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自称勇者 第三部 第一章

「嘘だろ」


「最悪だ」


 そう延々と優斗と一真は文句をぶちぶち言い続けている。


 だが、私も颯真も耳を貸さない。


 すでにパーティーメンバーなのだ。


 逃がすものか。


 この最悪の状況で語り合えるのは共犯者と言えるものだけだ。


 彼らは、まさにそれに当たる。


「うぁぁぁぁ、今夜、夢に見るのかな」


「生首が転がるの見ちゃったからな」


 優斗と一真が愚痴った。


 だが、私はそれを聞き逃さない。


「どういう事? もう、夜には記憶が消えていたの? 」


「多分、昼くらいには消えてたな」


「どこで昼に飯食うか? って話をしてたしな」


 私の憤った言葉をさらりと優斗と一真が答える。


「ちくしょう! 私は夜はすぐ寝たけど、寝る3分前くらいはちょっとくらいは気になったのに! 」


「ちくしょうってあんた、女の子が言う言葉じゃないよ」


「3分前だけ気になったのなら、気にしてるうちに入らんだろう? 」


「ふざけんな、あんな思い出は10秒もいらないんだよ! 」


 私が叫ぶ。


「いいなぁ。パーティー同士の話とかって……」


 颯真が目をうるうるさせた。


「いや、お前だろ? お前が全ての原因じゃないか! 」


「いやいや、もう少しソフトにやれないものなのか? 」


「あまりに残虐じゃねぇか! 」


 一斉に3人で颯真に突っ込んだ。


「まあまあ、すぐに慣れるし」


「慣れたくないんだよ! 」


「勘弁しろやぁぁ! 」


 颯真のにこにこ笑顔がさらに頭にくる。


「そこで朗報だ。君たちの職業だよ」


 そう颯真がいつもの真っ黒なモニターを見せる。


 優斗が弓使いで一真がネクロマンサーだった。


「どこが朗報なんだ? 」


「何でネクロマンサー? 」

 

 優斗も一真もドン引きしていた。


「あちらの世界の女神の加護を貰った弓使いは特殊でな。半径10キロメートル内の魔物とかで悪しきものから順に矢を放ったら自動追尾で当たるスキルがある。百発百中スキルと言うものだが……」


「名前に比べてヤバいスキルだな……」


「それは、10キロ先まで当たるという事? 」


「その通り」


 颯真が頷いた。


 いろいろとヤバい世界過ぎだろ。


 そんなのまさに大量殺人じゃん。


「じゃあ、陰に隠れて撃てばいいのか? いや、もっと言うと人のいないところで射れば良いという事では? 」


「そのとおり」


「それは助かるな。相手の酷い状態を見ないで済むし、どうせ死んだら最初からいなかった事になるんだろ? 」


「それは無いな。それは<忘却の剣>だけの特殊な権能だ」


「じゃあ、矢が刺さって死ぬだけかよ」


「ああ、心臓を貫かれてな」


「ひでぇな」


「それはどうなの? 死体は残るのよ? 」


「いや、矢を見て誰が殺したとか特定は無理だろ。そもそも10キロ先からでも必殺の必中だし。矢なんてありふれているじゃないか」


「いや、この世界はそんなこと無いから」


 私が颯真に突っ込むが全然気にしていない。


 まだ自分は異世界に居るつもりなのだろうか。


 ここは日本だと言うのに。


「とりあえず、何だ……。あんたの目的は魔物退治なんだろ? 」


 そう優斗が恐る恐る聞いた。


「その通りだ」


「じゃあ、全部死んだらパーティーは終わりって事で良いんだな? 」


 優斗がそう聞いた。


「確かに、そういう悲しい所はあるよな……」


 せっかく出来たパーティーがすぐに終わってしまうと言うので颯真が悲しい顔をした。

 

「いやいや、お前、人間の悪が魔物を産み出しているって言って人間を殺しまくってたんじゃないのか? 」


「魔物に変わる人間をだぞ?  」


「いやいや、聞いていたら、ほぼ全ての人間が当てはまるのでは? 」


「いや、首都でも1割くらいだったがな」


「1割もいるんだ」


「多くね? 」


 私と一真が驚いて突っ込んだ。


「いや、荒れた世界だからな」


 そう颯真がしみじみと呟いた。


 確かに、その世界は、こんなヤバい女神とヤバいのが勇者になるだけはあるのかもしれんけど。


 そう思ってたら、同じことを優斗と一真も考えていたらしくて、目が合った。


 笑って誤魔化したけど。


「いや、弓使いかぁ。良いなぁ。戦国時代だって実は弓で一番倒してた花形だからなぁ」


「まあ、海道一の弓取りって家康も言われてたもんね」


 実際は弓が一番強い兵器だったのだ。


 当たり前だが、距離とって撃ちとってけば良いのだし。


 どうも、優斗は直接戦わなくても良いと言うのですごく嬉しいようだ。


 そりゃ、あの惨劇を見ればそうなるか……。


「そう言えば、貴方はネクロマンサーだっけ? 」


「ああ」


 ちょっと強張った顔で一真が頷く。


「死者とか死霊を使って戦えるんだよな」


 優斗が颯真に聞いたる


「いや、あの世界の場合、事実上ゾンビを使って戦う。死霊なんて大した力を持ってないし。生きてる人間の方が怖いわって言われる世界だからな。ゾンビを使って戦うのがメインだったはず」


「いや、ならゾンビマスターじゃないの? 」


「彼らもプライドがあるから、それは言わない」


 私の疑問に即座に颯真が否定する。


「どんなプライドだよ! そもそも死霊ならともかく、死体なんて日本は火葬だし、どこにあるんだよ! 日本は世界で一番ゾンビパニックが起きない国じゃないかっ! 」


 私がそう毒づいた。


 死体なんてどこから持ってくるのか。


 何も考えないで職業が決まるのはどうかと思う。


 私の許可なしの<聖女>もだが……。


「あ、いや、その……うちは寺なんだ」


「は? 」


「それで坊主なの」


 一真がさらりとスキンヘッドを撫でた。


「え? 」


 私が唖然として見たら、ちょっと恥ずかしそうに俯いた。


 スキンヘッドは合理的な理由だったんだ……。


 ちょっと驚いた。

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