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十七 エアマスというクセモノ

いつもの投稿時間より遅れましたが、できたので投稿しちゃいます♪

向かい合う師匠とエアマス。


私はテーブルにお茶と水ようかんを置く。


「ありがとう、ジールさん」


名前は当然調査済みといったところであろう。私は軽く頭を下げてその場から離れる。


この張り詰めた空気の中にいるのはイヤだというのもあるが、邪魔をしたくないというのもあった。


ただ、お茶やお菓子の世話をする役割もあるので私は部屋の隅で待機する。


「ゼフィ、包魔石というものを知っているか?」


エアマスはテーブルにイアランが持ってきていた石を出してきた。


「あぁ。イアランが生前見せてくれたよ」


師匠は動かずエアマスの顔を見ている。エアマスも表情を変えず自分のペースで話を続ける。


「作り方は知っているのか?」


「いや、知らないな。聞く前に死んだからな」


また、しばらく沈黙が流れる。お互い余計な腹を探られぬように警戒しているのだろうか。


「そうか。それならいい」


エアマスはお茶に口を付ける。


「おいしいお茶だ。ジールさん、ありがとう」


「いえ、喜んでいただけて良かったです」


ゆっくりとお茶を飲むエアマスに対して微動だにしない師匠。師範が席を外している理由も分かる。


師範はこういう腹の探り合いは苦手でもあり、案外策略に乗りやすい。師匠も分かってここに呼んでないのであろう。


「で、ジールさんのためにイアランの蘇生を試みる気なのか?」


これはどちらなのだろうか?ウィン様が蘇生目的でターンズへ行ってるのがバレているのか、それとも推測か?


でも、私のためというのがちょっと納得いかないけどそこは今触れるべきではない。


「そうだな。私とまともな繋がりがある人間界のゴッドキラーがいてくれるのは助かることも多いからな」


生き返らせることは肯定した。だが、それでは師匠は墓穴を掘ったのではなかろうか?蘇生するためには魂が必要。そこを突っ込まれたらどうするのだろうか?


「だから、イアランの遺体をもらえないだろうか?」


まさか、お願いをするとは思わなかった。


ただ、これで遺体を手に入れる手段がこちらには無いアピールをすることで、まだこちらは何の行動を起こしてないと相手に思わせることができる。


「私は構わないが、ターンズ国は国葬をする気だ。遺体の所有権は今ターンズにある。直接聞いてみればいい」


ゴッドキラーの発言なら、遺体の譲渡くらいできそうだが、あえて受けない。何か意図があるのだろうか?


「そう言えば…ゼフィ、まさかとは思うが」


言葉を区切るエアマス。師匠も私も次の言葉を待つ。


「子供に遺体を持って来い、なんてお使いをさせてないだろうな?」


師匠の表情は変わらなかったが、私には無理だった。思わずエアマスを見てしまった。


そんな私とエアマスの目が合う。


「ジールさんは正直でいい。どこかのひねくれ悪魔より好感が持てる」


そう言うとエアマスはまたお茶をすする。


「で、その子を今預かっているんだが…」


ウソだ!ウィン様が簡単に捕まるはずがない。これはきっと私たちをハメようとしているだけだ。


「ジールさん、あなたが我らの城に迎えに来てくれないか?…一人で、だ」


「なぜジールなんだ?」


師匠の疑問も分かる。


私が?一人で?間違いなくワナだろうし、敵のアジトに一人で行くとなると脱出するには目の前にいるゴッドキラーを倒す必要も出てくるであろう。


「いや、なに、娘が会いたがっていてな。もし、来てくれるなら、エルフの子を返すだけではなく、イアランの遺体をここに運ぶ手配をしよう」


これは何かある。


交換価値が釣り合わない。


私一人にそれだけの価値があるとエアマスは言っているように思えるのだが、どう見ても今ある情報で考えても私にその価値があるとは思えない。


「それは、私が…エルフ…だからですか?」


こういう時、決まってエルフだからが理由となる。もしかしたら、ブラービのように、私を売る気なのかもしれない。


「いや、ジールさんだからだ。例え悪魔であっても魔物であったても関係ない。今のジールさんに娘は興味を持っている。それが理由だ」


まさか「娘に甘い」とかだろうか?このエアマスという男、まるで考えが分からない。イアランとは別の意味で分からない。


だが、嫌な予感はする。


まるで、少しずつ少しずつ、詰将棋のように目的を果たすための一手を打つように師匠を、私を追い詰めている感じがする。


「ジール、受ける必要はない」


師匠の止める気持ちも分かる。でもウィン様が…。


「私はもうすぐ帰る。さて、ジールさん、一緒に来るかね?決断しないと、イアランの遺体は焼かれるし、あの子供も…」


イアランの遺体が焼かれる!?ターンズ国では土葬が一般的なず!?なぜ焼かれるのだろうか!?


そんな私の心を分かってなのか、エアマスは丁寧に説明を始める。


「ゴッドキラーの遺体はまた新たなゴッドキラーを神に作ってもらうために、焼いて灰にして山から風に乗せて飛ばす。これが人間界の風習だ」


「じゃあ、もう焼かれたってこと!?」


私は気になり質問をする。


「言ったはずだ。ジールさんが来てくれるなら、イアランの遺体を運ぶ手配をする、と」


ダメだ、今回は全てエアマスの手の上で踊らされている。まさか…イアランを殺したところから詰将棋は始まっていたのだろうか?


「…イアランを殺したのはあなたなの?」


ここまで来たら小細工は通用しない。私はストレートな質問をぶつけてみた。


「そうだ。それで?私を恨んで殺すか?構わんよ」


エアマスは鋭い目で私を見てきた。思わず私は足を後ろに退いてしまう。


「だが、抵抗はさせてもらうよ。それで良ければ、だがな」


余裕なのだろうか?いくら何でもここには魔界のゴッドキラーが二人いて、そして私もいる。それでも勝てるというのだろうか?


「はっはっはっ。そう怖い顔をしなくていい。今日、私は戦いにきたわけでは無いのだからな」


また、エアマスはお茶を飲むと立ち上がった。


「ここは仮にも託児所を名乗る場だろう。そこにいた子供が拐われた以上、責任者が来るのは道理だと私は思うがね」


「分かったわ。行くわ。」


選択肢は無い。それを分かって聞いてくるところが性格の悪さが出ている。


「物分かりのいい女性は好感が持てるな。では、連れて行っていいかな、ゼフィ」


師匠が珍しく怒りとも取れる表情を見せている。返答もすぐにしてこない。


本当は行かせたくないのであろう。だが、意を決してなのか、表情がいつもの感じに戻る。


「いつ、ジールは帰ることになるんだ?迎えに行くつもりなんだが」


「さぁ。娘と気が合い、話も弾めば泊まることもあるだろうしな。ジールが自ら『帰る』と言ったら連絡しよう」


私はエアマスの言葉が引っかかった。


「私は言わないで相手を策略にはめることはあるが、ウソは言ったことは無いんだよ」


そのまま言葉を信じることはできないがもっと気になるところがある。


まるで、私が帰ると簡単に言わないような言い方。一体何を私にさせようというのだろうか?


だが、もう選択肢は無い。


「師匠、イアランのこと、お願いします」


私はエアマスに連れられ、転移魔法で託児所を離れるのであった。





着いたのは見たことない城だった。


造りも見たことのない、白い壁に屋根にはウロコのような…金属?陶器?のようなものが無数に敷き詰められている。


エアマスを確認した門番は門を開ける。私とエアマスはしばらく整然と整備された石の階段を上がり、城の中へと入る。


城の中は履き物を脱ぐという習慣らしく、入り口で履き物を脱ぐと板の廊下をしばらく歩かされた。


部屋はいくつもあり、その部屋と部屋を仕切る天井には見事な木造彫刻があり、思わず立ち止まって見てしまう。


「この建物は珍しいか?」


「あ、はい。」


「まあ、このような造りはここだけだから、珍しいと思うのも分からなくもない」


そして、連れてこられたのは突き当たった部屋。


横開きの扉を開けられる。


中には広い緑の床とその中央に高さの低いテーブルが一つあった。


部屋はとてもいい匂いがしている。草の匂いだろうか?どうやらこの床の匂いらしい。


踏み心地も良い。私もこれが少し欲しくなった。寝転がったら気持ちよさそうである。


何処からともなく一人の女性がクッションとお茶と茶菓子に黒い四角い所々白い物がついている不思議なものを用意してくれた。聞くと「きんつば」と言うらしい。


「ここで待っていてくれ。娘を呼んでくる」


そう言うとエアマスは部屋を出て行った。


広い空間に私一人。静かで物音一つない。どんな事態にも備え油断しないよう警戒は怠らない。





どのくらいの時間が経ったのだろうか?


茶菓子やお茶に何が入ってるか分からないからガマンしているが、そろそろ限界である。


「何も食べれないならもう…」


後ろでスーッと引き戸が開く音がする。


私は振り返る。


「あの…ジール『様』ですか?」


驚いた。今まで生きてきて子供から以外に「様」という敬称で呼ばれたことは無い。だが、間違いなくそう呼ばれた。


しかし、私はそんなことよりもっと違うことに驚く。


何というのだろうか?私より少し高い身長までは良いが、ここの城?いや、ニンジャの戦闘服だろうが、それは私が見ても分かるくらい…色気に満ちている。


顔は大人びていて釣り目。目を引く美人ではないが、整った顔立ち。黒髪は後ろで結っている。年は人間の年齢で二十歳くらいだろうか?


そんなことより、問題はそのスタイルと服である。


まるでサイズを間違えてるのでは?と言わんばかりに、その戦闘服に胸とおしりを無理やり詰め込んでいる。


服が胸とお尻の所で今にも破れるのでは?と見ているこっちが心配になる。


だが、さすがニンジャ。決して太っているわけではない。胸に服持って行かれておへそがチラリと見えている。


そのお腹は無駄が無く、思わず自分のお腹を触って…いや、負けてない…はず、と自己嫌悪に陥るくらいであった。


「えっと…エアマスの娘…さん?」


「はい。お父様の百三番目の子『ハルコ』と申します」


え!?今変なこと言ってたよね?ひゃくさんばんめ?それって…百三人も子供いるの!?


「あなたが…一番下の子…なのかな?」


聞いてはいけない気もするが、興味が勝ってしまった。


「私より下は三十七人います。あ、ほとんどが腹違いでして…」


私は当然足し算ができる。百三と三十七の足し算はできる。だが、足したくない。ちゃんとした数字を出すのが怖い…。


「家は代々ゴッドキラーを輩出(はいしゅつ)する家系でして、優秀な子をゴッドキラーにするために、現ゴッドキラーは多くの才ある女性と子を作るのです」


説明ありがとうと同時に、世の中まだまだ知らない常識があることを思い知らされる。


「その…ジール様。今日は私のために来て下さってありがとうございます…」


照れているのだろうか?うつむき、手を下向きに合わせてお腹の辺りで指をもじもじ動かしている。


「あ、いえ。ところで私に何のようなの?」


ハルコは私の隣に座った。初めて会った相手に対してはちょっと近い気もするが、それが彼女のコミュニケーションを取る距離なのだろうか?


肩が触れるほどではないが、少し手を伸ばせば触れる距離である。


だが、ここで気が付いた事がある。私の隣に座った後、ハルコの顔が少し赤い。恥ずかしいのだろうか?それならこの距離は違和感がある。


「お父様の子供の中からゴッドキラー候補が選ばれます」


話が飛んでいる。こういうタイプは順序立てて話さないと本題が言えない。私はとりあえず聞くことにした。


「今、候補は私と…六番目の子、兄のアシュタの二人なんです」


エアマスがこの子の言うことを聞いた理由が分かった気がした。この子はこんな感じではあるが、この城の中でも強いと言える。


その上、次期ゴッドキラー候補。多少のことは聞いてもらえるのは納得であるが…どうして私なのかが謎のままである。


「そう言えばジール様は気門を開けられるとか?」


急に私に迫るハルコ。ちょっと近すぎる。私の視界のほとんどがハルコになる。


「気門?」


「はい。気を体にまとい、身体の能力を引き上げる技です」


多分、私のノイエ・クレイドのことだろう。呼び名は違うが、説明通りならそれしか思い浮かばない。


「私は気門の八段階中、まだ一段しか気門を開けられないのですが、ジール様はもっと開けてコントロールができていると聞いております」


八段階ということは、単純計算で私の100%に当てはめると13%弱と言ったところだろうか?


「え、ええ、まあ」


それを聞いてハルコは更に私に近寄る。押し倒されそうで少し怖い。


「ジール様、実はお願いがありまして…」


近くて先ほどより息遣い荒いのが分かる。その上、目が潤んでいる。だ、大丈夫なの、この子!?


「先月まで先ほど話した兄にお願いしていたんですが…今、衰弱して寝たきりになっておりまして…」


まだ近づいてくる!私は思わず体をのけ反た。


だが、のけ反った分、しっかりと距離を詰めてくる!


「…聞いていただけますか?」


「え、ええ。内容にはよるけどね…」


それを聞くとハルコは更に近づく。唇が今にも触れそうである…。


だが、ハルコはすっと耳元へと顔を寄せ、恥ずかしそうに言った。


「ジール様、『ツ・マ・ミ・グ・イ』させて下さい♡」


私は何も言えなかった。つまみ食いってあのつまみ食いで合ってるはず。


まだ出来てない料理をつまんで食べたり、隠しているお菓子をこっそり少量食べたりすることで合ってるはず。


決して私に使う言葉ではない。


…確かに、最近お腹は摘まめるようになってきていて、少しダイエットはしようと思っているけど、そういう問題ではない。


「先月までは、先ほど言った兄アシュタをつまみ食いしてたんですけど…」


お、お、お兄さんをつまみ食いってどういうこと!?もう何を言ってるのか分からない。


私は迂闊(うかつ)にも支えてた手を滑らし後ろに倒れる。ハルコは更に私の顔に近付き馬乗りのようになった。


「最初は月に一回程度だったんです。でも、それがお父様に禁止されたんですが…その後隠れて兄をつまみ食いして…」


ハルコは話を進めていくごとに呼吸が荒くなり、顔が興奮して赤くなっていく。


何か分からないが、これはヤバそうである!直感で逃げた方がいいと感じている!


「それが月二回となり、いつの間にか週一回になり、最後は毎日になったんです」


だから…それが私と何の関係があるの!?お願いだから少し後ろに下がって欲しい!


「それが悪かったんですね…。兄は衰弱し、起き上がることができなくなったんです。お父様にそれがバレて、つい最近まで地下牢に監禁されてました」


ハルコは唇を舌で舐める。これは実力行使しかなさそうだ。


「一度だけ言うわ。ハルコ、下がってくれない?」


この静寂の中、聞こえてないことは無いはずである。


だが、ハルコは下がるどころか少し近づいてきた。


「そして、やっと解放された私は…飢えてるの」


「ノイエ・クレイド!」


私はノイエ・クレイドを10%発動する。その様子を見たハルコは不気味な絵笑みを浮かべた。


「キレイな気。ここでは見たことないキレイな白。ステキ…」


先に何かをしてきたわけではないが、とりあえずハルコを引きはがしにかかる!


「気門解放!」


ハルコの周りに灰色の生命エネルギーが現われる!これは厄介である。


「ねぇ、ジール様。私を満たして♡」


そう言った直後、私は言葉を失う。いや、話せなくなった。


ハルコが私の腕を押さえつけ、何の前触れもなく


…キスをしてきたのであった…。


私は…目の前の現実の理解をすることができなかった。


ハルコの目はとても…喜びに満ちていた…。


その目は、私の不安を一気に膨らませたのだった。

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