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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第三章 竜人族継承問題編
40/80

三十九 最悪からの覚醒

ここにある楕円形のテーブルは大人が横に四人並んで座るといっぱいになる。となるとこちら側は四人選ばなくてはならない。


メンバーは私、ベリン、師匠、駄々をこねて参加を許されたイアラン。対面には真ん中にモトラ、給仕をリーンがするという配置となった。


私としては最後のチャンスと思っている。ここで上手く行けば、今扱えない白銀竜の覇気を使うことなく事を終えることができる。甘い考えだと言われてもその道を探すつもりである。


「女王様、私と一緒に来て下さい。私としては白銀竜の覇気をリグシャに譲ってもらえればここに来ません。ヘキサに手を出さないと約束しましょう。どうですか?」


前置き無しのストレートな要望であった。分かりやすいが飲めない要求。当然答えは「NO」…と言いたかったが、まずは相手からの意見を聞いてみたかった。


私はこういう時頼れるイアランを見るた。


しかし、イアランが妙に不機嫌であった。もしかしてモトラにもらった花束を飾っているからかもしれない。花束をもらった経緯を聞くと「飾るの?」「捨てないの?」としつこく聞いてきたのに私が飾ったのが良くなかったのだろうか?


そんなことはさて置き、私も回りくどい言い回しは無しで聞いてみる。


「もしリグシャに覇気を与えたら、あなたはなどうするつもり?」


今更そんなことを聞くのか?と言わんばかりのリーンの顔が視界に入った。


興味本位かもしれない。だが、私は本人から直接聞きたかった。それは、モトラの竜人族反映のためにどうするか?を聞きたかった。


「強き個体を作らせて、負けない種族として、繁栄させていく。そのためには数を作るやり方ではダメだ。そこの元女王のようなやり方では」


それも間違いではない。屈強な者が少数でも確実に生き残れば種族は滅びない。だが、そんなモトラの言葉が私には腑に落ちなかった。


「それだけ?他に何かあるんじゃないの?」


全く手掛かりはない。だが、直感を信じた。この男はそんな建前で動くことはない。もっと、何か別の理由があるはずである。


「他に?何があると?」


私は見逃さなかった。私の質問に一瞬眉を動かしたモトラを。


これは、何かある。だが、何なのかは分からない。きっと、本当の理由があるはずである。


「まあ、仮に何か別の理由があったとしても、それを話す理由もないとは思いますが?」


やはり、こういうやり取りは苦手である。師匠も黙って聞いているだけだし、ベリンも事態を静観している。イアランは相変わらず不機嫌だし、リーンはあからさまな敵意を表して感情的。これでは何も掴めない。


「さて、行きましょうか、女王」


モトラは立ち上がり私の方へ歩いて来る。


すかさずリーンが間に入るが、まるで羽虫を払うかのように軽く手を真一文字に振ったモトラの手に吹き飛ばされた。


これ以上被害を出すわけにはいかない。今の私にできるのは…。


「素直に付いていけないわ。あなたはやはり危険だから」


私は生命エネルギーを解放して戦闘準備をした。





惨敗。


まだ、白銀竜の覇気が扱えない私では全く歯が立たなかった。イアランや師匠も加勢してくれたものの、軽くあしらわれてしまった。


「では、行こうか女王」


ボロボロの私はモトラに抱き抱えられると、そのまま託児所から連れ去られた。





いつの間にか気を失っていた私が意識を取り戻したのは豪華なベッドの上であった。


見たことない部屋に戸惑うも、体の痛みが私の体を起こすことを許さなかった。


私はどうなったのだろう?


寝心地だけは良いベッドで天井を見ながら、どうすれば良いかを考えた。


回復して脱出?ここがどこかもわからないのにか?


再度モトラに挑む?策も無ければ、実力も及ばないのに?


助けを呼ぶ?ここに味方がいるわけがないのに?


私が自問自答していると、足元よりも少し先で扉の開く音がした。


「あんた、もう諦めたら?まさか、女王やりたくなったの?」


聞き覚えのある声である。この少し気だるい感じの声。体が起こせないので姿は見えないが、この声はリグシャである。


ということは、ここは竜人族の城だろうか?


「別に女王をやりたいわけじゃないわ。ただ、モトラ…お父さんのやり方に賛同できないし、本当の理由も分からず手を貸すなんてできないだけよ…」


そう、そこなのだ。何を考えているか分からない相手にこんな危険な力を託すわけにはいかない。


「まあ、私はどうでもいいけどね。女王に興味は無いし」


相変わらずのリグシャだが、少し違和感も感じていた。以前会った時は感じなかった小さな違和感。何なのだろう?


「もうすぐお父様が来るから、大人の対話でさっさと方針決めてね」


そう面倒臭そうに言うだけ言うとリグシャは部屋を出た。と、同時くらいに再び扉が開く。


「起きたか」


今度はモトラの無感情な言葉。ここの親子は一体どうなっているんだか。


「一応聞く。リグシャに白銀竜の覇気を譲ってくれないか?」


ベッドの横に来て強い視線を私に向けて訊ねるモトラ。だが、気になった言葉がある。そう「一応聞く」である。


「答え、分かって聞くの?」


私は負けじと視線だけはしっかりと返す。まあ、体はボロボロでまともに動かないんだけどね。


すると、今度は私の顔の横に腰を下ろした。さすが小柄でも大人、ベッドはしっかりと沈んだ。


「じゃあ、俺のものになるか?」


私が言葉の理解をするよりも先にモトラの顔が私の目の前にやって来た。視界一杯に映るモトラを見ていると妙に動揺してしまう。


「幸いお前は様々な才能があるようだ。俺の子を産んでもらう相手としては悪くない。その子供がお前の才能を受け継げば、その子に白銀竜の覇気を継承させればいい」


脅しだろうか?いや、脅しであってくれ!今のモトラの目は冗談を言ってるように見えない。


「そして、その子からリグシャに引き継いでいけばいい。もし竜化…できるなら、その子が女王でも王でもいい。どうだ?」


悔しいが力で迫られたら勝てない。それどころか、私が逃げないように手足の骨を折ってでも強引に子供を作る気なのかもしれない。


そこまでやりそうな真剣な目。


私を愛しているとかではなく道具として、目的の踏み台として私と子供を作ることを躊躇いもなくやりそうな男である。


その時は、負けるのは分かっていても…いや、生命エネルギーを100%開放して暴走覚悟で戦うしかないだろう。どんな状況になるかは分からないが、黙ってやられるよりマシだ!


「お断りよ!私に何かする気なら、命に代えてもあなたを倒してやる!」


私は、せめて気迫だけでも負けないようにモトラを強く睨み返した。


「無理だな。お前は私に先ほど全く傷をつけれなかった。何をやっても同じだ。心配しなくとも性交するわけではない。人工的に受精させるだけだ」


そういう問題ではない!やはりモトラは目的のためになら何でもやるタイプである。


だが、疑問も生まれた。


モトラをここまで突き動かすものは何なのだろうか?


「どうして、そこまでしてリグシャを女王に…というか、白銀竜の覇気にこだわるの?あなたくらい強いなら、そんなものなくても…」


そんな私の言葉に遠い目をしたモトラ。彼に初めて血が通った人の部分を見た気がする。


「強さのために欲しいわけではない。それに、白銀竜の覇気を使いこなせるなら、私はお前の足元にも及ばない。それくらいは理解している」


傲慢なのかと思いきや、モトラは己の力量をしっかりと把握している。


昔師範がよく言ってた言葉の中に「本当に強い者ほど己の力量を把握している」というのがあったが、モトラはまさにその通りの強者であった。


ただ、強制妊娠させようとするところは全く感心できないけどね。


「強さ以外に求めるものって何なの?」


私は少し興味が出てきた。地位や名誉ならこの強さがあれば白銀竜の覇気は必要ない。まだ、私の知らない何かが白銀竜の覇気にはあるのだろうか?


「夢…だ」


想像しなかった言葉であった。てっきりもっと別の能力が与えられるとかの利益的な理由だと思っていた。


まさかの夢。


一体どんな夢なのだろうか?


「もし、良ければ教えてもらってもいい、その夢」


まだ視界いっぱいに広がるモトラが驚いた顔になった。その瞬間、私から離れ立ち上がり背を向けた。


「なぜ、聞くんだ?」


声に感情はない。だが、こちらに顔を向けないのはきっと私の質問がモトラの心に何か響いたのだろう。心を悟らせないためにこちらに顔を向けないのだと、私は感じた。


「気になったから…。もっと建前的なことで白銀竜の覇気を求めているのかと思ってた」


私の言葉を聞き終わるとモトラは再びベッドの横に腰を下ろし私を見たことないような生き物でも見るかのように見つめてきた。


「不思議な女だな、お前は。自分がこれから酷い目に合うかもしれないのに俺のことを知りたいと?」


それはそうかもしれない。モトラの考えの方が普通である。私はそれを聞いて少し笑いがこぼれた。


「そうね。その通りだけど、気になったものは仕方ないじゃない?」


そんな私を見てモトラはため息をつく。


そりゃあ頭おかしくなったと思われてるかもしれないが、何と言うか気になったからが優先されたのだ。


「そんなことを聞かれたのは初めてだ。だが、教える気は無い」


そうだよね。そう簡単に教えてくれるとはさすがに思ってなかったけど。ただ、口調は最初に会った時より穏やかになっていた。


「じゃあ…気が向いたら教えてくれる?」


振り返ったモトラと目が合った。その目には…涙?だろうか、目が潤んでいるように見えた。


「万が一、そう言う時が来たら教える。そんな時は来ることはないとは思うがな」


何かを誤魔化すかのように立ち上がり、足早にモトラは部屋を出ていった。


「私、もしかして捕まり体質なのかな?」


エアマスにも捕まり、モトラにも捕まった。考えてみれば子供の頃にも捕まった。勘弁して欲しいものだ。


色々考えなくてはならないこともあったが、今は脱出より体を休めることを優先すべきだろう。


そう思うと段々と眠気が襲ってきた。


「とりあえず、今日は寝ようかな…」


この眠気は仕方ない。なんせ自分の部屋より柔らかい布団にと、部屋に香る知っている花の香り。とても良い気分で私は眠りに落ちることができた。





寝たことを後悔した。起きたら私は両手を上に上げられて、ベッドに手、足、腰をベルトで固定され、貼り付けられるように拘束されていた。しかも寝ていた部屋と違う別の場所。


周りには見たことない器具や設備があった。


何だかこの嫌な雰囲気はエアマスに捕まった時を思い出す。


「お目覚めかな?」


私に声をかけてきたのは上に羽織っている白衣と、中に着ている服とズボンがはち切れんばかりの肉体…ストレートに言うと太った、しかも顔に汗をかいている不気味な笑みを浮かべる中年男性だった。


これはこのままここにいたらヤバい!


私の本能が告げる。


それを察したのか、男は針の付いた筒…あれはティゴのとこで見たことある、確か注射器とか言っていたものを右手に持ち私に近づいてきた。


「お前、凄い力強いらしいから用心しなきゃね」


おもむろに私の腕をつかみ、服の袖を二の腕まで捲り上げる。その直後、手に持った注射器を私の腕に刺し、中の液体を注入してきた。


「うー!うぅー!」


私は慌ててたからだろうか?自分の口に布が巻かれているのに今更気がついた。


「五分くらいでまたおやすみだねぇ」


この男は生理的に無理。


過去、私を拉致しようとした人間、クアンタの命を狙いに来たブラービのような欲望を隠しもしない笑み。


逃げなくては!


私は生命エネルギーを解放する…のだが、強い眠気に襲われた。


魔法では無い。魔法なら私はレジストできる。多分先程の注射だろう。私は必死に解毒の魔法を使おうと消えそうな意識と戦う。


戦うのだが…まるで落ちかけた崖で掴んだツルが切れるように、無慈悲に私の意識は遠のいて行った。


そんな中、私の最後に書いた言葉は「久々のエルフは興奮するねぇ」であった。





再び目が覚めたときには、モトラと話をした寝室にいた。頭がズキズキと痛い。そして感覚が鈍い。一体どれくらい私は意識を失っていたのだろうか?


体は拘束されてない。先程のベルトや手枷は無かった。


ただ、そんなことどうでもいいと思える現実があった。


私は、ガウン一枚しか羽織っていなかった。


身につけていた下着が上下共に無い。血の気がサーっと引いていく。


しかも、私の体からほのかにいい匂いがした。これは柑橘の香りである。


私は自分の至る所を触ったり、見れるところは目視で確認する。


何をされたのだろうか?頭が痛い以外の外傷はない。


ただ、眠らされた時に何をされたのかが分かるわけがない。頭に響くのはあの中年男性の最後の言葉「久々のエルフは興奮するねぇ」だけ。


私はきっと欲望の吐口にされたのだろう。


改めてその現実に涙が出て来る。


改めて自分が女であることが悔しくて悲しくなる。


改めて自分の非力さに怒りも感じる。


入り混じる感情に頭が追いつかない。


怖さもある、辛さもある、その入り混じる感情は嗚咽となって、部屋に響く。


そして頭をよぎった言葉は「イアラン、ごめんなさい…」であった。





どのくらい泣いだろうか?


もう泣くことも疲れた。涙も出ない。脱出する気力も無い。もう、どうでもいい。


まあ、遅かれ早かれモトラも私に子供を作らせるとか言ってたのだ。私の意思を無視し、出産道具になっていたのだ。それが早いか遅いかだけ、それだけなのだ。


ベッドの上で膝を抱え、顔を膝に埋めていると誰かが入って来た。確認する気も無いので顔は上げない。


「どうした?今日は昨日の雰囲気と違うな」


声の主はモトラであった。彼はふざけているのだろうか?それとも、あの中年男性のやったことを知らないのだろうか?


「モトラ様、予想外でしたよ!素晴らしいですよ、このエルフは!」


部屋に入ってきた声に私は寒気を感じた。今一番聞きたくない声である。


足音はモトラの側で止まり、その声の男はハァハァと息を切らしていた。


「私の知る限り最高です、このエルフ。思わず興奮して年甲斐もなくテンションが上がりました♪」


間違いなく私に注射を打った中年男性の声である。


思わず耳を塞ぐ。だが、体の震えが止まらない。


「いや…」


頭の中で何かが壊れた気がした。何なのかは分からない。だが、酷く落ち着いて、しかも思考が鈍くなる。


ただ、一つだけ頭に浮かぶことがある。


もう、全部終わってしまえばいい。


世の中に皮肉と言うものはたくさんあるだろう。欲しいときの得られず、どうでもいいときに手に入る。私は今、それを体験していた。


「どういうことだ!?」


モトラは表情がこわばっていた。私の今の状況を察したのだろう。


隣にいた中年男性は腰を抜かしてへたり込んだ。


「あぁ。こんな簡単なことだったんだ」


ベッドの上に立ち上がった私は煌めく桃色の生命エネルギーに包まれていた。


私は、生命エネルギーと白銀竜の覇気を同時に扱えていたのである。


激しい感情、それと同居している虚無感。私は今、私の心を守ろうとしたのかもしれない。そこに白銀竜の覇気が反応した可能性はある。


そう、私は今、心のバランスが不思議なくらいに取れている。


生命エネルギーは私の体を覆い、その上を白銀竜の覇気が包み込む。それが桃色の生命エネルギーが銀白銀竜の覇気と混じり、桃色の生命エネルギーが煌めいて見えるのだろう。


そんな私の見下ろした視界に入ったのは、構えているモトラと失禁している中年男性であった。


「モ、モトラ様!!」


私はベッドの上から怯えている中年男の前に降り立った。そして、中年男性を見下ろした。


「感謝…すべきなのかしら?あなたのお陰でこの力が使えるようになった…」


「ど、どういう事ですか!?」


中年男性は声が震えている。まるで死にかけのハエの羽音のような音に聞こえた。


「私にしたことは刹那の快楽だから覚えても無いというわけか」


考えるより先に私は中年男性の足元に歩み寄る。そして足を振り上げると、そのまま下ろし中年男性の左足を…素足で踏み抜いた!


中年男性の左足は膝から下が卵を落下させたかのようにつぶれて、放射状に血を飛び散らせた。


「ぎゃああああああ!痛いぃぃいぃぃぃ!」


叫び終わった中年男性は泡を吹いて気を失った。その時、中年男性は股から更に液体を絨毯に沁み込ませていた。


何だろう。虚しくなる。


こんなことしても時間は…私の体は元に戻らないのにね。


「やめろ、ドーザが何をしたというのだ!」


モトラはドーザと呼ばれた男を抱え上げ、足を回復魔法で治癒する。


だが、そんなことはどうでもいい。


私はただ、ただ、モトラの言葉に怒りが、悲しみが、虚無感が湧き上がってくる。


「…何をした?何を…した…ですって?」


目を見開きモトラを睨みつける。その視線にモトラが一歩下がった。顔も口が半開きになっており、これまでの無表情の鉄仮面は嘘のように驚きが前面に出ていた。


私は涙を流しながら白銀竜の覇気を更に開放する。その覇気でモトラは更に一歩後ろに下がる。


「絶対に…許さない!」


きっと今鏡を見たら鬼より恐い怒りの表情をしているだろう。誰もが私に恐怖し、逃げ出すだろう。


対峙しているモトラはある意味立派なものである。少なくとも少し前までの私と立場が逆になっており、恐怖に負けないように必死に踏ん張って私の前に立っている。


「あなたが来なければ…あなたが来なければ!」


渾身の力でモトラの体を蹴飛ばす!


まるで放たれた矢のように飛んでいくモトラ。部屋の壁を貫通して外の壁まで飛んで行った。


私は一歩、また一歩と踏みしめるように歩いてモトラに近寄る。モトラの目の前で立ち止まり出てくる涙をぬぐいつつ言葉を吐き出した。


「私はただ…平穏に暮らしたかっただけなのに…竜人族が女王無しでもやっていければこんな愚かな争いはしなくていいと思っていたのに…」


再び込み上げる感情の嵐。だが妙に冷静な部分もある。ゆえに衝動的にではなく、しかし感情の炎は荒れ狂う竜のように心を駆け巡っている。


「どうして貴様は全てを壊したぁぁぁぁ!」


叫び声と共に覇気が周囲を支配する!


「やはり、この力、私なんかが抗える力ではないか」


嬉しそうにするモトラを見て有無を言わさず右頬に拳を当て振り抜く!今度はモトラが右に嵐の中の木の葉のようにされるがまま吹っ飛んでいく。


「こんなもの…どこが夢だ!」


もう一撃拳が入って吹っ飛ばせると思った。


だが、吹っ飛んだのは私であった。何者かが私の横っ面をぶん殴って来た。


ダメージは受けたものの、かろうじて壁に激突するだけで大したことは無かった。


だが、そこではない。誰が私を殴ったのかを知りたかった。この白銀竜の覇気を使っているのに、モトラさえも手が出せないのに、そんな私にダメージを不意打ちとは言え与えられるのは間違いなく化け物である。


即座にモトラの所に戻ると一人の少女が銀色の覇気を放ちながらモトラを背に立っていた。


「お父様に手を出すものは…私が許さない!」


私に怖気ずくことなく真っすぐ見返す少女はリグシャであった。


だが、私は少し混乱していた。リグシャの覇気は…白銀竜の覇気である。そうなると根底から今回の抗争の意味が覆ることになる。


「来なさい、女王!お父様は、私が守るわ!」


あのやる気のない気だるそうなリグシャはそこにはいなかった。今のリグシャは少なくとも私から見て戦士である。


そんなリグシャが姿を変えていく。


身長は私より少し大きいくらいなので、驚くことはなかったが、私を警戒させたのはその姿。


真紅の竜。


リグシャは竜化した。


真っ赤な体はとても美しく、赤く輝いて見えた。だが、その美しさに相反するような黒く鋭利な爪は凶暴さの象徴として黒く鈍く光る。


そして、私と同じ白銀の輝く覇気。否応いやおうでも本能が目の前の敵を侮るなと警鐘を響かせている。


「まあいいわ。偽物、あなたも消えなさい」


何だろうか?


妙に気高い気分になり、相手を見下してしまう。これも白銀竜の覇気の影響なのだろうか?


生命エネルギーのハイテンションのように、白銀竜の覇気にもそういうのがあるのだろうか?


私はリグシャと目線を合わせる。リグシャ負けじと睨み返して来る。


「女王に逆らう意味、その体に叩き込んであげるわ!」


この時、もっと冷静だったらどれほど良かっただろうか?


口調と共に私の体に異変が起きていることを、私自身、全く気が付かずリグシャとの戦闘を開始するのであった。

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