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二十一 自分の力が牙をむく

すぐに決着は着くと思って私たちは作戦会議という名目の元、ハルコとティゴは、なぜかやって来たイアランと私、師匠で作戦会議を始めた。


子供達は今、アルビオとウィン様が見てくれているので安心して会議に専念できそうである。


ところが、三十分過ぎても師範は戻らない。何だか嫌な予感がする。


「ちょっと様子見てきていいかな?遅すぎない、師範」


ならば私が!とハルコが立ち上がるが、万が一の時はハルコが連れて行かれて状況が悪化する。


「私とイアラ…じゃなくて、もふちゃんで様子を見てくる」


イアランの「もふちゃんって俺のこと!?」みたいなリアクションはこの際無視である。


とっさの名前だが、もふもふしてるから別にそれでいいと思った。


何より、ティゴとハルコにイアランの生存を教えるのは得策では無い。


私は小脇にイアランを抱えるとノイエ・クレイドを発動させ、師範のところへと走った。





予想は嫌な方に当たっていた。


苦戦している師範とは真逆の余裕のあるアシュタ。ハルコ相手でもここまで苦戦していなかった師範が追い込まれている。


「師範!」


私は慌てて駆け寄る。


「ほぅ、貯蔵庫からやって来るとはありがたい。後はハルコだけだな」


師範は致命傷はないが、見たこと無いほどに負傷している。生命エネルギーを放出しているのに、だ。


「逃げろ、ジール。コイツ、不思議な生命エネルギーの使い方をする。お前では無理だ。ウィンかゼフィを呼んで来い!」


その言葉を聞いてイアランがスライムを召喚する。


「俺も加勢して時間を稼ぐ。ジール、早く行け!」


しかし、アシュタの部下も数人いる。このままでは逃げきれない。イアランでも、どのくらい持ち堪えられるか分からない。


「今のあなたじゃ秒殺でしょ!やるしかないじゃない!」


私は生命エネルギーを20%放出する。生命エネルギーの色は白である。


「ジール、お前では絶対勝てない。なんせアイツの生命エネルギーは…」


「お前の『気』は本当に素晴らしいな、貯蔵庫!気門解放!」


アシュタの生命エネルギーが桃色に輝く。


私の生命エネルギー…ということだろうか?


「同質の気ならば、本来持つ肉体の強さが大きく影響する。エルフごときに劣る俺ではない!」


飛びかかってくるアシュタに私は構える。


「拳技『大筒』!」


まともにアシュタの胴を捉えた!これで決まってくれれば…。


「貯蔵庫は殺さない。でもな」


何でもない蹴りが来たので私はガードする。


その瞬間、今まで聞いたことない嫌な音が腕からして、本来曲がらない方向に腕が曲がる。


「痛いぃぃぃぃぃぃ!」


折れた。


腕の骨が折れた。


私は回復魔法で治すが、これはおかしい。


私は立て直し再び構える。


「足技『旋風』!」


アシュタに回し蹴りを当てるも、いつものような手ごたえが無い。


「格闘の真似事は他所でやれ」


容赦なく拳が私の顔に入る。まるで人形のように飛ばされる。鼻から鼻血が止まらない。


「やめろ、ジール!今のお前は生命エネルギー無しで戦ってるのと同じだ!そのままだと本当に死ぬぞ!」


私は再び回復魔法で傷を治す。


「女の子を拳で殴るなんて…ずいぶん酷い事するじゃない…」


ヤバい。今の私は魔法とシュテルしか攻撃手段が無い。だが、シュテルもアシュタの今の速さでは追いつけるか怪しい。


かと言って魔法は瞬間的には動きが止まる。そこを狙われてアウトである。


「いいから逃げろ!俺とこの犬でここを食い止める!早く行け!」


そう言った師範はいきなりアシュタに蹴飛ばされた。速い!


「さっきから追いつけずヤラレっぱなしなのに助けられると思ってるのか?」


イアランもスライム召喚でアシュタに攻撃をするが時間稼ぎにもならない。


やはりこのホワイトウルフの体ではホワイトドラゴンのような高等な召喚はできなさそうだ。


「ハルコは後で迎えにくるとするか。まずは貯蔵庫を確保だな」


アシュタは私に向かってくる。


私にもっと強力な魔法が使えたら…アシュタが回避不能な広範囲魔法でも使えたら…。


今使える範囲魔法では弱い。


もっと…もっと…何とか…何とかしなきゃ!


私は無駄かもしれないがローブを装備し、シュテルを発動した。


「そんな小石、効くと思ってるのか?」


まずは相手を引き付けて、魔法を囮にして近距離でシュテルを当てるしかない。


私は自分の前に五角形にシュテルを構えた。


まずは、けん制に…


「サンダーボルト!」


私が魔法を使った瞬間、シュテルが強く輝いた。


「へ?」


シュテルの間を通り抜けたサンダーボルトが、とてつもない雷となり、大地を雷の竜が走り抜けた!


雷が消えると、そこは一面焼け野原と化した。


「今の…何?」


アシュタは黒焦げになり、その場に倒れた。


「ジール、今のは魔法増幅の陣じゃないか?」


声の上ずるイアラン。私もこんな強力な魔法は見たことがない。


「シュテル…の力?」


「かもしれないな。帰ったらゼフィに聞いてみたらどうだ?」


何とか立ち上がる師範。


とりあえず、危機は脱したというところで私は良しと自分に言い聞かせた。





とりあえずアシュタを縛り上げ、託児所に連れて帰った。ボロボロの私たちを見てみんなが驚く。


「なんとか勝てたよ」


「だが、問題は解決してないがな」


縛り上げたアシュタを師範がみんなの前に放り投げる。


「まさか、こんな小娘がサンダードラゴンを使えるとは…」


悔しそうなアシュタの言葉で私は大事なことを思い出した。


「師匠!このシュテル、魔法の増幅効果あるんですか!?」


「いや、この前のイアランとの戦いでそれ以外の使い道があることに驚いたくらいだった。本来、その『銀星』は魔法を増幅するためのものなんだ」


結果オーライだけど、先に行って欲しい…とは思ったが、このローブくれたとき、何か師匠は言おうとしてたのを思い出した。多分、このことだったのだろう。


「しかし、同族性の生命エネルギーは厄介だし、ジールの生命エネルギーを簡単に他人が使える技術も厄介だ」


そう、師範の言う通りである。何より私が近距離戦で戦えないことが戦いを厳しくする。


先ほどのアシュタとの戦いでは、私はただのか弱いエルフでしかなかった。


逆にさっきの戦いが無ければ自分の戦力を過信して作戦を立案しただろう。


何より相手はエアマス。


もし、私とハルコが捕まりでもしたら、また生命エネルギーを搾取され、師匠や師範でも勝てない戦いとなってしまう。


「なあ、アシュタ、どうやってあんなこと出来たんだ?」


師範がしゃがみ込み、アシュタに顔を近付ける。


「誰が言うものか!ニンジャをナメるなよ!秘密は絶対に漏らさんぞ!」


「よーし、んじゃ俺が…地獄を見せてやるから裏に行こうか」


そう言うと師範は裏口から出ていった。


その後、絶叫という言葉が可愛く思えるような叫び声が四回した。その後、師範はさわやかな笑顔でアシュタを引きずりながら戻って来た。


「どうやらこれを使ったらしい」


師範は緑色の石をテーブルに置いた。


「これはお父様が研究していた気封石(きふうせき)です。ここに気を封じ込めて、自分の気を送り込むことで中の気を解放することができる石です」


つまり、これを使えば自分の生命エネルギーを大量に使わなくても良くなる便利であり厄介なものである。


「お父様はこれを何人かの部下に使わせていたのですが、やはり気を解放できる者でないと効果は無いので、兄に持たせていたとだと思います」


使える者が限定されるのは助かる。こんなものを無数の敵が使って来たら勝てるどころか逃げることもできないだろう。


「つまり、俺やジールも使えるってことなのか?」


「はい♪オーキス様やジール様なら使えると思います♡」


もう師範に構ってもらえるなら何でもいいのね、ハルコは。


「まあ、私には関係ない事だ。そろそろ帰る。せっかくヘキサがくれた血液を無駄にしたくないからな」


ティゴは確かに関係ない。それに、ティゴは帰ってもらった方が最悪、また同じように脳内にダメージを受けても治せる。


ここで私たちに無駄に関わるより、中立でいてくれる方が助かる。


「あ、そうだ。バカエルフ、ちょっと来い」


今度は私がティゴに連れられて裏から出た。


「どうしたの、ティゴ?」


「まあ、あの子供エルフにヤラレた感じなのも気に食わないから少し教えておく。時間がおしい。全力で私を殴ってこい。生命エネルギーを放出してだ」


何をするかは分からないが、ティゴが意味のない事を言うとは思わなかったので、言う通り20%開放して殴りかかってみた。


しかし、私の拳は空を切り、ティゴにおでこを叩かれた。


「これでさっきぶったのは無しにしてやる」


今の感覚…私がイアランの召喚したホワイトドラゴンと戦ったときに感じた先読みされてる感覚と同じである。


「これは結界を広めに展開し、相手の動きを予測する魔法だ。単純な攻撃くらいなら読めるようになる。だが、フェイントを多用されると厳しい」


今度はティゴの体が光る。


「別に生命エネルギーだけが身体強化できるものではない。強化魔法も様々な魔法と同時に組み合わせると」


ティゴが私の右に素早く回り込む。私は反応して身構える。


「避けられるといいな」


ティゴは私のガードが防ぐ前に私の顔に拳を当てた。


「魔力はお前の方が多い。でも使い方は私の方が効率がいい。ゆえに少量の魔力でお前の生命エネルギー解放に負けぬ身体強化魔法に昇華できる」


この短い間で実感した。ティゴは私よりはるかに強い。今のだって手加減しているのが分かる。


「まあ、見て覚えられたら苦労はしないが」


ティゴは魔力の放出量を上げた。


「一回だけだ。一回だけ真面目に攻撃してやる。覚えるかどうかは好きにしろ」


言葉を言い終わると同時にティゴは消え、気が付くと私の後ろで魔法の詠唱を終わらせ発射準備をしていた。


「反応が遅いな。それが通常使用ならエアマス相手には役に立たないな」


ティゴは魔法を放つことなく背を向けた。


「じゃあな。ヘキサにまた血をもらいに来ると伝えてくれ。それと…」


少し気恥ずかしそうになるディゴ。先ほどより小さな声でどこを見るとなく話し出した。


「あの…ウィンとかいうやつ、その、あんな風に抱きしめられたのは…久しぶりだった。悪く無いものだな」


そう言うと私に背を向け転送魔法でティゴは帰って行った。


ディゴの凄さを目の当たりにした私だが、残念だがあれを真似できる気がしない。


私は、どうすれば良いのだろうか?





ティゴが帰って戻ってみるといつの間にか作戦会議がおやつ大会となっていた。


託児所の子供達も集まり、居間が大渋滞となっていた。


「どうしたの、これ?」


戸惑う私にアルビオは栗をくれた。


「子供達を外で遊ばせていたらクレロが見つけてな。」


クレロが得意げに私にピースサインを向けてきた。私もそれをピースサインで返す。


栗、私大好きだもん♪


「集めてみんなで食べようとしてたところだ。すると、そこの娘が『オーキス様にも食べてほしいから』と何やら作り出したのだ」


手際よく動くハルコ。人の家台所だというのに無駄な動きがない。これも訓練されているのだろうか?


もしくは、師範に良いところを見せようと必死なのか…。


アシュタは子供達に突かれてるし、イアランは相変わらず子供たちにもみくちゃにされている。


どうやら作戦会議の続行は不可能のようである。





ハルコの小さく潰した栗とさつまいもをペーストにしてカリカリに焼いたパンに付けて食べるスイーツはみんなの心を掴んだ。


これ一回でハルコは子供達の人気者になった。子供達から「ハルちゃん」と呼ばれるほどである。


ハルコは子供達の反応に困惑していたが、少しずつ慣れて忍術なという魔法のようなものを見せてあげてた。


それ、簡単に見せて良いものか?とは思ったけど、子供達が喜んでいるので、そこら見て見ぬふりをする。


今まで何とも思わなかったが、子供達と接してるハルコを見て思う。十五歳の女の子とはこんなものなのかもしれない。


少し子供の面もあり、大人な面もあり、複雑なお年頃。そんな時に師範のキス。そりゃ惚れても仕方ないかもなぁ。


楽しそうなハルコを見ていると何とかしてあげたい気持ちが再びわいてくる。


だが、全く作戦がわいてこないのが辛いところである。





子供達が帰った後、突如問題が起きた。


居間で私がクアンタとヘキサ、アルビオ、ハルコでお茶をしていると師匠と師範がやって来た。


二人の深刻そうな顔を見て嫌な予感はしたものの、話を聞くことにした。


話によると、師匠に邪神から直接「人間界のゴットキラーと事を構えるな」と伝達が来たとのこと。


確かに今回、他界のゴッドキラー同士が争うことになっている。


これは以前のイアランの時より直接的ゆえに、きっと人間界の神から抗議がきたのかもしれない。


「アシュタ、ハルコを開放して、今後、我々はエアマスに危害を加えないこととする」


師匠はそれだけを言うとアシュタを解放してハルコと共にエアマスの元へ帰るように促した。


ハルコはアシュタに連れて行かれる際、こちらに悲しそうな表情を向け、帰って行った。


私は納得できなかった。


だが、私がエアマスの所に攻め込めば師匠か師範に責任が及び、最悪、私が捉えられてエアマスの実験材料にされる。


師匠が二人を返したのは、きっと相手も私に手を出さないことを条件にしたに違いない。


でなければ、お互い痛み分けとはならないし、師匠が承諾しないと思った。


「ハルコ、間違いなく実験で殺されるよね…」


今度はどうしようもない。トップが決めたことを師匠が破るとは思えない。


「エアマスと戦う方法、無いわけではないんだが…」


歯切れの悪い言い方をする師範。でも今は少しでも可能性があるなら聞きたい!


「その方法って何ですか、師範!」


珍しく困り顔の師範。そんなに問題があるのだろうか?


「まず…一対一でエアマスに勝てるならって条件が前提になる」


いきなりの高いハードルにくじけそうになる。だが、そこはまた作戦を立てるとしても、一対一というのが引っ掛かる。


「エアマスが一対一に応じてくれるんですか?考えにくいんですけど…」


「応じざるを得ないんだ。この方法だとな」


いきなり師匠がテーブルを叩き師範を睨んだ。


「自分が何言ってるか…分かってるんだろうな、オーキス!」


師匠の強い口調、初めて聞いたかもしれない。そんなに危険な事をしなくてはならないということなのだろうか?


「ジール!もうハルコのことは諦めろ!オーキスの案には無理がある!」


「でもな、ゼフィ。ジールだって子供じゃないんだ。それくらい自分で決めてもいいんじゃないか?」


私は二人に置いて行かれてしまい、きょとんとしていた。


「それは、ジールに人間界のゴッドキラーへ挑戦しろと言うのであろう?」


アルビオは何事もないようにさらりと言った。


「はい?」


分かったような分からないような…つまり、私が人間界のゴッドキラーになりたいと言ってエアマスに挑めということで合ったいるのだろうか?


「人間界のゴッドキラーになる方法三つある。一つは継承。レパルドがイアランに行ったやつだ。二つ目は人間界の神からの指名。これはレアケースだ」


「つまり、三つ目が決闘ってこと?」


師範は私の答えにうなずく。


「それで一対一か」


正直勝てる確率は低い。アシュタのように私から吸い上げた生命エネルギーを使われたら、私は魔法だけで戦うことになる。


そうなると動きの速いエアマス相手には不利である。


「せめてニ対一なら何とかなりそうなんだけど…」


「ダメだ!もしお前が勝ったら、ここから出ていくことになるんだぞ!」


勝ったら出ていく?どういうことなのだろうか?私が理解してないのを察して師匠が説明を始めた。


「他界のゴッドキラー同士はある一定の距離を置いて居住地を決め、神と他のゴッドキラーに知らせる義務がある。近いと奇襲をして他界のゴッドキラーを潰し戦力バランスを崩すことになるからだ」


気遣いをしてくれるのは嬉しいが、それでも私が諦めたらハルコの命はどうなる?そう思うとやるしかない!とやる気が出てくる。


だが、問題は勝てなくては意味が無いところ。


ハルコだけ奪うならできるかもしれなちが、戦うとなれば相手はゴッドキラーである。今の私一人がどんなに頑張っても勝ち目はない。


かと言って師匠や師範に頼めるわけがないし、ウィン様が大人の状態なら勝てる可能性はあったかもしれないが、今の子供のままでは無理だろう。


ホント、せめて二人で戦う方法があれば連携したりすることで可能性を上げられるのだが…。


悩んでる私の膝にイアランが乗ってきた。最近、イアランはよく私の膝に乗ってくる。


人間のままならぶん殴るとこだが、ホワイトウルフは触り心地がよく、つい許してしまう。


私はイアランの毛並みで心を癒し、また考える。だが、やはり案は出てこない。


「ジール、エアマスに勝つ方法、あるよ」


普通に会話するかのように自然と言うイアランに私は思わず呆れた顔をしてしまった。


「まあ、一応聞くわ。どうするのかを」


イアランは尻尾をパタパタさせながら、私を見ながら答えた。


「俺と愛の契約をしてくれたら勝て…」


私はイアランを摘まみ上げ、窓の外へ捨てようとした。


「いや、真面目にだよ!そうすれば勝機もあるんだって!」


「愛の契約って、婚姻契約ってことでしょ?私は犬と結婚はしません」


「いいから聞いてくれよ!ホント真面目なんだって!」


ここまで食い下がることは珍しいので、少しだけ話を聞くことにした。


イアランから一通り話を聞いた私は思わず少し悪い顔で笑みを浮かべてしまっていた。


「ったく、ホント感心するくらい策士ね、あなたは」


「今の段階で勝てる方法を考えただけさ。何より、エアマスにはしっかり俺に対するツケ払わせたいからね」


決して勝率が高いわけでは無いが、これなら、エアマスの不意を突ける可能性が上がり勝機が生まれる。


ホント、イアランのこういうとこは感心するし、頼りになる。


「ねえ、勝ったらちゃんと婚姻契約を…」


「しないわよ!」


…さっき私の思ったことは訂正されて「ダメなヤツ」と再認識した。

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