自称勇者 第九部 第五章
結局、朝に話し合いに来た一真達と話し合った結果は女神様が何かを『やっちゃった』のだろうという話になった。
何をやったのだろうか? というか、その結論だと意味ないよな。
そして女神の兄に対する感想の、『ちょっと懐かしくて』から兄が記憶を探して必死に思い出すと、その兄がイライラとした女性ってのがどうやら、この世界には実在せずに、あの女神臭いようだった。
何がどうなっているのかわからない。
朝から学校に行く前の大切な時間をご近所さんに迷惑すらかけた挙句に、何の意味も無かったとか嫌な予感がする。
悪い時には悪い事が続く。
颯真も学校に行く用意を生真面目にして私の家に来ていたので、一緒に学校へ行った。
まるでカップルみたいとか思われることが無いのが現実だが。
何しろ、大聖寺の聖女と勇者とまで街で言われてしまっているのだ。
いつの間にか、自称勇者は本当の勇者に変わってしまっていた。
何か事件があって皆を助けてとかじゃなくて、単に大聖寺の布教のせいだという事実が辛い。
で二人で教室に行く途中に嫌な予感の元に会った。
藤井加奈である。
助けたばかりに、私の聖女をひときわ信じている同級生だ。
この子の為に、ぶっちゃけ随分と人を殺してるわけだし。
向こうは覚えて無くても、こちらはそれを覚えているのだ。
しかも、なんか知らないけど、私の事を聖女と崇拝していて、正直うざい。
そもそも、私達は教室に行くのに回り道をして三階を通って行っているのに、なぜここに……。
それで、藤井加奈はこちらをじっと見ていたけど、気が付かないふりをして横を通ろうとしたら前に出られた。
「聖女様に大事な話があるんです」
そう藤井加奈が宣った。
困ったことにこれが通ってしまう学校に変わってしまったのだ。
普通なら、ドン引きのセリフたが、私はバイトとは言え聖女と呼ばれていて、浅野さんとか呼ばれることはなくなった。
日葵などと名前を呼ぶ人はもう誰もいない。
一部の過激な信徒が私の名前を聖なる名前だとか称しているとかで、多分、聖女の力の一つにレベルアップしたせいで魅力とか言う変なスキルが増えたせいだと思う。
恐ろしい事に使用してないのに、勝手に普段から使用している形になっているようだ。
おかげでここ数週間から、皆の雰囲気が変な感じになっていた。
勝手に颯真が勝つせいで、次々と私のクラスも同じパーティーとしてランクが上がるので、それと合わせて見たこともないスキルも増えていた。
これはやばいんじゃないかと思ってたのだが、本当に実際にやばくなっていた。
「だ、大事な話って? 」
私が恐る恐る聞いた。
「はい、お仲間が体育館で待ってます」
そう加奈はにっこりと笑った。
「そうか、やっぱりか」
私が返事をする前に颯真が動いた。
「お前っ! ここは三階だっ! 」
って叫んだのに気にもせずに三階の廊下の窓から飛び降りて地面に難なく着地すると、スタスタと体育館に向かって歩いていく。
実は嫌な予感がしたので、私の誘導で三階を通って回り道して自分たちの教室に向かってたのに、颯真はここが三階なのを忘れているのか?
いや、まあ、それでも飛び降りちゃうのは颯真の自然体だよな。
颯真も学校の気配がおかしいと呟いていたので、本気で警戒していたのだ。
そして、その学校の気配がおかしいって言葉だけでお腹一杯なのに、颯真がその異常な力を皆の前で軽く見せてしまったので、皆が衝撃を受けていた。
「マジかよ」
「三階から、そのまま飛び降りて平気だぞ? 」
「ゆ、勇者だっ! 」
「あいつ、本物の勇者だったんだ! 」
などと、こんなしょうもない事で大騒ぎに。
普通さぁ、自称勇者とか皆に馬鹿にされてる奴が皆から「あいつは勇者だったんだ」って驚かれるのって、もっと何かが襲ってきたりして、それを撃退して見せたとかそういうのじゃないの?
それが、三階の窓からひょいと飛び降りてそのまま何気なく着地したとかで言われるのってどうなのよ。
まあ、人間にはできないけど。
「ああああ、行っちゃったよ」
そう私はあわてて階段を降りようと踵を返そうとした。
「いや、聖女様も飛び降りないのですか? 」
「いやいや、聖女は飛び降りるようなキャラじゃないじゃん! 」
キラキラした目で期待して私を見ている加奈の言葉にびっくりして突っ込んだ。
普通、聖女って正面で戦うような役じゃないと思うんだけどぉぉぉ!
少しがっかりしている加奈を見て体育館へ急ぐ。
まずいな、颯真が向かったって事はマジって事だ。
それで、階段を数段飛びで降りた。
一応、兄とともに空手をやっていた訳で、実は運動能力は勇者の颯真みたいに人外の連中を除けば負けないくらいのものは持ってたから、必死に降りる。
まさか、学校で虐殺とか無いよね。
ホラー系の定番じゃんと思いながら。
実は、ちょっと青くなっていた。
そして、体育館に入ると変なものを見た。
サッカーボールを3つ重ねてその上に女の子が両手を拡げて立っている。
「はあ? 」
あまりの光景に唖然とした。
しかも、その立っている相手に驚く。
学校で浮いてる私でも知っていた。
生徒会長の倉吉深雪である。
三年の女生徒で凄く奇麗なので有名だった。
髪が長くて大人っぽくて、とてもこんなサッカーボールを3つ重ねてその上に立つような人ではない。
颯真がじっと倉吉先輩を見ていた。
そういえば、颯真はダブリだからひょっとしたら昔の友人でもあるのかもしれない。
「で、転移失敗で別の人の身体に入ったって事か? 」
颯真がドン引きしてるような話をしていた。
転移失敗だと?
やっちゃったってこれかぁぁぁ?
「誰? 」
「ああ、向こうで勇者だった女の子。自分ではカタストロフィとか自分の事を自称してた人だ」
多分、厨二だ。
やばすぎる。
「ああああああ? 倉吉先輩は? 」
「元居た人は中で眠ってるとか言ってるが……」
「うわ! 可哀想! 」
現実的で理知的でしっかりものの倉吉生徒会長がいきなりの厨二ですか?
あまりの現実に呆然とする。
「この女は誰だ? 」
そう倉吉先輩の姿をしたカタストロフィさんが私を見た。
「いや、女神に勝手に聖女にさせられたものですが? 」
「強いのか? 」
そうカタストロフィさんが颯真に聞いている。
聞いていて、ちょっと寒い。
ああああああ、やべぇ。
倉吉先輩の名誉がっ。
慌てて、入ってくるときに開いた体育館の扉を閉めた。
これでとにかくも体育館を閉め切れるわけだし。
「どうした? 」
「いや、倉吉先輩の為に」
「馬鹿だなぁ勘違いするぞ。戦闘狂なのに」
「は? 」
私が唖然としてカタストロフィさんを見ると、何かやばいオーラが出ている。
「ほほぅ、私と戦いたいと言う事だな? 」
やばい、とんでもない奴やんかっ!




