自称勇者 第七部 第一章
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これ6日の分です
父と母が目を覚まして、ここはどこだ? と騒いだが仕方あるまい。
父は仕事があるんだがと騒いだが、そこはそれ。
幸いに金曜日のトラブルで日曜日は祝日で月曜日は代休であるので、とりあえず様子を見てからと説明した。
兄の何故かこんなところに飛ばされたと言う説明で自分達に振りかかった犯罪を警戒していたが、それは船から持ってきたラジオをつけて説明した。
完全な破壊でなく、威圧だったのかもしれないが、わが県どころか西日本全土に影響がでていた。
人は転移の対象としているのか、被害は建物が中心で怪我人は出ているようだが、信じられないことに死者の報告は無いようだ。
さらに、異様なものが関東には現れて世界がパニックになっているらしい。
そして、それは日本だけでなく世界各国に現れたようだ。
つまり、クルトルバの民の侵略が始まったようだ。
それも、女神の世界の魔物を使っているらしい。
「ふふふふふふふふふふふふふふ」
「くふふふふふふふふふふふ」
兄と私が笑った。
父と母はそんな私達を見てため息をついていた。
浅野兄弟にとって、台風だのはイベントなのである。
何か大変なことが起きている。
それだけでワクワクするのだ。
子供の時に、単なる台風が直撃で中学校が急遽休校になる。
最初に講堂で説明があるまで知らなかった私と兄はそれを日本に何かが起きていると勝手に考えてワクワクしていた。
単に厨二だっただけなのだが、このお祭りのようなワクワク感はたまらない。
今、それが目の前で起きているのだ。
世界の異界からの侵略。
ブルーシートと木を柱として使った簡単なタープのようなシェルターで私と兄はにやにやしていた。
父と母はいつもの事なので呆れて見ていたが、仕方ないので米を船から持ってきた水で研いで鍋でご飯を炊いていた。
「妹よ……」
兄がいきなり正座を始めると厳かに告げた。
「なんだ? 」
私も正座して聞き直す。
「これはひょっとして天下を取るべきなのでは? 」
兄がにんまりと笑った。
「ふふふふふふ、流石は兄だ。私と兄がいれば洗脳は出来る。少なくとも皇弟とやらと話した、この国の支配くらいは行けるのではないか? 」
私もにやりと笑った。
日本という国が我らの手に。
まさに、それは兄の大好きな織田信長に他ならない。
「同意見のようだな」
「勿論だ」
私と兄がにやりと笑う。
父がそれを見ていてため息をついていた。
まだ厨二なのかと。
だが違うのだ。
今は我ら兄妹は力が使えるのだ。
しかも、皇弟の言うには、皇帝に最も近いクメンだとか呼ばれるクオカードだとか。
こう考えると、単にクオカードの支払いのために工面しているみたいだが、それはそれ。
まさか、中小企業の転勤族である父と内職をしているくらいの専業母と、そんな父母に産まれた兄妹が世界の支配の一歩として日本の天下布武に乗り出す。
「時は来た」
兄がそう告げた。
どっかの亡くなったトンパチプロレスラーみたいだが、兄は真面目である。
そもそも、あのセリフは前日にそういう歴史のドラマを見ていて、そのセリフを言っただけらしいので、これはこれで間違ってはいないのだろう。
兄が愛用の扇子を出した。
いつも、持っているのだ。
「ふふふふふふ、常に用意していて良かったし、練習していたのが、ここでそれが実を結ぶとはな」
そう兄がスマホで敦盛 (幸若舞)の音楽を流し始めた。
そして、幸若舞を舞い始めた。
「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり一度生を享け、滅せぬもののあるべきか」
兄が朗々と歌いながら舞う。
兄がとうとう天下取りに動き出した。
「心を決めたのだな」
「ああ、天下を取ろう」
兄の目がきらりと光った。
「お金はいいのか? 」
「人間には人生の転換点と言うものがあり得る。それは豊臣秀吉のように織田信長が明智光秀の謀反で亡くなった時に訪れたように」
「いやいや、織田信長の好きな舞をやっていて、織田家を奪った豊臣秀吉か? 」
「そこはそれだ」
「なるほどな」
「ご飯できたから、もういい加減に馬鹿な事してないで食事にしましょう」
そう母が私達に告げた。
「はい」
「行きます」
父はおかず用の缶詰の蓋を開けて、火にかけていた。
昔から川とかに家族でキャンプに行っていたからお手の物である。
逆に、缶詰の種類によったら直接に火にかけたら缶内外面の有機膜から発火・発煙が生じ、火災・異臭の原因となる可能性があるとか今頃言われても困るのだが。
「まだ、あんなのやってるのか」
父も兄の敦盛 (幸若舞)を見て呆れていた。
兄は受験とか合格発表とかそういう人生のイベントのたびに敦盛 (幸若舞)を舞っていた。
大学生になったから、少しは落ち着くと思っていたのだろうが、そんなはずが無い。
まあ、誰ぞのように高校受験で試験の時間配分間違えてしまって落ちたなと思い、家に帰って小田〇正の曲の「さよなら」をわざとかけ続けて聞いて、結果的に死にたくなった事に比べたら健全だと思う。
「いや、今こそ天下布武の時」
などと兄が言うものだから、父は悲しそうに俯いた。
厨二が治らんなと思っているのだろうが、違うのだ。
そして、女神の世界とクルトルバの皇帝と浅野兄弟とこの世界を巻き込んだ破滅的な戦いが始まるとは当時の兄も私も思わなかった。
のちにつくづく思うのだが、ノリでするのは碌なことが無いと言う。




