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自称勇者 第九部 第四章

 その日、一真は遅くまで家で今後について兄と私で話をしていた。


 一真の檀信徒さん達を通して誰か最近で挙動が不審な人とか身近にいないかを調べてもらうことになった。


 田舎の寺とか神社のネットワークってのは意外と大したもので、特に一真の寺は観光寺であり祈祷寺としても有名で、今は一番にこの市でも信徒を増やしている寺なので、市会議員とかだけでなく市役所の公務員さんまで使って調べれるらしい。


 まあ、一真はこの市の上級国民様には間違いないらしい。


 姿はチンピラなのに僧衣を着ると見事なお坊様に早変わりと言うのも困ったもんである。


 それにしても、おかげで今日も勉強出来なかった。


 インチキで入学しても、その後の試験の成績が駄目なのなら意味はない。


 だから、ある程度の学力は持たないといけないのだ。


 それで、少しでもと思って、自分の部屋の勉強机で勉強しようと思ったら、そのまま寝てしまった。


 そして、その夢の中でとうとう会ってしまった。


 女神様だ。


 それは姿だけはなんと大聖寺の女神像そっくりだった。


 本当にファンタジー世界の女神さまのような姿をしていたのだ。


 大聖寺の住職さんの再現率は半端なかった。


 たった一度夢枕に立たれた程度で、女神様の腰の細かいアクセサリーまで完全に模していた。


 裏を返したらそこまで見ているとか、あの住職さんは一真の縁者なだけあって変態なんじゃないだろうか。


 そんな気すらするほどである。


 女神様はじっと私を見ていた。


 というか、私と距離を置いていた。


 なぜだろう。


 警戒している感じすらあった。


 まるで私を猛獣として見るような目だった。


 まさか、怪物の王族とか言う話を警戒してるんだろうか?


 それで良く女神の美しい顔を見たら治ってんだけど鼻のあたりに違和感がある。


「んん? 」


 私が女神様の美しい鼻の頭をじっと見ていた。


「やっぱり、話すのやめた」


 そう言うと女神様は即座に姿をお隠しになった。


 誰もいない。


「何が……言いたかっただろうか? 」


 私はそう呟いて机の上で目を覚ました。


 ふと気になって、兄の部屋をノックする。


 私に会うなら兄にも会っているのではと思ったからだ。


 兄はベットに座り込んで悩んでいた。


「ええええと。何か女神様みたいなのが……」


「会ったよ! 」


 兄が困惑した顔で怒鳴る。


「何か言われたのか? 」


「いや、にやにやして俺を見て回るし、何も言わずに微妙に煽ってるからイラっとしてつい顔面を正拳突きしちゃった」


「おおおおおおぃ! 」


 あの鼻の違和感は兄が殴ったせいだったのか。


「だって、女神と思わなかったし、夢だと思ったんだものっ! 」


「いや、それでも、女神に正拳突きとかするか? 」


「昔、子供の時に俺の事を馬鹿にしてた女性がいて、それに似てたもんでムカッと来てやっちゃった」


「馬鹿じゃねぇの? 」


 それで、ステータスの方を見たら、私は聖女で兄は空手家のままだった。


「受験前に聖女を卒業させられたかと思った」

 

「いや、思う事はそれだけか? 」


「とりあえず、もういいや。寝ます」


 兄のスマホが鳴りだしたけど、ちょっと殴った事実が重くて電話に兄は出なかった。


 そして、部屋に戻ると私のスマホも鳴っていたが、スマホの着信音を切って聞かなかった事にした。


 そうしたら、果たして、朝一に一真と優斗と颯真と魔法使いの爺さんが来た。


 借家の呼び鈴を6時前に鳴らすから五月蝿くて大人しい父と母が少しむっとしていた。


「何で、スマホに出ないの? 」

 

 開口一発、一真が怒鳴る。


 朝早いので父と母の眉がその声の大きさで吊り上がる。


「いやいや、朝早いんだけどな」


 私がちょっとむっとしたように話した。


「いやいや、あんた女神様を殴ったの? 」


 颯真が爆笑して兄に話しかけた。


「あ、ああ」


 兄が気まずそうに認めた。


「マジか! 凄いな! 流石、日葵のお兄さんだけはあるな! 」


 何故か颯真は嬉しそうだ。


「まあ、転生者にはあの女神様は評判が悪かったからなぁ」


 魔法使いの爺さんがそれを見て苦笑した。


「いやいや、うちのお寺の大聖聖女如来様なんだけどぉぉぉ! 」


「いやだって、多分、皆の話の時系列で見ると最初に俺のところに来てると思うけど、開口一発『やっちゃった』だからな。本当に罪の意識とか無くて平気で無茶苦茶すんだから」


 颯真が爆笑したままだった。


「俺は夢枕に立ったら聖女の兄に殴られたって胸倉つかんでゆさゆさされたよ。『ちょっと懐かしくて、ちらちら見てたらぶん殴りやがったって』」


「……は? 」


 兄が凄い顔をした。


「どういうことだ? 懐かしくてって……」


 私も兄に面識があるような話をしているから動揺して聞いた。


「いや知らねぇよ。あいつ、ふざけんなぁぁぁって怒鳴ったまま消えた」


 一真が困り切った顔で話す。


「ま、待て待て、ひょっとして住職さんのとこにも? 」


「行ったみたい。爺ちゃん怒ってたよ」


「がーーーん! 」


 兄が凄い顔で固まった。


 馬鹿めが。


「……バイトは首だな」


「うぉぉぉぉぉぉぉ! 実入りが良かったのに……」


 兄が無茶苦茶落ち込んだ。


「いやでも、後でもう一度夢枕に立ってあの兄に仕事はさせろって言ってたらしいんだけど……」


「でも、減給になりそうだな」


 兄がそう呟く。


 顔見てたら諦め顔なんで、これでバイトも辞めそうだ。


 やっと、私の身の回りも静かになると私はほくそ笑んでいた。


「お前は何か言われたのか? 」


 魔法使いの爺さんが私に聞く。


「いや、兄が何かしたのかは後で聞いたが、女神は警戒してて、私と話したそうだったけど『やっぱり辞めた』で消えた」


「わしはしんどかったから寝たまま聞いてたら怒って行ってしまったわ」


「はあああああ? 誰も何も『やっちゃった』事を聞いてないのか? 」


「いや、優斗君がいるだろ? 」


 兄が不貞腐れたような顔で突っ込んだ。


「俺も女神から聞いたのは『やっちゃった』だけなんだよ」


「女神はアホなのか? 」


 優斗の言葉を聞いて私の本音が出る。


「「結構そんな感じ」」


 それを颯真と魔法使いの爺さんがまんま肯定した。


 結局、『やっちゃった』の一言しか私達には伝わってなかった。


 住職の爺さんには殴られた話だけだそうだし、副住職の爺さんは夢も見なかったそうで、何が言いたかったのか全然わからなかった。


 それで、颯真と魔法使いの爺さんの実際に会った事のあるもの以外が持つ女神への幻想はガラガラと崩れ落ちた。

 

 酷い出会いになってしまった。 


 だが、女神のやっちやったは本当に『やっちゃった』であったのに気が付くのはその後の事だった。


 

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