二十 生命エネルギーの代償
託児所に戻ると早速ティゴが辺りを観察し始めた。
「ここが神の箱庭か。初めて見た。名前の割にちゃちな施設だな」
早速余計なことを言っている。
だが、悪態は長続きしなかった。
「お、ジールお帰り〜♪治療してもらったか〜♪」
私に飛びつこうとしたイアランをティゴは即座に捕まえた。
「ホワイトウルフだと!?しかも生きてる!こんなものまでいるのか!」
イアランはティゴの顔を見て固まった。
ゴッドキラーだったからティゴを知っていて当然だろうが、イアランもティゴが好きではないようである。
「てか喋ってなかったか?ホワイトウルフは言葉が話せるとは聞いたことがないが、それは育成環境によって変わるということなのか?」
まるで幼い子供が初めてのおもちゃをもらい、いじくりまわしているみたいである。
「これ、くれないか?金でいいのならいくらでも払う!持って帰って『色々』やりたいことがある」
私は驚いた。ティゴと会って初めて子供らしい純粋な瞳で私に頼んできた。思わず私はOKを出そうと思ってしまったが、今にも泣きそうな顔をしているイアランを見て我に返った。
「あー、その子はちょっと事情があって…というかここにいるみんなをあげるとかは出来ないよ」
「そうなのか…七十三個試したいことを思いついたのだが…残念だ…」
イアラン、これで私はあなたの命の恩人なんだから、感謝してもらいたい。
しかし予想外なのが食い下がらずあっさり諦めたティゴである。もっとしつこく言ってくるかと思ったのだが…いや、違う!
「ティゴ、今白衣の内側に隠したもの、出してもらっていい?」
「チッ!バレたか」
いつの間にか口をテープでぐるぐる巻きにされてしゃべれないようにされているイアランが白衣から現れた。
これは帰る前に身体検査をしなくてはならない。まあ、イアランくらい小さい珍しそうな生き物はいないと思うが…。
「今度勝手に持って帰ろうとしたら帰ってもらうからね!」
「わ、分かった。今度からは気を付ける」
果たして呼んでよかったのか悪かったのか…。
「それ…いやだ…」
居間で泣きそうな声でヘキサが後ずさりする。
注射器を持って恐い笑みを浮かべながらティゴがゆっくり迫っている。
「大丈夫大丈夫♪ちょっとちくっとするだけだ♪私を信じろ」
十二歳にしてマッドサイエンティストオーラを放つティゴ。これはヘキサに悪いことをしたかもしれない。
「ティゴ、あのさ、痛くないようにするとか、何かヘキサが喜ぶことしてあげるとか色々方法あるんじゃないかな?」
「なるほどな。では強制睡眠で眠らせて、寝ているうちに…」
「ちょい待った!」
さすがにそれは可哀想である。こっちの都合でヘキサを騙して嫌な思いをさせるのは違うと思った。
私はヘキサに近寄りヘキサの手を取り目線を合わせた。
「ごめんね、ヘキサ。ある人を助けるためにあなたの血が少し欲しいの。ちょっと、ほんの一瞬チクッとするかもしれないけど、すぐに終わるわ。お願い、ヘキサの力を貸して」
私の言葉で少し落ち着いたのか、小さく「うん」と答えるヘキサ。
「心配するな。私の技術があれば全く痛みは感じず終わらせることができる。ただ、刺さる感覚だけは感じるというだけだ」
だが、その言葉を聞いて、ヘキサはまた涙目になる。振り返ると、悪魔のような笑みを浮かべたティゴが注射器を持って立っている。
「少しはヘキサの気持ちに配慮しろ!」
私は思わず平手でティゴの後頭部をはたいてしまった。ハッとしたが、ティゴはうつむいて黙ってしまった。
「ティゴ、今のは何て言うかその」
「うわぁぁぁぁぁぁん!ぶたれたぁぁぁぁぁ!」
私は驚いてしまった。ティゴが普通に泣いている。年相応の少女のように泣いている。
「ぶたなくてもいいじゃないぃぃぃぃ!」
あたふたしている私をよそに、ヘキサがそっとティゴに近寄り頭をなで始めた。
「…ヒック、ヒック、ありがとう…」
涙を白衣で拭いながらヘキサに礼を言うティゴ。本当にティゴは掴みどころがないキャラである。
「もうぶつなよ、クソエルフ…」
やっと泣き止むとお互い何かを分かり合ったのかヘキサは手をティゴに出してきた。
「いいのか?」
「もう泣かないってちゃんと…約束できるならいいよ」
…確かに生きてるのはヘキサが上だけど、人間年齢だと五~七歳の感じがしていたのだが、今回は完全にヘキサがお姉さんとなっている。
「あ、ありがとう…」
ちょっと照れ臭そうに採血を始めた。どうやら私の取り越し苦労かもしれない。
「あ、バカエルフ、私を叩いたことは忘れないからな」
私に向けたティゴの顔は殺意に満ちていた。これは…後で大変なことになりそうである。
無事採決も終わり、ヘキサと仲良くなったティゴは一緒にお茶をしていた。
こうして見ると仲の良い姉妹のように見える。カワイイとこもあるんだと改めて思う。
「で、ハルコはどこにいるんだ?」
「それが…」
そう、肝心な本人がいなければ診てもらえない。どうやって本人を連れてくるか…そこが問題である。
「ん、来てるぞ、ハルコ」
居間に入って来た師範がさらりと言う。
いや、ちょっと待って。なんでこの世界の敵はここに簡単に来るの!?ブラービに始まりイアランも、エアマスも、そしてハルコも…敵ってどういう立場か理解しているのかな…。
「それがさ、ちょっと何とかして欲しいんだ」
師範が珍しく困っている。それも何となく分かった気がした。
顔を赤らめて師範の後ろからこっそり付いてきているハルコ。まあ、私相手にも顔を赤くしていたので通常がこれなのかもしれないが。
「コイツ、ずっと俺のそば離れないんだよ。お前らがティゴのとこに行ってすぐ来たんだがな」
「だって…オーキス様は私にとって…」
もじもじしているハルコ。これって…。
「私…あんなに激しく来られたの…初めてで…」
どうやら師範がハルコにキスをして生命エネルギーを流し込んだ時のことであろう。師範を見るハルコの目は…どう見ても恋する乙女である。
それよりも私は思った。
いや、あんたは私にかなり激しくきてましたよ!?私もキスで起こされた経験無かったんですけど!?自分がやったこと、覚えてませんか!?
「ま、まあ丁度いいかな。ハルコ、ティゴに診てもらったら?あなたももしかしたら脳にダメージが」
「い、嫌です!」
途端にハルコが下がる。
「そこにいるティゴに診てもらえと言うのなら私はティゴを殺します!」
急に一触即発の展開である。
「おー、ずいぶんと嫌われたもんだな。私はこんな乳くノ一、診なくてもいいんだが、報酬をもらった以上、縛り付けても治療するからな。覚悟しておけ!」
どうしてこんなことになるのだろうか?
二人に何があったのか分からないが、とりあえず仲裁をしなくては…と私が間に入ろうとした時、思わぬ援軍が現われた。
「ハルコ、お前が嫌がるのは分かる。だが、お前が朽ちていく姿を俺は見たくない。そんな俺の頼みは聞いてもらえないだろうか?」
師範がハルコにそっと語り掛け、優しく抱きしめた。ハルコはあっさりと構えを解き師範の背中に腕を回す。
「…オーキス様がそう言われるのなら…私、診てもらいます…」
私は忘れていた。
師範は案外女心が分かる悪魔である。そうやって私も何度スイーツで騙されたことか…。
「三文芝居は終わったか?見てやるからベッドのある部屋を用意しろ。この色ボケくノ一、もう脳が腐ってそうだからな」
どうやらハルコはこれで何とかなりそうである。私は心から良かったと思うのだが、これから師範とどうするのか?も気になるところではある。
エアマスが絶対許さないのは間違いないだろうし。
「私、色ボケなんかしてません!十五年生きてきて初めて心から愛せる人を見つけただけでです!」
それを色ボケっていうんだけど…ちょっと待って!私は十五歳の女の子にあんなに襲われて…いや、そこじゃなくて、だから幼さゆえに私に求めているのが母親に助けを求めるような感じを受けたのだろう。
それよりティゴが固まっている。どうしたのだろうか?
「あ、あと三年で…あんなに…なれるのか!?」
こっちは体の作りを気にしているようだ。
身長も、胸も段違いだと同じ人間という種族とは思えないのも分からなくもない。
三年であれくらい成長するといいね、ティゴ。
診察と治療を終えて、ティゴが私の部屋から出てきた。
「危なかったな。あれは…生命エネルギーをコントロールできてないんじゃないか?常に脳が興奮状態で抑制する力が極端に弱まっている」
思い当たることだらけである。ハルコの行動はいつも我慢できずに私を求めて来た感じだった。
「それにこの力、人間は使うべきではないな。体の至る所で衰弱が見られた。命そのものを力に変えて…いや、前借して自分の能力を上げているんじゃないか?」
今の椅子に腰かけたティゴがいい気な溜息をつく。
「バカエルフやバカ悪魔はそもそも生命エネルギーが…寿命が違う。ゆえに使いこなせるのかもしれないが、人間では使える回数が極端に少なくなる」
ティゴは私が出した紅茶を飲むと私を睨むように見てきた。
「ハルコの身体衰弱を助長したのがお前だからな!」
思わぬ言葉に私は固まってしまった。
「本来、自分のエネルギーだけでもコントロールできてないのに、それにお前のエネルギーを加えることにより、普段扱わないエネルギーを扱うこととなり体の負担が大きくなったわけだ」
「でも、ハルコがそれを望んで…」
「黙れバカエルフ!それは肥満児が甘いお菓子をくれって言ってきたからってあげるのと同じだ!その場の欲は満たせるが、悪化の手助けをしてるだけだ!」
正論を言われ言い返せなくなった。私は求めるものを与えた。
結果共に堕ちていった。
お互い苦しめることになった。
それは私が悪い。誰も悪くはない…。
「気に病むことはないぞ。誰しも間違えることはある。問題は、その間違いを受け止めて先に進むことだ」
そう、こういう時に私の背中を押してくれる頼もしい英雄。だから私はウィン様を尊敬し、大好きなのである。
「黙れ、ガキエルフ!その無駄に長く生きても幼稚な思想で何が解決するんだ?そこの甘いバカエルフには現実を教えてやるべきだろうが!」
私のことはともかく、ウィン様への暴言は少し頭にきた。
だが、当のウィン様は気にする様子もなくティゴに近寄り優しく抱きしめた。
「なっ!」
思わずティゴは顔を赤らめる。
「君がどのような人生を歩んできたかは私にはわからない。だが、これだけは知って欲しい」
ウィン様は両手でティゴの頬を優しく包むように触れ、しゃがんでティゴと目線を合わせる。
「辛いことはみんなで分け合えばいい。みんなで考えればいい。それはジールも君もだ。そのためなら私も力を喜んで貸そう。だから、誰かに当たるのはやめにしないか?」
しばらくティゴはウィン様を見ていた。いや、魅入ってしまっていた。
「君は優秀だ。私なんかよりもな。ぜひ、君の力を貸してほしい」
そう言うとウィン様はティゴにいつもの素晴らしい笑顔を見せた。
「そ、そんなことされたってだな…」
まさかのティゴが困惑している。
「今すぐにとは言わないさ。君にも君の考えがあるだろうからな。だが、私は信じている。君は…とても優しい。私の思いをきっと理解してくれると」
ティゴは何かを言い返そうとしていたが、そのまま黙ってしまった。
「邪魔をしてすまなかった。また君とはゆっくり話をしたいものだな」
ウィン様はティゴに笑みを向けると部屋を出ていった。その後ろ姿をティゴはしばらく見ていた。
自分もエアマスに捕まって大変だったろうに、帰ってきても暴言を吐く女の子を相手にあの言葉…私はますますウィン様を好きになった。
そして、しばらくすると我に返ったティゴは話を続けた。
「まあ、その、つまり、もうハルコを甘やかすことをするなということだ。でないと治療した意味がなくなる。何より、ハルコが本当に死んでしまうからな」
「そうなんだけど…一つ気になることがあるの」
「何だ?」
あれ?心なしかティゴの反応が優しくなった気がする。ウィン様のおかげだろうか?
「その、私から取った生命エネルギー、そう簡単に使い切ることができるものなのかぁって」
「どういうことだ?」
私はキスをしてくる頻度が短くなったことを話した。するとティゴは何やらぶつぶつと自問自答を始めた。
「もしかすると…これは仮設なのだが」
「お父様にその『気』を捧げたからです」
ティゴの言葉をさえぎるようにハルコが答えた。
「お父様を…助けてください!」
言いたいことが飛び過ぎて分からない。まあ、これがハルコと言えばハルコらしいのだが…。
自分を助けてと言うなら分からなくもないが、なぜエアマスを助けなくてはならないのだろうか?
「どういうことか説明してもらえる、ハルコ」
ハルコの説明を聞いて私は驚愕した。
エアマスは生命エネルギーを蓄える実験をしているらしい。その一環でハルコの人の生命エネルギーを吸収できる技をたまたま見つけ、それを利用して生命エネルギーを集めようと考えた。
だが、普通の人から集めるのは時間と人数が膨大に必要となる。
ゆえに私のように生命エネルギーを扱える者を探してたようだ。
流石に師範を捕まえるのはゴットキラーとしてできないので、私に目をつけたとのこと。
私はエアマスのやり方に怒りを覚えた。
自分の娘の命を使ってまでやることでは無いし、そんなこと許されてはならない!と。
「止めましょ!でないとまた同じことをを繰り返すわ!」
「具体的にはどうやってだ?」
私は勢いよく言ったものの、ディゴの質問には答えられなかった。
「まあいいさ。糸口になるかもしれない奴が来たみたいだしな」
とディゴが言うのと同時くらいに数人の忍者とそのリーダーらしき男が現れた。
「お兄様!」
周りは何も思わないかもしれないが、この時私は「何番目のですかね?」と、つい思ってしまった。
「ハルコ、帰るぞ!ここにいることが父上にバレたら殺される!お前は騙されてここに来た。そう言うことにしろ!」
そう言うとお兄様と呼ばれた男はハルコの手を握り強く引っ張た。
「イヤです!私は…お父様を止めたいんです!」
ハルコの目は真っ直ぐに兄を見ていた。その後、すぐに顔を赤らめてもじもじし始めた。
「それに…愛する人のそばにいたいんです♡」
「愛するだと!それは私よりもか!」
お兄さん!それはちょいおかしい質問じゃないでしょうか?それだとお兄さん、ハルコを女性として愛しちゃってる発言になりますけど…。
「あんなに私の生命エネルギーを分け与えたじゃないか!あんなに激しく、色んなところで吸収する方法を試したのに!」
あの、ちょっと、これ、このまま聞いてていい話なのかな?
二人の何かヤバそうな過去が…と言うか、このお兄さん、ハルコが衰弱させたアシュタと言うことだろう。
「どこのどいつだ!ハルコを騙してハルコの全てを奪った不届者は!」
アシュタは猛烈に怒り叫んだ。すると声を聞きつけて師匠と師範がやってきた。
「私の結界が、まだ修復できてないから迷惑をかけるな」
「今度は何だ?またニンジャか?」
師匠と師範の顔を見てアシュタは見下したように笑みを浮かべた。
「これはこれは父上から逃げ帰ったゴッドキラーのお二人ではございませんか」
皮肉のつもりだろうが、師匠と師範は顔を見合わせて笑い出した。
「確かにそうだな、ゼフィ」
「そうだな。それは間違ってないな」
まさかの反応にアシュタが少し苛立ちを見せる。
「お前たちに用はない。ハルコさえ返してもらえばそれてまいい」
そう言ってハルコを自分に引き寄せるとアシュタはニヤリと笑みを浮かべた。
「じゃあな、魔界のゴッドキラー。また会うことがあったら」
アシュタが言い終わる前に、ハルコはアシュタの手を振り解き師範の後ろに隠れた。
「どういうことだ、ハルコ!」
驚き混じりの声がアシュタから発せられた。
「私!オーキス様とここにいます!わたし、オーキス様を…愛しているんです!」
ここまで言い切ると清々しいと思えるのは第三者だからだろうか?
アシュタの固まった表情を見てると、当事者の辛さは伝わってくる。
せめて、人間ならともかく悪魔を愛してる妹を見て祝福できる兄はこの世の中にいないだろう。
「許さんぞ!妹をたぶらかし、その全てを奪った貴様を俺は許さん!」
「なあ、俺、ハルコの何を奪ったの?」
事態がイマイチ飲み込めてない師範が私にきいてくる。
「それは…私の心です♡」
恥ずかしげもなくハルコが答える。
「だそうですよ、師範。このお兄さん、師範に任せていいですか?私たちはエアマスの生命エネルギー悪用計画を阻止する作戦考えますから」
「ったく、面倒だなぁ。コイツ、そんなに強そうじゃないしなぁ」
やる気の無い師範にアシュタは更に怒りの表情を強める。
「殺す!この悪魔!妹は俺のものだ!貴様にはわたさん!」
「違います!私はオーキス様のものです!」
ハルコ、それは今言ってはダメだよ。
完全にアシュタは頭に血が上ったし、一緒に来た部下も呆れてるし、何か状況だけは混沌としてしまった。
「表へ出ろ!私のゴッドキラーに匹敵する力を見せてやる!」
何だか知らないが、ハルコ奪還から師範との決闘に切り替わったアシュタ。
諦めたのか、師範はアシュタの後に続き裏から出て行った。
表から出ないのは預かっている子供達がまだいるから配慮したのであろう。
面倒に巻き込まれない内に私たちは場所を変え、作戦会議を始めるのであった。
たが、この後、私は思い知る。
私が持っている力がどれほど脅威となるかを…。
初めて評価ポイントが入りました!評価して頂きありがとうございます!!嬉しくてパソコンのキーボードが激しいビートを刻んでしまいました。
もう、やってて良かったと心の底から思います♪
現在ユニーク人数も180人を超え、PVも400まであと少し!
本当に診て下さってる方々、ありがとうございます!
界王拳を身につけた悟空のように修行して皆さんの時間を無駄にしないように頑張っていきますのでよろしくお願いいたします!




