自称勇者 第十三部 第四章
兄が状況を把握して、悩んでいた。
「どうした? テレポートしないのか? 」
私が悩む兄を見て突っ込んだ。
状況は緊迫しているのに、兄は考え込んだままだ。
「相手は何人だ? 」
私が仕方ないので魔法使いの爺さんに聞いた。
緊迫していてるのなら、警戒した方が良い。
「一人だ」
「一人? 」
魔法使いの爺さんに思わず突っ込んでしまう。
たった一人に時間がかかるような奴じゃないし。
となるとカタストロフィさんみたいな異常に強い奴か?
「うーん……巻き込まれてる人がいるような感じなのか? 彼の性格からして、周りに被害が出ないように戦っているとは思うんだが……」
兄が魔法使いの爺さんに聞いた。
「ああ、山の中で、周囲には人がいない。竹林の中で戦ってる」
「ああ、竹が伸びまくってほったらかししている場所か」
魔法使いの爺さんの答えに一真の父親の副住職が納得した。
「竹が伸びすぎて、処理できなくなって困ってる場所だ。あそこなら、確かに他の人は近づいてこない」
「なるほど、手が入ってない竹林なんですね」
兄がそう納得した。
手が入ってない竹林は酷い状態で、足の踏み場も無いような感じになるものらしい。
「いろいろとご存じのようだけど、竹って人の手が入れれなくなっちゃうとトンデモないからね。あそこの処理してくれてた信徒さんが亡くなってしまって、うちも困ってる状態でさ」
「なら、テレポートで行きにくいな」
そう兄が呻いた。
「ええ? なんで? 」
「危ないだろ? 」
「何がですか? 」
優斗が驚いたように兄の言葉に突っ込んで不思議そうな顔をしている。
「巻き添えで斬られるって事か? 」
私が言うと兄が頷いた。
「いやいや、しかし、誰か止めに行かないと」
一真がそう騒ぐ。
多分、一真はこれで颯真の攻撃力を心配してるようだ。
寺への被害を恐れている雰囲気だ。
「この際だが、止めるなら、魔法使いの爺さんに竹林の区画ごと魔法で破壊して貰ったらどうだ? どのみち、竹林はいらないんですよね」
私が提案しながら一真の父親の副住職に確認した。
「いや、良いんだけど、颯真君はどうするの? 」
「直撃しても死なないんじゃないか? 」
「はああ? 」
私の言葉に一真の父親の副住職がドン引きした。
「あの廃病院を破壊した魔法攻撃を使えって言うのか? 」
魔法使いの爺さんが私の心が読めるのか正確に、こちらの意図を把握しているようだ。
「長距離攻撃だから、逆に察するのは難しいのと、恐らく颯真は直撃しても死なないと思うから」
「えええ? 」
とりあえず、廃病院の跡地は見ているようで、一真の父親の副住職がドン引きしている。
だが、一真も優斗もその提案に対して驚きは無いようだ。
「そのくらいは彼は大丈夫だと俺も思う」
兄も同意してきた。
「あいつ、私達の前では一度も本気を出して無いだろ」
私が探るように魔法使いの爺さんに聞いた。
「……なるほど、奴が虐殺勇者とか恐れられてんのに、わしは別に魔物たちにそれほど恐れられてはいないからか。ちょっと、癪に障る判断だが……まあそうだな……それは間違ってない」
「だと思った」
魔法使いの爺さんが私の意図を察して、観念したように認めた。
あれほどの破壊力を持つ魔法を魔法使いの爺さんが持っているのに、一度として魔法使いの爺さんを恐ろしいと表現する魔物の話は出てこなかった。
別の意味で仲間からやばいと言われている話は出てきていたが……。
「じゃあ、それで行くか」
などと兄があっさりと決めた。
いや、これはマジでテレポートして行くことに危険を感じていたようだ。
困ったことに颯真は怪物のように強いんだけど、ついうっかりやっちゃったって展開ははありそうなんで、私も同じことを言われてやるなら躊躇するからな。
実際、本音の話であいつが私達に敵意を向けて、向こうの皇帝に知恵を吹き込まれて戻ってきたときは私達は冷静に見せて、実は必死に奴と戦うのを私と兄は回避していたのだ。
あいつの判断に任せるような事を言って皇帝が拘束もせずにこちらに戻すって事は、多分、クオカードの皇帝でもあいつは手に余るのだろう。
ヒガバリとか直属の戦士みたいな事を言っていたが、カタストロフィさんと比べてもやばさが一桁違うんじゃないか? と勝手に私は想像していた。
純粋に膂力とかナチュラルに強いのは間違いないが、何か別の事があるんだと思っている。
「本当にそう言うのは良く把握するんだな」
魔法使いの爺さんがそう私の発言を肯定した。
「多分、クオカードとか言うあいつらが比較的に用心してこちらとは話し合いっぽいやり方で来たり、いろいろと配慮してんのは、私達兄妹を警戒するとともに、颯真がいるからだろうと思ってる。それほど厄介な強さを持っているんだと思う。でないといくら何でも魔王は逃げないだろう」
「当たりだ。そういうところは感心するくらい察するんだな。ただ、問題がある」
「問題? 」
魔法使いの爺さんの言葉に聞き返す。
「相手が魔物じゃない」
「は? 」
私だけでなく兄も驚いた。
というか、そうなるとますます厄介だ。
「クオとか言う奴らか? 」
「分からん。だが、それに近い奴等だと思う」
「ならば颯真ごと攻撃で正解だな」
「その通りだと思う」
魔法使いの爺さんの言葉に私と兄が強く答えた。
あの程度の魔法の直撃ではあいつは死なないと思っていたが、予想はほぼ魔法使いの爺さんの話で間違いないのが分かった。
ならば、ここは一気に魔法使いの爺さんの一撃で終わらすべきだ。
奇襲にもなるし。
「本当に無茶苦茶するよな 」
「いや、お前の情報による結果の攻撃だからな」
「本当に糞だな」
そう魔法使いの爺さんが呻いた。
一番楽ちんで倒すなら、これしかあるまい。
しかも、これで皇帝側と奴が決裂することになる。
皇帝は情報を与えて、颯真に判断させるようにした。
それを踏まえた上で、魔法使いの爺さんが魔法攻撃で一気にやってしまうのだ。
恐らく、向こうもこれで死なないだろうが、その瞬間を見逃す颯真ではあるまい。
相手はこれで終わるはず、そして、相手を倒した颯真を見て、皇帝は間違いなく颯真はこちらについたと思うだろう。
それで、皇帝は颯真を味方に引き入れるのを諦めるはずだ。
一石三鳥くらいある作戦だ。
素晴らしい。
「……絶対に良い死に方しないと思うわ。お前……」
魔法使いの爺さんの捨て台詞がすがすがしかった。




