三 時間は未だ進んでいない
あれから数週間が過ぎた。
クワンタは相変わらず生意気だが、肉料理は少し食べてくれるようになった。野菜系はやはり「草」扱いで一口食べてすぐにやめる。
たまに託児所を覗きに来るようにもなり、預かる魔物たちとも顔見知りとなった。
だが、一緒に遊ぶことはしない。それなのに女子からの支持率は高く、よく声をかけられては、あしらう毎日である。
師匠の心配していたターンズ国からの暗殺も無く、平穏な日々が続いていた。
「クアンタ、一緒に遊んできたらいいのに。みんな根はいい子だよ」
「フン」と答えるクアンタ。しかし、こんなクアンタにも魔物の子供たちは話しかけてくる。
ゴブリンのラサイは事の他クアンタに興味があるようで、よく話しかけている。
「魔法使えるの?」
「好きな遊びは何?」
「変身とかできるの?」
質問攻めである。
そんなラサイに負けたのか、もしくは心を少し開いたのか、ラサイの言葉に返事を返すようにはなってきた。
そんな日々が続いてた。
続いて欲しいと思っていた。
「では行ってくる。留守は頼むぞジール」
「師匠も師範もお気をつけて」
師匠と師範は月に一度、邪神の元に行き他のゴッドキラーと会合をする。
基本は日帰りなのだが、たまに邪神の気まぐれで宴会になったり、緊急な内容だと二、三日帰ってことないこともある。
今回は大したこともなさそうだと師匠は付け加えて師範と共に魔法で転移した。
正直私にとってちょっと嬉しい日。絶対師範に何もされないし、師匠の魔法実験でうるさくされることもない。
ただ、今回はクアンタがいるので、いつものようにとはいかないだろうけど。
日が傾き始めた。そろそろお迎えが来る時間。子供達はそれまでの時間を遊んで過ごす。
そのうち一人帰り、二人帰り、残るは三人。オークのサマーンとクレロ、ゴブリンのラサイである。
「かくれんぼでもするか?」
ラサイの声に賛成するサマーンとクレロ。クアンタも誘ったが相変わらず参加しない。
気にせず三人はジャンケンをして、鬼がクレロに決まる。
顔を手で覆い10数える。
「行くよー!二人とも隠れたかーい?」
普通に始まるかくれんぼ。
だが、事態の急変に前触れはなかった。
クレロの体に槍が突き立つ!
「クレロ!」
私は慌てて駆け寄り傷を魔法で治す。
「ここは許可されると魔法が使える結界ということか」
野太い声がしたと思えばいきなり四人の男たちに取り囲まれた。かなりの手練れであることは分かる。
「あなたたち、何者!?」
答えてくれるはずもない。私がクレロの回復に気を取られてるスキに騒ぎを聞きつけ出てきていたクアンタに三人が切りかかろうとする。
「ハイシールド!」
私はクアンタにドーム状の魔法の壁を作り剣を防ぐ。
「ほう、回復をしながら防御魔法とは…かなりのレベルだな」
この隊のボスらしき男がゆっくりとナイフを抜く。身長が二メートルはありそうで筋肉質の中年。そんな男に似合わないナイフ。警戒は怠らないようにする。
「おい、ダークエルフ。お前、なかなかの美人だな」
ニヤついた顔に寒気がする。
「お前は持って帰ることにしようか。おい!クアンタには対魔法ナイフで行け!手間だが何度かやれば破けるはずだ」
ナイフの意味が理解できた。対魔法武器。これは人間が自分たちの弱い魔力を補うために開発したものである。
対魔法武器の厄介なところは攻撃魔法も切り裂けたり、今使っているハイシールドを切り裂き中の者に攻撃ができるようになることである。
きっと、クアンタをすぐに殺しに来なかったのは、ここの情報をしっかり収集し、対策を立て、確実に任務を達成するためと考えて良さそうである。
「そらなら、ハイシールドを破られる前に…ファイヤーボール!」
私は巨大な火球を作り出し、四人全員に放った。
「そんなものくらい大したことない!」
ボスはナイフで火球を切り裂く。残りの者も反応し身をかわす。
「まだまだ!」
私はすぐさま火球に魔力を込める。
ボスへの火球は消えたが、残りの火球をかわした者には火球がターンをして背後からの直撃を受ける!
「まさか追尾するだと!?」
流石のボスも驚きを隠せなかった様子。燃え盛る部下は転げまわっている。
「私をナメないことね!」
これなら何とかなる!と私は自信を持った。
それは、戦いにおいて一番やってはいけないこと、というのをこの後知る。
「杖も持たずに、詠唱もなしに、あれだけ大きなファイヤーボールを使う魔法使いは滅多にいない。なかなかのレベルだな」
ボスが不ぞろいの歯を見せてニヤリと笑う。
「だが、戦闘経験があまりにも未熟だったな」
私は意味が理解できなかったが、理解できた時には詰将棋が終わっていた。
「離せよ、このやろう!!」
後ろから聞き覚えのある声がした。
「ラサイ!!」
振り向くと先ほど戦闘をしていた四人以外の男がラサイの首元にナイフを当てながら近づいてきた。
「さあ、どうする?ダークエルフのお嬢さん」
ボスは下品な笑いをしながら私をいやらしい目で見てくる。
「ダークエルフなのにバカなのか?ダークエルフやゴッドキラーがいるのに魔法対策をしてないわけがないだろ?武器も、防具も」
まさかと思い先ほどファイヤーボールを直撃させた奴らを見た。
まるで何事もなかったように立ち上がっている。
「さてと、俺は面倒なことがキライなんだ」
ボスはあるものを懐から出してこちらに歩いてくる。
「そのゴブリンの命を助けたいなら自分でこれを付けな」
ボスの差し出したもの。忘れもしない。忘れるわけがない。
そう、魔力を放出する鎖付きの首輪「魔散石の首輪」を私に差し出す。
「早くしてくれないか?こっちはクアンタの首も持って帰らなきゃならんから忙しいんだ」
もうボスは勝利を確信しているのか、私の顔の前まで自分の顔を近づけてきた。
「ほら、早くしろよ。それとも付けて欲しいのか?」
ここでこの首輪を付けられたらクアンタのハイシールドが消える。クアンタは殺される。
かと言って首輪を拒めばラサイが殺される。それよりも…この首輪を見た私は体が動かなくなっていた。
あの、忌まわしい記憶を蘇らせる首輪。あの時のことが昨日のように鮮明に頭の中を駆け巡る。
動けなくなっている私を見たボスは私の肩をつかみ首輪を強引に付けた。
「時間がねえっていってるだろうが!こっちはゼフィやオーキスが来る前に離脱しなきゃならねんだよ」
私から魔力が抜けていく。自然と涙が出てきて震え出している。
ラサイは用が済んだため投げ捨てられたが、他の者はクアンタを取り囲み、ハイシールドが消えるのを待つ。
「いくら対魔法武器とは言え、ナイフであの魔法の壁を切り裂くのは楽ではないからな」
私の魔力が消えていく。それと同時に私の肌の色が白くなっていく。それをボスは見逃さなかった。
「お前…エルフだったのか」
ボスの顔は溶けて気持ち悪いくらいの笑みになった。
「大当たりだぜぇ!これは…帰りにどこかで『味見』でもするかな」
汚い笑いを浮かべてる顔を近づけてくる。私の視界いっぱいにその見たくない顔を入れてくる。その時、ボスは私の首の古い刻印を見つけてしまった。
「お前、『抜けエルフ』なのか?それなら俺の言うことは素直に従うよな!」
そう、この首の刻印の魔法は首輪をした者に付き、効果を発動する。決して呪いや生命を奪うものでは無い。
ただ、人間の言葉に恐怖するだけ。
実に効率的なものである。商品を殴ったり、叩いたりしなくとも、少し威圧するだけで怯え、従う。どこまで逃げても人間がその刻印のことを知ってるのなら、そこで奴隷となるだけ。
刻印を付けられた者に逃げ場はない。
私はその解除ができる。師匠に教えてもらった。実に簡単に解除できる。
でも、囚われたエルフは誰も解除しない。
自分だけ解除したのがバレると仲間にその罪が行く。
一人だけならまだしも、集団となれば解除も時間がかかるし、全員逃げるのは不可能。
だから、囚われたエルフは刻印の魔法を解除を決してしない。
ただ、今の私は刻印の力ではなく、過去の記憶により恐怖で震えて動けない。
クアンタのシールドが消えていく。だがクアンタは逃げようとしない。それどころか、堂々と立ち、ボスをにらんでいる。
「俺の首は好きにしろ!だが、そこのエルフは解放しろ!」
全く予想しなかった言葉に私は我に返った。
今、クアンタは私を助けようとしている。
あの時と同じ目をした人間。あの時と同じ圧倒的な敗北感。あの時と同じく私が守られようとしている。
違う。
確かにこいつら人間の時間は流れていない。
あの時と同じことを繰り返している。
「クアンタ、お前が条件を出せる立場か?」
ボスが呆れた声で答えため息をつく。
「何も策が無いで、こんなことを言ってると思うのか、この下郎!」
毅然と言い返すクアンタ。だが、そんなものはないはずである。
クアンタが仮に魔法を使えたとしても、今、この結界の中で使えない。
かと言って師範のように武術が使えるとも思えない。
私が様々な想像を走らせてる。だからこそ、クアンタの次の行動を見て顔が青ざめた。
クアンタはズボンのポケットに手を入れた。
まさか…けど、この結界でそれは使える。しかし、そんなもの持っているのだろうか?
あの時と同じ…黒のこんぺいとうなら…ここでも使うことができる。
あの時のリックとクアンタが重なってしまう。
ダメだ!絶対ダメだ!もう、同じことを、同じ時間の繰り返しは…絶対ダメだ!
感情が入り混じる。
そんな私の感情を全く気にせずボスは言い放つ。
「お前ら、さっさとクアンタの首を切ってしまえ。グズグズしてるとゴッドキラーが帰ってくるぞ!ほら、エルフはこっちへ来い!」
ボスはクアンタの相手をせず、部下に指示を出す。
「もう…誰も失いたくない…」
私の中でスッと絡まった糸がほどけた気がした。
「ノイエ・クレイド…」
私は呟く。
ボスが私の首輪についている鎖を力任せに強く引っ張った。
その後、その場にいた者達には異様な光景にしか見えなかったと思う。
ボスの強く引っ張った鎖をエルフの私が片手で首輪側の鎖を掴んで引っ張るのを止めている!
「私は…今の私は…」
改めて自分の決意と過去に臆してたまるか!と自分を奮い立たせるために心の声を言葉にして発する。
「守られる側じゃなく、守る側になる!」
私の迫力にここにいた者全てが気圧された。
ほのかに薄く白く光る私には、もう怯えという曇りは一点も無かった。
ここまで読んでくれたあなたはには感謝しかありません!!どんな評価でも、評価しなくても嬉しい限りです!
今回、ちょっと気が向いて書いてみようかなぁと思い勢い任せに書いてあとがき入れるのを忘れる失態をしています…(これは序章、1~3章投稿して一日後に書いてます。もし見れてない方スミマセン)
今回一度にこれだけ投稿したのは、最初の方で話が盛り上がる部分って少ないかな?けど、しっかり書いてみたいから最初もかある程度書きたいな、と思い盛り上がる感じがするとこまで一度に投稿してみました。どうでしたか?
これからは週一くらいで出したいですが、もしかしたら時間をかけて、こんな感じでまとめて出すこともあるかもしれませんし、気が狂ったら週一より速いペースで出すかもしれません。
何よりアナリティクス解析で読んでくれる人がいることが分かってテンションは勝手に上がってます!
もれからも、このジールの物語を読んで楽しんでくれるなら書いてる私は簡単にテンション上げて頑張れますので幾久しくよろしくお願いいたします♪




