準備
三題噺もどき―よんひゃくろくじゅうよん。
窓を開けると、静かな風が入り込んできた。
外は快晴。
心地のいい風と、程よい光。
思わず深呼吸をしてしまい、ほんの少し気恥ずかしくなった。
何も、そんなことはないんだけど。
「……」
軽く伸びをしたのちに、気分を入れ替え、動く。
今日は、あまりゆっくりもしていられない。
いやまぁ、時間はあるにはあるのだが……。
「……」
とりあえず、何か食べよう。
連絡を返したのが、ついさっきだから、まだあちらも準備を始めたぐらいだろうし。
そんなに早くはこちらに到着しないだろう。
家を出るまでに連絡を入れてくれとは伝えたが、その連絡が来るかどうか……到着したと同時に忘れてたと言われそうな気もしている。
「……」
急な連絡をしてきたのは、こっちだから急いで準備しなくてもいいよという連絡も来ていたが。そんなことができるほど私は器用ではない。
器用不器用の話ではないかもしれないが。急だろうとなんだろうと、会う予定ができたのなら、その時間に合わせて色々と準備をしていかないといけないものだろう。
「……」
その連絡に気づいたのも少し遅かったものだから……。
私は朝起きてすぐに携帯を見る―という習慣がここ数ヶ月で抜けてしまっている。
起きて、カーテンを開いて、顔を洗って、お湯を沸かして、少しだけ書いて掃き出しをして、白湯をのんで、それからようやく携帯を見る。
その時点で、起床時間から三十分、長い時は一時間近く経っていたりする。
「……」
起きる時間は大抵決まっているので、その時間に合わせて連絡したのだろうけど。
確認するのはもっと後なので、気づくのは遅れるに決まっている。
返信をしたら、すぐに既読がついた上に連絡が返ってきたので、もうほとんど準備は終わっているんだろうな。
そもそも、突然朝早くに、今日休みだから一緒に出掛けないかなんて連絡をするのがおかしいのだ。いや、別にいいのだけど。身内だし。
あの妹の、無駄な行動力の高さは身をもって知っているので。この無茶を他人にしていなければいいのだけど。
「……」
いやもう。その辺はあとで言っておこう。
とりあえず、朝食を摂りつつ、準備をしなくては。
なにか……パンで良いか。カフェオレも飲みたいところだけどその時間はあるかどうか……最悪コンビニで何か飲み物を買おう。とりあえず水で良いか。
と、そうして、朝から頭をなんとなく動かしながら1人忙しなさそうに動いていると。
ピンポーン
と、玄関のチャイムが鳴った。
「……」
想像以上に来るのが早かった。
とりあえず、もう仕方ないので向か入れるとしよう。
寝間着のままなのは許してもらおう。ゆっくりでいいと言ったのは妹だ。
「……はいはいっと」
合鍵を持っているはずなので、開けることはできたんだろうけど、まぁ甥っ子が押したいと言ったのだろう。
あれぐらいの子供って、どうしてあんなにボタンを押したがるんだろうな。
まぁ、楽しいは楽しいな。感触がそれぞれ違ったりするし。
「――!!」
「―っと」
玄関の扉を開いた矢先。
太もものあたりに、ズシリと衝撃を受けた。
相変わらず元気がよろしい。よろけなかったことをほめて欲しいぐらいの勢いだった。
「おはよう」
「おはよ!!」
ぱ―と、顔を上げた甥っ子。
よく見れば、野原でも駆け回ってきたのかと見紛う程に汗をかいていた。
子供は体温が高いと言うが、それにしてもびっしょりではないか。
何事かと、妹を見やれば、こちらは汗はあまりかいていないが、若干息が上がっている気がする。
「―階段で、ここまできたんだよ」
「あぁ、おつかれ」
なるほど。
そういえば、最近突然甥っ子がエレベーターに乗ることを拒否するようになったと言っていた。エスカレーターがあればいいが、ここはそんなものはないからな。エレベーターか階段しかない。そうとなれば、階段を上るしかないのだろう。
―その後よくよく聞けば、休日に大きなショッピングセンターに行った際、ぎゅうぎゅうのエレベーターに乗った後から、拒否が始まったらしい。いやもう、それが原因だろう。大きくなってしまえば、そうでもないが……あのぐらいの身長でぎゅうぎゅう詰めにされると、若干の恐怖を覚えてもおかしくない。たとえ抱いていたとしても、苦しさがあったりもするだろうし。まぁ、その辺はそのうち克服していくだろう。できなかったとしても、その時はその時で、どうにかしたらいい話だ。
「とりあえず中はいり」
「おじゃましまーす」
靴を脱ぎ捨て、今にも走り出しそうな甥っ子を引きとめ、汗を拭く。
さすがというか、準備がいい妹は着替えを持ってきていたので着替えを済まし、いったん休憩を挟む。
その間に、私も着替えをしてしまい、取り損ねかけた朝食を食べ、準備を済ませた。
2人が来てから一時間ほどが経ち。
「準備できたー?」
「よし、行こうか」
「うん!」
お題:朝・チャイム・野原




