自称勇者 第十三部 第七章
「そんな時代に跳んでいたとはな! 」
皇弟が叫ぶ。
一真の祖父の住職は無言だ。
「クオの中でも一番逃げ足が速くて、一番厄介なのがクメンだ。やはり、この世界で命を取られたと同時に時間を遡って転移しているとは! 」
皇弟の叫びが続く。
「まさか、あの糞女神のこの世界での本拠の中核に先回りして跳んでいるとは、流石だな! そうまでして皇帝に逆らうか! 」
皇弟の叫びが凄い。
だが、一真の祖父の住職が無言で、パンと両手で皇弟の顔を挟むようにして固定した。
その瞬間、皇弟が半開きの口になって叫ばなくなった。
いや、叫べなくなったのだ。
これは浅野家代々に伝わる、頭固定型説教の構えだ。
顎の関節部を古流の特異な関節技で固定してややズラして喋りにくくした後に自分の言い分を話す。
屁理屈が多い子供や孫が多い浅野家ならではの一族に伝わる子供や孫に有無を言わずに言い聞かせる必殺技の一つである。
浅野家は武家の家で兄達は空手をやっていたが、代々伝わる柔術の小技だけが伝わっていて、これはそれであった。
別名で<拝み固め>と訳の分からん名前がついていた。
そして、すでに覚醒が始まっているような私と兄には分かった。
これはスキルだ!
間違いない。
長兄はこの技をスキルとして使う事で、完全に相手が喋れなくさせていた。
恐るべし、長兄。
私達下の兄妹が屁理屈が多いのを何とかする為に鍛えたのだろうか……。
「あのな……俺もこんなタイムパラドクスとかどうなってんだって言う転移なんかしたくなかったわ! 転移した後にこういう力があるのを思い出したし、クオのクメンの事も思い出したわ! 皇帝はお前に戦うなと言っているはずだ! 前回の大規模転移で、懲りているはずだからな! クメンはこうやって殺そうとすると、変なとこに転移するから、ろくでもない事が起こるので、もうクメンには手を出すなと言われてたはず! お前だろ? 俺を殺す原因を作ったのは! お前だよな! いたよな! 俺が死んだ時に! 」
そう兄が<拝み固め>で皇弟を固定しながら叫び続ける。
皇弟は目を白黒させていた。
そして、それ以上に一真と一真の父の副住職が固まっていた。
あの兄が一真の祖父の住職の言葉で叫ぶ。
なんてこった。
言葉は違うが、間違いない、兄の言葉だ。
こういう言い方で、何度も私もすぐ上の兄も<拝み固め>で長兄に説教されていたのだ。
「懐かしい……」
「本当だ……」
兄と私が呟いた。
それ以上に動揺していたのは一真と一真の父の副住職だったが。
「良いか! 今回のトラブルも全ては間違いなくクメンのせいだ! だが、お前も共犯でやらかしてんだ! 分かるか? 今クオがめちゃくちゃになっているのは、お前がポンポンポンポンも何も考えずにクメンを殺そうとするから、その結果時間を超えてクメンのものが転移してえらい事になってるんだよ! 良いかっ! うちも馬鹿なのは多いのは認めるがっ! お前だっ! 一番ややこしくしているのはっ! うちは時間転移なんてコントロールできないんだ! 皇帝はクメンを飛ばしたばかりに、その過程で人生で最悪の経験をしているんだ! 人に言えない辛い思いをしたんだよ! 何で弟のお前が分からないんだよ! 察してやれよ! 」
そう一気に言い切ると、一真の祖父の住職がポタリと皇弟を落とした。
「ひ、人に言えない辛い思いだと? 」
そう、顎を気にしながら、皇弟が呻く。
「察してやれ! 詳しく説明してくれないと分からないとか! うちの兄妹みたいな事を言うなっ! 」
そう一真の祖父の住職が叫ぶ。
「ふふふふふふふふふふ、まあ良い! 目的の半分は達成したんだ! 」
そう皇弟は懲りずに笑った。
「何? 」
一真の祖父の住職が叫ぶ。
それで大翔兄が見つけた。
大聖聖女如来の御堂からせっせとカタストロフィさんと業とか言う固まった仏像みたいになったのを運び出すものがいたのを。
「それ、こっちで治すから! 別にもう二度と戦わないなら、それでいいんだから! いちいち、連れて帰って話を面倒くさい事にするなよ! 」
そう困り果てたように兄が叫んだ。
「ふははははははははははははは! 急に弱気かっ! やはりな! 貴様は奴らを取り返されるのを恐れていたのだな! 」
皇弟がすちゃっと、颯真が真っ二つにした御堂の上にジャンプしてこちらを見下ろした。
「貴様の妄言など通じるかっ! 次は大部隊で殲滅してやるっ! 」
皇弟が続けて勝ち誇ったように叫ぶと姿を消した。
そして、運び出されたカタストロフィさんも業も皇弟の配下とともに消えた。
「……うわぁ、誰かと同じで話が通じない……」
そう一真の祖父の住職が頭を抱えた。
話が通じない……それは屁理屈を続ける私と大翔兄が長兄である浅野志人から常に聞いていた言葉であった。
そのイントネーションは少し独特で、それは一真の祖父の住職が実は私達の長兄である浅野志人である証拠だった。
「志人兄さん……」
「兄さん……」
私と兄が思い思いで呟いた。
もはや、それは変えようのない事実であった。
そうして、悲劇は起こった。
そこで固まっている一真と一真の父の副住職の事では無い。
外の騒ぎが心配で、私達の両親が外に出てきてしまったのだ。
しかも、少し前からいたようだ。
「あの……<拝み固め>とその口癖は……」
母が絶句していた。
親は自分の子供の事を間違えない、まして母親は特にだ。
衝撃を受けている両親と一真の祖父の住職になっていた兄の浅野志人はしばらく無言で立ちすくんでいた。
「あの……察してください……」
一真の祖父の住職の姿になった兄の浅野志人がぽつりと呟いた。
間違いない長兄だと家族全員が思った、それは長兄の浅野志人の口癖であった。




