三十七 勝利の可能性は?
気が付くと私はベッドの上にいた。全身が痛く、動くのに一苦労であった。
だが、痛みは筋肉痛のひどい状態に似ているだけで、骨折、切り傷や擦り傷のような痛みは無かった。
きっとイアランが治してくれたのだろう。私が傷つき倒れたときは誰よりも先に私を治してくれることが多いゆえの推測ではあるが。
起き上がり窓を見ると朝日が昇ってきていた。一体どのくらい寝ていたのだろうか?あれからモトラは来たのだろうか?ヘキサは無事なのだろうか?
様々な問題と不安が目覚めと共にやってくる。
今回は私が白銀竜の覇気を過信したゆえの失敗である。
上手くコントロールできていれば今回モトラを倒すことができただろう。次は相手も警戒してくるし、今度の標的は私になったはずである。
殺しに来ることはないだろうが、どんな手を使って私から白銀竜の覇気を奪い取ろうかと策を練ってくることくらい子供でも分かる。
今はのんびりしてられない。早くみんなと対策を立てないとまたヘキサが狙われる。その時、助けられるのは白銀竜の覇気を持った自分しかいないだろう。
まだ悲鳴を上げている体を無理やり動かして、私は台所へ向かった。
台所では珍しい人が朝食の準備をしていた。
ハルコである。久しぶりに顔を見た気がする。
ハルコは私を見てにっこり微笑んで「おはようございます」と挨拶をしてくれた。私も笑顔で挨拶を返すが、きっと顔は痛みで引きつった笑いになってただろうけど、そこに配慮できる余裕はない。
「イアラン様がエアマス様に呼ばれて私達の城に戻ってる間、私にジール様の側にいてくれとのことです。もちろん、クアンタくんやヘキサちゃんの世話もです♪」
本当にこういうところがイアランの凄いところである。
確かに今、リーンがいるから私やヘキサの世話はするが、クアンタのことまでは分からない。そこまで考えてのことだろう。
それにイアラン自身がここを離れる以上、自分の部下を用意するのはさすが抜け目ないイアランと言える。正確な情報を常に手に入れられる状況を作るのは定石と言えよう。
状況把握はどんな時も大切だし、何よりあの化け物モトラが来るなら戦力はいくらあってもいい。
「えっと、朝からオーキス様見てないんですけど、どこにいるんですか?私の朝食、食べて欲しいなぁと思ってるんですけど♪」
これ、イアランの人選なのかな?ハルコ、立候補したり、もしくは無理矢理理由作って来たとかじゃないよね?
ベラにしろ、ハルコにしろ、攻めの姿勢をする女性はちょっと怖いかも。
「そう言えばティゴ様、先程帰られましたよ」
ティゴが来ていた?それは知らない。私が気を失っている時に来たのだろうか?
「ごめん、それは気が付かなかった。またお風呂入りに来たの?」
私の言葉にハルコはきょとんとしていた。仕方ないよ、私知らないんだもん。
「覚えてないんですか?イアラン様が首根っこ引っ捕まえて昨日連れてきてジール様とヘキサちゃんの治療させてたそうです」
これはまたいつか、ティゴから治療費取られそうだ。変なもの要求されなきゃいいけど。
「そう言えばティゴ様から伝言ですが、『しばらく痛みは続くだろうが、回復はする』だそうです」
それを聞いてホッとしたが、しばらく続くのはちょっと気が滅入ってしまう。それだけ白銀竜の覇気は私に大きな負担となるのだろうか?
ハルコと会話しているとリーンとウィン様が二人してタオルで汗を拭きながら台所へ現れた。どうやらウィン様の朝の鍛錬にリーンは付き合っていたようだ。
「ジール、大丈夫か?昨日は大変だったみたいだな。行けなくてすまなかった」
ウィン様は私に頭を下げた。私は慌てて「そんな謝らないで下さい!」と即座に言葉を返した。
「ただ、昨日は私も戦えない理由もあった。剣に込めた魔力のコーティングが薄くなっていてな。その状態だと剣が折れる可能性もある。急いだのだが間に合わなかった。相手が相手だけに適当な剣では話にならなかっただろうしな」
あの剣、魔力でコーティングされていたのか。通りで刃こぼれしてないわけだ。それ、疑問だったんだよね。
「エピオン王が私専用に作らせたのは良いのだが、そういう特殊なところもあってな。メンテナンスに一日から二日かかってしまうんだ」
間が悪かったようだ。だが、正直ウィン様が来ても勝ち目があるようには思えない。
モトラは次元が違う。
人の形をしてはいたが、あれはまさしく荒れ狂う竜である。人の力で何とかなる気がしない。
「モトラの強さは異常だ。噂ではリディア様の力の半分が注がれたとも言われている。そうなると白銀竜の覇気に匹敵する強さと考えていいだろうな」
説明しているリーンから、先ほど帰って来た時ウィン様と話をしていた明るさは消えていた。
「それでも、今度は私を狙って来るよね。しかも、ヘキサに白銀竜の覇気を継承されたら困るでしょうから、間を開けずに来るでしょうね」
口にしたくはなかったが、事実である。
対策は全くない。
手詰まりである。
あの強さは、もしかしたら師範が戦えるか?くらいのレベル…それも生命エネルギーをかなり高く開放しての話になる。
かと言って私が竜人族の竜化並に丈夫な体を手に入れるにも一朝一夕にできるわけがない。
落ち込んだ私たちにハルコが「ご飯、できましたよ」と明るい声で呼びかける。
「まずは腹ごしらえしませんか?美味しいもの食べて元気出してください!その後、考えたらどうですか?」
ハルコの提案に私は腹の音で答えてしまった。一瞬静まると私は耳まで真っ赤になった。
「正直なジール様、私は好きですよ」
満面の笑みで答えてくれるハルコだが、この子の「好き」はあの時のハルコとのキスを連想してしまう。いや、好きと言われたわけではないけど、連想してしまう。
耳だけの赤さが、顔中に広がっている気がした。朝から何してるんだろ、私は…。
「どうかされましたか、女王様。顔が赤いですよ?」
そこは聞かないで、リーン!私の過去の過ち…じゃない、思い出の中でも蓋をしたい部分を開けるような質問はヤメテ!
「な、な、何でもありませんよ!さあ、朝ごはん食べましょう!」
嬉しそうなハルコを未だ妙に意識してしまう私。だって…初めてのキスの相手だから仕方ないでしょ…。
しかし、ハルコは気にせずクアンタとヘキサを呼ぶ。
やって来たクアンタはいいが、ヘキサは相変わらず私と距離を置こうとする。
食事は決まった場所に座るとかはない。ちょっと前まではヘキサが私の座る場所を自分の隣と決めて呼ばれていた。
だが、今日も黙って座り、私に何も言わない。これは相当な恐がられ様である。
でも、誰にも頼らず一人で座っている様子から、昨日のケガはちゃんと治してもらっているようだ。
そんなヘキサに少し遅れてベリンも現われた。まさかのここにお泊りするとは思わなかった。
「ベリン様、おはようございます。ここに泊まられたんですね」
驚いている私をベリンはクスクスと笑っている。
「頭に寝ぐせついているわよ」
そっと頭をなぞるように自分の手を頭の形から少し浮かせて動かしてみる。
すると、少し髪が当たるところがあった。寝ぐせの部分を発見した。それにしても恥ずかしいことだらけの朝である。
「あ、ベリン様も良ければ食べていって下さい。お口に合うかは分かりませんが」
そんな気軽に言うハルコの言葉にベリンの従者が前に出てベリンにどうするか?と意見を求めていた。
ベリンは「異文化食は滅多に食べられないから」と席に着こうとした。私達は上座を空けようとするとベリンはまた優雅に笑い出した。
「それなら、私じゃなく今の女王様が譲られるべきじゃないかしら?」
そこにいる全員が私を見る。私の座ってるところは、会食マナーとしては一番下の者が座る場所であった。
というか、ここは普段クアンタやヘキサの世話をしやすいので自然と座る場所である。
周りに家具が無く、入り口が近いゆえに動ける空間が多く、何かあっても動きやすいからという師範の警戒教育ゆえの席選びである。
「ね?今更でしょ?私のことは気にせず楽しく朝食をいただきましょう」
その一言で席の問題は解決した。
だが、ベリンの様子を見て私は改めて思う。
確かに元女王なので、従者が色々世話を焼いてくれる。だが、よく見るとベリンは世話が焼きやすいように自分の体をずらしたり、早めに声をかけたりと気遣いもしている。
それが正しいのかは分からないが、私には出来てないことである。
だから、リーンも時々やりにくそうにしていた。
まあ、世話係の仕事は知っていたとしても、普段しなければやりにくいだろうし、私みたいな新米女王だと世話され慣れてないのでお互いに余計な仕事を増やしているだけかもしれない。
そう思いながら私がハルコの料理する姿を見ようと台所の方へ行こうとするとリーンが「用があれば言ってください」と止められてしまう。やはり、何となく噛み合わない。
そんなこんなで朝食は出来上がった。ベリンの従者が手際よく料理を運ぶ。
今日の料理の名前を聞くと「にくじゃが」をメインとした味噌汁と細く刻んだ根菜を炒めた「きんぴら」と私のお気に入りのお豆腐、それとお米と赤い果実のようなものが一つあった。
食事は和やかな雰囲気で…いや、ヘキサは相変わらず無言で黙々と食べている。ベリンとの会話は全く無い。
でも、そんな姿ですらベリンは愛おしく眺めているようである。不機嫌とは言え、しっかり食べる我が子は見てて安心するのであろう。
私はと言うと赤い果実のようなものを最初に一口で食べた。
「何よ、これ…」
塩っぱいし、酸っぱいしで顔が歪んだ。人前でしてはダメな崩れ顔になった。
「あ、ごめんなさい!それは梅干しって言って、保存食の一つで、ご飯と食べるものなの。一度に食べると…ジール様みたいになるから…気をつけて下さい」
私の顔を見たベリンが笑い出す。「ごめんなさいね」といいながら笑いが止まらないようである。そこまで酷い顔だったのだろうか?
「動いたあとだから私はこれくらい塩分があるのは丁度いい。実に不思議な食べ物だな」
ウィン様はお気に入りのようである。私は…次コイツを見たら断るだろう。
それにしてもみんなで食事をするのは楽しい。色んなハプニングがあるものの、やはり食事は楽しく食べたい。今回改めてそう感じた。
早く、ヘキサも打ち解けて、お母さんと楽しく食事を取るようになって欲しいものである。
そんな和気藹々とした空気を破ったのは裏口のドアを勢いよく開けた師範であった。
鬼気迫る顔で私を見ると「裏で待っているから食事の後来てくれ」と言って出て行った。
ハルコは「オーキス様も私のご飯食べて下さいよー」と叫んでいだが、師範は戻っては来なかった。
ただ、気になるのは師範のあの顔。あんな顔は見たことない。余裕の無い感じが食事の味を感じさせなかった。
私は急ぎ食事を済まし、師範の所へ向かった。
師範は裏口から出てすぐのところに腕を組んで仁王立ちしていた。まるで、決闘前の戦士だ。
いつもならすぐに声をかけるのだが、その佇まいがそうさせることに迷いを生じさせた。
「…来たか」
考え事をしていたのだろうか?師範は私の声にワンテンポ反応が遅れた。いつもの師範らしくない。
「俺は回りくどいことを言う気はない」
鋭い眼光がこちらに向けられる。私はそのせいか、緊張して鼓動が早くなってきた。
そんな私のことはお構い無しに師範は本題に入った。
「モトラと俺が戦うと生命エネルギーを80%くらいは解放するだろう。そうなると俺が暴走するのは避けられない」
80%…そこまで強いということなのか。ただ、余裕がある言い方ではない。そこが気になった。
だが、この後の言葉は予想もしなかったことであった。
「その俺をお前が止めるか、もしくはお前が戦いモトラを倒すか選べ」
何の心の準備も無しに聞かされた選択は、私から声を奪った。
答えが出てこない。
「あまり時間はないはずだ。あのくらいの化け物なら傷はすぐに治るだろう。モトラと戦えるのはお前と俺だけだ。どうする、ジール」
いきなり無茶苦茶を言う。
ただ、普段の行動や言動からは信じられないだろうが、師範は馬鹿ではない。頭の良さは師匠に引けを取らない。
何と言っても悪魔。知恵や知識は人なんかが及ばないレベルである。
その師範が二択を出してきた。それも、絶望的な二択を。それだけモトラの強さは常軌を逸しているのだろう。
それは私も感じている。だが、その現実を認めてしまうと絶望しか感じないし、自分の無力さを突き付けられるようで避けてしまっていた。
何の解決にもならないことくらい分かっているんだけどね。
起きたとき、全てが夢だったらなぁと思う自分もいた。無駄なのにね。
だが、師範は私を現実の問題に向き合わせてくれた。師範も生命エネルギーをそこまで解放できる自信は無いことも私は知っている。そう簡単にトラウマが克服できるとは思わない。
なら、私の選択は一つしかない。
「私が…やります」
そう言うと、師範は「付いて来い」と言って託児所のそばのにある森に連れていかれた。
ずいぶん久しぶりである、師範と二人で森の中を歩くというのは。昔は修業と称して新技実験人形をさせられていたっけ。
師範は森の中の少し開けたところで止まった。
「なあ、どういう感じなんだ?白銀竜の覇気って。生命エネルギーとは別にある感覚なのか?」
私は自分の中に生命エネルギーと白銀竜の覇気と二つの蛇口があるイメージと話した。
「だとしたら…老師が話してくれたことで役立つ可能性があるものがある。試してみるか?」
私は力強く頷く。
「説明はシンプルだ。後はお前の経験とセンス次第だ。時間が無いからさっさと始めようか」
倒れそうな体を踏ん張ろうとして、我慢できずに吐いた。何と言うか、頭がぐるぐる回る。まともに立てない。
その上、体が痛い。昨日のモトラと戦った時より痛みがひどく、気を失いそうだ。
「諦めるか?」
私は声が出なかったので首を横に振る。それを見た師範が私を回復してくれるが、気休め程度である。
「コツは掴めそうか?」
私は首を横に振る。
どんなに師範の言う通りにやってもダメだった。何度やっても美味しかった朝ご飯を胃から戻すだけ。地獄である。
「だがな、これ以外は短時間でお前が白銀竜の覇気を扱う方法は無い。まあ、俺が戦うにしてもそれができないと俺の暴走は止められないんだがな」
どうやら、やらないという選択肢は無いようである。というか…これ、師範にハメられたんじゃなかろうか?
ここまでしてやらなくてはならないことなのだろうか?
もう思考が上手く回らない。
やっぱり私じゃダメなのかな?そう思いながら言われたとおりにやってみる。
また頭の中が回りだす。気持ち悪い…。何が悪いのだろうか…。
白銀竜の覇気を解放するので更に全身の痛みが追加される。
天地の位置が分からなくなる。私はそのまま顔面から地面に倒れた。
それでも師範は回復してくれる。気休めなのに。意識が飛ぶ前に現実に引き戻される。もう嫌だ。嫌だ。嫌だ。
涙が頬を伝う。感情さえも抑制できない。お願いだからもう気絶させて、師範。
「もう一度やってみろ」
悪魔だ。いや、悪魔か。感情の無い言い方は私の心を潰してくれる。こんなこと引き受けるんじゃなかった。
私はただ、託児所で普通に子供の世話をして、たまに美味しいスイーツ食べての生活で良かった。こんな事、私は望んでいない。誰か助けてよ。お家に帰りたいよ。お母さん。
そんな私の服の首元を持ち、師範は私を立たせる。
「もう一度だ」
「無理…もう無理…」
きっと今私の顔を見たら酷いものだろう。口元から吐いたものの残りが垂れ、涙を流し目を腫らし、先ほど倒れたときにおでこにきっと擦り傷があるだろう。
だが、師範は一言しか言わない。
「もう一度だ」
地獄って…この世にあるんだ…。
日が落ちた。モトラは襲撃してこなかった。私はモトラに早く来てほしかった。来なければ師範に容赦なく修行させられる。しかも、こちらの体調はお構いなし。今日も日が落ちたから修行が終了したのだ。
情けないかもしれないが、ずっと泣いてたし、失禁するかとも思った。それでも師範は止めない。
でも、あんな師範は初めてだ。それだけ余裕が無いのも分かる。けど、無理やり修行してできるなら苦労はない。
修行から帰ってきたところをエアマスの報告を聞いて戻って来たイアランに見られてしまった。
私を見たイアランが師範にケンカを売ろうとしたが、私が止めた。そんなことをしても師範はこの修行を止めない。
何より、私が決めたことでもある。後悔はしているけど…。
居間の椅子に座った私にイアランは回復魔法をかけてくれた。気持ちいい。癒される。こんなに癒されたのは初めてかもしれない。
でも、体に痛みは全く消えない。なぜだろうか?
イアランは私なんかより回復魔法が上手い。それなのにこれはおかしい。
「イアラン、調子悪いとか…じゃないよね?」
私の質問にイアランは意味が分からないと言わんばかりに首を傾げた。
「効いてないの、回復魔法?」
「体の痛みが取れないんだよね…」
それを聞くとイアランは慌てて魔力を強めた。だが、変わらない。
「それは白銀竜の覇気の後遺症です」
いつの間にか近付いてきたベリンが私に手をかざす。するとほのかな光が私を包む。すると痛みが和らいでいく。すごく気持ちいい。
「これは何ですか?」
私よりイアランが先に聞いた。しかも真剣な眼差し。少しの間見とれてしまっっていた。イアラン、真面目な顔したら結構イケメンなんだよね。
「竜の覇気です。これは竜人族にしか使えません。しかも今は私しか使えません。これは白銀竜の覇気を一度でも持った者にしか使えないのです」
ベリンの説明を聞いて落ち込むイアラン。もしかして興味があったのかな?
「俺がそれを使えたら…ジールを治せたんだけどな…」
そうか、それで落ち込んだのか。ホント、他にもっと考えることある立場なのに…。
「ありがとう、イアラン。その気持ちで十分だよ」
私は立ち上がり体を伸ばす。先ほどの激痛がウソのように消えた。これでまた修行を…したくない…。嫌だ…。
「ジール、どうしたの?泣いてるけど」
言われて気が付いた。私は涙を流している。そんなに辛かったんだ、あの修行。
「あなたがどんな修行をしているかは分かりませんが、どうしてその修行をやろうと思ったのですか?」
どうしてだろう。師範に言われて?いや違う。選んだのは私だけど、選ばなきゃいけないと思ったのは何でだろうか?
「…分かりません」
本音だった。きっと思いはあるんだろうけど、昼間の地獄を思い出すと涙が止まらない。頭が回らないのだ。
「やっぱり俺、オーキス倒してくる!」
鼻息を荒くして居間を出ていったイアラン。今度はそれを止めることが私にはできなかった。むしろ、少し嬉しいという感情まであった。
「あなたを巻き込んだことについては申し訳ないとは思っています」
ベリンは申し訳なさそうに言うが、私には響かない。それどころか原因はあなたじゃない!と恨みの感情すら生まれてくる。
あなたがいなければ…あなたがこんな力を私にくれなければ…。
「ただ、それは今でも正しかったと思っています」
ベリンの言葉に私はカチンときた。その正しさで私はこんな思いをしている!無駄に苦しんでいる!ヘキサにも嫌われた!全部あなたが悪いんじゃない!
言いかけて言葉を飲む。そうできたのはベリンの私への真っすぐな眼差しを見たからであった。
「あなたは、ヘキサのために私の所に来てくれた。そんなあなただからこそ、私はあなたに託したのです」
そんな大げさな。私は軽い気持ちだった。ヘキサとベリンに仲直りをしてもらいたかっただけだった。たったそれだけなのだ。
「何よりあなたは白銀竜の覇気を継承できた。あなたは知らないでしょうが、白銀竜の覇気を継承するのは誰にでもできるものではないのです」
思わず「えっ!?」と驚いてしまった。女王に白銀竜の覇気をもらえば誰でも女王の座に着けるのかと思っていた。
「もし、継承できなかったらどうなるの?」
今更ながら気になった。失敗したらどうなるのか、が。
「竜人族なら知性無き竜なり魔物になります。これは女王しか知らないことです」
その結果知っているということは、過去に竜になった者がいたということなのだろう。
「継承の成功確率は?」
聞いても終わったことなので意味はないかもしれないが、興味で聞いてみたいと思った。
「一割です」
血の気が引いた。
何気なくやったが、私の未来はその辺を徘徊する竜…いや、竜人族が竜なら、私は本物のダークエルフにでもなったのだろうか?
「ゆえに、女王は継承する者をしっかりと吟味しなくてはならないのです」
そんな奇跡みたいな確率を通過しても使えないのなら意味がない。むしろ迷惑なだけだ。
「私の目に狂いはなかった。あなたはモトラとの戦いで白銀竜の覇気を生身であれだけ放出して生き残りました。歴史上、そんな竜人族はいませんでした」
いなかった?それは竜化して白銀竜の覇気を使うのが当たり前で、竜人の時に使ったことが無いとかではないとかじゃないのかな?
「モトラはすぐにここに来ないのでしょう。あなたに、恐怖を感じているはずです。理由は説明できないでしょうけど、本能的に感じてるはずです」
あの強者が私を恐れるなんて本当にあるのだろうか?ちょっと信じられない話である。
「それに、白銀竜の覇気で攻撃を受けたモトラはすぐに治りません。早くて回復に三日はかかるでしょう。女王に逆らった者への罰という意味があります」
そういうことは早く教えて欲しかった。いつ来るのか?と戦々恐々としていたのだから。
「つまり、時間は少しあるってこと?」
私の問いにベリンは何も返さない。まあ、必ずってことは言えないよね。相手も新しい技術か何かでその傷再生を遅らせるのを克服してる場合もあるしね。
「んじゃあ、この白銀竜の覇気で攻撃できてたら…モトラに勝てるってこと?」
「少なくとも、何もない者よりは確率は高いかと」
今度は答えてくれた。どういう基準で答えるかちょっと分からないが、少し希望が見えて来た。
私は軽くなった体で立ち上がると、ベリンに向かって軽く頭を下げた。
「今日はもう寝ます。もし、明日の修行で激痛を全身に感じたら、治してもらっていいですか?」
ベリンは「いいですよ」と優しく微笑んで答えてくれた。
私もホントバカだと思う。ちょっとベリンと話をして、可能性が見えたらやる気が復活。自分でも呆れるほどの単純な性格である。
もしかして、私のこういう単純なところを利用されてたりするのかな?
部屋に戻りさっさと布団に入ると私はすぐに寝た。
明日こそは、必ず修行で白銀竜の覇気を使いこなす!気持ちでいっぱいになり眠る。
ただ、その思いよりも昼間の修行の辛さが強かったのか、激痛で動けなくなり師範に無理やり立たされて修行する悪夢を見ながら、快適ではない眠りの時間を過ごすのであった。




