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自称勇者 第十一部 第五章

「なるほど、なるほど、力は戻っているわけだ。久しぶりだね。クメンの皆さん」


 そう、またしても境内の外れた場所から若い男が現れた。


 それは兄が索敵してから、ずっと見ている場所だった。


 出てきた男は何故か、東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけていた。

 

 その仮面には五角形の図形が書きなぐられている。


 ちらっと見ると、危ない人が書き込んだ落書きのように見えた。


 それがパキッと指を鳴らすと、まわりの檀信徒や市民たちがバタリと全員倒れた。


「込み入った話もするからね」


 東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけた男はそう笑った。


「いや、工面は知らんが……俺は浅野大翔だが」


「私は浅野日葵だ」


 兄と私が即答した。


 ひょっとして自分は工面とやらなのか? とは考えだしているが、勝手にお前は工面だの言われて納得する奴はいない。


「いや、皆倒れてんだけどぉぉぉ! 」


 一真達がドン引きしていた。


 だが無視する。


 今は目の前の東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけた男を警戒しないといけない。


「やれやれ、あれほど最強でなるクメンの三人がこうだとはね。まあ、もう一人はどうなったのかしらんけど」


 だが、東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけた男は気にしていなかった。


「兄は死んだ」


「死んでないんじゃないの? 」


「は? 」


「え? 」


 私と兄がその言葉であからさまに驚いた。


「なるほど、作戦として長兄が出てこないと言うわけではなさそうだな。彼もまた皇帝ですら殺すのが難しいくらい強いからね」


「ちょっとも待てやぁぁぁ! 」


「いや、死体は見たし焼いたぞ? 」


 兄と私があまりの展開に叫ぶ。


 死体を火葬にするときにもいたのだ。


 それが、生きているだと?


「魂は不死だしね。別に肉体は関係ないさ。それか、同じ肉体でどこかで再生して生きているかもしれない。クオの皇帝になってもおかしくなかったクメンだ。普通にあり得る話だよ」


 そう東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけた男が告げる。


 それも自信たっぷりだ。


「いや、兄ならこの状況なら現れるはずだ」


「あの兄だけは善意の人だったし」


 兄と私が本音で呟いた。


「いや、その評価はどうなの? 」


 魔法使いの爺さんがそう突っ込んできた。


「いや……だって、暴走するのは、いつも私か次兄だし。それを庇って大変だった人だから……」


「なんだ、向こうの世界のままなんだな。状況は……」


「え? 」


「クメンの三人兄妹とか言われてたけど、一番上の兄はいつも抑え役だったからな。その辺りは相変わらずみたいだな。皇帝から、皇弟がやり過ぎてすまないとの話と御言葉は貰って来たよ」


「皇帝はまともなのか? 」


「意外と皇帝はまともなんだな……」


 その言葉に私と兄が皇帝を見直した。


「そら、クオ同士の話し合いでキレるのも問題だから。君達がどうもあの女神絡みで記憶に混濁を生じているのは分かっているわけだし、それを承知で喧嘩を売るのはね。それも、皇帝はどうせ逃げるから攻撃をするなと言われてたにも関わらずの皇弟の暴走だし」


「どうせ逃げるからとは? 」


 私が不思議そうに東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけた男に聞いた。


「クメンが一番恐れられているのは、その逃げ足さ。絶対に死なないで逃げて攻撃してくる。戦争で一番怖いのは、すぐ逃げちゃう敵からいつまでも永遠に攻撃を受ける事だ。しかも、逃げてはチャンスと見ると弱点ばかり突いてくるし、煽りは得意だし、タチが悪いんだよ。動物だって、一度戦って負けたら、こいつには勝てないって思って今後は戦わなくなるだろ? でも、君達は違う。負けても戦略的撤退と言い続けて、延々と戦うんだ。本当にその戦い方も陰湿でね。クオでは昔から絶対にクメンとは争うなと言われている」


「「そんなに褒められても」」


 私と兄が照れた。


 ここまで褒められたのは始めてだ。

 

 流石に照れくさくなる。


「いや、褒めてるか? 」


 魔法使いの爺さんが凄い瞳孔が開いた眼で私達を見た。


 最近、宇宙人でも見るような目で私達を見るようになって困る。


「変わんないね。どう言ってもポジティブに受けとめるし、メンタルが最強すぎるんだよな。人がやった事は延々と責め続けて骨の髄まで忘れないくせに、自分達がやったことは綺麗に過去の事だからで済ますもんね」


「うわぁ」


「ほんまもんだ」


「やれやれ」


 それで一真や優斗や魔法使いの爺さんまで深いため息をついた。


「そんな褒めるなよ」


「照れくさいからさ」


 兄と私が皆を見て照れる。


「何か、おかしい」


 魔法使いの爺さんがそう突っ込んだ。


「相変わらずだよ。ずっと、こうだからさ。だから、そのメンタル込みで強さでは最強クラスで皇帝になってもおかしくないのに、一番上の兄が下の弟妹のせいでなれないんだ。彼は可哀想だよ。クメンの良心と呼ばれるだけはあるのに、皇帝選出の選挙では君達のせいで絶対になれない」


 東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけた男が肩をすくめた。


「それはなかなか深刻な話だな」


「本当だ」


「いやだから、お前らのせいだって話だろ? 」


 魔法使いの爺さんがさらに突っ込んできた。


「だがな。人は変わらないんだよ」


「そうそう、そう簡単に人は変われない」


 兄と私がそう寂しそうに呟いた。


「人じゃないけどね。あーあーあー、皇弟の気持ちが分かるわ。ちっとも変ってないじゃん。だから、クオのゴウの俺みたいなのしか相手にしてもらえないでしょ? 」


 東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけた男がそう答えた。


 業とか言うやばい名前らしい。


 因果応報の業とは……。


「言ってない言ってない」


 魔法使いの爺さんが首を左右に振った。


「となると兄は生きていると言う事で良いのか? 」


「まず間違いなく生きてるだろうね」


 そう東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけた男……業は兄の問いに答えた。


「と、となると……」


 兄が首を傾げた。


「やはりな。1980年代以降の格闘物の映画とかの黄金パターンになるな」


 私も即座に兄の気持ちを読んだ。


「「生き別れのお兄さんパターンだな」」


「ああ、なるほど」


「確かに」


 私と兄のハモった答えに一真と颯真が即座に理解した。


 それは格闘物の黄金パータンだ。


 ピンチになると生き別れの兄が助けてくれたり、実は敵のラスボスが生き別れの兄だったり、いよいよになると主人公が死んだら生き別れの双子の兄がしれっと登場して本当に違和感なく主人公になったりする。


 私達の盛り上がりを東南アジアみたいな縦長ののっぺりとした仮面をつけた男……業は首をかしげて、私の心が読める魔法使いの爺さんはドン引きして私を見ていた。


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