自称勇者 第十六部 第四章
「じゃあ、始めるね。スキル<ハイグレードゾンビ>で」
一真がそう話す。
「そのハイグレードにはどういう違いがあるのか分かるのか? 」
住職の志人兄が聞いた。
「いや、無いんじゃない? 私のスキルもそういうの無いから」
「使ってみないと分からんから。あの女神の与えた加護のスキルでもあるからな。適当なんじゃ」
私の答えに魔法使いの爺さんも同意した。
「碌なもんじゃないな。適当とかさ」
「何かマニュアルでもあると良いのだがな」
大翔兄と私がそう突っ込むと皆が冷たい目でなぜか見ていた。
まるでお前らも同じだろうと言うような感じだ。
困ったものである。
「まあ、いいや。きりがないし。そもそも、何でこんなに時間がかかってんだか」
そう一真が話すとスキル<ハイグレードゾンビ>をかけた。
中村さんが動き出す。
それも、まるで気絶していた人間が起き上がる感じだ。
うっと呻いてから眩しそうにこちらを見た。
「ゾンビって……もっとおどろおどろしい感じじゃないかった? 」
私が驚いて思わず口にした。
いや、本当に生きているように見えるのだ。
「自然だからハイグレードなのか? 」
大翔兄も驚いていた。
「き、君達は? そうか……ここは一体? 」
中村警部補がそう驚いたように呟いた。
そして、横に転がっている二人を見て叫ぶ。
「海老原巡査部長! 佐々木警部補? 」
そう、慌てて叫んだ。
損傷の無い人を選んで大翔兄が連れてきたらしいから、実際に死んでるようにはぱっと見みえない。
それにしても、中村警部補もちょっとゾンビに見えないよな。
あのヤクザさんはまだゾンビになっておどろおどろしいとこがあったけど。
などと考えているうちに、深刻になってきた。
中村警部補は必死になって、二人を揺らした。
そら死んでるから助からんよな。
そして、佐々木警部補が呼吸と心臓が止まっているのでいきなり心臓マッサージと人工呼吸を始めた。
二人を生き返らそうと必死だ。
一真はあっと言って無言だ。
そら、何して良いか分からんよね。
そして、私と大翔兄が目を合わせた、誰がゾンビだと説明するのか?
生きているような血色の良い中村警部補にどうやって伝えるのか。
これは困った。
本当にハイグレードすぎてゾンビだと言っても信じないかもしれない。
魔法使いの爺さんも困り果てた顔でこちらを見た。
「大翔君! そちらの海老原巡査部長を頼む! 心臓マッサージと人工呼吸だ! 誰かAEDがあるなら持ってきてくれっ! 」
中村警部補が必死だ。
AEDはご存じの心停止になった時に使う奴だ。
いや、持ってきても無駄なんだがと言いたいところだが、ちょっと口にそれを誰が出すかで雰囲気が重い。
私は説明がへたくそだからな。
そう目で大翔兄と思っている事が聞こえているであろう、魔法使いの爺さんに心で思って話す。
すると、大翔兄も俺だって同じだと言う感じで目で言って来る。
仕方ないので、皆でゾンビ化を行った一真を見た。
「おれかい? 」
一真が変な声を出した。
自分が説明するのかと納得しない顔つきだ。
「君で良い! 早く海老原巡査部長に人工呼吸と心臓マッサージをしてくれっ! 大翔君、AEDを早くっ! 」
中村警部補が叫ぶ。
それで一真が勢いに押されて、心臓マッサージと恐る恐る人工呼吸を始めた。
うううむ。
彼女いない歴と産まれてからが同じだと自分で愚痴っていたが、これがファーストキッスか。
ゾンビ化なんて変なスキルを持ったばかりに。
可哀想に。
「いや、お前が仲間に巻き込んだと聞いたが」
「ええ? 」
私は完全にそれを忘れていたので、驚いた。
そんな事もあったなぁと言う感じである。
そのバタバタを見て、住職の志人兄が深い深いため息をついた後に、前に出た。
「中村さんお久しぶりです」
「はあ? 」
息を荒くしながら人工呼吸を続ける中村警部補が驚いた。
どうやら、志人兄も面識があったようだ。
だが、当然中村警部補は面識がない。
何しろ、姿が違うし年も違うし。
「お二人は亡くなられてます。すでに呼吸も心臓も止まって数時間経っています」
そう住職の志人兄が告げる。
「馬鹿なっ! 」
そう言いつつも、否定できないような事があったので、中村警部補が凄い顔をして住職の志人兄を見た。
「残念ですが……」
それで住職の志人兄が続けた。
多分、一番残念なのは、中村警部補の勢いに押されて人工呼吸をしてしまった一真だろうなと思って私は悲しい顔で見ていた。
私と目が合って、一瞬凄く悲しそうな顔を一真がしたのが後々まで印象に残った。
お前……いろいろと流され過ぎだぞ?
「いや、それは酷く無いか? 流石に! 」
それで勝手に私の心を読んだ魔法使いの爺さんが突っ込んできた。
面倒くさい奴だな。
「人間性と言うのをちゃんとお前は持った方が良い」
などと人間性の無い魔法使いの爺さんに言われても困るとこだ。
「AEDはいらないよね」
そう大翔兄がぽつりとつぶやいた。
最初から全く動こうとしなかった大翔兄は流されるような男では無かった。
良いか悪いかは別にして。
「く、糞っ! 何でこんな事に……」
中村警部補が悔しそうに泣きそうな顔で呟いた。
いやいや、本当にゾンビに見えないや。
どうするんだ、ここから?
私が皆の目を見る。
誰か説明する人が必要だ。
でないとどうにもならない。
そして、皆は住職の志人兄を見た。
こうやって、兄はずっとババを引いてきたのだ。
住職の志人兄が深い深いため息をもう一度した。




