自称勇者 幕間 第四章
「私は颯真さんの転移した時の話が聞きたいな」
などと穂佳がまた颯真にすり寄った。
今度はあからさまに抱き着かれるのを避けなかったが、それでも少し逸らしたから、やはり身についたものはそうは消えないらしい。
ただ、穂佳の御蔭で重い空気は止まったからありがたいのだが。
「ぶっちゃけ、あの話を信じているのか? 」
兄がそう真顔で話す。
いや、雰囲気を悪い方に戻してどうするよ。
「……わしの記憶の話のいろんな部分があれだと話が通るのだ」
「推理物とかならそうだろうが、現実は違うだろ。そもそも、王族があまり裕福で無い家に生まれるとかありえないと思う」
「いや、ランダムに怪物がこの世界に現れるならあり得るのでは? 」
「王族が二人も同じところの、しかも裕福で無い家に兄妹として生まれるのか? 可能性としたら低いのでは? 」
優斗の突っ込みに兄が答える。
「実は父母が凄く良いところの家系の息子さんと娘さんで駆け落ちして一緒になったとか」
「母の実家は農家で、父は工場の工員さんの家に産まれてるけど……」
一真の言葉に私が突っ込む。
「実はその家が元華族とか。華族が没落してそうなったとか」
「社会人になった先輩が京都で仕事して、元華族の人に蔑み見られたとか。未だに『うちは元華族だから』ってネチネチ言われて、あんたのとこの社長も私は良く知ってるんだって嫌味を言われたとか。ちなみにその会社は社長はお飾りで、それ以外の方が主導権持っているらしいが、うちはそんなプライドを持った連中では無いが……」
「うちは普通の家だし」
兄の言葉に私が相槌を打った。
「いや、でも、異常だと思わないか? 自分の力が……」
「異常な力を持たされたと思ってるよ。だから、早めに卒業したいんだけどな」
「あ、それなら私が継ぐ」
そう無邪気に穂佳が突っ込んできた。
「それはありがた……」
「駄目だろうっ! いやいや妹を巻き込まないでくれっ! 」
私が返事をしようとしたら、優斗が遮って来た。
「いや、まあ、騒ぐほどでは無いだろう」
「んなわけないじゃん! 罪悪感とか殆ど感じてないだろう?
あんた達? 」
「そうでもないぞ? 」
そう兄が横から呟いた。
「そうなのか? 」
私が驚いて思わず兄に突っ込んだ。
自慢じゃないが、浅野兄妹にやっちゃいけれない事はしないし、その決断でした場合に罪悪感とか感じないから。
「いや、米軍のヘリを落としたのはお金かかるからまずかったかなとかだな。お金は大事だよ」
「結局、金かよ」
「当たり前だろ。お金が無いと生きていけないのだから」
「米軍のヘリを落とした? 」
私と兄の話で、穂佳が首を傾げて不思議そうにしていた。
「いや、そんな話は無いから。そんな事故の話とかニュースで無いでしょ」
必死になって優斗がそう止めていた。
「なんか、グダグダだな」
そう呆れて颯真がため息をついた。
いや、颯真に言われると困るが……。
「とりあえず、私は颯真さんが転移した時の話を聞きたいんだけど」
そう穂佳が話す。
「まあ、実を言うと私も聞きたい」
「聞いた方が良いかもしれんな。何かいろいろと参考になる話があるかもしれないし」
一真も私達に同意してきた。
「いや、大したことないぞ? ある日突然海沿いに転移して現れて、で、周りに人家も何もない」
「誰かと合わさったって事は無いのじゃな? 」
「無い無い。普通に自分のままだ。で、ナイフを持っているわけでもなく、ライターを持ってるわけでもなく。本当に途方に暮れた」
「まあ、そうだよな。わしも本当に困ったし」
「食べるものが無いのがなぁ。それで仕方ないから、海沿いの岩場に行って、浅瀬で何か無いか探した。そうしたら、こっちの世界と比べて倍くらいあるマツカサ貝みたいなのを見つけて、たまたま持っていたキーホルダーの長い部分でこじ開けて落として食べた。味はイマイチだったな」
「ああ、あれは結構転移あるあるで海沿いに転移した奴は食べる奴が多いとは聞くな」
「ただ、塩味だしな。幸い、山が近くて山水も飲めたが恐々だった。飲んで寄生虫とか嫌だし、病気も嫌だったが、エビみたいなのがいたから大丈夫かと思って飲んだ」
「モンスターには会わなかったのか? 」
「いや、海沿いで食うものを探してたら、海からバカでかい50メートルくらいある人間を一飲みに出来そうなウツボの怪物みたいなのが襲ってきてな」
「メガガンドか? 」
「ああ、無茶苦茶でかいから驚いた。でも無意識に近くの自分くらいある岩を持ち上げて相手の鼻頭に叩きつけたら向こうが怪我しながら引っ込んでな」
「素手で追い返したのか。それは凄いな……」
「どっちかってーと、自分の異常な力にびっくりしたよ。なんだか身体が軽いなとは思ってたんだが……」
「それで、追撃はしなかったのか? 」
「しないしない。良く分かんない世界にいるってわかってしないよ。流石に」
「それで? 」
「とりあえず、海には近寄りにくくなって、だけど川のエビとか寄生虫が怖いから焼かないと無理だしってんで、木をこすり合わせて、きりもみ式とか知ってたから火を作った。案外凄い力を持ってるのが分かったから、あっさり何度も木をこすりつけてたら火がついた」
「山で人のいない場所で火を使ったのか? 」
「ああ」
「武器無しでか? 」
「そうなんだ。来たばかりだから知らんかった。火をつけるとコブリンとか来るんだよな」
「マジか」
「異世界あるあるだな」
「獲物だと思って寄ってくるんだけど、まあ、なんだ。それで剣とか弓をゲットした」
「わらしべ長者みたいだな」
兄がそう感心した。
「ゴブリンとか良く倒せたな? 」
「結構岩の多い山だったから、即座に現れた時に岩を持ち上げて相手に叩きつけたら潰れた」
「潰れたって……」
「潰れたの見て、吐かなかったのか? 」
優斗と一真がちょっとドン引いた感じだった。
「いや、必死だったし。潰して武器奪ったら、たいまつ持って別の場所に移って二度と戻らなかったし」
「それは賢かったかもな。同じ場所に居たら手を変え品を変えて攻めて来ただろうし」
「いや、結局、火が無いと困るんで、そのまま焚火して攻められて、殺して場所移動を繰り返してた。結果として10回くらいで攻めてこなくなった」
「まあ、そこのコブリンを殺し切ったんだな」
魔法使いの爺さんが頷いた。
「食ったのか? 」
「流石に人型はちょっと」
兄の突っ込みに颯真が苦笑した。
「まあ、そうだよな」
「でも、おかげでそれ以外の四つ足のモンスターは潰して、食べた。結構もったいない事してたけど。内臓を裂いて出すのが面倒くさいから、足だけ内臓で汚れて無い奴を取って焼いて食べてたよ」
「たくましいな」
「それで、国王直属の捜索隊とかが来て、国王の元に連れていかれて、女神と会ってって感じ」
「いや、もう少しドラマが無いのか? 」
「食べるものが無いのが辛くて、そこばかり覚えてる」
私の突っ込みに颯真が苦笑した。




