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自称勇者 第十一部 第三章

 兄がせっせと救援物資……まあ盗品だけど、それを皆に配った


 信徒が言う、私の聖女に対して、兄は聖女のお兄様から大聖聖女如来様の御使い様に呼び名がかわりつつある。


 ちょっと、過去に女神がらみで嫌な思い出がある兄にしたら、複雑な顔をしていたが。


  そうやって、崇拝の対象が私達の方にさらに拡がって行くのを一真の父の副住職さんは渋い顔をして見ていたが、一真の祖父の住職さんが喜んだので文句を言えずって感じだった。


 どちらにしろ、せいぜい怪我人くらいで死者は驚くべきことにいなかったが、私のヒーリングと兄の運ぶ救援物資で信徒と市の皆の生活が助かるのだから良いじゃないかと笑顔で受け入れると言う、その懐の深さは流石に宗教団体の管長もやっている一真の祖父の住職さんだと言えるだろう。


 父と母は目が覚めて、皆から私と兄のおかげで助かりましたとか、やばい広告か宗教の宣伝文句みたいな事を言われて恐縮して居心地が悪そうだが。


「良いのかね。よその国から勝手に持ってきて。あちらの国の人が困るのでは? 」


 一真が心配そうに兄に聞いた。


「いや、一部はこの国が準備している救援物資からも持ってきてるから」


「それは許可を得てんの? 」


「いや、貰ってないけどな。でも、見ててこちらに届くのが間に合いそうにないから。関東から向こうはまあまあ大丈夫なんで、それで関西から以西に持ってこようとしてるけど、大阪とか京都とか福岡とか広島とか地方の大きい都市のは何とか回りそうだけど、それ以外は準備が全く間に合ってない感じだ」


「まあ、そうだろうな」

 

 優斗がため息をついた。

 

 どうしても、中国地方と九州と四国の大都市以外の地方都市は救援が遅くなると言う事だ。


 しかも、アメリカとか海外でも異常な事件が多発していて、日本に全力で援助どころではないようだ。


 兄がどこぞから奪ってきた発電機がけたたましく音を立てる中で衛星放送でテレビをつけて皆が情報を集めていた。


 国内のテレビもBSとかなら見れるが、地デジの基地局が破壊されたのか、普通のテレビは映らないのだ。


 それで、皆が見れるようにと、次々と発電機とカセットボンベと衛星放送が見えるアンテナとテレビなどを持ってきていた。

 

 兄はナイスな考えで、発電機は全部カセットボンベで発電できるものばかり選んできていた。


 ガソリンだとおじいさんおばあさんが事故になったら困るからだそうな。


「ナイスな考えって言うが、援助物資であんな発電機みたいなのあるのか? 」


 魔法使いの爺さんがそう五月蝿く突っ込んできた。


「まあ、堅い事言うな。困った人のための緊急避難的なものだ」


 私がそう答える。


「いやでも、他にも困ってる人とかいるんだろうしさ。あまり勝手に持ってくるのもなんではないか? 」


「いや、ここだけでなく助けれるところは助けていくつもりだ」


「天下布武だな」


「流石は妹だ。お前も後で連れて行くぞ。主要な人間は洗脳しないとな」


「「「は? 」」」


 一真と優斗と魔法使いの爺さんが凄い顔をしていた。


「まあ、仕方ないだろうな」


 だが、私は頷いた。


「いや、頷くか? 」


 優斗が突っ込んできた。


 何というか、今回の事で分かったのだが、優斗はどうも容姿と違って常識人らしい。


「いや、わしもだがな。なぜ、洗脳? 」


 魔法使いの爺さんが心を読んだのか、またしても突っ込んできた。


「いや、いろいろと突然現れて救援物資を持ってくると、どこから持ってくるんだとか騒ぐ奴がいるんだ。面倒くさくて……」


「被災地あるあるだな」


「叔父のすんでる場所が地震でやられたことが昔あったらしくて、家が無事だと喜んでたら、助け合いを騒ぐ人たちが勝手に乗り込んで住みだしたりとかな。非常食とか備蓄を内緒で持ってたら、全部助けあいで奪われたりとか普通にあったらしいし。まあ、それが非常時だとしゃーないとは思うのだが、今回のは、こっちの持ち込んだ先を探ろうとしたりするのがいて面倒くさいから」


 兄が補給で別の場所とかまで助けようとして渡したのか知らんけど、いろいろあったらしくて愚痴る。


「いや、なんだ。まともな話だったのか? 私は天下布武の為に洗脳して領土を増やしていくのだと思ってたが違うのだな」


 まさか、兄にそんな殊勝な心掛けがあるとは思わなかった。


「いや、目的は、その通りだぞ」


 兄が即答した。


「なんだ心配したぞ? 」


 私も苦笑した。


「待て待て待て待て待て待て待て! なんだ? 天下布武って? 」


「領土ってなんだ? 」


 一真と優斗が騒ぐ。


「助けるついでに御駄賃を貰うようなものだ」


「確かにな」


 兄が微笑んだので、私も微笑んだ。


「本気で侵略する気なのか? 」


 魔法使いの爺さんが少し真面目な顔で私達兄妹を見ていた。


 何か決意のようなものが感じられる。


 私達が独裁者になろうとしているのなら身体を張って止めようという感じだ。


「……その通りだ」


 少し躊躇した後に私の心を読んだのかはっきりとした決意を魔法使いの爺さんが口にした。


「いやいや、それは考え過ぎだぞ? そもそも、いずれにしろある程度の防御は考えておかないと、奴らに身体や国を乗っ取られてしまうしな」


「ああ、単に支配者になると言うよりも、そっちの意味合いが大きいだろ。どうも、相手の考えることを見ていると、こちらに対して皇弟とやらは追撃はしなかったし、何か皇帝達が恐れるものがこちらにあるのではないかと思ってる」


 兄が私の言葉を受けて、考え深げに答えた。


「それは同感だ。それがはっきりわかるまでには、それなりに防御する態勢作りは大事だと思うがな」


「……まあ、それなら良いのだが。どうも、お前達の方が人類に及ぼす悪影響が大きいような気がしてな」


「気のせいだ」


「気にし過ぎだ」


 私と兄が魔法使いの爺さんの懸念に微笑んだ。


「だから! そういうとこだってば! 罪の意識とか微塵も無いだろうに! 」


 魔法使いの爺さんがそう吐き捨てた。


「いやいや、罪ってなんだ? 」


「人を犯罪者みたいに……」


「だから、そういう自覚が無いのが困るんだってばっ! 」


 私と兄がそう突っ込むと魔法使いの爺さんが頭を掻きむしった。

 


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