自称勇者 第十部 第四章
「まあ、落ち着き給え。戦いでは何も生まないよ」
「平和は大事だよ」
兄と私がオッドアイの自称皇弟の青年にそう微笑んだ。
「いやいや、暴虐の限りを尽くしといて、それは無いだろう」
「十二分にやりすぎるほど戦うタイプなのに」
横で一真と優斗がそう突っ込んできた。
「横で仲間があんなことを言ってるぞ? 」
オッドアイの自称皇弟の青年がじろりとまた睨む。
「この世界のこの国には雉も鳴かずば撃たれまいと言う言葉がある。つまり、手を出してくるものが悪い」
「その通り、俺はそれを積極的平和主義と呼んでいる」
私の言葉に兄が続けた。
「ほほう、それは深いな」
「喧嘩でもそうだが、ヤンキーが狙うのは常に一人で弱いものだ。群れからはみ出したものを狙う。彼らもリスクを考えるのだ。ぼっちを狙うのはそう言う事だ。仲間がいると後で大変だからな。自然界で群れからはぐれたものを肉食獣が狙うのと同じで、実はそれは日本の会社でも同じらしい。道場に来ていた大手企業の社員の方が話していたが、リストラをするときに人事が狙うのが、仕事の数字が悪い奴でもなく、態度が悪い奴でもなく、大人しくて真面目で無茶やっても文句を言わない奴を狙うそうな」
「なるほど、説得しやすいからか」
「そうだ。やはり人事も人間。あいつに言ったら襲撃されるぞって奴には絶対に言わないそうな。実は、一線を越えてきそうなやつはどこにでもいるからな。逆に言えば一線を越えてきそうな奴を演じることで、自らの難を防ぐことが出来る。その人の会社はそういうのが染みついてるらしくて、最初に上司が着任した時に台車をひっくり返して部下を威嚇したり、酷い奴になるとお偉いさんを自分の車で送った時に、お偉いさんのマンションの入り口に止めて入れなくしている筋ものっぽいベンツに『今、入れるようにしますから』ってお偉いさんに微笑んで自分の車でガンガン体当たりして、ベンツを入り口から移動させたりとかするらしい。もちろん、ベンツはボコボコだが……」
「凄いな」
「いや、凄いのは、それを見ていた奴全員が、おお、こっちに威嚇してアピールしてるんかって心で思っていることで。『やるのぅ』とか思っていて、皆が微笑んでいると言う事実……」
「いやいや、それじゃあヤクザだろ? 」
「その人、ヤクザからのクレーム対応で昔々に日本で一番有名な組の組長が襲撃されたとき、報復で殺しに行った人に頼むくらいトンパチでな。その人にそのクレーム解決後に1万円ほど謝礼をバーで渡したら、その人が突然キレてバーを破壊しだしたりして、『一体どうしたんだろうな、あの人』って後であの時は驚いたよって話すくらいやばくて……」
「普通に謝礼の金額が少なかったんで、バーに当たって威嚇して見せただけなんだろうにな。巻き添えのバーが可哀想」
「まあ、これは古い話だけど、これが実話だと言う事実。しかも、その勤めている大企業が東証一部上場で幹部社員なんだよな。その人」
「どんな会社だよ」
私が兄の言葉に突っ込んだ。
「流通系なんだけど、ヤクザのクレームに店長が売り場から包丁持ってこさせて、ヤクザのとこに行くとテーブルに自ら包丁突き立てて『おら! なんぞ用かいっ! 』てやっちゃうくらい狂ってたそうな。何しろ、バイヤーに日本で一番有名な組の幹部がいたり。今ならそんな事は無いそうだけど、昔は狂ってたんだなって」
「実話か」
「実話だ。だから、当時はおばちゃんたちがクレーム入れて上から目線で叩いている店の人はそういう人達だよって、新入社員の時はよく思ってたらしい」
「いや、少し古い話だとしても、警察も何もしないんかな? 」
一真が横から突っ込んだ。
「いや、それがな。防犯マニュアルで、最初にお店を出すときに警察にバイトの案内を回すらしい。しかも、給与は普通のバイトより上で。だから、バイトが警察関係者だらけになってるそうで。それで何か起こった時は警察が身内として対応してくれるんだそうな」
「恐ろしや」
一真が呻く。
「少し前に話題になった芸能会社みたいな感じだな。そっちはもっと関係が深いけど……双方とズブズブだから、誰も怖くて手が出せないと言う。何かあったら双方で隠蔽して警察が証拠を消しちゃったりする。逆に言うと、そういうのは結構あちこちでどこもやってたのかなって言う……」
「日本の闇だな」
私が兄の話に頷いた。
「いや、何の話だ? 何の話なんだ? 」
オッドアイの自称皇弟の青年が叫んだ。
「いやいや、だから、そんな小さなことで騒ぐより仲良くなろうよって話だ」
そう兄が説明して私がコクコクと頷く。
「お前、通知表とかの保護者への備考欄とか連絡で人の話を聞かないとか書かれてなかったか? 」
オッドアイの自称皇弟の青年がそう突っ込んできた。
恐るべしである。
実は私も兄もそう書かれていた。
私と兄の顔が固まる。
「……全てを見通す者かよ……なるほど、どうやらクオの皇弟というのは本当らしいな」
「まさか、そんな細かいところまで相手の過去が透視のように見えるとはな……」
兄と私が唸る。
奴は我々の隠された過去をあっさり看破したのである。
「いやいや、見たら普通にわかるだろ? 」
そう魔法使いの爺さんが私の心を読んだのか、顔を覆って首を振りながらあきれ果てたように呟いた。
「どっちかってーと、そんな細かい文化に精通して、こちらに来てる事を驚くべきでは? 」
優斗がそう冷ややかに突っ込んだ。
それで全員が驚いた。
「何か悪いものでも食べたのか? 」
私が心配になって優斗に聞いた。
「失礼な奴だなっ! 」
優斗が叫ぶ。
「俺たちは……内申書のエキスパートだから……」
一真が俯いて呟いた。
「「なるほど」」
私と兄が頷いた。
「いや、納得するなやっ! 」
優斗が叫ぶ。
「道場の先輩に中学校一年生を教えている先生がいるが、小学校時代の大体の事が全部情報として中学校にも上がってくるらしくて、自分が新しく教える中学一年生になる女子生徒に妊娠歴があって途方に暮れていたぞ」
「それは確かに悩むな」
兄の話に私が同意した。
「いや、道場で話すとか個人情報漏れ漏れやんけ」
優斗がまた素晴らしい突込みをしてきた。
「どうしたんだ一体」
「何があったんだ」
兄と私が動揺して優斗を見た。
あまりにも優斗が常識人すぎる。
「いや、どうしたとは俺が言いたいんだが……」
そうオッドアイの自称皇弟の青年が呟いた。
顔がドン引きしていた。




