自称勇者 幕間 第一章
で、今、私は一真に呼ばれて、待ち合わせで兄と喫茶店にいた。
それで、テーブルでコーヒーを兄が飲んでいる横で、参考書を開いて勉強している。
とにかく、面接で教化を使うとして、なるべく早く推薦で大学を決めたい。
そして、聖女を卒業するのだ。
そうしなければ、いつまでも、この泥沼のままになる。
いつの間にか、近所の人にまで『聖女様』と呼ばれて、挨拶されるだけでなく、『若さん』と一緒じゃないのねって言われる。
まあ、一真の事だが……。
それ以外に一真の事を『新発さん』とも呼ばれてたな。
どの道、高校も違うのに、いつの間にかご近所の皆さんから一真の友達扱いだし。
困ったもんである。
「本気で推薦を受けるのか? 」
「ああ」
「それで『聖女』を卒業するつもりか? 」
「バイトだし」
「まあ、確かにあまり話が大きくなる前に終わらすのは大事かもな」
「もう十分話が大きくなっていると思うが……」
「そうなんだよなぁ」
そう兄がスマホの画面を見せた。
そこに火柱の映像と魔法使いの爺さんが空を飛んでいるのが映っていた。
しかも、その飛んでいる奴が誰かと調べられているようだ。
「解析しちゃう奴がいるのって恐ろしいな……」
「すでに、誰か特定されてるしな」
「あの爺さんがか? 」
「ほら、隠し撮りだがな。ただ、恰好が違い過ぎるので、論争にはなっている」
そのスマホの画面を見ると、レゲエの恰好をしている爺さんと同一人物だと言い張る人とそれを違うと反論する人が論争になっていた。
なるほど、レゲエの恰好のおかげで、随分と助かっているわけか……。
「案外、一真の選ぶ服装のセンスも良かったのかもしれんな……」
「俺がなんだって? 」
僧侶の恰好の一真が喫茶店に入ってきた。
そして、最初に喫茶店の経営者さんに深々と頭を下げた。
行動で分かるだろうが、ここは檀信徒さんの経営する喫茶店である。
今後の『聖女様』行動をどうするかの相談を寺でなくて、ここですることになったからだ。
「まあ、勉強しやすいから、私はここで良いのだが。なんで今日は寺じゃないのか? 」
「それがちょっと厄介なことになってな」
そう一真が声を潜めた。
「そういや、君の僧侶としての名前を聞いたことないな……」
「ああ、寺に産まれた家の場合はそのまま読み方変えてすることが多いので、一真と書いて<いっしん>と呼んでる」
「いっしんなのか? 」
「そうだ? 」
「良い名前だな」
「それはどうも」
一真が兄に頭を下げた。
「いや、そんな話をしに来たのか? 」
「違う違う。もう少ししたら来るはずなんだが……」
「優斗か? 」
と私が言うと優斗と颯真が喫茶店に来た。
「また、この面子かよ」
私が愚痴った。
「いや、今回は俺の妹がやばい」
優斗が焦っていた。
「は? 」
「優斗とは家族付き合いしていたせいで、爺ちゃんの住職と父の副住職とか家族で仲が良くてな。それで、父の副住職に訳の分からん提案を優斗の妹がしたんだ……」
「……嫌な話のような気がする」
「ああ、聖女を他にも採用してアイドルグループみたいに売り込んでみてわなどと妹の穂佳が一真の父さんの副住職さんに熱心に提案してな」
「いや、それは駄目だろ」
兄が即座に駄目だしした。
「いや、凄い美少女なんですよ」
一真がちょっと驚いたように庇う。
「だって、有難みが無くなる。アイドルと聖女とかまた別だ。特に今回の聖女の話は基盤が寺なんだし、それは違うだろう」
兄がそう断言した。
「そもそも、命がけだぞ?……」
私もそう横で突っ込んだ。
リアルバトルで本当に死人が大量に出ていると言うのに、素人が参加するのはどうかと思う。
そういう意味では私も素人なんで早く卒業したい。
「本気で早く、卒業したいんだが……」
つい、ポロリと本音が出てしまう。
「いや、まあ。結構激しい戦いだもんな」
「だから、妹を巻き込みたくないんだがな……」
一真も納得したようだし、優斗は本気で心配していた。
「そう言えば、爺さんは? 」
「捕まった」
「捕まったって? 」
「内緒で出て行こうとしたら妹が爺さんを狙って待ち伏せしてた。あの爺さんは逃げるの下手なんでな。それで仕方ないから無理矢理に優斗の妹を任せてとりあえず相談に来た」
なんだか、いよいよだな。
「で、俺はその相談にいるのか? 」
「いや、元凶だろ? そもそもが! 」
「始まりはお前じゃん! 」
颯真の不思議そうな顔でイラっと来たのか、優斗と一真が怒っていた。
「そうだっけ? お前らが私を連れて行こうとしたんじゃなかったか? 」
「いや、そりゃ謝るよ」
「先輩に言われたしな」
「……そんな話だったのか? 」
兄がそれでちょっと真顔になった。
「ああ、まあ、先輩は全部死んで消えたけどな」
「トラブルがあってと聞いたが、本当にやばいんだな」
「ああ、だって、御倉祐介って覚えて無いだろ」
私が兄に冷やかに聞く。
「誰だ? 」
「ええ? メンバーになったら記憶が戻るんじゃ? 」
「戻ったよな。俺達……」
兄の態度に驚いて、優斗と一真が顔を見合わせた。
「いや、単純に、最初から覚えて無いんだ」
「「げ」」
私の説明で優斗と一真がドン引きした。
「あんまり、対戦相手とか覚えないしな……」
「こんな奴だからな。向こうが勝手に恨んでただけだと言う切ない結果だ」
私が不思議そうにしている兄を見てため息をついた。
「頭が回るからな。妹は……俺がパーティメンバーにならされて巻き込まれたって愚痴ってたのを聞いて、自分もパーティーメンバーに入れて貰えばなれるのではと気が付いたらしい」
優斗がそう愚痴る。
「いや、それは悪いが、そんな事を妹の前で愚痴るお前が悪いのでは? 」
「いや、お前が巻き添えにしておいて、言うか? 」
「最初は、お前が先輩に頼まれて私に嫌がらせをしに来たんだろ? 」
「死ぬほど後悔してるよ」
優斗が真っ暗な顔で呟いた。
「なんだ。仲が悪かったんだな」
「クラスの周りがな」
兄の突っ込みに私が突っ込み返した。
「ああ、見つけっ! 」
そう喫茶店に女の子が飛び込んできた。
「穂佳っ! 」
そう優斗が叫ぶ。
その向こうでレゲエの服を着た魔法使いの爺さんがだらしない顔で頭を下げていた。
あっさり丸め込まれたようだ。
あざといまでの胸の谷間を強調した服でツィンテールにしていた。
強調するだけあって巨乳であった。
あれ?
優斗の妹は中学三年生で無かったか?
解せぬ。
私より余程大人の身体をしていた。
それでツィンテールとか……。




