自称勇者 第九部 第二章
それから、流石に兄も静かになった。
いろいろと考えてまたの魔物退治など無理な話である事を理解したのかもしれない。
それから、兄は黙って出かけて行った。
おかげで私はやっと勉強が静かに出来る。
大体、私が受験生なのを兄も忘れているのがムカつく。
まあ、とは言え推薦入学を狙う事になると思うが……。
そうでなくても面接のある大学を受験しようと思う。
何しろ、私の教化で面接は完璧だ。
ニマニマしながら家のリビングのテーブルで勉強しながら、黒柴のポチを撫でた。
黒柴のポチは両親もそうだが、私とか家族がテーブルに座ると遊びに来る。
あの上級悪魔だった時の狼男の姿までは許容できるが、内山とかいう奴の姿を想像するとどうもいけない。
早く忘れないとな。
記憶から消さないと駄目だ。
あれを思い出すと、この可愛い黒柴ちゃんもキモキモの存在だなぁ。
などと考えながら、ふと気が付いてしまう。
実は大学と言うのは教授推薦とか言う裏口があるのだ。
もっとも、それは海外留学からの編入で良く行われるのだ。
やんごとない御方がそれで最高学府に御入学なされたと言う噂を聞いたことがある。
一応、試験で論文はあるが、ほぼそれを採点するのがその推薦した教授なので、教授の面接と言うか気持ちで決まると言っていいかもしれない。
「むう、その手があるのか……」
私がそう独り言を呟いた。
私はそれをさらに進めて、自分の入りたい大学の教授と学長全てを教化で洗脳することをその時に考え付いていた。
父方の叔父がそう言うのに詳しくて、この人からそのやんごとない御方の教授推薦の話を聞いたのだが……。
何でも叔父の別の話では、友人がそこそこの中堅大学に受験をしていないのに、なぜか合格したらしい。
受験をしてないのに合格とかホラーである。
しかも中堅とはいえ全国的に名前は凄く有名な大学であった。
その父親が学長に頼んでって事らしいが……流石にその大学に受験の申請すらもしてないらしいから、とんでもない話である。
上級国民ゆえの裏技である。
だが、私の教化ならばそれと同じ事が出来るはず。
まして、ちゃんと受ける大学は受験はするし……。
これは女神の聖女になった私への女神からのご褒美では無いだろうか。
そうだ、そうに決まったとここで再確認をした。
私の大学受験で教化を使うために、私は女神の聖女になったのだと。
まあ、現状の同省もない状態から目を逸らしてるだけかもしれないが。
「お前、何か悪い事考えているだろ」
いきなり、目の前に兄がいた。
「は? 」
「いや、お前、悪い事考えてると髪を撫でる癖があるから……」
「そんな馬鹿な……」
と言いつつ、自分が髪を撫でているのに気が付いて少し驚いた。
そう言う相手に対する観察眼がもっと凄かったら、自分でお茶を誘った自分のファンの女性に割り勘を言ってドン引きされたりしないだろうに。
と思ったら、兄の横に一真がいるのに気が付いた。
兄も一真もちょっと焦った顔をしていた。
「いや、勉強したいのだがな……」
私はこれ以上ビデオだのに付き合いたくなかったので、そう話す。
「それどころじゃないんだ」
「学生の本分は勉学だぞ? 」
「人面犬が始末されてるんだ」
「颯真がやったのか? 」
「んなわけ無いだろ? 」
「じゃあ、凄く強い人がいたんだ」
「魔法使いの爺さんが、それとともに何人か存在が消えてるって言ってる」
「は? 」
「どうも、別の<忘却の剣>が使われているらしいんだ」
「いや、消えたら辿れないのでは? データも残って無いし……」
「魔法使いの爺さんによると、忘却が女神の力でされるから、何らかの魔法の痕跡が残るんだと……」
「マジか? 」
そう、私が髪を触る。
「いや、今の流れでお前が悪い事を考えるような事があるか? 」
兄が余計な事を聞いてきた。
「いや、女神の痕跡で辿られるなら、それでいろいろと探られると困るなぁと……」
「いや……そらまあ……そうだが……」
「何らかの対策が必要だ。そう言う事がばれないようにするための……」
「ふうむ、確かにな。俺達以外に知ってる奴が外に話されると厄介なことになるしな」
即座に私の言ってる事を理解した兄が反応する。
兄の顔が悪魔のようだった。
何しろ、女神と言う錦の御旗が無いと、我々は単なる殺人集団である。
魔物とは言え、魔物になる寸前の人間も殺しまくっているわけだ。
すでに脛に傷を持つものなのだ。
「何か考えないと駄目だよね。この世界を誤魔化せて納得させれるような方法を……」
私がそう呻く。
「そうだな。この際、一歩進んでおくのも良いのかもしれないな」
私と兄が顔を見合わせて微笑んだ。
蕩ける様な兄の笑顔が素晴らしい。
こうやって、雑誌のインタビューとかで俺は空手に人生を賭けてます! みたいな与太話を飛ばすわけだ。
そりゃ、世間様は騙されるだろう。
と言いつつ兄のちらちらと私を見る目で、私が髪を触っているのに自分で気が付いた。
「いやいや、何? 何をする気なのぉ? なんだか、怪物達の王族とか言う話が全く嘘に見えないんだけどぉぉぉ! おかしくないぃ? あんたら兄妹おかしくないぃ? 」
一真が泣きそうな顔をした。
「失礼な。怪物の王族がこんな中堅企業の安サラリーマンの家に産まれるものか」
「その通りだ。天下無双の転勤族の娘だぞ? 」
「いや、子供を産んでちゃんと育て切っているだけで今では上級国民では? 」
いきなり冷静になった一真に兄妹でドン引きした。
現実とは恐ろしいものである。
叔父に聞くと、昔は七夕の願い事に「結婚したい」とか「お母さんになりたい」とか子供が書くと大人はそんなの誰でもそうなるじゃないとか言っていた時代がこの国にも確かにあったのだ。
叔父はちなみに、幼馴染だった奥さんと離婚して、その話は奥さんのエピソードだったらしてく、七夕のお願い事が終わったら、俺は用無しかいって突っ込んだとか聞いた。
「まあ、現実は厳しいものだ。俺だって彼女いないし」
「私も彼氏歴無いぞ」
私と兄がそう胸を張った。
「何かおかしいよ」
一真が困惑した顔でこちらを見た。
「もちろん、この国はおかしい。いや、少子化を考えると世界もおかしい」
などと兄が見当違いの発言をした。
悪い事を考えてる時に兄が誤魔化すときに良くやる話題逸らしであるが……。
のちに、この私と兄の隠蔽策によって、この街は裏に入ると恐ろしい地獄のような街に変わるのだが、それはそれである。




