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自称勇者 第九部 第八章

 とりあえず、目の前の惨状はこれで何とかなるだろう。


 そう、私が一息ついた。


 まわりの人間は強力な教化の洗脳で、一気に頭をかき回されたのか、目が怖かった。


 瞳孔が開いて、しきりと倉吉先輩がぁぁぁとか解体に巻き込まれたぁぁぁとか騒いでる。


 演技で騒いでいるようにも見えるくらいわざとらしい動きだった。


「倉吉先輩を病院に連れて行くから」


 と、私が言うとその場を皆と離れて陰に隠れる。


「なあ、この女性を助けたいのだが、洗脳できるか? 」


 兄がそこでカタストロフィさんを抱えながら、最初に間の抜けた事を私に聞いた。


「は? 何とか出来るから助けたんじゃないの? 」


「いや、お前の洗脳だよりなんだが……」


「私の洗脳は人間には効くがなぁ。あ、上級悪魔に効いたか……」


 実際、どこまで効くか良く分からん。


 上級悪魔より上の異界の怪物だしなぁ。


 そもそも、あいつらが私を王族だの言うなら、最初から敬意くらい持つだろうに。


「やってみないと分からんな。ある意味、未知の敵だしな。ただ、今ブースチーとかになってるんだろう? 」


「ブースターだが……」


「ブー? 」


 魔法使いの爺さんが困っている。


 なるほど、戦前は鬼畜米英で敵性言語として英語は駄目なのだな?


「いや、そんなの知らんぞ? 敵性言語だ? なんだ、それ? 」


「ああ、戦争より前だもんな異世界に行ったのは……。敵性言語として戦争中あたりだけ英語が使われなかったらしいけど、祖父が曾祖父から聞いた話だと実際は微妙らしいけどな……」


 一真が祖父の住職から聞いた話を話す。


「なんだ、そりゃ? 言葉まで敵だの馬鹿じゃね? 」


「いやいや、そういう時代があったのだそうだ。良くは知らんがな」

 

 だって私は産まれてないし。


 魔法使いの爺さんの非常に真っ当な突っ込みに感心した。


「敵地で戦うときに敵の言語を知ってる方が有利だろうに」


 なんだ、この合理性。


 爺さんとは言え侮れないな。


「まあ、魔物とか悪魔言語とかいう古代語をしゃべる奴がいるからな。あちらの世界だと良くある話だ」


「ほほう、敵地で相手の様子を探るわけか」


「それは言えるてな」


 魔法使いの爺さんの言葉に兄と優斗が納得したような顔をした。


 きっと、消えたヤンキー先輩にパシリとして、いろんなことを調べたりとか言う過去がその納得感を呟かせているのだろう。


「いやいや、違う違う。あいつら自分たちの古代の悪魔言語をしゃべる奴は食べるのを躊躇するから。もしも鶏とか人間の言葉で食べないで食べないでって言われたら、やっぱり無敵の農家のおばさんでも躊躇するだろう」


 そう魔法使いの爺さんが説明する。


 なんだ、命乞いの作戦かよっ!


 それにしても、魔法使いの爺さんの時代は昔々なんで、自分で鶏とか普通に絞めていた時代なんだろうなとしみじみ思う。


 そう思ってたら、こちらの考えていることが伝わったのか、魔法使いの爺さんの顔が歪んだ。


「今は流れ作業で集中管理でぜんぷやっちゃうから」


 兄がそのあたりを察したのか、魔法使いの爺さんに説明した。


「いや、ほんとに兄弟で似てるな、一言多いわ」


 魔法使いの爺さんが忌々し気に呟いた。


「いや、でも、今は怪我でそいつの体力が落ちてるから良いけど、治るとまた戦いになるがな。それと、多分、そろそろ聖女ならクラス上がっていてヒーリングが使えると思うんだが……。俺の怪我の方に使って欲しい。血が止まらん……」


 颯真が指圧でも出血が止まらなくて困り切った顔で私に聞いた。


「え? ヒーリングだと? 」


「なんだって? 」


「そんな馬鹿な」


 颯真の言葉に私だけでなく失礼なことに一真と優斗が驚いた。


 ヒーリングなぞ私には似合わないと言いたいのだろうか?


 それで、むっとしながらも私が自分のステータスを見た。


 たくさんのスキルの一番端っこにそれはあった。


 ヒーリングである。


「あ、本当だ」


 私が感動した。


 やっと聖女らしいスキルが出来たのだ。


「……なんで、幻覚とか、下痢とか鼻血とか……なんで、そんなものがスキルに? 」


 魔法使いの爺さんが私のステータスを横から見て呻く。


 失礼な爺さんだ。


「何か俺が知っている女神の聖女とちょっと違うからなぁ……」


 颯真まで私のスキルを見ながら呟いた。


「まあ、その話は別で、とりあえずヒーリングをかけてみるぞ」


 颯真の血が酷いので、その話を中断してかけた。


 それで一気に颯真の血が止まって抉れた肉が戻る。


「かなりのクラスのヒーリングだな。一気に肉まで元に戻ったぞ」


 魔法使いの爺さんが呻く。


「凄い凄い。これなら医者がいらんぞ? 」


「いや、そこ? 」


 私の喜びに一真が呻く。


「あ、お布施ってスキルがある」


 兄の目が輝いた。


「えええ? 」

 

 私も目を輝かせた。


「拘束ってのもあるぞ? 」


 優斗が私のスキルを見て呟いた。


「ちょうど良い。それでこの子を拘束させよう。それからヒーリングだ」


 そう兄が喜んだ。


 なぜ、聖女にそんなスキルがと言う事はもはや、誰も言わなかった。


 それで、兄がその場にカタストロフィさんを横たわせた。


 あちこちと小鬼に齧られて出血がひどい


 本当ならヒーリングが先なのだろうが、それで治って暴れられても困るのだ。


 それで、私が拘束をかけたら、固まった。


 まるでアロンアルファで固めたように。

 

 そのせいで出血の全てが止まった。


 確かに、アロンアルファで料理人が出血止めるってあって、それに似た薬もある。 


 兄がそれを見てカタストロフィさんをコンコンと叩いた。


「何、これ? 凍結かボンドで固めたみたいになってるじゃんか」


 兄がそれを見て困惑していた。


「相変わらず、ヒーリングだけはまともで、まともな使い方のスキルなんか無いんじゃろ」


 魔法使いの爺さんがそうため息をついた。


 その瞬間だ。

 

 兄が動く。


 カチカチに固まっているカタストロフィさんを盾にして、どこからか飛んできた矢を受けた。


 矢はカタストロフィさんに当たると弾かれて落ちた。


 何という硬さだ。


「敵か? 」


「まだいるのか? 」


 優斗が弓を出した。


「一撃だけだから、警告かもしれん。その絶対当たる弓は撃たない方が良い」


 兄がカタストロフィさんを盾にしながら優斗を制止した。


「確かにな。追撃は無いようだ」


 颯真がそうつぶやいた。


 だが、私はカタストロフィさんを盾にした兄を見てこの浅野家の血統と言うのを感じた。


 私はあの魔法使いの猫を盾にして、兄はカタストロフィさんを盾にした。


 兄妹って似るものなのだな。


「え? あの猫の魔法使いを盾にしたの? 」


 魔法使いの爺さんがまた心を読んでいたらしくて、凄い顔をしていた。


 いや、それは普通だろうに。


 そうして、兄は固まったカタストロフィさんを大聖寺に一真と魔法使いの爺さんと連れて行った。


 私もそれについていくことになった。


 拘束をかけているとヒーリングがかからないのが分かってしまったからだ。


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