自称勇者 第十三部 第五章
それで、寺の境内に出ると目立たない場所と言うのが無くて、皆で途方に暮れた。
「参ったな。隠れて魔法攻撃をぶち込む場所が無いが……」
魔法使いの爺さんがそう私達に言う。
「いや、それは私達兄妹にでなくて、一真とか一真の父の副住職に言うべきだろ」
「そうそう、俺達はバイトだし」
そう兄がきっぱりと言い切る。
私達がそれでちらと見るが、一真も一真の父の副住職も首を左右に振って困惑していた。
当事者的には私達のが上なんだろうが、その辺りは触れずに寺の持ち主に振るしかない。
所詮、私達はバイトであるし。
「いや、結構まずいんだがな。颯真が」
「負けそうなのか? 」
「いや、キレそうだ。そろそろ、本気出してくるぞ? 」
魔法使いの爺さんが、そう真顔だ。
その表情から緊迫してきている状況が感じられる。
すでに、その異様な戦いの気配は私も兄も感じていた。
一真も優斗も感じているようだ。
これはやばい。
「敵が……思ってたより多分強いんだ……」
一真が呟いた。
「どのみち、負けたら、皆殺しだぞ? ここの皆が」
「ああ、女神の下で俺達は戦っているわけだからな」
と兄と私が言うと一真の父親の副住職が凄い顔をしている。
「いや、流石に、お父さんに話さないと……」
と一真の父親の副住職さんは住職の一真の祖父を持ち出した。
「父さん、時間がないよ」
一真も察したのか、そう突っ込んだ。
「いや、しかし」
「いいや、もうやってくれ」
一真がそう魔法使いの爺さんに話す。
「いいのか? 」
ちょっと魔法使いの爺さんが驚いたように聞いた。
「時間がない」
一真が切迫した表情で話す。
「確かに、奇襲なら、ゴタゴタやっている間に察されてしまう」
「颯真と一緒にいるから、向こうは攻撃するはずが無いって相手が思ってる心理的な隙を狙ってするわけだから」
私と兄がそう説明する。
正直,言ってて糞な作戦だが。
「し、仕方ない」
皆の言葉に押されたように一真の父親の副住職が認めた。
「行くぞ? 」
それで、魔法使いの爺さんが私達から100メートルくらい離れて、信徒がまわりにいない場所から詠唱に入る。
まあ、場所として丸見えではあるが。
「目立たないようにだぞ? 」
私が突っ込んだ。
「仕方あるまい。長距離でぶち込むと、相手が察してぶち込んだ場所に攻撃が来る可能性がある。人が周囲にいない場所ってここしかない」
そう、御堂の少し離れにある物置小屋の近くに移動した。
さらに、派手にならないように魔法陣をコンパクトに纏めているようだ。
それで魔法使いの爺さんの前に魔法陣が前に見たより細かく重層的に現れた。
「ちっ! こちらの動きに気が付いたかっ! 」
魔法使いの爺さんがそう舌打ちしながら発射した。
まわりで信者さん達が騒いでいる。
そりゃ、こんなの見りゃ驚くだろう。
とくに、魔法使いの爺さんは女神の御使いとか呼ばれて無くて、一部の檀信徒の幹部しか知らないし。
竹林がある方向で凄まじい光が収束が始まった。
そして、凄まじい爆発が起こった。
それは廃病院で見たものと同質のものだ。
それが寺の山の向こう側の竹林のあたりで見える。
凄まじい
「味方ごと魔法で攻撃するとはな! 」
そう、本堂の上に男が立った。
銀髪に緑と碧い目のオッドアイの非情に美しい白人のような容貌の長身の男だ。
わざわざそんな所に登って現れなくても良いと思うんだが……。
高い場所が好きなのだろうか。
「皇弟か? 」
「嘘だろ? 皇帝は戦う気は無いんだろうが! 」
兄と私が叫ぶ。
「いや、お前が言うか? 」
皇弟はそう怒った。
と同時にこちらに攻撃を放つ。
私と兄と一真がちょうど範囲になっていたようで、兄が私と一真を掴んで逃げる為にテレポートした。
その一瞬の差で私達のいた場所が歪んだように粉砕された。
兄がそれでそのままテレポートして逃げるつもりだったのだが、何かの壁に弾かれて、兄と私と一真がポタリと地面に落ちた。
「何、これ? 」
「転移を止めただけだ。どうやら、報告にあったように記憶を無くしているせいで、我らの力の使い方を忘れているようだな。ならば勝機は我らに……」
「「あ? 」」
私と兄がぽたりと落ちた場所から皇弟を見て驚きの声をあげる。
こちらに気持ちを向けていたせいで、皇弟が気が付かないうちに彼の背後に誰かが転移してきた。
すでに転移してきた男は片腕を斬り落とされている。
「あああああっ! 何でこんなところに! 」
その男が叫ぶ。
ぶっちゃけ、魔法使いの爺さんの遠隔魔法攻撃を受けた瞬間に逃げたようだが、それを颯真が見逃さず腕を斬り落としたのだと思う。
「何で、そんな事がわかるんだ? 」
魔法を打ち放った後に、発射した慌てて場所から移動している魔法使いの爺さんが横から突っ込んできた。
「ほら? 」
私が指さすと、その叫んでいた男の背後にすでにテレポートで移動した颯真が現れた。
どういう風に、魔法使いの爺さんの攻撃を避けたのか知らんが無傷であった。
「ば、馬鹿っ! 」
皇弟が呻く中で、颯真が<忘却の剣>で背後にいる皇弟ごと上段で真っ二つにした。
信徒が見ているのに、本当に真っ二つにしゃがんの。
その上で、皇弟が乗っていた本堂が半分に割れる。
本堂ごと斬るとは……。
それで、信徒が悲鳴をあげた。
信徒にとっては本堂が問題だろうが、私達にとって問題は颯真と戦っていた男の斬られた後の斬り口が人間じゃない。
斬り落とされた部分が単なる真っ黒な面になっていた。
「なんだ、あれ? 」
「知らん。人間じゃないって本当なんだな……」
一真の動揺を呆れたように私が答えた。
だが、良く見たら、もっと状態はえぐかった。
颯真に真っ二つにされた男は、皇弟に蹴られて颯真に対する盾にされていた。
それで皇弟も無傷だった。
斬られた仲間を蹴り飛ばしたおかげだろう。
「お前、仲間を盾にするとは! 」
「糞だな! 」
私と兄がそれで叫んだ。
やってる事が私達と同じじゃないかっ!
「お前に言われるとむかつくわぁぁぁ! お前だって、ヒガバリの最強の戦士ごと攻撃しただろうがっ! 」
皇弟が叫んだ。
「あくまで援護射撃だから」
「そうそう」
私と兄がきっぱりと言い切った。




