自称勇者 幕間 第三章
「いきなり、転生させられてな。それで皆が迎えるはずの王城でなくて、変な海沿いに飛ばされたんだ。飯も無いし、何もない」
颯真が珍しく口を開いた。
「んんんん? 女神が呼び寄せたんだろ? 」
「ああ、あるあるだ。内部に秘めている力が強いと座標がずれるらしい。わしなんか、まだ若者の状態で女性のサウナに転生してな。あちらは美しい美男美女の世界だったから、眼福でな……」
私の突っ込みに魔法使いの爺さんがそう話す。
「おい! いきなり、下品な話じゃないか……」
「いや、それが悪かったんじゃ……」
「眼福だったんだろ? 」
一真が呆れて突っ込んだ。
「サウナに入っている女性の中に、ちょっと下半身が暴れん坊な女性がいてな。その人の上に落ちた時に、身体に乗っかっちゃって、それでふざけんなで殴る蹴るで服を引き裂かれるし。ついでに、入ってきちゃった……」
「何が? 」
「何が入るの? 」
「身体に入るアニサキス……」
魔法使いの爺さんがそう囁く。
「お、お前ぇぇぇぇ! 」
「枯れてんじゃないじゃん! 」
私と兄が叫ぶ。
「……かなり金玉食べられちゃった……」
「枯れたんじゃなくて、食べるとこがあまり無いだけじゃん」
「それで襲われないのかよ」
「痛かったよぅ。本当に痛かったよぅ」
魔法使いの爺さんが泣きそうな顔になる。
「で、どうなったのよ」
兄が興味津々で聞く。
「いや、牢屋に入れられて、国王の直轄の軍が女神の言葉で探しに来なかったら、殆ど齧られて巣になってたかも」
「酷い話だな。そんなの好きであちらに転移したんじゃないのにな」
「本当じゃよ。しかも、国王の直轄の軍がくるまで放置じゃからな。ずっと下半身を抑えたまま絶叫してた。一匹でその激痛じゃからな……」
「わが師もそれでやられて、酷い目見てたから、まあ、あれなんだが……。俺の話に被せてくるような話なのか? 」
「わしだって転移したんだから、そういうの話したいし」
颯真の突っ込みに魔法使いの爺さんが呻く。
「じゃあ、それからは? 下品な話は無しで頼む」
「うむ。偉大な魔法使いエレントールに色んなことを教わってな、そこからは必死に魔法を覚えて行ったよ。女神が呼んだけど、少し役目には呼ぶのが早すぎたって言う話で、何の用も無くてな。王宮の方も最初は給与とか面倒を見てくれたが、全然面倒を見てくれなくなってきて。それで、同じように女神が試しで適当に異界から勇者を転移させるから、そいつらも同じ立場でな。それで冒険者チームを組んで稼ごうという事になったのだが、何故か途中で皆がわしと組むのを嫌がってな。……魔法の力が強すぎたのが問題だったのじゃろう……」
魔法使いの爺さんがぽつりと呟いた。
「いや、獲物ごと破壊したり、得られるはずのダンジョンの宝箱を魔法で爆砕したりしてたら、そうなるだろう」
颯真がさらりと現実を話した。
「なぜ、その話を? 」
「他の勇者のパーティーとかから聞いた。最後はあちこちの勇者パーティーがピンチになるモンスターがいるところの近くで待っていて、ピンチになったら助けるぞって現れる奴」
「いや、死ぬかもしれないところを助けてんだから」
「最初の数回で辞めとけば、無茶苦茶良い話で尊敬されてたのに、どこのパーティーメンバーのところにも現れるようになったら、それを自作自演と思う奴は当然いるし」
「いや、自作自演で無くてな。やばいのがいる場所を調べて、全ての勇者パーティーのいる場所を把握しておいて、これはピンチになりそうと思ったら行くだけだ」
「それで、最初は感謝で礼金を貰うだけだったのに、礼金を要求するようになったら、やっぱり、それは引かれるだろ」
「仕方あるまい。魔法使いが前衛も無しに戦えない。これでも最初は転移したばかりの勇者候補のとこに行って、いろいろと教えてやるからって組んでたんだがな」
「それをやられた奴が皆、騙されたって言ってたらそうなる」
颯真の一言でぐっという感じで魔法使いの爺さんが口ごもった。
「まあ、食べていくためには仕方あるまい」
兄がそう肯定する。
「だろう? 」
「それにしても、女神も適当だな。わざわざ転移させたのにアフターケアも無いとか……」
「というか、必死だったらしいな。自分の世界に魔王軍を超える怪物達がやってくると恐怖にかられてやっていたそうな」
「でも、その化け物はこっちにいるんだろ? 」
私がそう突っ込んだ。
「まだこっちの世界すら先の話みたいだがな。何時、こちらの世界で一斉蜂起するのかすらわかっていない。こちらの世界の全侵略が終われば、次は女神の世界だ。だから、それを知った女神はこちらの世界のうちに撃退したいと思っているとか」
魔法使いの爺さんがそう呟いた。
「まだ、あの話を気にしてるのか? 」
「それしか、考えられん。わしには国王はくわしく教えて下さらなかったが、女神様は我らが世界を守るために恐ろしい事を考えていらっしゃると言うだけで、わしらや颯真が魔王軍を撃退した事に国王たちは感謝はしてもよそよそしかった。ぶっちゃけ、こちらを恐れているのが分かったからな」
「確かに、そう言う所はあったな」
颯真が魔法使いの爺さんの言葉に相槌を打った。
「となると、あの怪物の話が真実味が増してくる。当たりでない転移者は駄物とか女神は言ってたからな。こちらの世界に当たりを引き抜くのが難しいと良く話していたらしい」
「師匠も確かに言っていた、師匠の剣聖アクロスは転移失敗であちらの世界のエルフと混ざってしまったらしいから、それで異様な力が使えるのかもしれないと言っていた。なんでも、女神に当たりだったそうだって言われたそうな。当たりならあちらの世界の人間やエルフやドワーフと混じりあえるらしい」
「混じれる? 」
私がそう呟いた。
「ああ、その話は聞いたことがある。それを女神は狙っていたって話も聞いた」
魔法使いの爺さんが颯真の話に相槌を打った。
「いや、それはおかしくないか? 」
「人間として転移してるはずなのにな」
私と兄が突っ込んだ。
「だから怪物が言ってたことが本当なら話が通じるのだ……」
そう、魔法使いの爺さんがぽつりと呟いた。
空気が微妙に重くなった。
暗い顔しているのは、私と兄と穂佳以外だが。




