自称勇者 第二十四部 第七章
信じられない事だが、あの口ぶりだと皇弟の狙いは私だ。
なんでだ?
何で私なんだ?
いや、まて、女神と合体するのか?
「いや、どういう事だよ! 私は女神と別人格で別人だ! 何であんなのと合体しないといけないのだ? 」
私が思いっきり叫ぶ。
と言うか、あまりの話に全力で叫んでしまった。
「いやいや、聞いてないぞ? 何であんなのと合体しなきゃいけないんだよ! 私は地味に高校生活をして、大学に行って人生をエンジョイするつもりなんだ! 親が転勤族でずっと転勤して友達が出来ても別れて、新しいところでやり直しての繰り返しで、あちこちで嫌な思いをしていたのに、もう少しで大学受験に合格して大学生活を楽しむつもりが、何でこんなところでこんな話に巻き込まれるんだよ! ふざけんなよ! こんな変な話に巻き込むなよ! 」
さらに私が発狂したように叫び続けた!
あまりにもふざけている!
こんな馬鹿な話はない!
「いや、お前にパーティーメンバーで騙されて巻き込まれた俺達からすると腹が立つ発言なんだが」
「自分を客観的にみる癖が必要なんじゃないかな」
などと優斗と一真が呟くので余計に腹が立つ。
「いや、そもそもお前らだってあの女神だろ? 魔法使いの爺さんだって颯真だってあの女神じゃないか? 私じゃない! 私はあの女神とは別のものだ! 」
私がそう断言した。
「私も、巻き込まれてんですけどね……」
それなのに倉吉先輩が横でぽつりとつぶやいた。
「だから、私は女神じゃないっ! 」
さらに私はいらだって、そう叫んだ。
「まだ、奴にコントロールされてないのか? 」
そうしたら、皇弟がそう声をかけて来た。
「コントロールなんかされてない! 」
呑気に声をかけて来たからムッとして私が皇弟に答えた。
「真ん中の兄はコントロールされているようだが、お前はまだだったか! 良かった!それならまだ間に合うかも! 」
などと能天気にさらに言いやがった。
「最初から言っていれば、こんな事にならなかったんじゃないのか? 馬鹿なのか? 」
「仕方あるまい! あれはクルトルバ史上最強最悪のクオだ! 奴こそ、この世界を無茶苦茶にする原因になったものだ! 」
皇弟の叫びで魔法使いの爺さんも優斗も一真も私と皇弟を交互に見て困惑した顔をした。
「いや、あんたの暴走もあるんだろ? 話の筋を聞いているとそうしか思えないが……」
私が憤然とし答えた。
「やむを得なかったんだ……。お前は洗脳の天才で何もかもコントロールした。それで兄の皇帝までお前に洗脳されかかってしまった。お前は兄の皇帝を神輿のようにして影から操って全てを手に入れようとしていた。兄と結婚して妻として全てを握るつもりだったのだ」
皇弟の苦しい胸の内を吐き出すような発言で驚いた。
「えええええ? 私が結婚できるのか? 」
私の衝撃が止まらない。
あんな奴と付き合うくらいならゲジゲジと結婚する方が良いとか、かって好きな先輩に言われた私が……。
嘘だろ?
「驚いている部分が微妙に違うが……。ゲジゲジと結婚する方がマシとか言われてたのか? 」
魔法使いの爺さんが私を憐れむように見た。
畜生、思い出したくない話を思い出してしまったせいで!
一番、いやな思い出を思い出した!
あれで私は恋愛を諦めたのだ。
「そうだよ。昔、憧れてた先輩にそう言われて、ゲジゲジはゴキブリを食べる益虫だから、そう言われるのは仕方ないが、私だってゴキブリくらいは殺せるぞと必死に膝を突き詰めて3時間くらい説得したのに駄目だったんだ」
「ええ? 三時間? 」
倉吉先輩が驚く。
「いや、本当に好きだったんだから仕方あるまい。まだ中学1年生の時だし必死だったんだ」
「ゴキブリは私だって殺せるぞが、アピールなのか? 」
「ちょっと、何かずれて無いか? 」
私の発言に優斗と一真がドン引きしたように話す。
「わかってるよ。とにかく必死だったんだ。逃がしちゃだめだって思うから、みぞおちに一発入れてから話をしたから、余計に必死だった」
「いやいや、違うだろ? それは違うと思うぞ? 」
「説得は大翔兄がこうするもんだと言っていたが」
「あの兄貴は害悪でしかないな」
「裏表激しすぎだろ? 」
「というか、ひょっとして喧嘩相手の説得と間違えたのでは? 」
「え? 」
その倉吉先輩の一言が衝撃だった。
言われてみれば、好きな人への説得とか言って無かったな。
友達に対しての話で最初つれない事をするからって愚痴から入ったから、まさか私が恋愛とかすると思わずにヤンキー相手とか勘違いしたのか?
そりゃあ恥ずかしいから、好きな先輩に何としても自分を分かってもらうとか言えないし、冷たい感じな事をする人にちょっと理解してもらいたいと言う感じで相談したもんな。
そうか、言われてみれば兄は喧嘩相手だと思ったかもしれない。
そう言われてみれば……。
「ううっ……」
気が付いたら魔法使いの爺さんが泣いている。
いや、心を読むなよ!
「仕方あるまい。誤解につぐ誤解だったわけだな」
などとポンと魔法でバリアをかけながら片手を使わないようにして、私の肩を優しく魔法使いの爺さんが叩く。
倉吉先輩のそうだったんだって顔を見て、優斗と一真も察した顔で悲しい顔をして私を見ていた。
「……凄く大事な話をしたいんだがな」
敵なのにおろおろとした顔で皇弟が私達を見ていた。




