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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第一章 クアンタ護衛編
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一 託児所に来た子供

私は月明かりに照らされながら服を脱ぎ、川に浮かんでいた。


夜はあまり好きじゃない。


ここがどんなに安全な場所であったとしても、静かすぎるとまた昔のことを思い出してしまう。


私は今、魔の森と言われている魔界の入り口の目の前にある広大な森にいる。


ここは魔界が近いゆえに魔物が多く生息している。


それも人からザコと呼ばれるレベルから一国が本気を出して討伐するレベルの魔物までそろう魔物の楽園と呼ばれている森である。


そんな森の中、私は何の因果か託児所で魔物の子供の世話をすることになった。


エルフ狩りは未だ続いてるので名前をサリスからジールと変え、エルフ特有の白い美しい肌を魔法で茶褐色に染め、ダークエルフとして暮らしている。


魔物と言えど、子供は種族によるとは言え、やはり弱い。


狩りに出ても足手まとい、農作業でも邪魔。でも子供から目が離せない。案外この託児所は重宝されており、私も魔物が相手と言うだけで普通に預かり世話をする。


異種族だと基本的な強さも違うので間違って命を奪うこともあるのでは?と思う人もいるかもしれないが、ここではそれが起きない。


この世界の魔物は体内のコアと言われてる結晶のようなものを持つ。


コアの大きさや純度、エネルギー量など様々な要因で強さが決まる。


魔法や炎を吐く、強靭な打撃などは、そのコアからエネルギー変換をして魔法や炎、筋力増加など個々の特性に適した使い方がされる。


託児所敷地内は基本的に結界に覆われており、その結界の中だとエネルギー変換が行われない。


つまり、体格的や成長による力差はあれど、子供同士のケンカがあるくらいで相手の命を奪うまでは至らない。


それに、多少のケガは私の回復魔法で治癒させるので問題はない。


託児所の治安は魔物が出入りする割に良いと言える。最悪、この結界を作った者から許可を得た者は魔法が使えたりする。私もその許可を得てるわけである。


ただ、魔物の子供たちって…


【ホント、可愛くない!!!!】


この前もいきなり


「ジールって胸大きいけど乳出るの?」


とオーク、クレロに言われた。返答する間も無く今度はゴブリンのラサイに


「出ないならヤギや牛の方が役立つ乳だな。ジールも乳出ると役立つ乳になるのになー」


と二人して真剣に考え込み、幼いなりのアイデアを出し合って私を乳牛ならぬ乳エルフにするにはどうすべきかを話し合う。


(私の乳は牛やヤギとくらべられるわけ!!!)


かと思えば好意が私を苦しめたこともある。


この前はリザードマンのスレイに


「ジール、いつもお世話してくれてありがとう!これ、お礼だよ♪」


と手渡してくれたのは…アッサーマという毒虫の頭を潰したものを手渡しでくれる。


リザードマンにとってはこの毒虫、かなりのご馳走であるらしく、頭を潰すのは逃げられないためであるとのこと。


(気持ちは嬉しいよ…けど、行為は拷問だよ…)


しかし、これを怒るのは長く生きてる者のすることでは無い。私は大人対応ができるエルフなのである。


「いーい、スレイ。リザードマンと私では食べるものが違うのよ。でも、そうやって相手に感謝することは悪いわけじゃ無いよ。それはせっかく捕まえたんだからスレイが食べていいよ」


それを聞くとスレイは嬉しそうにアッサーマを食べて喜んでいた。


男の子だけが問題児ではない。女の子は女の子で別の問題がある。


エルフでは考えられなかった【男の子をぶちのめす女の子】が珍しくない、と言うより多い。


確かに生物学的にメスが強いなら子供を守ることもできるので合理的ではあるのだが…結界の外から瀕死なのでは?と思うくらいである。


ゆえに女の子同士の戦いも激しかったりする。


「私が目を付けたガーザと手をつながないでよ!」とオークのサマーンがつっかかる。


「うるさいわね!そんな決まりないでしょ!」と応戦するオーガのキャプラ。


一触即発女の子たち。争いの対象となったオーガのガーザはオロオロしていたりする。


すかさず私が止めに入るも


「まだ繁殖相手見つけてないクセにうるさい!」


「そーよ!ジールみたいに私は繁殖相手探すのサボったりしないんだから!」


この言葉が私のメンタルに痛恨の一撃!


(た、た、確かに私は70年独身だけど、エルフとあんたらを一緒にしないでよ…私だっていい人がいればアタックするんだから!)


何より、幼い子の交尾や繁殖と言う言葉が日常的に出てくるのはさすが魔物とも思う。エルフの里では全く聞かなかった単語の一つでもある。


「今日も大変なんだろうなぁ…」


私は川での水浴びを済ませるともう一眠りしに託児所の2階にある私の部屋へと戻って行った。





日も昇り、いつものように魔物の子供たちがやって来る。天気も良さそうなので外で遊ばせようかと考えていた。


そんないつもの日常が今日も繰り返されると思っていたのだが、想定外は予告なく来るものである。


まだお昼になる前だろうか、そんな時に不意打ちはやってきた。


「ジール、一つ頼みを聞いてくれ」


聞き覚えのある声に呼ばれ振り向く。


そこには長い銀髪を後ろでくくった無精髭を生やし黒いローブを着た男が声をかけてきた。


人間で言うなら中年くらいの顔つきなのだが、その声と渋い見た目が中年好みにはたまらないのでは?と思う。


「師匠が頼み、ですか!?」


そう、この男はこの託児所の主、ゼフィ。彼は偉大なる【ゴットキラー】と呼ばれてる4人の1人。


邪神道士ゼフィの名を魔界で知らぬものはまだ生まれたてか、来たばかりの新参者である。


かつて神との戦いでは神や天使の攻撃全てを魔法で防ぎ、他のゴットキラーと共に天界の神に一目置かれる存在となった。


この託児所の結界もゼフィが作っているので、折り紙付きの安全性があるとも言える。何より、その名ゆえに託児所を襲う魔物はいないのである。


私がゼフィを師匠と呼ぶのは、魔法や学問について教えてくれていたので、いつの間にか師匠と自然と呼ぶようになった。


そう、昔、師匠が私を…人間にさらわれそうになったところを助けてくれたのである。


そんな師匠だが、私に頼み事をしたのは一度しかない。それは、ここの託児所で働いてくれないか?と言うことだけ。


それ以外は基本的に小さな頼み事もすることなく、自分で何もかもやる。


魔法や学問も私から教えてほしいと頼み込んだし、助けられた直後、師匠は世界を旅していたので着いていくと言ったのも私。師匠はホントに人に頼み事をしなかった。


だから、怖くもあり、緊張もしたりもする。


「この子供、何も言わずにここで預かってほしい」


まともに顔に出たかもしれない。


嫌悪。


そう、その子供は人間。


私の嫌いな人間である。


それを察したゼフィはすぐに言葉を発した。


「そこまで警戒しなくていい。人間ではなく…ハーフなんだよ。悪魔と人間の。ただ外見は人間が強く出てるようだがね」


この結界の中だと魔力を感じたりは無いが、年頃は10歳にもなってないくらいだろうか?幼いのに整った顔立ちは確かに悪魔の血なのかもしれないが…あれ?何となく…


「私の子供では無いよ」


心を読まれたかのようにゼフィは答える。でも似てはいる。だが、師匠はこんな嘘はつくタイプではない。


「私の息子の子供だよ、名はクアンタ」


いや、ちょい待って!悪魔に子供いるのも驚いたけど、息子が人間と子供作ったと言うのも驚きである。


「ちょっと事情があってな。詳しいことは夜に話そう。他の子供たちに聞かせられるものでもないからな」


師匠が珍しく困った顔をしたので私はここでこれ以上聞くのをやめた。今晩は師匠お決まりのワインで夜遅くまで話し込むことになりそうだ。





厄介ごとはなぜか続きやすいもの。子供達も少しずつ帰って行き、最後の一人を見送るといきなり背後から声がする。


「ジール、ジール、ジール♪ねぇ、ジール♪」


私は振り向くのをためらったが、何度も呼ばれるので振り返る。


そう、私の名前を三回連呼する…この時点で私は何が起きるかわかっていた。


ゆえに諦めて返事を返す。


「師範、今日は何ですか?」


ため息も混じってたが、師範と呼ばれた男はスッと私にに近寄り指で私のアゴを上げ、瞳を見つめてきた。


この男はオーキス。師匠と同じくゴットキラーの一人である。


彼は「魔拳士オーキス」と呼ばれている悪魔。かつて神との闘いでは神の頬をぶん殴って吹っ飛ばしたり、数万の天使の軍に拳一つで挑み潰したなどタフな逸話が多くある英雄である。


ただ、見た目は細身のイケメン。短髪童顔で優しい顔をしており、母性をくすぐる容姿。だが、着てるのはボロボロの道着。どうやら修行から帰ってきたらしい。


「この後、またジールの体で試したいことあるけど…いいよね?」


きっと世間一般では、これだけのイケメンにこんなこと言われれば、次の展開としては多くの者が同じことを考えるはずである。


間違いなくオトナの関係が展開されるだろうと。


しかし、本当に言葉通りに私の体で試されるのである。


この託児所は元々師範の道場だった。師範が道場を開くとなった時は門下生がとんでもなく集まり、道場は満員だった。


ただ、それは1週間で数えるほどに減り、1ヶ月で消えた。


師範は最強かもしれないが、教えることが得意と言うわけではないのである。


「もう、俺を師範と呼ぶヤツはいないのか…」と落ち込んでいたので、私が師範と呼んであげようか?と言うと散歩に連れ出された子犬のように喜んだので私はオーキスを師範と呼んでいる。


まあ、私も師範から一応教えを受けたことはあるわけで、ご機嫌取りだけで師範と呼んでるわけではない。ゆえに、師範と言えば確かに師範である。


その時、門下生の中に子供をも連れてきた者もいた。


稽古の邪魔だからと師範が必死に頼んでくるので子供の面倒を私が見ていた。


実はこれが、ここの託児所の始まりだったりする。


きっかけなんでどこに転がってるかわからないものだ。





師範に呼ばれて道場に入って…ほんの数分だったと思う。


私は…血を吐いていた。


全身はボロボロできっと内臓まだやられてる。その上体に大きなアザだらけ。


そう、師範は修行から帰るたびに私で新必殺技の実験をしているのである。


これで、何度川の向こうに自分が昔住んでいた里の長老を見つけ、何度長老から追い返されたか分からない。


「うーん、やはり最初の正拳の威力は少し落として二撃目へのモーションを早くした方がいいかな」


私の体を回復しながら一人反省会をする師範。実は師範、回復は上手くてシミ一つ残さずキレイに治す。


まあ、やりすぎて師匠に蘇生魔法を使わせたことが二回あったんだけどね…。


ここまでしてなぜこんな無茶に付き合うのか?


それは私に逃げるところがないのもあるが、師範はホントに悪魔と実感させるのがこの後である。


私の傷を完全に治すとサラッとテーブルセットと紅茶を用意する。


「今回さ、いいもの見つけたんだー♪」


と言って皿に黒…いや、茶色の濃い塊を出す。


「これ、チョコレートって言うんだって。ほら、ジール座って座って♪」


すっと私を起こし、椅子に座らせると紅茶を入れチョコレートの皿を差し出した。


「ドアのスキマから見てた君もどうだい?」


振り返るとクアンタがじっとこちらを見ていた。


「クアンタ、おいで。変な悪魔だけどいじめたりしないから」


と言ったものの、あれだけやられた私を見たら普通ビビるだろう。


「そうそう。クアンタには手を出すなってゼフィには言われたから何もしないよ。」


さすが師匠。一番言わなきゃならない相手に釘を刺してる。


「ちょい待ち、師範。クアンタには手を出さないとして、私はいいってことなの!?」


「そうだよ。ゼフィはジールのことは『壊すなよ、殺すなよ』しか言ってないから、壊したら治すし、殺してないでしょ?」


いや、二度ほど殺しかけて、師匠に蘇生させられて、その後怒られてるの私は知ってるんだけどそこは無かったことにしてる。


私は考えるのを止め早速チョコレートというものを口に入れる。


「あ、甘い♪そしてちょっと苦くてコクがある。紅茶に合うぅん♪」


こうして私はアメとムチでまた誤魔化されていくのが分かりつつも、甘いもの魔力に勝てないでいる。


前回は桃、その前はチーズケーキ…師範は私の甘いもの願望を見事にとらえてくるのが悪魔的に上手い。まあ、悪魔だから仕方ないかもしれない。


「太るぞ、ダメ黒エルフ」


そう言うとクアンタはどこかへ行ってしまった。


『太る』『ダメ黒エルフ』…私のチョコレートへ向かう手を見事に止めてくれた。


(どうしてそう言うことへいきで言うかな!!)


クアンタとこれからいつまでか分からないが一緒に暮らすことになるんだろうが…私はクアンタにブチギレないようにするためにはどうしたらいいか?で頭が一杯になった。

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