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自称勇者 第十五部 第六章

 隙は一瞬だけで良かったようだ。


 それだけで、颯真は動いた。


 20メートルの距離を一瞬で飛ぶと言うのはこちらの武道の世界では考えられない。


「<縮地>だな。もともと剣聖アウロスも使っていたが、たしか颯真も使えたはず。特殊な戦闘用のスキルだ」


 魔法使いの爺さんがそう呟いた。


 二階の壁はざっくりと日本に真横に10メートルくらいの幅で斬られていた。


 正直、二回振ったようには見えなかったので、つくづく強い。


 そりゃあ、向こうの皇帝も警戒するはずだ。


 そして、剣を構えたままでその斬った場所を睨んでいる颯真を見て、剣聖アウロスも死んでいないようだ。


 どうも、規格外の存在と言うのは困るな。


「小僧。少しはやるようになったか? 」


 そう誰かの声が響く。


「え? 」


「は? 」

 

 その声が誰の声か分かったらしくて、中村警部補だけでなく、何とか這って逃げて壁の裏に隠れた警察官達が驚いた顔をした。


 その瞬間、一瞬にして微塵に壁が斬り落とされて、崩れた。


 そこにはちょっと高齢の御方がいた。


 中村警部補や警察官達が凄い顔でそれを見ていた。


 私の抱いているポチは本当に小鳥のように震えていた。


 びりびり来る、この殺気立った雰囲気が凄い。


「姿が変わったな。師匠。こちらの人間の中に転移したのか? 」


 そう颯真が笑った。


 それは肉食獣の笑いだ。


「ああ、女神の転移では無いがな」


 そうその高齢の御方が笑った。


 それで、中村警部補や警察官の口から悲鳴が漏れる。


「やばいやばいやばい」


 大翔兄が横で小声で呟いていた。


 大体、大翔兄が焦っている想像がつく。


 確かに、これは想定外だ。


「小僧もクルトルバのクオに関わっているとはな」

 

 そう憎々し気に颯真を高齢の御方が笑う。


「やはりな。普通の人間では無いと思っていたんだ。もともと、敵のものだったのか? 」


「いやいや、女神の世界にしろ、こちらにしろ、相当に長い年月に浸透は始まっている。混血がかなりいると思えばいい。精神体として人間達に転移して記憶などが覚醒しても、そのまま人間として終わるものが多い。そして、それは子を成して、混血を増やしていく。霊体として転移を昔ながらのやり方で続けている連中がごくわずかで珍しいくらいなんだ。すでに、この世界もあちらの世界も混血だらけなのだ。侵略など馬鹿な事をしないでもほぼ終わっているのだよ」


 そう高齢の御方がほっほっほと言う感じで笑った。


 姿は温厚そうで見た目に怖さは感じない。


 だが、間違いなくビリビリ来る殺気は温厚そうな爺さんから出ていた。


「それにしては、今回の侵略に手を貸すんだな」


「わしのは侵略では無い。戦いたかったのだよ。我が弟子と」


「俺と? 」


「最後のあたりで互角になり、それから随分経つ。流石に、その男がクルトルバ最強の男と聞くとやはり死ぬまでにはもう一度戦っておきたいと思ってな」


「いや、あんたの弟子がそれだけ強いんだから、それで満足しておけばいいでは無いか! 」


 颯真と剣聖アウロスの会話に魔法使いの爺さんが切り込んだ。


「ほう、大豆生田外郎(おおまめうだういろう)では無いか。まだ生きておったのか」


 そう高貴な御方が笑った。


 なるほど、剣聖アウロスと知り合いならしい。


 ちょっと、名前で警察官の皆が怪訝な顔をしているが。


「そう簡単に死ぬかよ」


「百歳を遥かに超えてるのに元気じゃの」


 そう高貴な御方……剣聖アウロスが笑う。

 

「百歳? 」


 中村警部補がさらに驚いたような顔で魔法使いの爺さんを見た。


 まあ、70歳くらいに見えるから、それは仕方ないだろう。


「お前もそう変わらんだろうに」


「ふぉふぉふぉ。まあ、そう言う事だ。お前も混じり物だと言う事だ。まあ、わしの場合、女神のルートでなくクオのルートで転移したからな。それで、身体に転移したのでこの身体も変わってしまった。前と様子が違うので、一部の周りからは怪訝な顔をされたがな。クオの皇弟から聞いて、やっと自分のするべき事が分かった。つまり、貴様と雌雄を決する為だ。その為に生きてきた。それがやっとわかったのだ」


「いやいや、弟子だぞ? そいつは? 弟子と雌雄を決してどうするんだ? 」


 魔法境の爺さんが必死に食い下がる。


「弟子とは言えなかったのだ。わしと技筋も実は少し違うしな。こやつはわしの知らん技も使う事があるし。それでずっと不快に思っていた。強さでわしの流派でわしを超えるのなら理解が出来た。だが、師の教えと違う技を普通に使う弟子など言語道断であろうが……」


 淡々と話しているが、異常に怒りがこもってきているのが分かった。


「それは弟子の工夫と言う事もあるし、まあ、それ以外の流派を習っていた可能性もあるだろうが……」


「それは、師に対する侮辱では無いか? 他流派の技を師の前で使う奴など許せるものでは無い……」


 温厚な雰囲気の爺さんの顔が憤怒に満ちた。


「あんたは、俺に強さを突き詰めろと言ったでは無いか? 」


「それと同時に身を隠して戦うのが我が流派だと常々言っておったはず」


「いや、それは卑怯者の戦い方では無いか」


「それをまた言うか。言ってしまうか。このわしの前で……」


 声が震えていた。


 剣聖アウロスである老人が鬼のような顔になっていた。


「あの……警視総監殿! 話が見えないのですが……」


 むこうで警察官がその温厚だった顔が憎悪にまみれた剣聖アウロスに聞いた。


 ぶっちゃけ、多分、警察の偉いさんの身体を乗っ取ったのだと思ったが、ちょっと上すぎた。


「警視総監だったか……」


 大翔兄の顔が歪む。


 着ている服が警察のお偉いさんっぽい感じなので私も兄も動揺していたのだ。


 つまり、これでは勝ってもこちらは犯罪者と言う事だ。


 クオの転移だの言っても理解してくれまい。


 私が静かに口をパクパクさせた。


 声を出さずに大翔兄に向けて。


 そう、さっさと逃げようと……。


 祈りのように告げたのだった。

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