十三 夢のために
私と師範、戻ってきた師匠がイアランの前に立ちふさがる。
師範はスライムをほぼ全滅させており、師匠の手助けは必要なかったらしいと師匠が教えてくれた。さすがゴッドキラーと言ったところである。
「イアラン、まだやるの?」
ここで終わればいいという願いを込めて聞く。だが、イアランは全く降伏する気はない。
「こごで追い詰められるとは…さすがだなぁ」
この状況ではクアンタの命を狙ったとしても、自分が生還しなくては意味がない。少なくとも、これだけの召喚をする以上、偽物とも考えにくい。
ここで、イアランが取る策は二つしかない。
一つは逃げて命を守る。
逃げたらターンズ国には帰ることはできないし、クアンタの命を狙うことは無くなるので戦う理由が無くなる。私はこれを望んでいる。
もう一つは…戦って勝つ。これはまず無理だと思う。
ゴッドキラー二人に私、それにクアンタの近くにはヘキサとウィン様。
アルビオはどうやらこの戦いは静観するようだが、まだ分からない。
それなのに勝つつもりで戦うなどあり得ないはずである。
もう一つ選択肢はあるが、自滅覚悟で戦いを挑むのはイアランの性格からして無い…そう願いたい。
「最後の切り札、使うしか無いかな。少なくともそれしかなさそうだ」
イアランは再び召喚の魔法陣を描く。選んだ選択肢は「戦う」であった。
「もう止めようよ、イアラン」
私は結果の見えた戦いを続けたくは無かった。確かにイアランの夢は遠のく。でも、生きてればまた挑んで…。
「ハーフエルフっていくつまで生きられるのかな?」
誰に向けてではなくイアランは話す。
「幼い頃は世間を知らなかったから…物心ついた時にはレパルド先生がいて…何の問題もなく過ごした」
魔方陣は強く輝きだし、光の柱を作り出した。それはとてもキレイで、戦いが始まることを忘れるくらいであった。
「俺は外を見たくなって旅に立た。その時、俺は六十歳くらいだった」
光は消え、現れたのは…白いドラゴンであった!
「まさか…ホーリードラゴン…なの!?」
私は驚く。当然である。ホーリードラゴンは天界の神の城の門番であり、滅多に地上に姿を見せない。
何より召喚されたという事例は…歴史上、無い!
「驚愕したよ。俺ほど生きているハーフエルフがいないって知った時」
十メートルはあろうかという巨体のホーリードラゴンはイアランに顔を寄せすりよっている。その顔を優しく撫でるイアラン。ホーリードラゴンを完全に従えてるように見える…。
「だから、俺はエルフほど生きいるのか?それとも、もう少しで寿命を迎えるのか?誰にも分からない」
そうだ。ハーフエルフについての文献や研究は見たことが無い。ハーフエルフの歴史が浅いのもあるが、研究価値が無ければ誰も研究はしない。
それは…ハーフエルフという存在が、エルフからも人間からも注視されてない存在とも言えるかもしれない。
エルフも、ハーフエルフに興味はない、それは…エルフもハーフエルフを差別してるとも言える。
「…ホーリードラゴンではない。ホワイトドラゴンだな」
何を見て判断したか分からないが、師匠がそう呟く。
そうだ、師匠ならホーリードラゴンを見たことある可能性は高い。その師匠がホーリードラゴンではなく、ホワイトドラゴンと言うなら、あれはホワイトドラゴンなのだろう。
「まさか、このホワイトドラゴン、『アレ』使えるヤツじゃねぇよな…」
師範の声は少し嫌そうであった。「アレ」とは何なのか分からないが、師範が嫌がるということは苦戦すると見ていいだろう。
「だからかな。最近、生き急いでるのが自分でも分かる」
また魔法陣を一つ描くイアラン。まだ召喚してくるその魔力、尋常じゃない。底なしなのだろうか!?
「けど、それ以上にさ、そんなことすら考えることも出来ないくらいのハーフエルフが毎日、ゴミのように扱われ死んでいる」
召喚されたのはまたもやスライム。どれだけスライムが好きなのだろうか?それとも何か理由が別にあるのだろうか?
「そんなハーフエルフたちは一体何をしたんだ?何か奪ったか?何か非道を行ったのか?何かこの世に恨まれる過去があるのか?」
またもや魔法陣を描く!この魔力はエルフでも滅多にいないレベルである。
「いいや、ハーフエルフは被害者でしかない!なのになぜ、誰も救おうとしない!」
次に現れたのはまたもやスライム。…しつこいとツッコミを入れたい所だが、間違いなく大真面目であろう。この状況でふざけられるわけがない。
つまり、ナメてかかれば負ける可能性は高い!
「だから、俺が救えばいい。そのために、俺はここでターンズ国王の信頼を勝ち取り…あの国を俺のものにして、あそこをハーフエルフの国にする!」
イアランが手を前に差し出すと、スライム二匹は弾丸のように飛び出す!
それに合わせてドラゴンは大きく息を吸い、吐き出した!
白く輝く息。私はとっさに身をかわす。
しかし、背中から風圧が来る!私は吹き飛ばされた!
「ジール!大丈夫か!」
師範の声が聞こえた。とりあえず大きなダメージでは無いが、なぜ後ろから攻撃が!?
振り返ると不思議な光景があった。
スライムが縦に長い楕円形になっている。
だが、スライムが何かしてくるわけでは無い。
そのスライムを見ていると、またドラゴンがブレス攻撃をして来た。
それも軽々避けた。このくらいなら簡単に避けられる。
しかし、またもや後ろから何かが私を吹き飛ばした!
「何なのよ、さっきから…」
「ジール!そのスライムはブレスを反射している!」
師匠の声に思わずまたスライムを見る。また、楕円形となっている。
「なるほどね。でもトリックさえ分かれば!」
私はドラゴンに向かい跳躍する。デカい体は格好の的でしか無い。
「拳技 『大筒』」
構えに入った瞬間、背後に大きな衝撃を受ける!後ろをチラリと見るとスライムがとんでもない速さで特攻をしてきていた!
私は体制を崩し、地面に落とされた!
それは私の油断なので仕方がない。
ただ、さっきから師匠と師範の動きがおかしい。私一人が戦ってるような感じである。
「師範、援護お願いしていいですか!」
もうカッコばかり考えてる余裕は無さそうだ。このスライムもかなりの強さを秘めている。私一人では少し厳しいだろう。
「してやりたいとこだが…コイツはやはり『アレ』を使いやがる以上、安易に近づかないんでな」
師範が…いや、師匠も警戒している。さっきのブレスで何かを見極めたのだろうか?
「師範、『アレ』ってなんですか!?」
私も戦いの参考のために聞く。いつもの師範らしいくない戦い方がどうも気になる。
「…『ホーリーブレス』だ。ジールには普通のダメージでも、悪魔にとって厄介なものでな。まともに受けると…魂が消滅する!」
師範が苦笑いと共に教えてくれる。なるほどと納得した。
ホーリーブレス、それは私も文献で読んだことがある。それはホーリードラゴンが吐く悪魔を一掃できる息であり、触れた悪魔を消し去ると書かれていた。
でも、ホーリードラゴンではないホワイトドラゴンも使える、ということなのだろうか?
少なくとも師範が安易に動がないところを見ると、その答えは「使える」ということなのだろう。
「俺も調べて知ったけど、ホワイトドラゴンの中の突然変異がホーリードラゴンになるそうだ」
私の疑問を察したのかイアランが答えた。
「更に調べると、ホーリーブレスはホワイトドラゴンの時から使えるってことも分かったよ。悪魔にとってはこれ以上対策になるドラゴンはいないだろ?」
イアランは最初からゴッドキラー二人を相手にしても勝つ可能性のある策を持って今回、挑んで来たということに今更ながら驚いた。
しかも、そのブレスを反射するスライム。ただのブレスなら一度避けるだけでいいが、反射のされ方によっては回避が難しい時もある。
つまり、今回、私があのドラゴンを倒さないと師匠と師範が思うように動けない。
というか、全部私が倒さないとダメという考え方で行かないとやられる可能性は大だ。
私はブレスを受けてもダメージだけというリスクが少ない状況である以上、突っ込んででも倒すしかない!
「私がやるっきゃないのなら!」
ドラゴン自体はそんなに早い動きはしてない。
ただ、援護してくるスライムがなかなか面倒である。
あの速さは20%開放してるわたしにも着いてきている。それが問題である。
「シュテル!」
私はシュテルを発動させ、そこに炎の魔法を宿す。
「行け!シュテル!」
シュテルにスライムを追わせる。だが、スライムも早く、シュテルが追いつかない!
「あー、さっきの魔操石か。その程度の速度では追いつかないんじゃないかな?」
イアランは呆れていたが、私は続ける。そして、ある程度スライムを追い払うとドラゴンに再び跳躍する!
「くらえ!拳技 『大筒』」
またもや後ろからのダメージ!勢いよく私は吹っ飛ばされる。もう一匹のスライムが私の背後から特攻をしてきたのだ。
「また、同じパターン…って…」
今度はさっきより効いている。起き上がるのに少し時間がきってしまった。
「ジール!」
師匠の心配するような声。この方法もダメか…。
一瞬、ウィン様を呼ぶことも考えた。だが、あのスライムの速さからすると、こっちにウィン様を呼んだ瞬間にあのスライムがクアンタの元へ飛んでいくだろう。
そうなればヘキサ一人で守り切るのは困難であり、そこでミスをすれば終わる。
考えてる間もドラゴンはブレスを定期的に吐き、師匠と師範は回避を必死にしている。
それにしてもおかしい。この程度のブレスを必死に回避するなんて師匠や師範らしくない。
「不思議そうな顔して二人を見てるよね」
イアランは少し嬉しそうに、こちらを見ている。
「ジール。このホーリーブレスってね、少しでも悪魔の周囲に漂ってるだけで悪魔の能力を低下できるんだよ」
「丁寧にご説明、ありがとう、イアラン」
これで私は悟る。師匠と師範が援護したくても「できない」と考えて良いだろう。
ドラゴン一匹なら三人で注意をそらしながら、少しずつダメージを与えて倒す策もあるだろうが、それを邪魔する高速反射スライム。相変わらず敵ながら上手い組み合わせである。
「じゃあ、これなら!」
今度はドラゴンからイアランへと攻撃しようと飛びかかりながら拳を構えた!
しかし、イアランの前にいつの間にか来たスライムが盾となり拳を止める!
「発想としては正解だけどね。召喚士さえ倒せば召喚した魔物への魔力供給ができなくなり魔物は消えてしまう」
私は拳を引き抜くと後ろに飛び退く。口惜しいがこの戦闘は今、イアランのペース。このままでは負ける!
「それにしてもやはり侮れないのはウィンか。てっきりジール達がピンチになればこっちに来るかと思ったんだけどなぁ」
イアランの視線の先に壊れて穴の空いた建物からウィン様がこちらを見ている。
「ああやってこちらを警戒してる。俺のスライムの速さ、ウィンの剣なら追いつけるかもしれないんだよね」
私も理解した。そう、剣の速度が速くてスライムを切れるとしても…
「だが、そこから離れればウィンの、今のその体ではスライムの移動速度に追いつかない。つまり、クアンタを守れない」
そうだ、理由は分からないがウィン様は今子供の体。足の長さや筋力は当然、大人の時より無いはず。
何より二匹まとまってるところへ斬りかかれるならいいが、分散されると一匹倒してる間にもう一匹がクアンタの元へ行く。
それでは間に合わない。
なら、クアンタという目標の前に来るスライムを迎撃する方がクアンタを守りつつ、スライムを倒せる可能性がある。
「なあ、ジール。もう無駄な戦いは止めよう。これ以上続けるとクアンタ以外に命を落とす者も出てくるよ?」
もう勝利宣言ということなのだろうか?悔しいが現状スライムを二匹潰すか、イアランを倒すか。
私が今それを解決する方法は一つしか思いつかない。
でも、それでスライムに追いつけたら…いいのだが…。
少なくとも先程のクローンスライムの時のように痺れはない。つまりガスのようなものは無い。
「私、言ったでしょ!相手のことを考えろって!クアンタは守るって決めたんだから!」
私は深い呼吸をする。もう、カッコつけてはいられない!
生命エネルギーが濃いピンク色に変わる!
「25%…開放♡」
早速スライムと速度勝負を挑む!
必死に逃げるスライム!
追う私!
詰まる距離!
もう一匹が私に特攻を仕掛けてきたが問題なく回避する!
捉えた!スライム!
「フランメ…」
私は拳を燃やす!
「フィストー!」
まともにスライムの真ん中を拳がヒットした!拳の当たった所が溶ける!
「アハッ♪溶けてる溶けてる♪」
快感でしか無い♪スライム相手にこんなに楽しい気分が味わえるなんて…スライム、好きになるかも♡
だが、スライムを倒すには至ってない。すぐに再生され、またもや逃げられる!
「待って、スライムちゃん♡」
楽しい楽しい追いかけっこ♪でも、絶対逃がさないんだから♡
「フランメぇーフィストぉー」
もう一撃スライムにヒット!逃げられないように追い討ちの拳をすぐに放つ!
「逃げないで、スライムちゃん♪もっともっと私とキモチイイことしよ♡」
だが、スライムはまた逃げた。今度も再生をしようとしているようだが、先程より少し速度が落ちてきている。
「あれぇ?さっきのイキオイはどうしたの?元気に動いてもっと楽しもうよ♪」
と、一匹を追い回していると二匹目の特攻をまともに喰らってしまった!私は吹っ飛ばされ地面に叩きつけられた。
「あの速度のスライムに追いつけるのか、ジールは…」
驚くイアランの声が聞こえた気もするが、そんなの興味ない。
今は何よりスライムさんと戦うのが楽しい♪
「二匹同時に相手しなきゃ…ダメ?♡」
あぁ…笑みが…笑みがこぼれてしまう。ヨダレが出てきた。呼吸も荒くなる。ホント、強い相手はスライム相手でもキモチイイ♡
そんな私の高揚感なんてスライムは気にせずやってくる!
時間差攻撃力を仕掛けてきたスライム!私は炎の拳で連続する攻撃を弾きながら、まだ元気なスライムに狙いを定める。
「攻められってぱなしじゃあ楽しくないから、こちらからもお試しついでにお返しよ♡」
一撃離脱するスライムに追いつき、私は拳を手刀にし、炎の火力を上げた!
「フランメ・シュヴァル!」
一刀両断!
スライムを真っ二つに切り裂く!炎の魔法と生命エネルギーの混合された特殊な属性の手刀だけあってスライムの魔法耐性も全く効果が無かったようだ。
「あ…あぁ…何てキモチイイの…♡」
スライムはもう、元には戻らなかった。どうやらこれで倒せそうである。
「後、もう一匹、何をしようかな♪」
ヤバい、またヨダレ…まあ、いっか♪
「ねぇ、逃げないでちゃんと相手してね、ス・ラ・イ・ムちゃん♡」
スライムに感情があるか分からないが、怯えてるような気もするが、そんなの気にしちゃダメだよね♪
だって…ここまでその気にさせたセ・キ・ニ・ンをそのカ・ラ・ダで取ってもらわなきゃ♡
スライムは逃げ出しているが、もう私がアクビしても追いつくくらいである。
ちょっとつまらないかなぁ…。
だが、問答無用にフランメ・シュヴァルで真っ二つに切り裂く。
「最後、ちょっと物足りなかったなぁ…。後は」
私はホワイトドラゴンの方を見る。ドラゴンはこちらを気にせず師匠たちにブレスを吐いて攻撃をしている。
「アレでガマンするいかないか…」
私はピンクの光の閃光となり、容赦なくドラゴンをぶん殴る!
だが、空を切る!
ドラゴンが私の拳を避けたのだ!
「…ウソ」
あの巨体がまるで風に舞う木の葉のようにヒラリと避けたのである。
「だったら!」
体勢を立て直し今度はイアランへと攻撃を繰り出す!
「なっ!」
今度はドラゴンの前足が私を払いのけた!速くて強い!私は飛ばされながら体制を立て直す。
「このドラゴン…強いじゃない♡」
冷めかけた心が燃え上がってくる!もしかして、ウィン様の時のようなカイカンがまた味わえるんじゃないだろうか?
「ジール、大丈夫かい?顔、溶けてるよ」
大笑いするイアランだが、私には関係ない。今はドラゴンにしか興味が無い!
「ありがとう、イアラン。私、すごくシアワセよ♪」
言い終わると私は二度のフェイントをかけ、蹴りを放つ!これはヒットした!ドラゴンの巨体がぶっ倒れる!
「おーコワイコワイ。君はどんだけ強いんだよ」
イアランは呆れている。戦略的にはドラゴンが大勢を崩した今、イアランを倒すのが勝ち筋なのだろうが…。
「ドラゴンちゃん、今の良かったから…もっと続けましょ♡」
それよりドラゴンと戦いを続けたいが優先された。頭ではわかってるんだけどねぇ。
ドラゴンは体制を立て直す。もう嬉しくて仕方がない♪
「さぁ、もっと楽しい夜を…続けましょ♡」
私は汗ばむ体と、荒い息と、高揚感の中、再びドラゴンの前に歩み寄っていくのだった。




