三十六 脅威、竜人最強戦士モトラ
翌日、ベラとティゴは帰った。ベラはまだ師匠の帰りを待ちたがっていたが、少しやることがあるらしく、名残惜しそうに帰って行った。
ティゴは「また温泉とお前を触りに来る!」と冗談なのか本気なのか分からない言葉を残して帰って行った。どういう理由なのかは分からないが子供にしては変な趣味を持ったものだ…。
どちらにせよ、ティゴもここに遊びに来る頻度は増えそうである。
夕方、師匠と師範が帰って来た。二人とも深刻そうな顔での帰宅に私は少し不安を感じていた。
師匠は私に仕事の後で居間に来るように言ってきた。
しかし、私はお昼に仕事ができていなかった。というよりさせてもらえなかった。
久々の託児所の仕事だと張り切っていたのだが、すぐさま竜人族の兵がやってきて「それは我らが致しますので!」と私の仕事をてきぱきやってくれたのである。
驚くことに意外にも子供の扱いが上手かった。屈強な兵士がちゃんとしゃがんで子供と目線を合わし、話を聞いてあげている。
リーンに聞くと竜人族は子育てを一族でするとのこと。女王から生まれた子供はみんなの子供であり兄弟である。ゆえに、誰が世話をするのか?というのではなく、その場にいる者が世話をする、が当たり前らしい。
これは素晴らしい文化だと感心した。
それに、みんなで守らなくては子供の生存率は今よりもっと低くなるとも言っていた。
そんなこんなで私はと言うとリーンに竜人族の文化や歴史などの話を聞いて一日過ごした。
女王をやるつもりはないが、竜人族について知らなければ、女王のいない状態を作るのは難しいだろうと思ったからである。
私はこの後の予定をリーンに話してリーンからの竜人族の講義を切り上げた。
早速師匠と師範に声をかけた。二人は各々の部屋におり、呼ぶと快く返事をして部屋から出てきてくれた。
二人と居間に来るとイアランが席に座っていて、リーンがお茶を用意して待っていた。
「女王様、どうぞこちらへ」
リーンの言葉に固まる師匠と師範。乾いた笑いをする私。とりあえず全員席に着いた。
「まずは『女王様』についての説明を聞こうか」
師匠は呆れた顔で私を見た。説明、当然欲しいよね。
私は白銀竜の覇気の話から、女王継承の話までを手短に要点を押さえて話した。
それを聞いた師匠は真剣な面持ちをし、師範は「女王様…ねぇ」と、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
どうせ私にそんな気品のある肩書は似合いませんよ!自分で分かってます!
「その話が本当なら、まだ竜人族の街にはそれが知られてないことになるな」
少なくとも師匠は昨日竜人族の街にいた。だが、速報のようなものはなかったとのこと。
つまり、継承されたことは感覚ではなく、ちゃんと伝達しなければ分からないということだろう。
「私も初めてなので分かりませんが、あの覇気を見た瞬間、本能的に分かりました。もしかすると、覇気の影響下にいると分かるかもしれませんね」
リーンの感想と師匠の話からすると今回の件は竜人族の大半がまだ知らないことが推測できた。
となると、継承問題は現状維持ということになる。それはモトラがヘキサを狙いここに攻めてくる可能性が高いと言える。
しかし、私が女王となったらリグシャはどうなるのだろうか?用済みになるのだが、殺されるのだろうか?
いや、オジオンから来た以上、簡単に殺さることは無いとは思うが今の私には分からない。リグシャとオジオンとモトラの関係の情報が無さすぎるのでここは保留するしかない。
まずは師匠と師範の話を聞いてみる必要がある。
「何か分かりましたか、師匠」
私の問いに少し沈黙を挟んで答えた。
「リーン、君にも聞いてもらいたい。答え合わせと現状把握を兼ねてな」
師匠の言葉にうなずくリーン。それを見て師匠は語り始めた。
「今回のリグシャ派は前女王…いや、今だと前々代の女王から生まれた竜人族が支持していると聞いたのだが、それは合っているか?」
少し考えてからリーンは答えた。
「そうですね。割合としては多いかと。ただ、モトラが前々代女王リディア様の子供なので、そうなるのは自然の流れとは思います」
どうやら、女王…親によって派閥が分かれるようである。まあ、親を頂点として家族ができるわけだし、近しい者同士が繋がるのは確かに自然である。
「では、どうして前女王の生んだ竜人族が分裂したのだ?」
この疑問の意図が私には分からなかった。ここにいるリーンに着いてきた者以外にも前女王が生んだ竜人族がいて、残りはモトラの派閥に入っているということなのだろうか?
「それは…」
言葉に詰まるリーン。それに対して師匠は鋭い眼光でリーンを睨みつけていた。
師匠のこんな顔は滅多に見ない。
一体何を師匠は言おうとしているのだろうか?
「…数と強さです」
リーンは拳を固め震えていた。顔はこわばり、奥歯をかみしめ悔しそうな表情を浮かべていた。
「前女王のベリン様もリディア様と同じくらい子供を生みました。だが、生存率が違いました。そして、昔の方が多く力を与えて生むことができた。ゆえに、どの女王の子かによって力の差があるのです」
戦って思ったことがある。同じ竜人族なのにリーン達の部隊と戦ったときと、モトラの部隊と戦った時では実力に差があった。
それは訓練や年齢によるものかと思ったが、根本が違うのだろう。だから、リーン達はモトラと戦う事より、ヘキサをさっさと女王にして味方を増やす作戦に出たのだろう。
「それにリーン、お前、街であまりいい噂聞かなかったぞ。まあ、竜人族としては勢力拡大して繁栄したい者が多いってことだろうけど、お前達のやり方は手ぬるいそうだ」
師範の言葉はきっと住人からの言葉だろう。その言葉を聞いたリーンは無言で顔をそむけた。
「今回のオジオンからの支援、街じゃあ歓迎ムードだ。まあ、モトラが上手く立ち回って情報流してるようだがな。これを覆すのはちょっとやそっとでは無理だぜ」
これは私が想像していていた以上に旗色が悪い。仮にヘキサだろうが私だろうが女王になったとしても支持者が少ないなら謀反は簡単に起きる。
だからだろう、前女王ベリンの子供もモトラという強大な力を持つ者の下に入るか、リーンのようにベリンのやろうとすること支持していくかが割れてしまうのは。
単純な力に屈する者もいても竜人族の力に従う風習から考えても何ら不思議はない。
そうなると、このまま仮にモトラを倒してもモトラという統率が無くなった者たちがどう動くか分からない。
モトラの後を継いでまた別の頭が出てくるのか?もしくはモトラの軍がいくつかの派閥に分かれ内乱となるのか?モトラ軍の内情を知らない私には想像がつかない。
「あの…モトラ軍って一枚岩なの?」
私の質問にリーンは首を振った。
「正直モトラだからまとめ上げている。圧倒的な力はどんな小細工より効果的な統率力になる。モトラの強さは伝説の戦士ヴィクトを超えると言われているからな」
「それにどうやって勝とうとしていたか聞きたいところだな。もう隠し事は無しではなしてくれるよね、リーン」
口調は軽そうだが顔が真剣なイアラン。何か気になることがあるのだろうか?
そんなイアランの質問に大きくため息を一つ吐きリーンが答えた。
「白銀竜の覇気…だ。ヘキサは竜人化を持っている。竜人化して白銀竜の覇気を使えば子供のヘキサでもモトラを倒せる可能性がある」
ヘキサを狙う理由がはっきりした。これが一番の理由だったのだろう。
ヘキサを武器として扱う気だったのだ。
ただ、それを本心から望んでないだろうとは思う。
昨日のお風呂での出来事を思い出す。
私なんかが入れない姉妹の心許しあった顔。そんなリーンがヘキサを単なる武器扱いするなんて考えられない。
ここ数日リーンと接してわかるのは、葛藤しているということ。
部隊を率いる長として、ヘキサの姉として、きっと悩み苦しんでいるのではなかろうか?
「てことは、ジールなら勝てる可能性があるってことかな?」
今までの話からすると鍵となるのは白銀竜の覇気だ。そうなると、私にもそのモトラに勝てる可能性があると言える。
「無理だ。白銀竜の覇気を使いこなすには身体が脆弱すぎる。少しなら大丈夫だろうが、本来覇気は竜化して使うものだ。覇気に耐えうる体が無ければモトラを倒すほどの力は出せない。モトラは本当に強いからな」
耐えうる体か。私だと元々強靱な種族でない上に、竜化みたいに体を強化変身できない。やはり私が受け継ぐには大き過ぎる力なのだろう。
となるとますますベリンの意図は分からない。
これをヘキサに渡せということなのか?それとも白銀竜の覇気を隠すために私に…いや、あれだけ派手な継承儀式したなら、敵の諜報部隊にバレてないと考えるのは楽観視し過ぎだろう。
「だからこそ、あなたが引き継ぐべき力なのです」
声はテーブルを囲む者以外からであった。
裏口から「失礼と思いましたが入らせていただきました」と声がした。
私も知る声。リーンもよく知る声。
ちゃんと約束を守ってくれた。私は思わず口を両手で覆い泣きそうになる。驚きのあまりリーンもしばらく口を動かすだけで声が出ていなかった。
やっと話せるようになったリーンがベリンに訊ねた。
「じょ、じょうお…いえ、ベリン様!どうしてここに!?」
師匠と師範は立ち上がり一礼をする。イアランも遅れて立ち上がり一礼をする。
「気にしないで下さい。ここへはジールとの約束で来ました。もちろん公ではありませんが」
ベリンの後ろには二人従者の女性がいた。公ではないとは言え、さすが女王様。…あ、元女王になるんだよね。
「ヘキサはどちらですか?」
慌てて私は前に進み出た。
「もう少ししたら食事の時間になるので、もう少ししたら来るかとは思いますが、先に会われますか?」
ベリンは少し考えてから私に「今会っていいかしら?」と言ったので、ヘキサの部屋へと案内した。会議は一時中断となった。
この時間、ヘキサは大体本を読んでいる。これはクアンタの影響だろう。
最初は真似事で始めた読書も今はちゃんと学ぶことができるようになっていた。
寡黙なクアンタはヘキサが近くにいても気にせず食事の時間まで本を読む。クアンタが魔導書を読む側でヘキサは世界の文化の挿絵付き、文字少なめな本を読んでいた。
少し前までは食事の時に自分の学んだ知識を披露してくれたのだが、この2、3日はそれも無くなった。
黙って食事を終えるとすぐに自分の部屋に戻る。「いただきます」や「ごちそうさま」は言う。他の人と話すこともする。
私には、何も話してくれない。あんなに楽しそうに話してくれていたのに…。
クアンタはチラリとこちらを見て再び読書に戻った。
ヘキサは私の方を見て何かを言おうとしたのだが、背後から見えた人物に釘付けになった。
「お…かあ…さん」
言葉をいい終わるといきなり慌てふためいてクアンタの後ろに隠れた。それをクアンタはウザがる事もなく、そのまま読書を続けていた。
「ヘキサ…」
手を差し伸べようとするベリン。だがヘキサはその手をするりと抜け、裏口のドアをバタンと大きな音を立て逃げて行ってしまった。
取り残された私達は顔を見合わせた。
「それは都合良すぎだろ?さんざん待たせて今更迎えにきましたなんて面されて喜ぶ子供なんていると思ってるのか?」
本を読みながら、だが、決してこちらを向かずクアンタは吐き捨てるように言った。
「こら!クアンタ!」
さすがの暴言に私の口調も強くなった。
だが、それを制したのはベリンであった。
ベリンは首を横に振り「ごめんなさい、読書の邪魔をして」とクアンタに謝るとヘキサの後を追った。
どうしようかとおろおろしていた私もベリンに続きヘキサを追った。
ヘキサは裏口から出てすぐのところで泣いていた。
両手で交互に涙を拭い、ひっくひっくと私が見たことないほど酷く泣いていた。
どう声をかけようか迷っているとベリンは何も言わずにヘキサに近づき、頭を撫でた。
涙出る顔がくちゃくちゃになっているヘキサはベリンを見上げた。
少し不安気な顔をして、体が小刻みに震えている。その時リーンに言われたことを思い出す。
このベリンがヘキサを殺そうとしてた。
ヘキサにはその事実しかない。
先ほど逃げたのは恐怖からだろう。ヘキサにしてみれば、安全な所に脅威がやってきたのだ。逃げ出すという行動は当然である。
私はそんな二人を見てるしか出来なかった。お風呂でのリーンとヘキサのように、今の二人の間に入れる気はしなかった。
「ごめんなさい、ヘキサ」
ベリンは一言言うと優しくヘキサを抱きしめた。
一瞬ヘキサは何が起きたかわからかないようで、呆けた顔になって一方的に抱きしめられていた。
だが、ヘキサは正気に戻ったかのようにベリンの手を振り払うと走って距離を空けて振り向いた。
「分からない!お母さんのやりたいこと、分からない!」
心からの叫びであった。その鳴き声混じりの大声はベリンとの間にヘキサが壁を作り上げたようにも見えた。
「ヘキサ、違うのよ!あなたのお母さんは…」
「ジールもお母さんと同じ感じした!恐いから嫌い!」
今分かった。私が避けられた理由。
ヘキサは私の白銀竜の覇気に母親を感じたのである。
自分を苦しめた母親と同じ感じのする相手をどうして好きでいられるだろう。そんなことに気が付かなかった私は自分の愚かさを悔いた。
「ヘキサ、あなたには辛い思いをさせたわ。…謝っても許されることではないと思ってます」
少しだけヘキサに歩み寄るベリンにヘキサの「来ないで!」の叫び声がベリンの言葉を続けさせなかった。
「私、悪くない!何もしてない!でも、お母さん、私のこと嫌いだから…好きじゃないから…だから私を…」
再び声がひくつくヘキサ。また、目から涙がこぼれ落ちてきた。
それでもベリンが近寄ろうとすると再び「来ないで!」と牽制してくる。
やはり、会えば誤解が解けるなんてのは私の浅はかな妄想でしかなかったのだろうか?
でも、せっかくこうやって再び会えたのだ。このまま終わっていいわけない!
「ヘキサ、お願いだから聞いて!あなたのお母さんはあなたのために…」
「ジールもキライ!お母さんと同じで恐いもん!近寄らないで!」
力の限り叫び、ヘキサは膝から崩れ落ち、そのまま大声で泣き出した。
私はベリンと顔を見合わせる。
ここで強引に近寄ってもいいが、ますます警戒させてしまうかもしれない。かと言ってこのままだと何も変わらない。
私は意を決してゆっくりヘキサに歩み寄ることにした。
「ヘキサ、一度だけ、一度だけお話きいてくれないかな?」
あと三歩。
あと二歩。
あと一歩。
少しずつ距離を詰めて手が届くところまで来た。
が、その時、ヘキサの体が海老反りになった。
その体の真ん中から、あってはならないものが現れていた。
手である。
ヘキサの胴体を貫き、まるで串で刺したかのようにヘキサを真っ直ぐ貫通していた。
「これだけのこと、なぜ誰も出来ないんだ?」
声の主はヘキサの後ろにいた。
月明かりで見えたのは、かなり長い白髪の男性。腰まであるのではなかろうか?目は穏やかで、今ヘキサをその手刀で貫いているとは思えないくらい落ち着いた穏やかな表情。
ただ、吊り上がった目は冷たさを感じてしまう。
中性的な顔立ちで、声を聞いていなければ女性と見間違えただろう。
体はそんなに大きくない。もしかして私と変わらないくらいの小柄ではなかろうか?
ただ、上半身は裸で筋肉質。鍛えられた肉体は茶褐色。下半身はナイフが腰に下げているだけで装飾のまるでない濃い緑のズボン。地味な服装である。
だが、私の本能が告げる。コイツは間違いなくヤバイ!
近付く気配どころか、ヘキサが胴を貫かれるまで気が付かなかった。こんなことは初めてである。
となると、まさかコイツが…。
考えるより先に私は生命エネルギーを解放して目の前にいるそいつをぶん殴った。
しかし、男は避けずにまともに食らった。
だが、その場から微動だにしない。生命エネルギー50%開放した私の拳を顔面で受け、少し頬にめり込んだだけで何事もないように先程と同じ表情で私を見ている。
「何がしたい、エルフ?」
怒ってもない、苛立ってもない、穏やかな話し方。まるで、今、何も起きてないみたいに私を見ている。
「回復されては困るのでトドメだけは刺すか」
そう言うと男は手刀をヘキサから抜くとヘキサを地面に置き、顔を踏みつけようとした。
「女の子の顔を踏むなんて最低でしょ!!」
今度は60%の拳を胴に叩き込む!少し姿勢は崩したものの、男は再びヘキサの顔面を踏みつぶそうと足を高らかと上げた。
「止めろって言ってるでしょ!」
今度は飛び蹴りをお見舞いした。やはり体制が崩れるだけで私にのことはまるで存在しないかのようにまた足を振り上げる。
「止めるまで続けてやる!!」
今度は体当たりしたが、今回はビクともしなかった!振り下ろされる足を私がまともに食らう!
私はかろうじてヘキサに覆いかぶさり、男の踏みつけからヘキサを自分の背でかばった。いや、受け止めきれたとは言えない。
踏ん張った私の背中にはまるで巨大な岩が降って来たような衝撃が来た。支えていた四肢から鈍いバキバキという音がする。
ヘキサの頭部は無事であったが、私の四肢の骨は折れた。体を支えきれなくなった私は守りたい気持ちとは裏腹にヘキサの上に覆いかぶさるように倒れ込んだ。
回復魔法を試みるが、また男は足を振り上げている。今度こそヤバイ!
「止めなさい!モトラ!」
どうやらこの男が大将モトラのようだ。
ベリンの声でモトラの振り下ろしてきた足は止まった。モトラはベリンの方を向くと瞬時にベリンの前に移動した。
早いというより見えない。
あの動きは今まで戦った者とは次元が違う。今まで相手の動きが見えなかったことはない。
しかも、今生命エネルギーを60%開放してこれだ。ザンネも強かったが、見えないわけではなかった。
「女王が夜こんなところに来るとは驚きだ。こんなところで遊んでないで早くリグシャに白銀竜の覇気を譲ってくれないか?」
今の発言で分かったことがある。モトラはまだ、ベリンが白銀竜の覇気を持っていると思っている。つまり、モトラは私の力を知らない。
ならば、白銀竜の覇気を使い、不意打ちで倒す。汚いかもしれないが、こちらに余裕はない!
私の体が元に戻った。これで、モトラを倒せば全て解決になるはず!
気持ちを落ち着け私は白銀竜の覇気を50%開放する。
その気配で振り向くモトラ。初めて表情に焦りの色が浮かんでいた。
「なぜ貴様が!」
私は拳に力を…あれ?ちょっと苦しい…。いやキツイ!激痛が体を駆け巡る!
「な…に…これ…」
とうとう立つことすら困難になって来た。
それを見たモトラはまた元の表情に戻った。そして私の元に歩み寄り首をつかんだ。そしてそのまま持ち上げられた。首が絞まっていく。
「エルフのような貧弱な体で白銀竜の覇気を扱うのは無理だ。竜人族のように竜化できなければまともに扱うことはできない」
全身の激痛と首を絞められたために意識がどんどん遠くなっていく。だが、このままではヘキサが死んでしまう!
「うる…さい。余計な…お世話…よ!」
渾身の力でモトラの首を持つ腕に渾身の拳を打ち込んだ。すると、モトラの腕はまるで熱せられた蝋細工のように曲がった。
「何だと!」
飛びのくモトラ。放された私はやっとまともに呼吸が急速に戻り咳き込んだ。
モトラは折れたであろう腕を抑えながら私と距離を取った。
「油断した。さすが白銀竜の覇気の力だ」
モトラにも痛みはあるだろうが、表情は全く変わらない。その冷静さは不気味である。
「どうした、ジール!」
騒ぎを聞きつけて師匠と師範、リーンとイアランが出て来た。その様子を見てモトラはため息をついた。
「そう言えばここはゴッドキラーの集まる場所だったな」
そう言うとモトラは目の前から煙のように消えた。辺りの気配を探っても、モトラの気配は感じない。
「イアラン、ヘキサを…助けて…」
私はそう言うと痛みに耐えかねて意識を失ったのであった。




