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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第三章 竜人族継承問題編
33/80

三十二 女王

こんなに簡単に行けるなら、最初からウィン様に頼むべきだった。


私たちはミオン山脈にあるトアーク高原にいた。少し肌寒いが、空気は澄んでおり、豊かな緑の森が広がっていた。その中央には隠れるように造りの古いが歴史を感じさせる城があった。


ウィン様に連れられてやって来たのは少数の方が良いということもあり、私、師匠、師範、イアランである。


託児所の護衛にはティゴを呼びだした。


急に呼び出し自分を都合よく使おうとすることで散々ティゴに罵倒され、ヘキサを守ってくれると言わせるまでの苦労と、リーン達の目に見つからないように一人ずつ森に行って森の中で合流するという苦労はあったものの、今のとこは順調にここまで来れている。


「そう言えばウィン様って結構魔法使えますよね?戦士って魔法使えないイメージなんですけど、どうしてなんですか?」


素朴な疑問をウィン様に聞いてみた。


「確かに私は魔法が得意ではないな。でも、使えないわけではないんだ。こう見えても最初は魔法で生きていこうと魔法の修行をしていたからな」


意外なウィン様の歴史を知り驚く私。そんな私を見て私の肩にウィン様が手を置いた。


「おかげで剣技にも生かせているんだ。まあ、ジールのように攻撃魔法をまとって攻撃するなんて器用な真似は出来ないけどな」


そう言えば、ウィン様って私と初めて戦ったとき、フランメ・フィストを見て王族って言ってたっけ。


思い起こせば私はお母さんに自分の血筋のことは聞いたことが無い。まあ、幼かったからそんな話するには早かったとも言えるのだろうが。


もしかして、王族に関係あったりするのかな?


お母さん、魔術師として優秀だったから、ひょっとしてその可能性あるかもしれない。


まあ、そうではない可能性の方が高いのは分かっている。


私より裕福な家庭はあったし、お父さんは私が物心ついた時にはいなかったしで王族の「お」の字も感じなかった。


王族の指輪みたいな装飾品も無ければ、そういう人があの里に来たこともない。それに、お母さんは結構働いていた。もし王族なら村の人に便利屋のように使われることはないだろうし。


万が一、身分を隠していたとしても、その断片くらいは思い当たることもあるだろうが、そんなものは無い。


確かにお姫様生活も本で読んだ感じなら憧れはするが、窮屈そうだし、何より威厳ある振舞いなんて無理だし。


今の生活が私に合っていると思う。


そうこう色んなことを考えていると城の門に着いた。


私たちは身を隠そうとしたが、ウィン様はいつもここに来ているかのように門の前に行き門番に話しかけていた。


慌てて私が止めようと前に出ると師範が止めた。もうウィン様は今隠れても遅い。師範は様子を見ることにしたのだろう。


しばらく門番と話をするウィン様。しかし、雲行きが怪しい。


話している途中で急に門番は持っている槍をウィン様に向けた。ウィン様は大人しく両手を上げてはいるが、話を続けている。


見守る私たち。いつでも飛び出せるように構えておく。


しかし、中からもう一人、見たことある人物が現れた。その男は門番に何かを言うと門番は槍を下ろした。


しばらくその男とウィン様が話すとこちらを向いて「大丈夫だ!城と街を案内してくれるそうだ」と嬉しそうに手を振った。


そう、忘れもしない、あの男はサルト。


イアランのゴッドキラー就任式典で私に敵意を向けてきた竜人族で天界のゴッドキラーの一人。


流石にサルトも私たちを見ると少し表情が曇った。まあ、ゴッドキラー三人引き連れて来れば何かあった時に一大事になる以上、普通の反応とも言えるのだが。


「このエルフの剣士に感謝するんだな。歴代の竜人族の中で最強と名高い戦士ヴィクト様の知人ゆえに丁重に扱わねばならない。その連れも同じだ」


今回のサルトは私たちに敵意を向けることは無かった。むしろ逆で本当に丁寧に案内をしてくれた。


そして、ついにその時が来た。


「リグシャはここにいる」


一目でわかる。ここは高位の者の部屋の扉。


左右に門番がおり、その扉は重厚で素の私では開けられないのでは?と思うくらいである。


この待遇からして、リグシャは丁重な扱いを受けているようである。


そのドアをサルトがノックをする。


「リグシャ、お前に会いたいと言う者がいる。開けていいか?」


サルトの言葉に気だるそうに「どうぞ」という返事が返ってきた。


「もしかして全員入るとか言わないよな?入るのは一人だけにしてくれ。万が一リグシャに危害を加えるようなことになった場合、その数だとこちらも止められないかもしれないからな」


それは正論である。私たちの真意が分からない以外、次の女王候補の部屋にこの数、この戦略を招き入れるのは愚かな行為でしかない。


「まあ、殺せる者はいないと思うがな」


きっと本人も自分で言ったつもりがないのかも知れないが、その声は私には聞こえた。


その後、少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか?


「ジール、君が行くべきじゃないか?」


ウィン様に言われて我に返る。


そうだ。私はこのために来たのだ。


何とかしてヘキサと無駄な争いをしなくて良いようにしなくては!


私はサルトに目で合図する。するとサルトは私を部屋に入れてくれた。


部屋の中は思ったより大きくなかった。


中央にあるベッドは大人が二人ほど寝ることがでにそうなサイズであり、装飾は木製の柱に彫刻はあるものの、煌びやかなものは一切なく、はっきり言って地味であった。


部屋全体も茶や黒を基本の色としていて、まるで老魔導士が好んで住んでいそうな部屋かと思った。


だが、それゆえに奥のソファーで寝転んでいる少女の純白とも言える髪が部屋の中で最も目立つこととなった。


少女は見た目は人間だと十歳から十二歳くらいだろうか?アルビオより子供な感じはする。


白髪の長い髪を無造作に散らばせ、黒いノースリーブの上に黒の短パンと完全にお部屋でプライベートモードである。


ただ、目つきは鋭い。せっかく整った美少女の顔が逆に恐く感じてしまう。


「あんた、誰?」


少女の問いに私は何を言えばいいか戸惑っているとサルトが代わりに説明をしてくれた。


「ヘキサの世話をしてくれているジールというエルフだ。話があってきたらしい。リグシャ、聞いてやってくれるか?」


どうやら、この少女がリグシャのようである。この子が造られた竜人族であり、女王の資格を持つ者。どこからどう見ても普通の女の子である。


「いいよー。退屈してたし。もしかして女王の継承についてのこと?」


頭の回転は早いようである。こちらが細かな説明をする手間が省けて助かる。


「私さ、女王なんて興味ないからヘキサが女王やれば?」


これは予想しなかった展開である。てっきり女王をやりたくて仕方ないのかと思いきや、全くやる気なし。これで問題は解決なのだろうか?


「まあ、今の女王がそれをどう思うか知らないけどね。私は王位継承のために造られたらしいから諦めてるけどさ、ヘキサは違うんでしょ?」


どうやら自分の生まれた理由まで把握しているようである。それにしても気になるのが女王の思惑である。


確かにヘキサの半竜人は忌み嫌われているのはわかる。しかし、そこまで邪険にする必要があるのだろうか?


「あのさ、ヘキサが刺客に狙われたりするんだけど、それ止められたりできない?そうすれば平和的に話が終わると思うんだけど」


単刀直入に自分の意見を言ってみた。するとリグシャは私を見下したような目で見て言った。


「私の知らないところで私を利用しようとしてる奴らのことはどうにもできないに決まってるでしょ?それくらい分からないの、エルフのくせに」


呆れたリグシャに私は負けずに食い下がる。


「じゃあ誰に言えばいいの?私がここに来た目的はヘキサのためなの。今のままだとヘキサは安心して暮らせないのよ!」


力説する私をリグシャはじっと見つめていた。何かを言うわけでもなく、ただ無表情に私を見つめていた。


「…分かってる、キレイ事だってのは。でもね、ヘキサのこと大好きだから助けたいの!」


バカにされてもいい。でも、何とかしたい気持ちが伝わればいい。それがいま私に出来ることである。


「あんたさ、もっと今回の継承の件、もっと学んだ方がいいよ。そんな暗殺が止まればいいとかの規模の話じゃないんだよね」


リグシャは立ち上がると「付いてきて」と私に言うと私の横を通り部屋の外に向かった。私はそれに素直について行った。


外に出るとみんなが「どうした?」と言った顔をしていたので私は「ちょっとリグシャに付き合ってくる」と答えリグシャの後を追う。


少し歩くとまるで巨人が入るのでは?というくらい大きな扉の前に来た。その扉の左右には先ほどの衛兵より豪華な鎧と剣を持った衛兵が二人いた。


「女王様に会いたいんだけど、いい?」


衛兵の一人が扉の中に入るとすぐに出て来て「どうぞ」と中に入れてくれた。


先ほど女王様と言っていたので、ここが女王様の部屋なのは分かった。だが、やはりリグシャの部屋のように地味で質素な造りであった。


部屋は石張りで奥に大きなベッドが一つ。お付きの人だろうか?一人女性が近くにいた。


ここもベッドの装飾は特に豪華さは無く調度品も統一されて地味である。ただ、リグシャの部屋に比べてここは青を基調としていた。


「何者ですか?」


ベッドから声がする。リグシャはベッドの方に進み寄る。


「ヘキサの世話をしているというエルフを連れてきました」


リグシャの言葉でベッドから初老の女性が体を起こした。


「ヘキサは…ここに来ているのですか?」


自己紹介をしようと思ったが、質問が来たのでそれは後回しにした。


「ここには来ていません。私たちの託児所でお留守番をしています」


女王は鋭くこちらを睨んできた。思わず(ひる)みそうになったが、何とかこらえた。


「そうですか。ここには来ていないのですか」


もしかして、来ていたらヘキサを殺す気だったのだろうか?鋭い眼光は維持されたまま会話は続けられた。


「連れてきた方が良かったでしょうか?」


あえて聞いてみた。もし、リーンの言うことが本当ならば、きっと何らかの反応があるはずである。


「いいえ。あの子は呪われた子。ここにいない方がいいでしょう」


どうやらリーンの言っていることは嘘ではなかったようだ。


ただ、その時少しだけ眼光の鋭さが緩み、憂いが見えたような気もしたのは思い過ごしなのだろうか?


「何か私に用があって来たのでしょ?何の用ですか?」


私は現状を女王に説明した。そして、ヘキサに危害が加えられないようにしてもらえないかとお願いをした。


「…それは無理な話ですね」


「その理由、聞いてもいいでしょうか?」


素直に聞く。これでダメなら別の方法を探すしかないだろう。


「リグシャ。悪いけどこの子と二人にさせてもらえないかしら?」


「わかった。じゃあね、エルフさん」


一言残してリグシャは部屋を出て行った。


それを確認した女王は話を続けた。


「私は誰にも王位を継がせる気は無いのです」


まさかの女王の言葉に私は言葉が出なかった。なぜ、すぐに王位継承をしないのか?


それゆえにここまでリーン達がもめている。さっさと終わらせればいいのに、と思ってはいるが、この継承問題は私の知らない何かがもっとあるようである。


「これは今後の竜人族の存亡を本当の意味で解決するために必要なことなのです」


女王は先ほどの鋭い目つきとは打って変わって穏やかな目つきになっていた。これが本来の女王なのかもしれない。


「女王様いないと竜人族は増えないはずでは?それだと滅亡の一途かと思うのですが」


私の言葉に女王はふふふと笑った。


「竜人族は人間のように生殖能力があります。でも、子を作る竜人族はごく稀なのです」


そう言うと女王はため息を吐いた。そして、悲しい顔出し話を続けた。


「ただ、私から生まれる子供のような特別な力を持たないことの方が多く、個の強さを価値観として持つ竜人族にとっては、力無き存在ではこの社会で生きていくのに辛い目に合うでしょう」


能力の優劣は確かにその生き方を左右する。私も似たような事を見た記憶がある。エルフと言えど魔法が苦手だとやはり同族とは言え、見下す者も存在した。


その差が大きければ大きいほど、子供は純粋ゆえに残酷なので差別をすることが珍しくない。


それを教えてあげられる大人が近くにいればいいが、その大人が個体差に対する理解に乏しいなら子供の歯止めにはならない。


現に託児所でも似たようなことは起きるが、ゴッドキラーという最終抑止力があるゆえに、強引にでも個体差差別を止めることはできる。


だが、ここでは強い個体が優遇されてるようで、そうなると劣る個体を守る者も少ないだろう。


それがわかっているからこそ、自ら子供を作るという行為をしないのは当然と言えば当然かもしれない。


「しかし、それが続いたとしても、女王も代を重ねるごとに衰えてきています」


女王は自分の手のひらを見つめた。まるで、その力が無いことを確認するかのように。


「その証拠に、私は先代のような高い能力の個体をあまり生めてません。どちらにせよ、この方法は近い未来、使えなくなるのです」


つまり、力を受け継いでもリグシャだろうがヘキサだろうが今の女王より竜人族を繁栄させられる可能性が低い。


ゆえに、王位の継承もあまり意味がないということになる。そのために無駄な争いが起きている。このことをリーン達は知っているのだろうか?


「そのことは他の人は知ってるいるんですか?」


「一部の者は知っています。ただ、現実を受け入れられるかは別です」


一族の衰退を防ぐためにヘキサ派とリグシャ派は対立している。だが、その先はお互いの求めた結果ではない。これは何とかして止めなくてはならない。


無駄な戦いを続けることほど、悲しいものはない。


「それに、この方法は自らの生命の一部を分け与えて子供を作ります。ゆえに、どうしても短命となるのです。そのような思い、もう誰にもさせたくはない…」


言葉の最後は思いが漏れたかのように小さな声になっていた。


もしかして、ヘキサを捜索しなかったのもこれが理由七だろうか?


だとしたら、女王はリーンが思っているような残虐な人ではない。


むしろ…


「もしかして、ヘキサを殺そうとしてのも…ここから追い出そうとしてたってことですか?…ヘキサを守るために」


女王はそれには答えなかった。その代わり私に近くに来いと手招きをした。私は恐る恐る近寄って行った。


「ヘキサは、あなたに会えて幸せ者ですね。普通、自分の血の繋がりのない者のために自らの身を危険に晒すなどあり得ないことです」


女王は私に向けて手を差し出してきた。


「私の手を握りなさい」


言われるがまま、私は女王の手を握った。


すると、心地よい温もりが全身に回っていった。


「これが王位継承の力…竜王の魂です。これをあなたに託します」


まるで体が活性化しているように力が噴き上がってきていた。何もしていないでこれだ。本気で開放したら…いや、ちょっと待って。これ、おかしいよね?


「あの…これって、私がもらったら竜人族の王位継承の問題はどうなるんですか?」


「あなたが王の力を持っている以上、もう誰も王にはなれません」


いや、ちょっと、この人さらっと凄いこと言ってるし、とんでもないものくれたよ!?


そもそも何で私なの!?


私に竜人族作れって言うの!?


私の思考が追いつかないのを見て女王はクスっと笑った。


「心配しなくても大丈夫です。何もあなたに女王をしろという訳ではないのです。ただ、何となく、あなたに託していいと思った…ただ、それだけのことなのです」


あの…たくさんもらった果物をお裾分けするかのように、とんでもない力託すのはやめて欲しいものである。


「それに、この力はいつまでも私のような老いていくだけの者が持つ力ではないですから」


嬉しそうな女王には悪いのだが、私はとても気が重い。そういう大事なことは本人に確認して欲しいものである。


それはさておき、ヘキサとのこと、もう少し…先が無いのならヘキサとの時間を過ごしてほしい。


「あの…ヘキサに会ってあげて下さい。ヘキサ、このままだとあなたを…お母さんを怖い存在の記憶で終わってしまいます。それは…悲しい事です」


ヘキサのこととなると女王は何も言わなくなった。でも…それではダメだ!


「私のお母さん、昔、エルフ狩りで捕まって連れていかれました。ヘキサくらいのときにです」


聞いているのだろうか?いや、構わない。聞いていなくても。私の思いが伝わるのならば。


「お母さん、私を逃がそうとして捕まったんです。お母さんってどうしてそうなんです?子供の気持ちも考えないで…」


あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。辛い記憶なのに…。


「でも、あなたは助かった。そうでしょ?」


思わず女王を見る。私の目には今にも溢れそうな涙が溜まっていた。


「あなたのお母さんは知らないけど…その気持ちは分かります」


女王は私の頬に手を当てて優しく微笑みかけてくる。


「私も…お母さんですから」


「だから、ヘキサに会って、ちゃんと話してあげて下さい!」


私は女王の手をしっかりと握りしめた。だが、女王は首を横に振る。


「お母さんですが…女王でもあるのです。女王としての責任を果たさなくてはなりません。そうしなければ、ヘキサも…ヘキサ以外の私の子供たちが不幸になってしまう」


分かった。この人は、決して残酷でも冷酷でもない。自分の子供たちのために、今できることを、子供たちが幸せに生きていく未来のために犠牲になろうとしている。


だからこそ、ヘキサに会わせなくてはならない。ヘキサに母親の思いを教えてあげたい。


そして、ちゃんと母親との誤解を解いてちゃんと親子として過ごして欲しい。それが例え短い時間だとしても。


「私、ヘキサを連れてきます!ちゃんとヘキサに話してください。このままだとヘキサはあなたを怖がって生きていきます。それじゃあ…あまりにもヘキサが可哀想です!お願いです!会って話してあげて下さい!」


最後は泣きながらなのでちゃんと言えてるか分からない。でもいい。きっと伝わると信じている。


「…分かりました。ただ、ここはヘキサの命を狙う者もいます。私がヘキサの所に行きましょう」


呆れ顔の女王に私は抱き着いた。そして何度も「ありがとうございます」を言った。そんな私の頭を女王は優しく撫でてくれた。


その優しく撫でる感触で、また少しお母さんのことを思い出し、泣いてしまった。





扉から出てるとみんなに心配された。


まあ、目を真っ赤にして潤んだ目をしていれば当然である。


「ジールを泣かせる女王、絶対に許さん!」


部屋に突入しようとするイアランを何とか止め、私は大丈夫と説得した。


「ちゃんと話は出来たようだな」


ウィン様は嬉しそうである。本当にここに連れてきてくれたウィン様には感謝しかない。


「何にせよ、用が済んだみたいだな。どうする?地下の街の見学は行くのか?」


至って冷静なサルト。みんなは顔を見合わせる。


「私はすぐに帰ってヘキサに伝えたいことがあるの。もしみんなが見たいなら行ってもらっていいから」


「俺はジールが行かないなら行かないよ。俺はジールと一緒がいいからね♪」


相変わらずのイアラン。まあ、そう言いそうな気はしていたけどね。


「ゼフィとオーキスはどうする?興味があるなら行ってもいいんじゃない?」


イアランの返事に予想外に二人は「行く」と言った。ウィン様は私と一緒に帰ると言ってくれた。


「では二人の案内は引き受けよう。お前たちも気を付けて帰るようにな」


師匠と師範を引き連れサルトが進もうとした時、サルトは急に足を止めた。


「…お前等、うちの大将モトラには気を付けろよ。あの人は今の女王ではなく先代の女王が生んだ竜人族であり、過去最強ヴィクトの再来と言われてるほど強い。出会ったら逃げることだな」


言うだけ言うとサルトは背を向けながら手を振って師匠と師範を連れて去って行った。


しかしなぜ急にそんなこと教えてくれたのだろうか?そんな疑問はあるものの師匠と師範を見送った。


「女王とあんなに長く何を話してたの?」


いつの間にかリグシャがひょっこり私達の後ろにいた。


「あ、ちょっとね」


珍しいものでも見るかのようにリグシャは私を観察する。先ほどの無気力な少女とは別人のようであった。


「私もここにきてまだ日は浅いけど、あれだけ長く話してる人、みたことなかった」


話すと言っても三十分くらいではなかろうか?女性同士のおしゃべりの時間としては長いわけではない。


「だからか、サルトがあんな余計なこと言ってたの。あいつ、少し嬉しそうだったもんね」


もしかしたら、女王って誰とも…いや、一国の長ならば、本心を軽々しく、しかも特定の者ばかりに話すのは後々争い事の火種になることもある。


女王はそれを知って誰とも距離を置いていたのだろう。


そうなると、なぜ私にあれだけ話をして、そして聞いてくれたのだろうか?


「じゃあ、帰ろうか」


悩んでる私にいつもの明るい声でウィン様が言った。


それに同意して私たちはウィン様の転送魔法で託児所へと戻って行った。





帰った私たちを待っていたのはボロボロになりつつも託児所を結界で守りつつ、大柄の全身黒の鎧を身にまとった騎士と戦っているティゴがいた。


「ティゴ!」


私は思わず駆け寄る。


「お前等の頼みなんか聞くからこんな目にあっただろ!消すぞ!」


口は悪いのは相変わらずだが、私たちを見て表情が緩んでいた。


「またゴミが増えたか。掃除は好きではないが…ヘキサを殺す邪魔をするなら仕方ない」


黒の鎧の騎士は剣を抜いた。その刀身は漆黒。見たことない剣である。


「死にたくないならヘキサを出せ。お前らの命には興味が無い。ゆえに無駄な殺しに興味は無い。助かりたいならヘキサを出せ」


イアランがティゴを回復する。まさかティゴがここまで苦戦するとは思わなかった。


黒い鎧の騎士の後ろにはリーンやバスタ、ブラス、竜人族の兵士が数多く倒れている。この男、間違いなく強い!


「一応名乗ろうか」


黒の鎧の騎士は剣を高らかと掲げ、声高に叫んだ。


「私はザンネ。モトラ様の部隊で大隊長を務めている者だ!部下の失敗を責任を持って挽回しに来た!さあ、ヘキサを出すんだ」


ザンネの言葉に私は当然決まった答えを返す。


「答えはノーよ!あなたなんかにヘキサを渡すもんですか!」


私は生命エネルギーを解放する。


「ティゴの分も含めて、きっちりお返しさせてもらうわ!」


私はザンネに対峙する。


見栄を切ったものの、正直動けなかった。それだけスキが無いのである。


一瞬リーンが動いているのが見えた。どうやらまだ生きているようで安心した。


「えっ!?」


ほんの一瞬、リーンに気を取られただけだった。


ザンネが私の前にいて、私のお腹に熱い感覚があった。


私のお腹に漆黒の刀身が突き刺さっていた。


全く動きが見えなかった。生命エネルギーは50%も解放していたのに…だ。


「ジール!」


イアランの悲痛な叫びが少しずつ小さくなる…いやわたしの聴覚が鈍くなったのか?


私から刀身が抜かれるとその場に崩れ落ちていく。


薄れる意識の中、私はザンネの異常な強さにどうすればいいのか策が浮かばないまま、立ち上がれずに地面に横たわっていた。


自分の無力さに打ちひしがれながら…。

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