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モンスター託児所のジール  作者: ネジマキノ ショウコウ
第一章 クアンタ護衛編
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序 今でも見る悪夢

「このような事が起きるとは…」


今朝、私にこっそり野イチゴをくれた長老が…とても優しくて私を可愛がってくれた長老が…目の前で人間に斬られて血しぶきを上げた…


その直後、さっき一緒に花の王冠を作ったロペンお姉ちゃんの首に首輪が付けられ力任せに大きな体の人間に引きずられている。


それを助けようと里のみんなが魔法で攻撃するも、相手の魔法耐性を持つ防具に効果は薄い。


なぜ私の里が襲われてるのか分からなかった。


今朝もいい天気で、お母さんのお手伝いで野草を集めたり、木の実を集めたりして、お手伝いが終わったので仲良しの幼なじみの男の子リックと、少し年上で近くに住む優しいお姉ちゃんのロペンとでいつもの森の中にある原っぱで遊んでいた。


一日を満喫して家に入った。


そのすぐ後に外で馬の(いなな)きがしたので「何だろう?」と外に出た。


そして、今の景色が広がる…


「エルフの女は酒樽で~エルフの子供は家買える~女♪」

「死体ですらも晩酌に~♪」


襲ってくる人間たちが口々に歌っている。


楽しそうに。


歓喜交じりに。


異常な光景を見た動揺で私の頭は現状把握がまるでできなかった。


だが、思い出したことがある。


長老が少し前に言っていた。


今、人間の世界ではエルフを捕まえて売ったり、長寿秘薬の材料にしたりすることが金になるらし。ゆえにエルフ狩りをする人間がいる、と。


「サリス!逃げなさい!」


母親の声で我に返った。


先程の人間の歌からすればエルフの子供はかなりの価値となるのであろう。私はまさに、人間が最も狙いたい存在。


私はまだ8年しか生きてない。


しかも女。


長老は詳しくは話してくれなかったが、女性のエルフは捕まるとオモチャのように扱われ「壊される」と言ってた。


私は震える足で後退りを始めた。


でも、走ることはとてもできない。恐怖が私の足をその場から動く力を奪っていく。


そんなグズグズしている私を見逃してくれるわけはない。当然人間が手に鎖付きの首輪を持ってやってきた。


「俺はラッキーだせ!子供のエルフといきなり会えてしまうんだからなぁ」


下品にニヤつく顔が怖くて怖くてとうとう私は腰を抜かしてその場に座り込んだ。


「手間がかからないお宝は嬉しいよ。傷だらけだと価値がさがるからなぁ」


大きな手が私に掴み掛かろうとした瞬間!その人間に巨大な火の玉が前触れも無く飛んできた。


「ぐばぁぁぁぁ!」


人間は顔を両手でおおい、転げ回る。


「サリス!早く!早く逃げて!」


助けてくれたのはお母さんだった。


そうだ!お母さんがいるから大丈夫!


お母さんはこの里で最も強い魔術師。強力な魔法を使い、幾度となく魔物からもこの里を守ってくれた。


少し気持ちが落ち着いたのに、私を驚かせるかのように、誰が私の手を取り引っ張った。


「サリス!逃げるぞ!!」


私の手を引っ張ったのは、怯えながらも必死に流れそうな涙をこらえているリックである。


リックの手が震えてるのがわかった。私にも震えが伝わってきている。


「お、お母さんがいるから大丈夫だよ…」


おかしい。私も自信を持って強くリックに言えないし、手を振り解けない。


不安は消えてない。安心できないと本能が告げてる。


「いいからいくぞ!邪魔しちゃダメだろ、俺たちは!」


確かにそうだった。私は何もできない足手まとい。ならこの場から逃げるのがお母さんの役に立つ。私の頭に不安をかき消そうと必死に逃げることを正当化する言い訳が浮かんだ。


リックと共にお母さんに背を向け走る。ただ、その場を去る前にお母さんの姿を見ようと横目で見る。


だが、その行為で私の心の中に黒い影が瞬時に広がった。


人間が、強力な魔法を使うこの里一番の魔術師のお母さんの片腕をつかみ、引っ張り上げ、はかない抵抗をするお母さんの首に鎖の着いた首輪をはめる瞬間の一部始終が見えた。


「おかぁぁぁぁさぁあああん!!!」


リックの手を振り解きお母さんの元に走り出そうとする。だが、リックは手をはなさず、むしろ力一杯引っ張った。


「逃げるんだ!早く!」


もう私は走ってるのか、リックに引っ張られて歩調を合わせたのか覚えてない。ただ、お母さんから離れていくのはわかる。


それでもリックは走ることと手を離すことはしなかった。


私一人ならもう崩れてしまいそうな足。それでもリックは引っ張っている。こんなに力強くたくましいリックは見たことなかった。


ただ、そのわずかにできた希望は馬が駆けてくる音で消えてしまう。


「子供が2人まとまってるとは手間がかからかくて助かるなぁ!」


人間の不気味な笑顔に私は涙がこぼれてきた。


あぁ、終わりなんだ、私…。


「サリス、逃げろ!ここは俺が食い止める!」


リックはナイフを構えるが、そんなのは意味が無いことを私は知っていた。


なぜなら、リックは一度もナイフで戦ったことなんてない。同い年の男の子に剣士ごっこで一度も相手を倒したことがない。


そんなリックが私を助けようとしている。


恐いから動けないなんて言ってられない。リックは私を助けようとしてくれている。


「心配するな、サリス。俺は必殺技がある!こいつらを止められる必殺技だ!気にせず逃げろ!」


私にニヤリと微笑むとリックは人間に対峙した。


ただ、その微笑みに余裕がないは今の私でもわかる。


嫌な予感しかない。


魔法も剣も使えないリックの必殺技。


でもリックの性格からしてはったりを使えるとは思えない。それに、子供だましが通じる相手ではない事が分からないほどリックはバカではない。


「後で追いつくから先に逃げてくれ!サリス!お前がいると必殺技使えないんだよ!」


何をするのか分からない。でも、私には逃げるか、ここにいるのかの選択肢しかない。


私は逃げることを選ぶことができた。リックを信じるのもあるが、何もできない私は誰かの邪魔をしてはいけない。今の私ができる唯一のこと。


答えはすぐに出ることとなった。


私は5分も走ってない。でもリックからは100m以上は離れているだろう。だが、森の100mの差は森に慣れてない相手なら少しは私でも優位に立てると思った。


私の楽観的な考えは後ろからの異様な空気で消された。


振り返るとリックのいたところに黒のドームができている。


「リッ…ク?」


無機質で、それなのに禍々(まがまが)しくて、黒くて怖い。


もうこれ以上悲劇を見たくない心が声を出すことすら許さない。


(心配するな、サリス。俺は必殺技がある!)


噓ではなかった。


あのドームの中で何が起きてるのか分からない。ただ、私には心当たりがあった。


黒のこんぺいとう。


私たち子供はそう呼んでいた。


長老の家で見たことがある。ガラスの箱に飾られていた小指の先ほどの黒い石。本当の名は「魔道乱石」と言うらしい。


高度な魔法技術を持つものが使えば己の魔法を強化して放つことができる石。その上、宝石としても価値のある珍しい石である。


ただ、未熟な者が使えば魔力の暴発が起き、自らに跳ね返り、周囲を巻き込み消失する恐ろしい石であると長老が教えてくれた。


見てて本当に美しく、黒い石の中にキラキラとしたものがあり、不思議な石だったのを覚えている。


リックは確か魔法が使えた。


だが、それは虫も殺せないような炎を出す程度に未熟な魔法レベル。


そんなリックがあんな広範囲の魔法を使うとしたらそれしかない。


石を暴走させるしか、あんな攻撃魔法を使えるはずがない。


私は来た道を戻ってしまった。ドームも段々と色の濃さを失っていく。


あんな爆発に巻き込まれて生きてるはずがない、人間も、リックも…。


リックが人間を退けた安心感とそれをやってのけたリックが心配でつい駆け寄ってしまった。


「やはり…防具はケチらないのが生存率を上げるコツだな」


野太い声。


もう現実が何なのか分からなくなってきている。


目の前にはボロボロになりながらも人間が三人ほど立ち上がってきた。


「普通の鉄の鎧なら死んでるとこだった…子供でもやはりエルフ。魔法については油断できんな…」


私はそこから逃げることができずに、ただ、炭となっているリックを立ちすくんで見ていた。


その時、人間と私は目が合った。


幼い私にもわかることがある。


もう、ダメだ…と。


絶望のどん底。





そして、私は夜中に気持ち悪い汗と共に目が覚める。


過去での経験をこの70年何度もこうして夢で見る。


「いつになったらこの悪夢から開放されるのかなぁ…」


私は首の消えない刻印を少し触ると汗を流しに近くの川へ向かった。

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