は切れないがルージュを助けたい。だが、両立は無理。こんな無理難題、どうやって解決すればいいのだろうか?誰か教えて欲しい!誰でもいいから…お願い…。


「選べないのはどっちもあなたにとってどうでもいいんでしょうね。本当に大事なことは迷ったりしないでしょ?」


追い打ちをかけられ自分が分からなくなる。ここまで何もかもが上手く行かないものなのだろうか?そうだとしたら私の人生は酷いものである。


それとも選べない私が悪い?


様々な考えが交錯し、頭を走り抜ける。


そして、緊張と感情の限界が私の中で弾けた気がした時、私の意識は私の意に反して薄れていった。





気が付けば真っ白な空間にいた。


見たこともない真っ白な、どこまでも広がる空間。見渡す限り何も無い。


ただ、死んでないことは理解できた。


死んだとしたら、必ず私の魂を刈るために来るアルビオが私の前にいなかったからだ。


地面はあるようで、足はしっかりと大地のようなものを捉えて踏みしめている。


ここは一体どこだろうか?


(あなたは、やれるだけのことはやったわ…)


どこからか声がした。


聞き覚えのない声。だが、落ち着いて優しさを感じさせる安心感のある女性の声。


お母さんに似ているかと思ったが、お母さんの声はもう少し低い。


だが、私の知ってる声の中で一番近いのはお母さんの声である。


「誰?」


辺りを見回すが、相変わらずの白一色の世界。誰もいない。


普通なら不気味に思うのだろうが、なぜか不思議と落ち着く…というよりむしろ安心感があった。


(もう、無理しなくていいのよ…)


また声がした。どうやら、相手は言いたい事を一方的にいうだけのようである。


しかもこの声、先ほど気が付いたが、耳に聞こえてると言うより、頭の中に直接響いている感じがした。


この不可解な現象もなぜか不快に思わなかった。


これだけ不気味な現象が続くのに、心はとても穏やかなことに驚く。まるで、温かい布団で眠りにつく前の幸せな感じ。なぜがは説明できないが、心地良い。


そんな私の後ろから、誰かが私の両肩から手を回し、私を優しく抱きしめた。


私は振り返るも誰もいない。


だが、抱きしめられている感触は間違いなくある。


(あなたがワタシに身を委ねてくれるなら…)


その言葉を聞き、私はその「何か」にもたれかかった。柔らかな「何か」は、しっかりと私を受け止めてくれて…いい匂いがした。


(もう大丈夫…あなたは…ワタシが守るから…)





「返事しなさいよ、ジール。まあ、言葉が出てこないのかもしれないけど…そうしてる間にエアマスはもう終わりそうだけどね」


呆れたと言わんばかりにの声色でリッツが…私にだろう、言ってきた。


あぁ、そう言えば今、私ってルージュを助けるか、エアマスを助けるかとか悩んでたんだと遠い記憶を探るように思い出す。


「ねえ…両方選んだら…ダメ…なの?」


うなだれた私が発した言葉。力ない、まるで独り言を無意識に言っているような声の大きさであった。


「は?できるならやってみたらいいじゃない。別に私は構わない…わ…よ…」


何かを察したのだろう。リッツの言葉は言い終わる時には尻込みしているようだった。私と会って初めて、動揺を見せたのだ。


「じゃあ…二人を見捨てて、あなたとアソンジャオウカナ♡」


思わず上がる口角。その顔を見たリッツがルージュを抱えながら後ろ少しに下がった。その顔は動揺から…恐怖に変わっていた。


「あ、赤い…目…。あんた、エルフじゃないの!?」


返事の代わりに私はゆっくりリッツに歩み寄る。するとリッツはルージュの背中に小瓶の中身を再び落そうと身構えた。


「それ以上近付いたら…またこの液体をルージュの背中に…」


「あなた、幻術得意なんだよね?ゲ・ン・ジュ・ツ、楽しいよね♡」


私は動揺するリッツを楽しむようにゆっくり近付く。途中で液体をルージュの背中にたらしたが、ルージュも叫ぶ気力もないのか、体をジタバタさせるだけであった。


それでも私はゆっくりとした歩みは止めなかった。


リッツは後ろに逃げるも、壁に当たり逃げ場を失った。それでも私は歩みを止めない。


「それ以上来たら、ルージュを殺すわよ!」


「そんなに邪険にしないでくれる?ワタシが用事あるのはリッツ、ア・ナ・タなんだから♡」


私の一言でリッツはルージュの肩に懐に隠し持っていたナイフを取り出し、突き立てた。ルージュのはビクンと動くものの、反応は弱かった。


「オ・イ・ツ・イ・タ♡」


私はゆっくりとリッツの顎を人差し指で撫でた。そして耳元に寄りフーッと息をかける。それだけでリッツの顔色がみるみるうちに青くなっていく。


「お前…まさか…悪魔なのか…」


必死に絞り出せたリッツの言葉には怯えが色濃く見えた。


「違うわ。ちょっとシ・ゲ・キが好きなエルフよ♪」


実に失礼なことを言ってくれる。私はエルフ、悪魔ではない。ただ…悪魔と言われても不快な気分にはならない。なんせ、私の知る悪魔はみんな素晴らしい者ばかりだからである。


「まずはオ・レ・イ、言わせてもらうわ♪あなたがワタシを精神的に追い詰めてくれたおかげで、この力に目覚めたんですもの♪」


思わず口角が上がる。それに反してリッツの顔から滴るほどの汗が流れだし、私の顔を見ようとしない。


そんな怯えてるリッツが少しカワイイと思える自分がとても不思議にも思えた。


「おやすみ、リッツ。いい夢、見れるとイ・イ・ワ・ネ♡」


優しく耳元でささやくと、ルージュに絡めていたリッツの腕を優しくほどいた。自由になったルージュの肩の傷を優しく…舐めた。


「大丈夫。あなたはワタシが助けてア・ゲ・ル♡」


そう言った私の後ろで、リッツの叫び声が天井をぶち破らんばかりの勢いで飛ぶ。「来るな!」とか「許して!」とか「それだけは勘弁して!」と叫ぶ。


幻術を使う者でも、自分より上の幻術を使う者の幻術はかかる。


私はリッツに圧倒的な魔力で幻術をかけた。


同じ体験を繰り返し見る幻術を。


自分が過去に最も恐怖を味わったことを繰り返して見る幻術を。


「あら、ボウヤにはシ・ゲ・キ、強よすぎたかしら♡」


ルージュとエアマスを肩に背負い、私はこの牢でもがき苦しむリッツを見てニヤリと笑みを浮かべて「じゃあね」と軽く手を振る。


当然、リッツに返事をする余裕は無く、奇声を発しているだけの生き物と化していた。


そして、私は牢を出ていった。





何となく覚えてはいるが、夢か幻か?


私はベッドで目を覚ました。


見覚えのある天井。見覚えのある部屋。朝日が窓から入ってきている。


そして、ベッドに寄りかかって床で寝ているハーフエルフ。


確かルージュとエアマスを牢のある建物から連れ出して…しばらく歩いて…体の力が抜けて…。


少しずつ思い出すものの、途中で記憶は途切れている。


ここがどこなのかは聞かなくとも分かる。…託児所の中にある私の部屋だ。


だが、どうやってここに来たのだろうか?


体を起こすとベッドが少し揺れ、その揺れで目覚めた者がいた。


「…ジール」


名を呼ばれ、思わず何か言おうと思ったが、すぐに布団をかぶり顔を隠した。


「あ、いや、大丈夫、ジール!あの、こんなとこにいるけど、別に何も変なことはしてないから、だから、そのね、つまり」


このやり取りが懐かしい。このすぐにあたふたする態度。本当に他の事だと感心するくらい頭がいいのにね。


私は少しだけ布団から顔を出した。そこには、手足をジタバタさせながら説明が説明になってない慌てているハーフエルフがいる。


「…イアラン、大丈夫…なの?」


私の記憶のイアランと比べると本当に痩せたと思う。元々太っているわけではないが、今は頬の肉が削がれており、顔色も悪い。イアランの方が病み上がりで今日ベッドから出て来たような顔をしており、探されていた私の方が健康に見える。


「大丈夫だよ、大丈夫だよ、大丈…」


不意にふらっとしていきなり倒れたイアラン。


一瞬の沈黙が流れた。


だが、すぐに我に返り、私は飛び起き、イアランを抱き起こし、回復魔法を試みた。


「…ジールって温かいなぁ」


力無い笑顔を私に向けるイアランだが、少し嬉しそうであった。本当にこういうところがイアランらしい。


「でも本当に良かった…もう、突然いなくなるなんて…しないでよ…ね」


そう言うとイアランは気持ちよさそうに眠りについた。


そんなイアランを見て改めて自分の身勝手な行動を反省した。


こんなに心配してくれる者がいるのに、私は自分のことだけしか考えてなかった。何て私は幸せ者なんだろ…う…。


何…だろ?急に…眠気が…襲ってきた…。


私はイアランを抱えたままの姿勢のまま、眠ってしまった。





また、あの白い空間だ。


二度目となるので、私に動揺は無かった。


でも、ここがどこかのかは謎のままだ。それなのに、不安を感じることがないから不思議である。


(ねぇ、イアラン眠ったから、イタズラしてみたら?)


子供が無邪気にイタズラをして楽しむかのような声がした。あの時の声だ。


「何もしません!それよりあなたは誰なのよ?」


簡単に答えてくれるとは思わなかったが、あれこれ考えるのは面倒なのでストレートに聞いてみた。


(そうね…なんて言えばいいのかしら?少なくとも、ワタシはアナタの敵ではないわ)


答えとしては不満だが、まともな答えが返ってくるとは思ってなかったので腹は立たなかった。


「まあいいわ。ただ、何となく覚えてるけど、あの牢から助けてくれたのは…あなた…なの?」


今回一番聞きたかったことはこれだろう。


あれは…生命エネルギーをコントロール範囲を超えて使った時に似てる。


だが、あの時、私は生命エネルギーを解放すらしてない。


それなのに、あの高揚する感覚になった。


あの時感じたのは今の私では持ち得ない圧倒的な魔力が体から溢れてきていた。


その証拠に、私は幻術を使えないのに、あの時はまるでその辺を散歩するかのように気軽に、簡単に使できた。


それも、手練れのリッツを子供扱いにしていたくらい強力な幻術をだ。


(ワタシが助けたんじゃないわ。アナタがワタシを信じてくれたから、あのチカラが使えた。だから、結果としてアナタが助けたのよ)


まるで分からない。要は、この謎の女性?を信じて解放?してあげたから、あの魔力を得ることができた、という理解で良いのかな?


「とりあえずお礼は言っておくわ。ありがとう、助かったわ」


どこに向かって頭を下げればいいか分からなかったが、その場でとりあえず頭を下げた。


すると、今度は前から抱きしめられ、首に手を回される感覚を感じた。


だが、目の前には誰もいない。


不思議に思っていると、また、あの声が聞こえてきた。


(これからも、仲良くしましょ。ワタシ、アナタとならもっと色々デキルと思ってるから)


言い終わると、声は消え、私もその場から離れていく感覚に襲われた。






かなり寝てしまっていたようだ。


部屋に入る太陽の光がオレンジ色になっていた。


私は再びベッドに寝かされていた。


あの牢屋の中での生活のせいか、どうも体内の時間間隔が狂っているように思えた。


近くにあるコップにポットから水を注ぎ飲み干す。思った以上にのどが渇いていたようである。続けて二杯目も美味しく飲み干した。


下からいい匂いがしてきた。これはきっとお肉を焼いている匂いである。


お腹から自己主張の強い音が鳴った。


普段なら台所につまみ食いにでも行くのだろうが、どんな顔をしてみんなに会えばいいのか分からない。


でも、自分でやったことに責任は取らなければならないし、ルージュがどうなったかも気になる。


意を決して私は台所へと向かった。





台所には肉の焼ける香ばしい香りと共に、リズム良く響く包丁の音がしていた。


そこで鼻歌を歌いながらご飯を用意しているのは…頭に大きな耳を持ち、メイド服の後ろに大きな黒い尻尾が生えている獣人であった。


「…ルージュ、どうしてあなたが料理を?」


私の声にルージュの頭の耳がピクンと可愛らしく反応した。


「ジール…」


私と目が合ったルージュの野菜を刻む手が止まり、しばし見つめ合った。


「もう大丈夫…なの?」


あれだけ体にも心にも大きな傷を受けたルージュ。もし、回復しているなら良いのだが、無理しているならゆっくり休ませてあげなくてはならない。


「…じっとしてるより、動いている方が気持ちが楽なんで」


微笑むルージュだが、その笑みが無理をしているのは眼の端に涙が浮かんでいるのを見て察することができた。


「好きにさせてやってはくれないか、ジールさん」


肩に優しくポンと手が置かれた。私はすぐさま振り向く。


「エアマス、無事だったの!?」


あの時、死にかけていたのがウソのように血色がよく、しっかりと立っているエアマス。その姿を見て思わずエアマスを抱きしめて泣いてしまった。


「もう…死んだかと思ったんだから!ホント…生きててよかった!」


そんな私の行動に珍しくたじろぐエアマス。その理由はエアマスの後ろにいるイアランの姿を見つけて納得した。


「ジール、嬉しいのは分かるけどさぁ…」


「だって、本当に死んだかと思ってたんだから!」


この後聞いて知ったのだが、エアマスはあの時、短時間仮死状態になる毒を自ら飲んで、リッツの隙を突いて私たちを助けようと考えたとのこと。


「リッツは戦闘能力が低くても、用心深さと高い先読みの能力、その上幻術。多分精神魔法も使えるかもしれないな。正面切って戦えば私でも危うかったから、危険な賭けに出ざるを得なかった。許してくれ」


許すも何も、むしろエアマスの的確な判断と決断力は学びたいところである。もし、私があの力に覚醒しなくともエアマスは私たちを助けたであろう。


「だが、ジールさん。あの力は何だったのだ?私が意識を取り戻したときにはリッツが幻術にかかっていたように見えた。ジールさんは幻術を使うことができた…ということで良いのかな?」


答えに少し困った。


私にもあの力が何なのかが分からない。


だが、幻術という私自身も知らない魔法を使った。


あれは、本当に私自身の力なのかも疑問である。


「あの力に関しては、私も初めてでよく分からないの…」


正直に言うことにした。


エアマスは敵ではないのと、もしかしたら何か知っているかもしれないとも思ったからである。


「詳しくは分からないが、私が印象に残っているのは…赤い目…ジールさんが赤い目をしていたことくらいだ。あれは、私と戦ったときにも見せたのと同じかもしれないな。私も毒が消えかけていたとは言え、意識が完全に戻っていたわけではなかったからな」


望む答えはもらえなかったが、赤い目と言うのは確かリッツも言っていた。そこに何か謎を解くカギがあるのだろうか?


私がエアマスと話していると焦げ臭い臭いが台所に広がった。


「あっー!」


ルージュが思わず叫び、フライパンのお肉を慌ててひっくり返した。


残念ながら少し手遅れで、この後少し苦い夕食が出てきたのだが、それはご愛嬌である。





夕食を済ませた私は違和感を感じていた。その違和感をイアランに聞いてみることにした。


「師匠と師範は?まだ姿を見てないけど…」


正直どんな顔で会えばいいか分からないが、問題の先延ばしは解決にならないのを身を持って体験し、理解している。


何より、謝りたい。


こんな身勝手な自分が許されるとは思ってないが…もしかしたら心配してないかもしれないが、自分の気持ちの整理もしたいのもあり、まずは謝りたかった。


「…ジール、言うより見た方が早いから外、出ようか」


私の質問の答えになってはいないのだが、見たら分かる何かぎ外にあるのだろうか?


何処となく言いにくそうなイアランの空気を察して黙って一緒に外に出ることにした。





私が最初に思ったこと、それは…本当にここは私の知る託児所なのか?であった。


託児施設があったところは大きな穴があり、周囲は黒く焼けた跡のようであった。


そこだけでは無い。


託児所のあったところから外に向かって同じ穴がいくつもあった。一つ二つではない。大雑把に数えても十以上はあった。


「何これ…」


私の部屋のある居住部分は辺りの地形変化から見るに、結界か何かで守られたのではと推測できた。


まるで、大きな戦争があったかのようである。


「いいかい、ジール。これから話すことは君にとっても大事なことだ。あのルージュって子も無関係じゃない。だから、二人に説明をする。心して聞いて欲しい」


すでに私の耳にイアランの言葉は届いてなかった。


あり得ないけど、もし、最悪の事態が起きたなら…私は悔やんでも悔やみきれないだろう。


そして、この景色は、この後話されることが決して良い話では無いことを私に教えてくれるには十分過ぎるものであった。


動けない私に「中に入ろうか」と優しく肩を叩いてきた。


どうやら、私の受難はまだ、続きがありそうであった…。

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