自称勇者 第十五部 第五章
私達は頑丈そうな柱と壁の裏側から颯真の戦いを見守っていた。
とりあえず、ここは死角に当たるようで、こちらには剣聖アウロスの攻撃は届かない。
怯えるポチを抱きしめたまま様子を伺った。
そして、床に伏せている警察官もじりじりと這ったまま陰に移動しつつも、それでも剣戟の飛沫を浴びて斬られて悲鳴を上げている状態だ。
状況はあまりよくなかった。
「いや、魔法使いの爺さんの魔法が手っ取り早いが、詠唱の間に殺されてしまうと言う指摘は良く分かるので、とりあえず、優斗の弓で行こう」
「は? 」
私の言葉に優斗が凄い顔をした。
「いやいや、お前、スキル<百発百中>で射ると矢がフォーミングして絶対に相手に当たるんだろう? 」
「待て待て、警視庁のど真ん中でそんなことするの? 警察官の人が一杯いるんだけど……」
「仕方ないだろ? 」
「いや、それは困る! 俺が犯罪者になるじゃないかっ! 」
優斗がマジで叫んだ。
いや、犯罪者の自覚は無いのか?
十二分にやる事はやっているだろうに。
「なるほど、矢が当たればどこにいるのかも大体分かると言う事だな」
魔法使いの爺さんが納得した。
「人に当たると傷害罪だろ? 」
「でも、転移してきた人間なら、この世界では人ではあるまい」
「こっちの人間の身体を乗っ取っているんだから、人間扱いはされるだろ? 」
優斗が必死だ。
知恵の回る奴と言うのも困ったもんだ。
「颯真は戦っているぞ? 」
大翔兄がそう説得するように話す。
「いやいや、あいつが一歩踏み出しているから、俺も踏み出せと言うのか? 」
「ヤンキーのように見えて、実は真面目って困るよな」
「いや、お前が言うか? それを? 」
優斗が私の突込みを非難する。
「弓? ……そんなものがどこにあるんだ? 」
中村警部補が不思議そうに聞いてきた。
優斗は何も持っていなかったからだ。
「出してみたら? 」
「凶器じゃん! 」
「ちっ! 」
本当に真面目な奴め。
と言うか知恵が回ると言うか……。
「緊急時だし。出して見せたら言い。中村さんもそれで理解してくれると思う。もし、彼が弓を出して見せても問題はありませんよね」
「いや、警察官として、それは約束しかねるんだが」
「え? 」
大翔兄がそれで困った顔をした。
警察官として、違法は見過ごせないと言う事だろう。
「ほら」
「いや、結論として、君はどこに弓を持っているんだ? 」
「持っていません」
「いや、異界から弓を出すんですが……」
「だから、出しません」
延々と堂々巡りの話が続く。
「出せるなら、出してもらいたいが……」
「罪になるなら出しません。というか、家に置いてあるような弓をここで出すようなものなので、持っているわけではありません」
優斗が必死だ。
逮捕とかになったらたまらないからだろ。
「……どのみち、ここで弓を射っても、剣聖アウロスにやられてしまうと思うがな」
「なら、這って出て行って、遠く離れて誰もいないとこで出して射れば良い」
私がにっこり笑った。
「いや、捕まるじゃん! 」
優斗の抵抗が収まらない。
「このままだと全滅ですよ? 」
「どうしますか? 」
伏せている警察官がのんきな話し合いを続ける、こちらにキレだした。
「見えないとこでしますから、ちょっと見ないふりはできますか? 」
などと大翔兄が小声でささやく。
「まあ、その……ちゃんと見えないところでやってくれて、こちらに分からないようにしてくれれば……」
さらに小さい声で中村警部補が囁く。
「と言う事で頼む。建物を出て見つからない場所で……」
「いや、そんな場所で矢を射て意味があるのかい? 」
中村警部補が自分で見て見ぬふりをするのを約束しながら、不安そうに聞いた。
「大丈夫です。矢がフォーミングして当たりますから」
私がそう確約した。
「いや、本当に大丈夫なんですよね」
優斗が疑り深い目で見た。
中村警部補がこくりと頷いたが、これ後で私は頷いていないって言うパターンかな? と思ったりしたが。
「ええ? 」
魔法使いの爺さんがいちいち私の思う事に反応するのがうざい。
「何を思った? こいつは何を思ったんだ? 」
必死になって優斗が私を指さして魔法使いの爺さんに食い下がるように聞いた。
知恵がついてくると本当に困る。
「いや、ちょっと……まずい。颯真が押され出している」
そう大翔兄が焦った声を出した。
それで颯真を見たら、いくつか胸のあたりが斬られて血が噴き出していた。
「おいおい! 颯真がやられたら、こっちも皆殺しなんだろ? 」
私が焦る。
「そう言う性格はしてるな」
「急いで! 」
私が叫ぶ。
「いや、ちょっと、辞めとけ! 」
魔法使いの爺さんが突っ込んできた。
その瞬間、颯真に向かっていた剣戟はいきなり優斗に向かう。
優斗が外に向かって走ろうとしたのを止める為に背後から金的で蹲らせた。
優斗が金的でへなへなと崩れ落ちた。
そのおかげで、優斗が出て行こうとした建物の破壊されている場所へ行く途中は震えるくらい凄まじい剣戟のせいで深く深く10メートルくらいの幅で幾重に削られていた。
「こっちもやはり見ていたか」
「止め方を考えてくれ……」
泣きそうな顔で優斗が股間を抑えて呻いた。
「見ていたか、じゃねぇよっ! 」
私がそれを誤魔化すために、魔法使いの爺さんに怒鳴った。
「いや、その攻撃で颯真が動いた」
そう大翔兄が呟いた。
攻撃がこちらに移動した瞬間に、颯真が攻撃を受け流す必要が無くなって動いた。
一瞬の間に<忘却の剣>を上の階の壁に叩き込んだ。
「何で、あんなに一瞬に? 」
私が驚いた。
まさに、20メートルくらい先の対象の壁に一瞬で颯真が移動して斬ったからだ。
まだまだ、こいつ自分の本当の攻撃能力を隠していたのか。
底が見えないとは、こういう男の事を言うのかもしれない。




