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自称勇者 第十二部 第六章

「少なくとも仲間として戦っている奴に嘘をついて互いに磨り潰させると言うのはどうかと思うんだがな」


 颯真の怒気が女神に向かった。


 奴はちょっと馬鹿で戦闘だけは優秀で、ちょっとどこか抜けたような戦闘マシーンみたいな所があるが、そういう裏切りとかそう言うのは許せない性格をしているようだ。


 記憶チートで成績が良いのはちょっと許せないが……。


 待て待て、ひょっとしたら私が欲しいと強く望めばそのチートは会得が出来るのだろうか。


「いやいや、話がずれているぞ。そもそも、仲間の評価とかエグイな」


 横で魔法使いの爺さんがまたしても、心が読めるせいで突っ込んできた。


 非常に迷惑な話だ。


「いや、まあ、颯真。別に怒らなくていいぞ。作戦的には双方の間にひびを入れて互いに戦わせると言うのは良くある戦術だ」


「まあ、それは言えてるな。敵国との派閥からの使者の接待のレベルを大きく変えて、片方の派閥が実は敵に通じていると信じさせて同士討ちとか、孫子の兵法に普通にあるし」


 私と兄がキレる颯真を宥める様に話した。


「寛容だな」


 颯真が吐き捨てるように呟いた。


 すでに、<忘却の剣>は出していた。


 そのおどろおどろしいお前の剣は女神の武器だしな。


 私なら、それを女神の自分に使用したら無力化できるようにするかしている。


「物騒な兄妹だな。兄の方は女神が自分にその剣を向けた時点で爆発するようにしているとか考えてるが……」


 魔法使いの爺さんがそう私達兄妹の心を読んで突っ込んできた。


「そうなのか? 」


「まあ、そうだろう。俺ならそうするぞ? 」


 私が兄に聞くと、兄が頷いた。

 

「無くても構わんがな」


 そう颯真が<忘却の剣>を大地に突き刺した。


 そして、異様な形の剣を出す。


 剣身の左右に段違いに3本ずつ6本の枝刃を持つ七支刀を出した。


 石上神宮に古代から伝えられた剣と似ている。


 あれは儀礼用とか聞いたんだがな。


「そういや、ネットの噂で三種の神器の一つの熱田神宮にあると言われるクサナギの剣があの形だと聞いたな」


「ほほう」


 兄が生き生きとしだす。


 この手の神話系のオカルトは兄は意外と好物だ。


「それで、ルーズベルトを日本が国を挙げて呪詛した時にそれを使用したら異様な光を放って死者が出るほどの騒ぎが起きて、その後にルーズベルトが死んだとか」


「……それは本当の話なのか? 」


「立ち会った人の話らしいが、ネットの与太かもしれない」


「なら、意味は無かろう」


 兄の勿体ぶった話を私が苦笑して否定した。


「いや、呪詛に関しては、うちも祈祷寺だしな。そういうのがあり得るのは知っている。実際、密教の護摩供養はあの拝火教のやり方のルールのまんまで、拝火教の司祭が日本に来て驚いたと言う話がある。つまり、最古の祈祷法なわけで実際に効果が無ければ続かない。他の祈祷では有名なところでは叡尊の元寇の時の神風もあるが、そういう呪物が我が国に残っているのは否定はしないがな。実際にルーズベルトは呪詛の通り亡くなっているし」


「ほほう」


 一真が僧侶としての知識を披露したので適当に頷く。


 横で魔法使いの爺さんが呆れた顔で私を見た。


「いやいや、あんたら呑気だな。颯真が戦いそうなんだが……」


 優斗が騒ぐ。


 七支刀が輝きだしたからだ。


 それをぐっと颯真が構えた。


「その刀は皇帝に貰ったのか? 」


 女神がそう聞いた。


「いや、戦い続けてる時に、実はこの刀が出せる事に気が付いた。ただ、これで斬ると皆が忘却はしないし、小鬼が出てこないので使わないようにしていたが……斬れ味は<忘却の剣>を超える」


 颯真がそう肉食獣のように笑った。


 颯真が凄まじい殺気を女神に迸らせる。


 皇帝からいろいろと聞いたせいか、女神に対する少しだけ残っていた敬愛とかが消えうせたようだ。


 戦闘屋としては、それで良いのだが、ここで女神と決裂するとクオカードの皇帝と女神と両方と戦う事になるんだがな……と兄を見たら兄も同じ感覚だったらしく、少し困った顔をしていた。


「この夢枕と言う心の世界で剣を出せるとは、信じられん事なんだがな。<忘却の剣>は女神の恩恵だが、あれは違う」


 そう魔法使いの爺さんが解説してくれた。


「まあ、颯真。我々は女神のその行為がおかしいとは思って無いし、別にお前が怒る必要はないぞ」


「ぱっと見分からんが、本当に颯真君は性格が良いんだな。俺達の為に怒ってくれるとは」


 兄は逆に颯真が私達兄妹の事で怒ったのを見て感心していた。


「自分達は嵌められてたのかもしれないんだぞ? それを許せると言うのか?  」


「自分の世界を守ろうと、策を弄しているのは分かる。こないだのカタストロフィさんの件もそうだが、それに必死でしくじって自分の戦力が激減したんだろう」


「あれはかなり強かったからな」


 私と兄の意見が同じだった。


 それならば、戦うために、我々と向こうをぶつけないと仕方ない。

 

 自分の世界を守るための苦肉の策と言う事だ。


「いや、お前ら騙されてたのに、良くも平気だな」


「戦国時代だったからこんなものだ。毛利元就公も酔われた時に『自分と同じくらい頭が良くて激論を交わせるような友達が欲しい。でも、今の時代だとそいつを殺さないといけなくなるからなぁ』と愚痴ってたらしいから。そんなものじゃないか? 」


 私がにっこり微笑んだ。


「女神さん、俺達を二度と嵌めるなよ。今回のは無かったことにするが……」


 そう颯真が私達の意見を受けて、女神に向けた七支剣を収めた。


「分かった」


 そう女神が静かに頷いた。


「颯真君は良い奴だな」


「本当だ」

 

 私と兄が呟いた。


「じゃあ、また来るから。今度はちゃんとした良い話を持ってくるよ」


 女神が全く騙そうとした事を気にしてないように微笑んで去った。


「おいおい、切り替わり早いっ! 」


「あんなんで良いのかよ! 」


 優斗と一真が驚いている。


 だが、私と兄は別の事を考えていた。


「あの人……女神と言うよりは身内じゃね? 姉なんていたっけ? 」


「ああ、お前もそう思った? 今、初めてしっかりと見てると俺も思ったけど、俺らの親族だよな……多分……人間の方では無いけど……」


 私と兄がそう話して頷き合った。


「「「えええええええ? 」」」


 颯真を始め、一真や優斗や魔法使いの爺さんが叫びながら目を覚ましたようだ。


 布団の中で私と兄は寝ていたので、外がその叫びで騒がしくなったので目が覚めたが二度寝した。

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