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セレナ_0.01α




 

 麗名千歳高校に入学した千春は、僅か一日で条件の良いスタッフ求人を探し出して応募した。

 レナ高に入学してから最速でバイトに応募した男と自称してもいいくらいに早いかもしれない。


 千春が目を付けたのは、無難なローカルチェーン店のファミリーレストラン。

 自宅から徒歩十五分程度で行けるのが決め手だった。学校帰りだと少し遠いものの、それでも徒歩で三十分掛からずに着く。


 三日後に設けられた面接も、持ち前のコミュニケーション能力を遺憾なく発揮して、難なく進んだ。

 ファミレスの店長を務める中年の男と事務室でテーブル越しに向かい合って、千春はシフトの希望、長期か短期か、ゴールデンウィークや年末年始なんかも入れるかどうかといった、いくつかの質問にすらすらと答えていく。


「宮火くんは、いつから入れる?」


「制服さえ貸していただければ、今からでも入れますよ!」


「ははは。元気でいいね。君はホールの方が向いてるかな」


 ホールスタッフ、キッチンスタッフどちらも募集していたファミレスだが、店長は明るい性格の千春はホールに向いていると評した。

 キッチンの方も人手不足ではあるが、どちらかと言えばホールの方が深刻というのもあった。


「あーでも、一人暮らしで料理しなきゃなんで、ホールに慣れたらキッチンも経験してみたいです」


「オーケー。でも……ま、とりあえず、人手不足のホールの方をお願いしようかな」


「ありがとうございます」


 少し軽薄な雰囲気はあるものの、ハキハキと喋り、朗らかな青年といった第一印象の千春に好感を持った店長は、悩むことなく採用を決めた。

 タイミング悪くスタッフが立て続けにやめてしまい、負担が増えているホールの戦力になってもらう考えだった。

 もしスタッフを上手く補充できれば、千春の希望通りキッチンを任せても良いかもしれないとは思っていた。

 ここのファミレスはセントラルキッチン方式は採用されておらず、実際にスタッフが調理するシステムになっている。

 ファミレスのキッチンでも多少は料理の腕が上がると聞いて、千春は少なからず興味を抱いていた。

 店長が言うにはホールの方が圧倒的に人手が不足しているとのことで、千春はとりあえずホールスタッフに回されることとなる。

 

「やる気いっぱいみたいだし、制服はあるから明日から来れたりする?」

 

「了解です」


 面接も終わり、千春はファミリーレストランのホールスタッフとして、アルバイトが決まった。


 翌日、千春はアルバイト先へ向かう途中、同じクラスメイトの少女が前を歩いているのを見つける。


 まだクラスでもまともに話したことが無い相手だというのに、千春は物怖じすることなく声を掛けた。


「セレナさん」


 名前を呼ばれたら、振り返らないわけにはいかない。


 千春の方を振り返った少女の名前は、浅上(あさがみ) 世恋和(せれな)


 千春と同じレナ高の生徒で、同じクラスメイトの女の子だった。

 ソフィアに負けず劣らずの美しい少女だったから、名前をよく覚えていた。


 ハーフアップに纏められた長い黒髪。

 冷たさと強さと儚さを同時に感じる切れ長の目。

 上品なラインを描く鼻筋。

 染み一つ無い透き通るような白い肌によく映える、艶やかな桜色の唇。

 右目の下の泣きぼくろと、唇の斜め下にあるほくろが、より美しさを際立たせている。

 歩いている時の姿勢が、思わず見惚れてしまうほど凄く良かったのがとても印象に残っていた。


 クラスで誰が一番美人かと問われれば、いくつか候補はあれど、間違いなくセレナの名前は上がるだろう。

 それどころか、学年で一番の美人は? 学校で一番の美人は?と、質問を変えたとしても、名前が上がることに疑いの余地はない。


「何か用? 宮火くん」


 勝手に隣に並んで来た千春に対するセレナの反応は冷たく、ソフィアとはまた違った雰囲気の無情さを持っていた。


「あれ、俺の名前覚えててくれたんだ?」


「ガラの悪い男は、嫌でも記憶に残るわ」


「そんなにガラ悪いかね?」


 クラスで髪を染めている男は千春しかいなかったというだけで、別に普通だと思うけど。


「それで、何か用?」


「バイト先まで暇だったから。お話しようよ」


「なんで私があなたの暇潰しに付き合わなければいけないの?」


「話し相手がいないと歩きスマホしちゃうでしょ? 歩きスマホは危険だから、セレナさんと話していた方が安全」


「はあ……」


 僅かなやり取りしかしていないのにも関わらず、セレナは疲れたように溜息を吐く。


「家、こっちなの?」


「違うわ。私もバイト先に向かっているだけよ」


「え? セレナさんバイトすんの?」


「なに? バイトしてたら悪い?」


「そんな高い時計着けてる女の子がバイトするなんて思わないじゃん?」


 隣を歩くセレナは、レザーストラップの腕時計を身に着けていた。

 シンプルなデザインではあるが、時計盤に記されているロゴは、普通の高校一年生では手の届かないブランドのモノである。


「これは入学祝だから」


「良い親だねぇ。俺の親はなんもくれなかったよ。姉からは貰ったけど」


「ああ、そう」


 千春の世間話にも興味無さそうに、セレナは前だけを向いて歩き続ける。


「レナ高で一番バイトを早く始めたのは俺だと思ってたよ」


「あなたが一番じゃない? 私は今日が初日だし」


「あ、本当? 俺も今日がバイト初日」


「ああ、そう……」


 どれだけ話し掛けても大した反応を示さないセレナに、千春は逆に強い興味を抱く。

 取り留めのない話を続けながら、彼女の美しい横顔を眺めていると不意にセレナが足を止めた。


「私、バイト先、ここだから」


「俺もここだから、同期としてよろしくね~」


 とんでもない事実に呆然とするセレナに、千春はにこやかに笑いながら小さく手を振った。


 セレナが足を止めたのは、先日、千春が面接を受けたファミレスだった。






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