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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第四章 獣人族の女の子編
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四十二 神の言葉

翌朝、私は目が覚めて…いや、覚めていないことにして寝たくなった。


私の寝ていた足元に誰かいる。


油断した!誰もこんなところに来るはずがないと甘い考えをした自分を呪った。


昨日ルージュがここまで来たのだから、誰かがここまで来てもおかしくないと予測できなかったのは、きっと昨日のあの温もりに頭が幸せな気分に浸っていたからかもしれない。


洞窟の中にわずかに届く太陽の光が逆光となり、その人物が誰なのか分からない。


だが、もう少し近付いて私の間合いに入った時、蹴りをお見舞いして迎撃すれば問題は解決する。


相手はどうやら一人のようなので、なんとかなるだろう。


そうやって迎撃手順を頭の中で作成していると、相手から声をかけられた。


「お久しぶり、ジール」


聞き覚えのある声だった。誰だったかすぐに思い出せない。確か偉い人だったような…


「まだ寝ぼけてる?まさか獣人族の女の子相手に楽しんでたの?そりゃ邪魔して悪かったかな?」


あぁ、思い出した。この声の主。だが、逆になぜコイツがここにいるのか分からない。


「何の用なの、人間界の神」


この子供のような容姿は久々に見た。イアランのゴッドキラー就任式の時以来である。


特に親しくしてたわけではないが、エアマスとの決闘の時も見に来てたし、全く知らない間柄ではない。


「信じられるかい?最近のゴッドキラーは自分の仕える神に迷子の子猫ちゃん探しをさせるんだよ?ご主人様の扱い荒いよね〜」


言葉の意味を理解するまで数秒のタイムラグはあったものの、予測はついた。


きっとイアランが頼んだのだろう。イアランなら下手すると人間界の神を殺す勢いで頼んでるところすら目の前で見たかのように想像できる。


「で、どうする?君の居場所、教えてもいいの?ダメなら言わないけどね」


相変わらず何を考えてるか分からない口調に戸惑いながらも、答えはすぐに出てきた。


「言わないで…ください」


何となく会うのに抵抗があった。イアランと会うことに後ろめたさもあり、男性と会うのが恐いというのもあり、今は会えないと思ったのだ。


「まあいいや、どちらでも。あ、これは頼まれたから渡しとくよ」


人間界の神はそう言うと私に何枚かの服を手渡してきた。


「お前が竜人族の城から去った時の服装を聞いて、困ってるかもしれないだろうって…『会った時に渡してくれ!』と、とんでもない量の荷物渡されたけれど、今はこれが一番かと思ってね」


見覚えのある服。託児所でいつも着ていた服である。こういう時は新しいものを託すのでは?と思ったのだが、イアランらしいかもと少し笑みがこぼれた。


「全裸で抱き合って寝るのはいいけど、そのまま外には行けないだろうからね。そっちの子にもこれ着せたらいいよ」


そう言うと人間界の神は服をくれた…のはいいが、どう見てもメイド服…にしか見えない。


「あの…どうしてメイド服なんですか?」


私の言葉に人間界の神は首を傾げた。


「あれ?ジールはメイド服が好きなんじゃないの?死神にしても邪神にしてもメイド服だからてっきりジールはメイド服が好きなのかと思って気を遣ったんだけどね」


どうしてそうなる、人間界の神!?


「ごめんよ、でもこれしか持ってきてないんだ。まあ、どうしてもと言うなら魔法で作るけど、そうなると下着も用意しなきゃならないよね?となると…」


一人ぶつぶつ呟く人間界の神。朝から何だか面倒なことになってきた。きっとこれは、余計な事を頼むと更に面倒なことになる気がしてきた。


「あ、これでいいです。ありがとうございます」


「そうかい?んじゃ下着はどうする?ジール、じゃあ君とその子の胸のサイズ教えてもらっていい?」


その言葉を聞いた瞬間、やってしまった。


いや、まさか当たるとは。


そんなこと聞かれたら普通は当然こうなる。


私の平手打ちが人間界の神の頬に赤い手の跡をつけた。


「ご、ごめんなさい!」


これは非常にマズイ!神に平手打ちするなんて聞いたことがない。いや、私は今やってしまったのだが。


これは間違いなく怒りを買ったであろう。下を向き、押し黙った人間界の神。これは本気で止めないとヤバいことに…


「うわぁぁぁぁん、じぃぃぃるがぶったぁぁぁ!」


泣き出した。洞窟が崩れるかも…というほどではないが、しかし洞窟の中にしっかり響く声。どうしようか…。


「どうしたの、よしよし」


いつの間にか起きていたルージュは人間界の神の頭を優しく撫でる。そして、その後、ルージュは人間界の神の顔の前に近付き再びよしよしと頭を撫でる。


「この子、迷子ですか?」


知らないとは強いもので、ルージュにとっては人間界の神も普通の男の子にしか見えてないようである。


昨日、あれだけ自分も泣いていたのに、今日は泣いてる男の子を慰めている。私はルージュと人間界の神を複雑な気分で見ていた。


「ありがとう…ルージュ」


人間界の神がそう言うと、撫でていたルージュの手が止まった。止まった手は人間界の神から離れ、ルージュの顔はたちまち恐怖に染まっていた。


「…どうして私の名前知ってるの?」


まあ、そうだよね。見ず知らずの相手から名前で呼ばれれば誰も疑問に思うよね。人間界の神よ、少しは発言を考えるようにしましょうか。


「だって…神様だもん…」


これまた呆れるくらいにストレートな返答。それを聞いて「神様なんですね!」なんて奇跡でも見せない限り信じる者はいないことくらい分からないのだろうか?


「神様なら仕方ないか。ごめんね、ちょっとびっくりしたんだ」


これは信じた…と言うより、子供の戯言として受け入れたのかな?まあ、変に恐怖するよりいいのだが。それでいいの?ルージュ。


とりあえず落ち着きを取り戻した人間界の神は咳ばらいを一つして、改めて仕切り直した。


「で、サイズは?分からないなら巻尺あげるけど?」


意地でも測る気なのだろうか?ただ、気になるのがこの人間界の神、子供の姿の割にそのサイズを測ることについてはちょっと嬉しそうに見える。


「じゃあ要りません」


ゆえに断ることにした。私の体のサイズを教えることに抵抗があるのは当然として、そういう事に疎そうなルージュの体のサイズを測って教えるのは気分のいいものではない。


ましてや、まだ慣れていない者同士である。そこは気を遣うのも当然だと思う。


「測るの?何のために?」


まあ、途中から聞いてるならそう思うよね。


「下着あげようと思って。でもジールが嫌がってさ」


きっと子供の見た目だからだろう。ルージュは完全にお姉さん役となり、小さな男の子を扱うように話し出した。


「女性に下着をあげるのはどうかな?それなら小物とか、髪飾りとか、お肉とかがいいんじゃないかな?」


最後のお肉はルージュの好み…というか獣人族の好みかな?


「でもさ、下着ないと困らないの?」


最悪無くとも問題はないが、確かに欲しいのは欲しいけど、頼む相手が相手だから悩んでるわけなんですけどね。


「確かに困るというか…気持ちの問題かもね。履いてないと何となく落ち着かないかな」


それはルージュと同意であるが、竜人族の所からここに来て今まで下着、着けたことなかったから慣れつつある自分はおかしいのだろうか?いや、おかしいよね。


「普通のから勝負下着まで何でも言ってくれれば用意するよ♪」


明るく答える人間界の神にルージュは頭に「?」が出ているようであった。勝負下着の意味が分かっていないようである。


「分かったわよ。私がルージュのも測るから巻尺貸してよ」


私の言葉に素直に巻尺を差し出す人間界の神。その巻尺を受け取ると測定を…と思って後ろに回ってふと気が付いた。


ルージュには尻尾があった。


ふわふわしていて、先っぽが白く残りは黒い艶やかな毛並みの尻尾。今も左右にフリフリされている。実にカワイイ。


ではなく、下着には尻尾の穴とか必要なのだろうか?それとも獣人族特有の下着があるのだろうか?


「ルージュのパンツは尻尾の穴開けないとダメなの?」


好奇心もあり本人に聞いてみる。すると思わぬ答えが返ったきた。


「ん?どういう事?私たちはこういうの履くよ」


薪の中から細い枝を手に取ったルージュは地面に下着の絵を描き始めた。見間違えで何のなら、ルージュの描いた絵は…ほとんど紐状であった。


「これだから穴をあけるとかは必要ないと思うよ?」


文化というか体に違いで下着がここまで違うとは思わなかった。というか、私はちょっと恥ずかしいかもしれない。


まあ、しばらく下着を着けてない私が言うのもなんだけど。


何だかんだあったが、採寸を終えて人間界の神は下着をくれた。下心でもあるのかと思ったが、あっさりとくれた。


「じゃあね。後は好きにしなよ。楽しみにしてるから」


楽しみに?一体どういうことなのだろうか?


「あ、人間界の事は、塵一つのことまで分かるんだ。だから、ジールのこれからの行動を楽しみに見せてもらおうかなぁと思ってね」


つまり、覗き見をして楽しもうという事か。実に悪趣味である。


「それと、別に測らなくてもサイズ知ってたりするんだけどね、下着♪女の子がお互いサイズ測るのって見てて…何かいいじゃない?」


コイツは嫌いだ!私たちの行動を見て…というか、神なのにそういうのを見て喜ぶのだろうか?そういう欲が無いから神というのは私の認識が間違っているんだろうか?


「何か言いたそうな顔してるけど、人間の神って最も人間らしいとも言えるんだよ?娯楽や快楽は普通に欲するし、嫉妬も怒りもする。だけど、神としての役割とそれは別だけどね。ちゃんと神様やってるよ。ほら、現に君たちに救いの手を下心と共に差し伸べたでしょ?」


私はルージュを抱きかかえ、人間界の神と距離を取った。それを見た人間界の神は大笑いをした。腹を抱えて転げまわるほどの大笑いである。


「あははははは。半分ウソだよ。そんな神様いたら人間界は滅んでるだろ?神が好き勝手するんだからさ。大丈夫だよ、さっきのはジールがその子とコミュニケーションを取るのにいいんじゃないかなぁと思って測らせただけだから」


やはりコイツは嫌いである。人を食ったような、しかも何もかもお見通しみたいな、私をおもちゃの一つみたいに扱うコイツが嫌いである。


「そうだ、帰る前に忠告しておくね」


そう言うと人間界の神は立ち上がり洞窟の入口の方を向いた。また逆光でシルエットだけになり、見た目だけは神様っぽく見えた。


「ルージュのためにって獣人族のことに深入りすると…また、面倒に巻き込まれるから気を付けてね。もし、静かな暮らしを求めるならルージュを一人でここから帰して、また別の住処を探すことだね」


言い終わると私たちに背を向けて手を振ると洞窟から出て行ってしまった。


忠告…。


これは言い換えれば神の言葉。その辺の人のアドバイスとは意味が違う。


素直に従うべきなのだろうか?


でも、ルージュを一人で帰らせてその途中で昨日の下衆の仲間に遭遇したら、酷い目に合うのが一日先送りになっただけとなる。


だが、私の平穏な生活がどういう形でなくなるのかによっては、後悔することも覚悟しなくてはならない。


「…さっきの子の言う通りだよね。一緒にいて欲しいけどジールには迷惑だよね…」


メイド服に身を包んだルージュは耳を伏せ、力ない笑みで私を見てきた。黒を基調とした可愛らしいメイド服を打ち消すほどの悲しそうな微笑み。


ルージュが生きていくのが無理なのは昨日の話で分かったはずなのに、神の一言で考えが鈍る。


私も気持ちが以前のように戻ったわけではない。平穏を失う恐さはルージュを見捨てるという考えを後押ししてくる。


「あ、大丈夫ですよ、私なら。昨日は突然の事だったから逃げるのに失敗しましたが、いつもなら人間何か森の中でピューっと逃げ切りますし」


こんなに下手なウソは見たことが無い。伏せた耳に加え、尻尾まで力なく垂れ下がってきた。しかも、ルージュは私と全く目を合わさない。


「ねぇ、どうしてウソつくの?あなた…一人では生きていけないでしょ?」


私の言葉に黙って下を向くルージュ。


確かに昨日の晩はこれからどうするか考えようとは言った。だが、人間界の神の余計な一言は今の私の心を惑わすには十分な効果があった。


もしかして、それを見て楽しんでいるのなら間違いなく私の敵である。まあ、勝てないだろうけど…。


「ジール…何だか辛そうだもん。私が一緒にいることで迷惑かけてるんじゃないかと思って…」


そっか、私、ルージュを見ているときの顔って辛そうなんだ…。


それでふと気が付いた。気が付いてしまった。


きっとこの子を助けたいのもあるけど、多分、自分を見てるみたいなんだろう。男から酷い目にあって、怯えて、誰かに助けて欲しいけど助けを求めることが怖くて…だから、ルージュを見ていると辛い顔になるにかもしれない。


泣きそうになるルージュをそっと抱きしめる。そして私はルージュに…いや、自分に言い聞かせるようにルージュの耳元で優しく言った。


「大丈夫。あなたのことはちゃんと守るから」


この子を守ることは今の自分を守ることかもしれない。ルージュには悪いが、これは自分のためと思えたのである。


とは言ったものの計画は全くない。まずはルージュから事情を聴くことから始める。状況を把握するために情報は必要である。


なぜ、獣人族の集落が攻撃されたのか?によっては人間界の神の言うように面倒なことになる可能性も考えなくてはならない。


「ルージュ、あなたの村、どうして襲われたの?もし知ってるなら今後どうするかに関わってくるから教えて欲しいんだけど」


この質問は悲惨な記憶を掘り起こす可能性もある。だが、今下手な行動をして捕まったら元も子もない。大事なのは二人とも無事に生き残ること。そのために協力してもらうと割り切った。


「いきなりだったの。別に今まで攻められたとかは無くて、何の前触れもなくいきなりあいつ等は来たの…」


残念、これでは何の情報にもならない。可能性はいくつか考えられるが、絞るだけの材料は無い。


「そう言えば…」


私は洞窟の外を急いで見に行った。まだあの下衆たちがいるなら明るい今なら何か手がかりがあるかと思い外を見に行った。


そっと洞窟の陰から昨日戦闘したところを見る。


しかし、そこには誰もいなかった。どうやらあいつ等は意識を取り戻して逃げたようである。これで手掛かりなしか…。


そう思ったのだが、奴らの忘れ物が一つ、戦闘したところの近く、川の中にあった。兜である。


私は周囲を警戒しつつ兜を川から拾い上げた。中には水と流れて来た枯葉が一枚入っていた。


だが、そんなことはどうでも良かった。


私はその兜の額部分を見て思わず兜を川に落とし水しぶきを飛び散らせた。


見覚えのある紋章があった。


忘れることができない紋章。剣が交差した下に魔法石を表した赤いひし形が描かれている紋章。大きくなってどこの紋章か知った時に震えた紋章。


そう、この紋章は…オジオン。エルフの国を滅ぼし、エルフ狩りを行い、エルフから取り出した魔力で魔法石を作り都市開発や軍事力を高め最強の軍事国家になったオジオン。


だが、これはマズイ。


辺境の田舎とは言えオジオンの紋章が入った兵士をぶっ飛ばしたということになる。


人間界の神の言っていることが理解できた。


これはルージュと関わり続けていけばオジオンとの戦いは避けられない。


私は先ほどの決断にまた迷いが生じたのを感じた。


私一人では間違いなく私がやられる。


オジオンは強者もいるが、兵の数はイアランが昔いたターンズ国など比ではない。ターンズ国の一万倍と言われている。どんな強者も戦略がしっかりしているなら物量で負けることもある。


何よりオジオンの戦力は国外にあまり情報が洩れてないのも強さの一つと言える。


こうなると、ルージュを保護するためには…選択肢が無いのだが、突然失踪した私が急に帰って良いのだろうか?


私はルージュの元に戻ると敵の事を含めて事情を説明した。だが、ルージュは理解できないのか、オジオンのの話をしても強い軍隊というくらいしか分からなかったようである。


「あなたの村にはもう戻れないけど大丈夫?」


私の言葉にあからさまに悲しい顔をするルージュ。もしかしたら仲間がまだいるかもしれないのに自分だけ逃げるのはためらわれるのも分かる。


「一度…見ることも…ダメですか?」


気持ちはわかる。だが、かなりリスクがある。


森の奥であれだけやられた兵士を見て、援軍を呼んでいたり、強いヤツがいたりすれば二人とも捕まるという最悪のシナリオも可能性も…。


「遠くからでもいいから見たいの…。自分の気持ちの整理をするために。それでもてんダメです…か?」


上目づかいで私を見てくるルージュ。こういうタイプは初めてというのもあるが、このルージュ、子犬みたいに妙に可愛げがある。犬の獣人なのだろうか?色々犬要素があるのでそうと言われても納得はできる。


と、それよりどうするか?である。遠くとはどのくらい離れてか?になるのだが、この様子だと連れて行かなければ暴走して一人で村に行くとか言いかねない。


「分かったわ。本当に遠くからだよ?敵が来たらすぐ逃げるからね!」


私の言葉でルージュの顔がパッと笑顔になった。耳もピンと立ち、尻尾もぶんぶんしている。やっぱり犬の獣人族なのだろう。猫だとこんな喜び方はしないだろうし。


半ば感情に推し負けた感じもあったが、相手の戦力も見れたら見ておきたい。もし見れないならそれはそれで何事もなくルージュの気持ちの整理を付けさせることができる。


「じゃあ、道案内お願いしていい?」


そう言うとルージュの元気な声が「うん♪任せて」と返って来た。やはり人の元気な姿を見るのは良いものである。私も元気をもらえそうである。


ただ、少し無理をして元気にふるまっているようにも見えた。


もし、無事行けたとしても、そこにルージュの求めてる願いがあるわけではないことをルージュは理解しているからであろう。


その現実と向き合おうと本人が望むならそれでも連れて行ってあげよう。


私は身支度を整えてルージュの案内で獣人族の村のあったところへと森の中を進んで聞くのであった。




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