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十八 アナタハワタシノ…

「ん-!ん-!」


話そうにもハルコの唇で私の口は塞がれている。まるで噛獲物を刈り取った肉食獣のように放してくれない。


何より怖いのはハルコの目である。ハルコは先ほどより更に顔を赤くして目を潤ませてニヤけている。


私は必死に引きはがそうと力を入れるもハルコは動かない。それどころか…私の唇をこじ開けるようにハルコは私の唇に舌を入れてくる。


それは気持ちのいいものではない。だが、まだ耐えられる。


今、問題なのは…相手は気を一段階解放しているだけなのに、圧倒的に私が力で負けていることである。


更に生命エネルギーを解放する15%で…と思ったのだがおかしい!思った以上に生命エネルギーが放出されていく!


生命エネルギーが薄いピンク色になる!私の意志に反してどんどん生命エネルギーが解放されていく!


それなのに、ハルコはビクともしない!


更に私の生命エネルギーが鮮やかな濃い桃色になっていく…。


まるで理性の壁をこじ開けられて、生命エネルギーを引き出されているようである…。


頭が真っ白になり痺れてきた…。


どういう理屈化は分からないが、意識が遠くなっていく。


意識がうつろになった時、やっとハルコは私の唇を離した。


二人が繋がっていた時間を名残惜しいかのように唾液が糸を引きゆっくりと切れる。


「ご馳走様。美味しかったわ、ジール様♡」


それだけ言い残すとハルコは部屋を出ていった。


私は放心状態で…頭が痺れたような感覚ゆえに何を考えたらいいかすらも分からなくなっていた。


立ち上がれない…声も出ない…指も動かせない…。


私に一体何が起きたのだろうか…。


そんなことを考えているうちに、私は意識が消えていった。





気が付くと私は布団に寝かされていた。


服も着替えさせられている。昔、師匠たちと旅をしてた頃、温泉に入った時着た服に似ている。部屋着なのだろうか?


まだ、頭が痺れた感覚が残る。


だが、それと同時に今まだ味わった事のない刺激が頭に刻み込まれた。不快ではないが、できたら二度と味わいたくない感覚。


しかし現状、一番の問題は私はハルコに単純な力は勝てなかったということだ。


相手は気…生命エネルギーを八段階中の一段階開放しただけ。私は20%以上開放していた。何の差があるのだろうか?


思考を深くすればするほど頭の痺れが強くなる。


とにかく疲れた…。


私はいつの間にか、ほのかにする嗅いだことのない良い香りのする中、再び眠りに落ちていた。





今度の目覚めは激しかった。


気が付けばハルコが私の上にいて、またキスをされていた!


必死にもがくも全く動かない!


生命エネルギーを開放するもまたもやコントロールができず、辺りが濃い桃色の生命エネルギーで溢れかえる。


相変わらずハルコは嬉しそうに私の唇を離さない。


私は一体何をされているのだろうか…。


そんなことを考えているとハルコの唇が離れた。また、私の頭は痺れて思考が鈍くなる。


「ジール様、私、あなた無しでは生きていけません♡」


ハルコは私を強く抱きしめてくる。その行為をまるで人形のように受け止める私。体の力が全く入らない。


ハルコは私を優しく寝かせると部屋を出て行った。


これは間違いなくヤバい。何とかして脱出しないと…私はハルコの人形にされるのでは?と不安がよぎる。


様々な思考がめぐるのだが、知らぬ間に私は意識を失った…。





何回、何十回も同じことが繰り返された。


また、目が覚める。


一体ここにどのくらい滞在しているのだろうか?


陽の光が入ってこないので、私には時間感覚が無くなってきていた。


寝てる間に着替えはされてるし、お腹も空くことはない。理由は分からないが、この情報の無い、変化のない部屋では何も分からない。


また頭が痺れている感じがする。


しかも、以前より強くなっている気がする。


私は立ち上がり、フラつきながら引き戸に手を掛け開ける。


すると、一人の女性がこちらを向いて座っていた。


「どちらへ行かれますか?もし、何か必要なものがあれば用意致します。何なりとお申し付け下さい」


何でもすると言っているが、これは間違いなく私の見張りだろう。


私は何も言わずに引き戸を閉めて部屋に戻った。


そして、また私は意識を失う…。





何度ハルコにキスをされたのだろうか?


もう何かを考えることすら面倒になる。


そんなことより今はハルコが来るのが少し楽しみになってきていた。


変化のないこの部屋。


唯一の変化がハルコが来て話ができること。


寝てるうちに体は拭かれ、着替えをされてるのでずっとキレイなまま。


トイレは部屋にあるので、たまにそこへ行くが、そのトイレも常にキレイである。


本当に変化が無い。


私は同じ日を繰り返してるのではないかと錯覚を覚える。


「ジール様、起きていらしたんですね♡」


もう、ハルコが私の顔に近付くと私はハルコのキスを迎え入れるようになっていた。


そしてまた、ハルコは私としばらくキスをすると出ていく。


私は何をしているのだろう…。


また、頭が痺れる感覚が襲ってくる。今はその変化すら快感になりつつある。


なぜなら、私がまだ、生き物として、意志ある者として、生きていることを教えてくれる瞬間だからである。


意識が消えそうになったが、今度は違った。


またハルコが来たのだ。


ハルコは何も言わず一直線に私に近寄りまたキスをしてきた。


こんなに短い時間で来たのは今までなかった。


「こんなに私を満たし続けても無事なジール様は本当に素敵です♡」


ハルコの言葉が嬉しい…。


きっとハルコには私が必要で、ハルコにも私が必要ということなのだろう。こんな素晴らしいことが他にあるだろうか?


「ジール様は私から離れたりしませんよね?ジール様はずっと私のそばにいてくれますよね?」


抱きしめて来たハルコに私も応えるように抱きしめ返す。


私は今、シアワセなんだと思う…。


ハルコに寄りかかりながら、私の意識はまた消えていく。


次、私は起きることが…あるのだろうか?





今回の目覚めは違っていた。


聞き覚えのある声に起こされる。


「おい!しっかりしろジール!」


見たことのある顔だった。


「し…しょ…う?」


もしかして起きた気がしているだけで、まだ夢の中なのだろうか?


「帰るぞ!ジール!」


帰る?でもハルコがここにいるのに私は帰るわけには…。


「師匠…私…帰れない…帰るわけには…いかないの」


見たことなかった。師匠が…私の言葉で驚きの表情をしている。


「エアマス!貴様!」


師匠の後ろには穏やかな笑みを浮かべるエアマスがいた。


「どうした、ゼフィ。私は言ったはずだ。ジールさんが『帰りたい』と言えば帰す…と。だがこの有様だ。だからジールさんを帰さなかった。それだけだ」


「ジール!いいから帰るぞ!」


遅れて師範がやって来た。まるで何年も会ってなかった感覚。実に懐かしく感じる。


「エアマス!もういいだろ!ジールは連れて帰る!」


師範が今にもエアマスに掴みかかろうとした瞬間、師範は壁にぶっ飛ばされた。


「ジール様は私のものよ!連れて行くなんて許さない!」


そんなことを言う者はここには一人しかいない。


「ハルコ…やめて…」


私は止めようとしたが、ハルコの耳には届いていない。


「出ていけー!」


立て直そうとする師範にハルコは追い打ちをかけて、師範をぶっ飛ばし、部屋から追い出した。


「ジールさんのおかげで、ハルコは強くなったよ。あのオーキス相手にあれだけの攻撃ができるくらいにな」


そんなことより私が気になったのはハルコの「気」の色である。


確か私の記憶だとハルコの気の色は灰色だったはず。それなのに、今は私と同じ桃色。どういうことなのだろうか?


「ハルコ、オーキスを殺さぬようにな。後々面倒だから、とりあえず追い出すだけにしておきなさい」


「はい!お父様!」


ハルコがエアマスに向き直り返事をした瞬間、ハルコは弾丸のように戻ってきた師範の拳をまともに食らった!


ハルコが人形のように跳ね飛んで行く!


「俺は強いなら女とか男とか気にしないタイプだ」


私が見ても容赦ない一撃だった。あれはかなりのダメージを受けたはず。


「私がジール様からもらった力、過小評価されると気分が悪いわ」


体を跳ね起こすとハルコは師範に向かい駆け出す。師範は冷静に構え、受けて立とうとする。


そこにハルコは蹴りの雨を降らす!師範が少しずつ押されて後退りさせられている!


「消えろ!悪魔!」


ハルコは大きく拳を振り上げた!


その時だった。ハルコいきなり膝を着いた。


「はぁはぁはぁ…もう…限界なの…」


師範はそのスキを見逃すことなくハルコを蹴り飛ばす!今度のはまともに顔面を捉えている!


ハルコは蹴り飛ばされ部屋の壁に激突した。


「何だ急に…。まあ、目的はアイツと戦うことじゃないから早く終わるならそれでいいかな」


一瞬の油断でも戦場でするものではない。


師範がハルコの飛んで行った方に背を向けた瞬間、壁からハルコが放たれた矢のように私の元に跳躍し、師匠を殴り飛ばし私を奪った!


「ジール様、ジール様、私、もっとあなたが欲しいです!」


もう優しさのカケラも無い強引なキス。と言うより、ただ私の唇を奪う獣のように喰らい付く。


また、あの感覚。今度は今までより激しい。脳は痺れて世界が白くなり、自分が消えていく感覚。


そして、今回は口から体の中を引き摺り出されているかのような感覚もある。


私の周りが油絵の具で塗りたくったような桃色の染まっていく。


…やっと分かった。


ハルコは私の生命エネルギーを吸い取り、自分の力に変えている。


そのエネルギーを使い果たすと私のところにやって来て、私から生命エネルギーを奪うということだろう。


ただ、気になることがある。


来る期間が短くなっているということ。


そんなにエネルギーを消費しているのだろうか?師範との戦いと同じくらいの消費する何かあるのだろうか?


そこまで分かっても、私はハルコに必要とされたい気持ちは変わらない。


今もこんなに嬉しそうに私からエネルギーを(むさぼ)っている。


それで、私は満たされる気分になる。


でも、それではまた師範が攻撃されてしまう。私はどうすればいいのだろうか…。


「目の前の快楽に堕ちることは悪じゃない。別に俺はお前を責める気はない。心ってそういうもんだ」


私たちにゆっくり近づいてくる師範。それでもハルコまだ私の唇を離さない。


「安心しろ、ジール。俺もゼフィもお前が堕ちても気にしないさ。なんせ悪魔だから…な!」


師範は瞬時に間を詰め、驚きの行動に出た。


ハルコを私から引きはがすと師範がハルコにキスをしたのだ!


「んんー!!!」


抗うハルコだが、師範はしっかりとつかんで離さない。


すると師範から真っ黒の生命エネルギーが放出された。ハルコは必死に逃げようとしているが、師範は更にハルコを逃がさないように、後頭部を手で覆い自分に引き寄せた。


しばらくもがいていたハルコが急に動かなくなった。


師範はそっと唇を離しハルコを無造作に手放すと自分の腕で口を拭った。


「子供には刺激が強すぎたかな?」


私から見えるハルコの顔は白目をむいて気を失っているよに見えた。


「生命エネルギーを体に貯蔵するには器が小さいってとこだな。自分の許容範囲を超えても吸収しようとしてる時点で未熟なんだよ」


師範は師匠を抱え起こすと私のそばに師匠をそっと座らせた。


「まだか…。どうやら、あのクソジジイと一戦交えなきゃダメなのか?」


「オーキス、無理はするな。あと少しのはずだ…」


二人は何か策があるようだ。だが、それを黙って見てるだけなどエアマスがするはずがない。


「やる気なのか、オーキス。はっきり言うが…お前ら二人がまとめてかかってきても勝てるんだが…それでもやるのか?」


自信過剰にもほどがある。


だが、エアマスという男のこれまでの行動を見てると、ハッタリで乗り切るような浅はかなことはしないだろう。


本当に二人と戦って勝つのだろう。


「援護する。頼む、オーキス」


「ゼフィ、ここで負けたら邪神様に呼び出し確定だから頼んだぜ」


そんな会話を終えると師匠が私に回復魔法をかけてくれた。少し心が落ち着く。


「これは単純な回復魔法ではなく、気分を落ち着かせる効果がある魔法だ。まずは気持ちを落ち着かせることからだな」


温かい。何だか癒される。師範には悪いが、今は少し静かにしてもらいたい。


しかし、次の瞬間、師範が床に叩きつけられて、蹴り飛ばされ、木造の床がバキバキと割れる音が響く。


「ジール、歩けるか?」


師匠が私を起こす。先ほどより体に力が入る。歩くくらいならできそうだ。


「師匠はどうするんですか?」


「オーキスの支援をする。時間を稼ぎたい」


そう言うと飛翔魔法で飛び、エアマスの前に立ちふさがる。


「ゼフィ、お前では私に勝てないことくらい分かっているだろうに」


エアマスの言葉に返答をしない師匠。エアマスはゼフィの目の前に歩いて近寄って来た。


「ほら、攻撃魔法で私を倒すがいい。私はお前の魔法を受けてやるぞ」


あれは罠だろうか?いくら何でもゴッドキラーとは言え、ゴッドキラーの魔法を正面切って受け止めるなど正気とは思えない。


「私はどれくらい待てばいいんだ?私はとても興味があるんだよ、お前の攻撃魔法に…な」


エアマスの余裕の笑みが師匠に向けられる。こんなに人は相手を見下すとき、醜悪な顔をするのだろうか?どちらが悪魔なのかわからなくなる。


「ゼフィに近付くんじゃねぇ!この陰湿ジジイ!」


後ろから飛び蹴りをしてくる師範を手慣れた感じに受け流し、カウンターの拳を当てられ再び吹き飛ばされる!


「オーキス、お前は本当に私を舐めているんじゃあないか?暗殺を主としてはいるが、体術はニンジャの基礎だ。老いてもまだまだ現役なんでな」


まるで師範が子供扱いである。何度飛び掛かっても受け流されカウンターを受ける。まるで格闘技の教科書を見せられているよである。


しかし、師範は全く生命エネルギーの%を上げようとしない。


師匠もエアマスの周囲に壁を作り、師範の動きを見えにくくしてはいるが、攻撃をしない。


時間稼ぎ…なのだろうか?


「私はこんな子供の遊びにいつまで付き合えばいいかな?そろそろ飽きてきたのだが、終わりにしてもいいかな?」


私も参戦したいが、歩くのがやっとのこの体では役には立たない。師匠と師範を信じるしかないのだが、二人で戦っているのにエアマスと圧倒的な差が感じられる。


「そろそろ夕ご飯の時間なので、終わりにさせてもらおう。今日は私の好物、『ナスの煮びたし』をリクエストしているのでな」


エアマスは深く呼吸をする。


「気門解放!」


エアマスの周囲を赤いの気が包み込む。その赤はまるで…血の色。暗さを含んだ不気味な赤。


「すまないが、ジールさん。ハルコのそばにいてくれないか?でないと…」


ゆっくりと顔をこちらに向けるエアマス。


「うっかり貴重な娘のエサを殺してしまうかもしれないからな」


目が合った私は怖さで足が震えた。涙も出てきた。


「ジールさん、早くしてくれないだろうか?あまり遅い時間に食事をすると睡眠の質が下がる。任務ならまだしも、招かざる客のためにそれは腹が立つ。許せることではない」


話している間、じっと私を見てくる。私は恐怖で体が動かない。


でも、動かなければ殺される。師匠、師範、助けて!


「ワォォォォオーン」


いきなり建物に響く犬の鳴き声。その声の方にエアマスの注意が向く。私はそのスキにハルコの元に行く。


情けないが、これが今師匠と師範の邪魔にならない一番良い行動と言える。


「エアマス様!地下のエルフの子供が…何者かの手引きにより逃げられました!」


エアマスの部下が報告に来る。私は思わず安堵した。ウィン様は無事のようだ。


「ゼフィ!」


師範が叫ぶ!お互いアイコンタクトを取るとエアマスに向き直る。


「予定より遅すぎだ。帰ったら説教だな」


師匠はニヤリと笑うとエアマスを魔法で作った石の壁で囲んだ。


「もうお遊びには付き合わんぞ!」


そのセリフを私はすべて聞くことなく師匠と師範と共にその場を後にした。


私はやっと、悪夢から解放された…。


だが、問題は山積みである。


なぜ、イアランは殺されたのか?


なぜ、ウィン様の行動がバレていたのか?


なぜ、ハルコはあんなに「気」を私から吸い上げることができるのか?


それと


師匠と師範、二人は時間稼ぎのためにワザとやられていたのだろうか?ゴッドキラーと言えど、こんなに格差があるのだろうか?


今は頭のが回らないどころか、こんな状態なのにハルコを心配してしまう自分がいる。


師匠に抱えられ、転移魔法の移動の中、私は久々の安らぎを感じながら眠りに落ちた。


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